第1話 幼馴染
気が付くと、俺は白い砂浜の上に立っていた。
「またか…」
そう呟きながら、ここが夢だとすぐに悟る。俺、宮本奏はこの夢を何度も見ているからだ。
「ねぇ、かーくん!」
振り返ると、そこには彼女が立っていた。今はもう会えない、俺の幼馴染だった。
「約束ね?大きくなったらさ…」
いつもと同じ言葉が耳に届く。次の瞬間、白い光に包まれた。
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ピピピピ…ピピピピ…。
目覚ましの音が狭い部屋に響く。俺は目覚ましを止めて、布団から起き上がった。
「…今日は学校、行きたくねぇな…」
夢を見るたびに、俺は虚無感に襲われる。それでも、身体を動かし準備を始めた。生まれつきの障害で、俺は車いす生活をしている。それでも、1人暮らしを始めてからは、早起きして準備を整えるのが日課だ。
「今日は何も起きないといいけど…」
独り言をつぶやきながら、いつも通り学校へ向かった。
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俺が通う私立高峰高校は、特に有名でもない普通の学校。だが、障害を持つ生徒でも普通に受け入れてくれるという点では、他とは違う。
教室に入ると、クラスメイトの伊沢大樹が、いつも通りのテンションで話しかけてきた。
「奏、聞いてくれよ!ビッグニュースだ!」
「…なんだよ?」
大樹はスマホを見せてきた。そこには『マナレナ』という人気アイドルユニットのライブ当選メールが映っていた。
「やっと当たったんだよ!俺らのチケット!」
「よかったじゃん、楽しんでこいよ」
そう言って俺は興味なさげに返したが、大樹の返答は意外なものだった。
「いや、お前も行くんだぞ?」
「…は?」
俺は大樹のスマホを見直した。そこには俺の名前も書いてある。
「お前、いつの間に!?」
「仕方ないだろ、1人じゃ行かせてもらえないんだって」
大樹の親は過保護で、遠出の時は必ず俺が同伴者になることが定番だった。
「悪いけど、俺は行かないぞ。アイドルとか興味ないし」
「頼むって!せっかく当たったんだから!」
大樹は必死だが、俺はどうしても行く気になれない。このライブだけは、どうしても行けない理由がある。
「…茉奈」
夢原茉奈。『マナレナ』の茉奈は、今朝の夢に出てきた俺の幼馴染だ。
大樹は茉奈の存在を知らない。いや、誰も知らない。俺だけが知っている、あの夢の真実を。
「行かないよ…絶対に」
俺は大樹の頼みを断ろうとしたが、彼の次の言葉が俺を揺さぶった。
「旅費も食費も全部うちが持つのに?」
「……マジで?」
「ライブもタダで楽しめるぞ?」
俺は数秒考えた後、しぶしぶ答えた。
「…わかったよ。今回だけだぞ」
大樹の笑顔を見ながら、俺は深くため息をついた。良くないことが起きる予感がする。
「変装、考えとくか」
茉奈が俺を見つけることだけは、何としてでも避けなければならない。