サンタがウチにやってくる!
厳密には「童話」ではないことは重々承知ですが、
サンタクロースに夢を見ていた、幼い子供の頃の体験談です。
クリスマスの時期になると毎年のように思い出す、遠い「あの日」の思い出。
これは、まだ私がだいぶ幼かった頃の話。
クリスマス・イブの晩、本当にサンタクロースが我が家にやってきたことがあった。
「どうせ、親だろう?」と思う人があるかも知れない。
だがその時、両親はいずれも家にいて、私と一緒にクリスマスパーティーをしていた。
そして、我が家は親戚も祖父母も遠方在住であった。
ただし、我が家はごく一般的な日本の住宅であり、暖炉も煙突もなかった。
故に、サンタクロースは普通にチャイムを鳴らして玄関からやってきた。
「メーリ、クリスマ~ス!」
玄関の扉を開けると、絵本に出てくるあの絵ヅラそのままのサンタクロースが、驚きと喜びで立ち尽くす幼い私に微笑みかけてきたことを、今でも覚えている。
「キミの欲しいものは、分かっているよ」
サンタクロースはそう言い、担いでいた大きな白い布袋から、当時私が欲しがっていたオモチャを取り出してプレゼントにくれた。
クリスマス前に書いた、サンタクロースへの手紙が無事に届いていたことが分かり、感激して大喜びする私。満面の笑顔でサンタさんにお礼を言い、抱擁を交わし合った。
「君が良い子にしていれば、サンタはまたやって来るよ。では、良いクリスマスを!」
サンタクロースは優しく私の頭を撫でると、そう言い残して玄関から出て行った。
プレゼントを抱え、それを見送る私。
「良かったね。さあ、またケーキを食べよう」
サンタクロースが出ていくと、両親は私に声をかけ、先にリビングへと戻って行った。
しかし、プレゼントを抱えて立ち尽くす私は、ある事を考えていた。
…サンタクロースの、トナカイとソリが見てみたい…
本当にトナカイにソリなのか。そしてそれは、本当に夜空を飛ぶのか。
住んでいた地域が雪の降らない地方だったこともあり、疑問は次々と湧き上がってきた。
好奇心が抑えられなかった私は、急いで隣の部屋へと走り、ワクワクしながら窓からこっそりと外を覗いてみた。
そして…見てしまった。
サンタクロースが、自動車(白のセダン)に乗り込む、その瞬間を…
…サンタさんが、ソリじゃない…!?
赤く光っていたのはトナカイの鼻ではなく、自動車のテールランプであった。
ほんの5歳やそこいらの子供にとって、その衝撃はあまりにも大きかった。
あの時の遠ざかっていく赤いテールランプは、今でも忘れることなく脳裏にこびりついたままでいる。
子供心に、何か見てはいけないモノを見てしまったことに気付いた私は、そのまま何も言うことなく、静かにホームパーティー会場(別名:茶の間)へと戻って行ったのだった…
ほんのちょっぴりほろ苦い、いつかのメリークリスマス。