第六皇女と教皇
『精霊の儀』では皇族の威厳を見せるために専用の儀服がある。
今年は皇族が私を含め二名なため何かと比べられるだろう。
この皇族というのが第六皇女であり授業を共に受ける私の比較対象である。
第六皇女は皇后の側近である第二皇妃の息女であるため気位が高く、皇室の象徴ともいえる白金髪に近いプラチナゴールドの髪を誇りに思っている。
私は彼女の成績の少し下を見積もってテストに臨むため私のことを下に見ている。
実際は彼女の成績は平均より低いが…。
侍女が儀服を着せ終わり始めて魔動力馬車へ腰かける。
相対側の席には侍女が座ると言うが皇族専用の魔動力馬車であるためと拒否した。
第六皇女はそんな問答などなかったらしく皇族の中でも下に見られたものだ。
これで一層侍女と溝ができるだろうがある程度度が過ぎれば今まで通り消せば問題ない。
窓を少し開け、風を通す。風に乗った魔力は馴染みのあるもの。
「ジン、神殿に痕跡が残るかもしれないだろう」
『私の行動を制限する権限はお前にない』
「なら他の精霊と契約するしかないな」
キリキリと馬車の部品がきしむ音がする。
上手く風邪を操って圧をかけているのだろう。
「逆切れするぐらいなら初めから私の言うことを聞け」
『…その指輪はいつまで嵌めるつもりだ』
露骨に話題をそらしたな。
「何故外す必要が?」
『お前の魔力がないと違和感が凄い』
「なんだ。私の魔力だけが目当てか?」
『…そうではない』
渋った声は私の喉を鳴らす。
「そうか、そんなに私が好きか?」
『お前のからかい癖は墓まで治ることはないな』
「お前が弄りやすいだけだ」
ジンと雑談をすること1時間程で大神殿の正門前に着く。
「メア皇女殿下、大神殿前に到着いたしました」
騎士の言葉が終わる前にジンには姿を消してもらう。
「分かりました」
先ほどとは打って変わった私の返事と共にドアが開く。
確かに大神殿らしいともいえる壮大で清廉潔白を絵にしたような建物だ。
寄付金がふんだんに使われていることが分かるだけに神聖さを感じることはないが。
神官に案内され精霊の間へと足を運ぶ。
精霊の間には既に第六皇女がおり顔を合わせたことで眉間に皺を寄せていた。
「遅かったわね、メア」
「申し訳ございません。セリアお姉様」
平謝りするのはもう慣れだ。
辺に歯向かって目を付けられるよりは断然いい。
神官も私達のパワーバランスを理解しているのか第六皇女に上級神官が付いているのに対し此方は中級神官と絶妙なところで調整している。
「皇族の皆様が揃いましたことで、精霊の儀を行わせていただきます」
第六皇女から先に儀式は行われる。
皇族の「精霊の儀」は教皇自ら行われる。
教皇の第一印象は狸親父とでもいった感じだ。
清廉潔白を表に出した好々爺のようだが人を価値として置き容赦などなく切り捨てる。
政治の中枢に食い込む支配者と言ってもおかしくないだろう。
そんなことを考えていたら契約が成立したようだ。
「おめでとうございます。火の中位精霊ですね。精霊の中でも火の精霊は扱いが難しいですが皇女様の手腕ならば容易いでしょう」
「まぁ、光栄ですわ」
表面上は喜んでいるが中位という言葉に引っかかったのだろう。
感情が隠せていない。
そんな第六皇女を能無しと見るかの如く無感情の瞳を向ける教皇も教皇だろう。
第六皇女が戻ったところで入れ違いに私が教皇の元へ歩く。
「初めまして。帝国の星、メア・イヴレディア・レタ・アリア皇女殿下」
「お初にお目にかかります。教皇陛下」
ニコリと微笑むが政治的要素のない表面的な会話は無意味に他ならない。
すぐに儀式を行う姿勢を向ける。
「精霊を呼ぶためにはご自身の身体を巡る魔力を解放する意識を持つことです。あまりご緊張致さなくても大丈夫ですよ」
毎度この説明を行っているというなら大したものだ。
教皇の説明を快く聞いているフリをしながらも「戒魔の永眠」を付けているため一切の魔力は奥へ奥へと隠れていく。
一分ほどすると教皇が異変に気付く。
何時までたっても精霊が現れる気配のないことに異常を感じたのだ。
「申し訳ございません、メア殿下。この教皇の手を今一度握ってはくれませんか?」
恐らく体内の魔力を感知する能の力類だろう。
一定の魔力を超えると扱えるため私も持っている。
「これは…。メア殿下、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
神妙な顔つきとなった教皇に、表で取り繕ったものの内心計画が成功したことへの歓喜が湧き上がった。