Episode00 「プロローグ」
この世界には魔術という不思議なものが存在している。
この魔術というものは、基本的に生まれた時どの属性が適性かが決まり、その適性の魔術のみが扱える様になる、いわば一つの個性のようなものだ。
魔術の適性は普通一人につき一属性のみだが、何かがきっかけとなり複数の魔術を操れる様になる者もいたりする。
もっとも、その様になる者は殆どいないが。
魔術には基本的に 火・水・雷・土・氷 の五種の属性があり、ほとんどの人がこの五種のどれかが適性になる。
しかし、稀にこの五種とは異なる属性の魔術を操る者が現れる事がある。
その属性達を総称して「特魔属性」と言い、
特魔属性の適性をもつ者は世間から「特魔適性者」と呼ばれている。
特魔属性は殆どが基本の五種よりも強力とされており、その希少性と強力さより様々な所で優遇される事となる。
なお、これは「殆どの場合」の話だが…
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?「おいあんた!なに『落ちこぼれ』の分際で寝坊なんてしてるんだい!いつも朝の4時には起きて掃除と洗濯、私達の朝食を作ってろと言っているだろう!何故20秒も遅れるんだい!私が起きていなくてもサボっているのは分かるんだからね!この役立たず!」
かなりふくよかな体系の婦人はそう怒鳴った後、目の前に正座して縮こまっている少年の顔面をを思いきり殴った。
少年は「がっ…」と短く呻いた後
??「申し訳ありません…イト様…」
と弱々しく言った。
イトと呼ばれた婦人はフンと鼻を鳴らして、
イト「申し訳ありませんじゃないよキュノ!
お前はいつも鈍臭い上に要領も悪い、使えないったらありゃしない!おまけに特魔適性者だと聞かされてたからまだ使い道があると思ってたのに、いざ蓋を開けてみたらハズレと言われている風属性だなんて…。あんたなんぞ引き取らなければ良かったわ!」
と、吐き捨てる様に言った。
風属性・・・それは特魔属性でありながら世間から
『ハズレ属性』『特魔属性の面汚し』等と
言われている属性。
何故この属性がハズレ等と言われているのかはこの属性が持っているある『欠陥』に理由がある。
数ある属性の中で唯一、風属性の魔術には『反動』がある。
前方に魔術を放てば後ろに吹き飛ばされ、自分の全方位に魔術を放つと衝撃が全方位から襲いかかり自分もダメージを喰らってしまう。
更に、反動があるにも関わらず術の威力は他の特魔属性と比べ殆どの術が劣っているという要らないおまけ付き。
そのせいで、特魔属性でありながら世間からは基本の五種の方がまだ評価されているという始末である。
・・・そして、風属性の適性を持った者達は殆どがその
枷により碌な人生を送る事が出来ないと言われている。
キュノもその内の一人であった。
キュノは物心がついた時には両親は居らず、孤児院で暮らしていた。
ある時、教員の人に自分の両親はどこに居るのかを聞くと、
「お前の両親はいない、お前は捨てられたんだよ」
と、ややぶっきらぼうな態度で言われた。
そう言われたキュノは深く傷付き、その衝撃か、今のキュノには孤児院から引き取られるまでの記憶は殆ど無くなっていた。
そんな出来事から暫くの後、今のイト一家に引き取られた。
最初こそ優しく接してくれていたイトだったがキュノの適性が風属性であることを知ってから態度が激変、
家事を全てキュノにやらせ、少しでもミスや気に触る様な事があれば怒鳴り殴りつける。
食事も満足に与えず、まるで雑草の様に扱っていた。
今日もまたいつものように怒鳴りつけていたが今日は少々雰囲気が違う。
いつもはしかめっ面になっている顔が、今日に限って目がニタニタと笑っているのだ。
キュノが不思議に思っていた次の瞬間、イトは衝撃的な発言をした。
イト「まあいい、そろそろあんたには出ていって貰おうと思っていたんだ。今は世間体がどうのとか口うるさい旦那も居ないし丁度いい」
呆気にとられているキュノに向かってイトまた怒鳴る。
イト「キュノ、今すぐ荷物をまとめてきな!
五分以内に!遅れたらただじゃおかないからね!」
イトはそう言うなりキュノを襟首を引きずり彼の部屋前まで行くと、乱暴に扉を開けキュノを投げ入れる。
イト「いいかい!遅れるんじゃないよ!」
そう言い残し、イトは足早に去っていった。
キュノは暫く呆然としていたが、早くしなければまた殴られると思い、殆ど無い荷物をまとめていった。
四分後…
イト「よし、今度はちゃんと時間までにきたね。
それじゃあさっさと出て行きな!殴られたくなけりゃ、言う通りにするんだね!」
キュノは言われるがまま外に出ると扉は勢い良く閉まり、鍵のかける音がした。
暫く立ち尽くしていたが、ここにいても埒が明かないので取り敢えずこの場を離れる事にした。
ゆっくりと歩き館から離れていく。
どこに行けばいいだろうか…行く宛などある訳が無い。
取り敢えず歩くことにする。
どこへ向かうでもなく歩いていく。
それから歩いて、歩いて、歩いて…
気づけば知らない所まで来ていた。いつしか、昇りかけていた日はいつの間にか沈みかけている。
生憎、頼れる所も金も殆ど持ち合わせていないので、人がほぼ通らない路地裏で夜を過ごすことにした。
路地に来てから結構な時間が経った。
周囲はすっかり暗くなり、見上げると建物の隙間から月が見え…なかった。
今夜は新月だったらしい。
月の明かりも無い暗闇を静寂が包みこんでゆく…
暫く、何も無い時間が過ぎていく。
不意に、静寂のみが支配していたこの空間に音が近づいてくるのを感じた。
足音だ。
音の数からして恐らく一人だけであろう。
その音は段々と近付いてくる。
もしもの時に動けるよう、キュノは身構える。
音の大きさからしてもうすぐそこまで来ているのがわかる。
そして、その音の根源が姿を現した。
その姿を見たキュノは少したじろいてしてしまった。
50〜60代と思われるやや大柄な体に、冬の朝の様な空色にまばらに白が混じった頭髪。
暗闇の中でもはっきりとわかるその存在感に思わず見入ってしまう。
ふと、男がキュノの存在に気付き、足を止める。
キュノを方を見た男は、少し目尻が下がった気がした。
男は、キュノの方に体を向けながらこう尋ねた。
男「お前、ここでなにをしている」
表情を変えずにそう尋ねる。
キュノはその男に少し怯えるのと同時に、謎の
親近感が湧いた。
何故、そうそう感じたのかは分からない。
だが、この人には自分の事を話して良いだろうと思えた。
少しの沈黙の後、キュノが口を開いた。
キュノ「朝を待ってる」
男「家はどうした」
キュノ「今まで居た家は…追い出された」
暫くの間、沈黙が流れる。
男は少し考える様な仕草をした後、やはり表情を変えずに言う。
男「なら、俺の所に来るか?家事を少し手伝ってくれるなら最低でも食事と寝床は与えよう」
キュノは目を見開いた。
それもそうだ。
なにせ、いきなりこんな提案をされたのだから。
だが、すぐにある疑問が浮かんだ。
キュノ「なぜ、そんな提案を?」
誰もが思ったであろう素朴な疑問。
男はキュノの目をまっすぐ見据えながら答えた。
男「お前を見た時、妙に親近感が湧いた。
それに、お前はどうも懐かしい感じがする。それだけだ」
男は表情こそ変えなかったが、その声色は驚くほど
柔らかかった。
それを聞いたキュノはどうしてか、その男を信じてみたくなった。
信用できるという根拠も何も無いが、何故かその声色が前にも聴いたことがある気がして、ここで断ると大切な物を逃す気がして。
だから、先程の提案にこう答える。
キュノ「貴方が良いのなら、行かせてくれないか」
それを聞いた男は、初めて表情を変えた。
少しだけ表情を緩めた男は先程と同じ声色で言った。
男「決まりだな。ほら立て、もうすぐここらは冷える、急ぐぞ」
そう言い、男はキュノに手を差し伸べた。
キュノはその手を掴み、ゆっくりと立ち上がる。
男「それじゃあいくぞ。あー…お前、名前はなんて言うんだ?」
そういえばまだどちらも名乗っていない。
男は少々言葉を詰まらせながら尋ねた。
キュノは落ち着いた、しかし芯のある声で答える。
キュノ「僕はキュノ。キュノ・フィエラ」
男「キュノか…」
男は一瞬考え込む様な顔になった後、元の顔に戻る。
キュノ「そういえば貴方はなんて言うんだ?」
そう聞かれた男は一瞬黙った後、口を開いた。
男「俺はスコーニ・ヒョニオウ…」
スコーニ「…適性が風属性の特魔適性者だ」
スコーニはそう言うと、キュノの手をしっかりと握り歩き出した。
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます。
正直この作品はかなりの長編なのでほぼほぼ失踪すると思われます。そこはご了承下さい。
ここで、本編で出ていない設定と小ネタを一つづつ
紹介します。
まず設定の方についてですが、主人公 キュノ・フィエラについてです。
キュノの年齢は13歳、外見は真っ白な白髪のショートカットが目立つヒョロヒョロの男の子です。
本編でまともに食事を与えられていないとありますが、実はそれのせいで現在、軽度の栄養失調になっております。
そのため身長も142cmと平均より結構下ですし、体重に至っては30kgあるかないかというまあまあやばい状況にあります。
ただ、元々の体のパーツは凄く良いのでこれからよく食べてしっかりと栄養をとっていけば、結構な逸材になると思われます。
というか私の好きなものをブチ込んだのでほぼ確実になります。白髪はいいぞ。
次に小ネタについてです。
作中に出てくるキュノ・フィエラとスコーニ・ヒョニオウですが、実は二人共とあるギリシャ語が名前の元となっています。
二人の名前の意味は自分で調べてください。
もしかすると今後の物語のヒントになっていたりなっていなかったり。
まあここらは読んだ人の考え方次第なのであまり深く言わないでおきます。
それでは僕は眠いので寝ます。おやすみなさい。
また次回もよろしくお願いします。