麻栗の回想1 ~あるいは、陰キャが淫キャになったワケ~
どうやらわたしが人とあんまり仲良くするのが得意ではない、ということに気づいたのは、十歳の頃でした。
お母さんに言われました。
「本当に愛想の悪い子ね」
「可愛くないわ」
「お姉ちゃんとは大違い」
――と。
お姉ちゃんは人気者でした。気さくで陽気で誰とでも仲良くできる、お母さん好みの女の子でした。
一人で学校の図書館で、本を読んでいるのが好きなわたしとは違いました。
『人』はあまり得意ではありません。
穏やかで静謐で、わたしのために用意されたかのような、物語の世界が好きでした。
『陰キャ』という言葉がまだなかった頃。
『本ばかり読んでる地味でキモいやつ』だと、女子からも男子からも教室の中で囁き交わされていた頃。
わたしは、一人が好きでした。
***
そんなある日のことでした。
「なあお前、それなんの本読んでんの?」
と。
わたしよりもちょっとだけ背の低い男の子が、図書館で話しかけてきたのです。
わたしの、わたしだけの、静かな楽園が乱される。
真っ先に覚えたのは、そんな恐怖心。
そう、この時はまだ知らなかったのです。
まさかこの感情が、すくすくと恋心へと育っていくことになるなんて。