序章
「約束して、また会いに来てくれるって。」
不安そうな目を私に向けながら、そういった男の子とはこの言葉を最後に二度と会うことはなかった。
彼は真斗君といった。近所に住んでいて、同い年ということもあり、生まれた頃から家族絡みでの付き合いがあった。彼とはよく一緒に遊んだ。でも、ある日、母が私に「真斗君とはしばらく一緒に遊ぶのは難しい。」と言った。幼い私には意味がよくわからなかった。母は幼い私にこういった。「真斗君は体に悪いところがあってそれを治すためには、病院というところにお泊まりする必要があるのだ。」と。だから、私は母に聞いた、「病院に行ったら真斗君に会えるの。」と。
それから、都合が合えば彼がいる病院に会いに行くようになった。彼がいつ、また外で遊べるようになるのかはわからなかったけど、彼に会いに行くのは、楽しみだった。でも、ちょっとずつ彼に会いに行っても、会えない日が増えていった。
それからしばらくして彼のお母さんが泣きながら、私に彼が亡くなったということを教えてくれた。幼いながらに、もう二度と彼に会うことは出来ないのだと理解した。
後日、両親に連れられて彼に最後のお別れをしに行った。
久しぶりに見る彼は、なんだか真っ白だったのを覚えている。
「真斗君、また会いに行くって約束したのに…。」
私は彼に対してそんな言葉をぽつりとこぼした。
今考えると、亡くなるということがどういうことなのか、いまいち分かっていない部分があったんだと思う。
彼と最後にお別れしたのは私が小学校4年生の冬の話だった。それから、しばらく経って私は高校生になった。
時の流れとともに彼のことは時々、思い出す、そんな存在になったと思っていた。
「進路はどうしようと思ってるの?」
母にそう聞かれた時、私は思わずこう答えていた。
「真斗君みたいに困ってる人を助ける人になりたい。だから、看護学部に行きたい」って。
人生の選択肢を決める時に彼を思い出す。それくらい私にとって彼と存在は大きかったんだと思う。