転生皇女
…【転生】。
それも皇族として。これほど面倒なことがあるだろうか。
メア・イヴレディア・レタ・アリア、太古から栄えるイヴレディア帝国第7皇女と称される私は、『転生者』であった。
前世はありふれた平凡な人間であり、文明も魔力ではなく科学を元に発展していた。
本来であれば漫画のような展開に狂喜乱舞し己の内秘められた力に溺れるのであろう。
しかし私は世界に誕生した瞬間から、自身の立ち位置を把握し、決して目立つような真似はしなかった。
権力を手にしたところで面倒事を押し付けられ、言われようもない噂を撒かれるだけだ。
常に暗殺に備え命の危機に精神を消耗する生活など此方から願い下げである。
幸い私の母は産後直後に流行り病にかかり亡くなった。
私は乳母の下で育てられたため余計な情を与えられることも無かった。
帝国を統べる皇帝は歴代でも魔力保持量が突出しているらしく皇位に就いてからというもの領土を拡大している。
その過程で差し出される姫達に手を付け順調に後継者を増やしている。
私の母もつい最近滅亡した国の姫であった。
現在の皇太子や生き残りの皇族はほぼ帝国内の貴族を後ろ盾に持つ者ばかりであるために、私の生存率は限りなく低いがかといって誰かに敵対視される可能性も低い。
後継者争いに巻き込まれる心配は少なく丁度良い立ち位置とも言える。
私の意識は母体の中にいた時には既にあり、魔力や精霊などといった非科学的なものも目で見えはせずとも第六感ともいえるもので感じ取っていた。
だからこそ己の異質な魔力保持量に気づき母胎内で魔力圧縮を行い皇族の証ともいえる白金髪、深緑瞳を塗り替えることができた。
もし産後に意識を覚醒していたのならば暗殺など日常茶飯事だっただろう。
今は母方の容姿に合わせ漆黒髪、藍紫瞳に偽装している。
髪質を落としそばかすを付ければ印象はガラリとも変わる。
魔力は圧縮するごとに増幅しており暴発する前に精霊に喰わしている。
どうやら私の魔力は希少な純性というもので精霊が好む魔力だという。
ゆえに契約ではないが懇意という形で成り立っているのが私と精霊を正しく表していると言えるだろう。
皇帝とはまだ一度も謁見しておらず食事の席に呼ばれるのは皇后及び皇后派閥の皇妃数名と数名の実績を残した皇子または皇女だけである。
必然的に10にも満たない子供は除外されるためまだお眼鏡にかなってはいないのだ。
ただ特に親子としての情が突発的に芽生えるという訳でもないために謁見したいとは願ったことも無いが。
食事の時間は特に誰かと相対するわけでもなく、気楽なものが一番である。
人間の三大欲求といえる食欲を変に毒などで失われては困るのだ。