前世が聖女だった私は悪役令嬢に転生したけど断罪されたくないと行動したら王子から婚約破棄をされて辺境に追放されたけど目覚めたスキル「チート」が最強で無双するからお前を愛することは無いけど溺愛された
ある日、私は唐突に前世を思い出した。
今となっては遠い記憶の中にある私は純白の聖衣に身を包み世界の平和のために祈りを捧げる存在。
所謂、聖女であった。
しかし、その記憶は壮絶な最後で幕を閉じる。
何一つ害など無いであろう聖女が邪魔だと感じる勢力により私は無惨にも殺されてしまうのだ。
どういう思惑がそこにあったかは単純な被害者である私にはわからない。
ただ殺されたという事実がそこにはあった。
(一体どうなってるの?でも、今思い出した事は紛れもない私の記憶……)
殺されてしまったはずの聖女。
その聖女の記憶を持っている私。
これはつまりは新しい人間として生まれ変わってしまったと言うのだろうか?
いや、むしろ聖女の魂が別の人間の肉体に入ったというのが正しいのかもしれない。
そんな事があるのかと考えてしまうも受け入れるしか無いという答えに辿り着く。
「お嬢様?いかが致しました?」
いつでも私に付き従ってくれている執事が心配そうに声をかけてくる。
私の小さくない動揺を彼に隠し通せるとは思ってはいない。
だけど、それをわかっていても私は平静を装うふりをするしかなかった。
「いえ、何でも……何でもありませんわ」
何故なら私は聖女でも何でもない。
というか歴史の教科書に載っているくらいの悪徳貴族の令嬢だったからだ。
◇
執事へと軽く受け答えをしながらも私は必死に頭を巡らして現状を把握する。
深呼吸をして姿見に見慣れている自分の姿を見る。
そこに映っていたのは華美なドレスに身を包んだ可憐な少女。
以前の記憶にある清廉な姿とは似ても似つかない派手な装い。
だけど、そのドレスも少しだけデザインが古臭く感じてしまう。
何故ならば聖女としての記憶を主とするならば、今の私は50年ほど歴史を遡っている。
所謂、過去の人間になってしまっているからだ。
(なんか……変な感じ……自分だというのはわかっているのに違和感が凄い)
聖女の記憶は今の私の認識では50年ほど先。
つまり、未来の記憶を私は持っているという形になる。
とは言っても詳細に何かを知っているわけもなく、聖堂からほぼ出たことがなかったのだからあまり知識があるとは言えない。
そんな聖女であっても知ってるくらいの悪逆を行った酷い貴族として歴史に名を残している家。
それが今の私の実家というわけだ。
(夢……とは思えないわ。これは聖女の奇跡的な力だったのかしら?そんなのあるなんて自分でも信じてなかったのだけれど)
聖女としての人生では贅沢などしたこともなかった私だが、貴族の令嬢としての記憶の中では贅沢三昧だ。
どちらも私であるという自覚があるという不思議な感覚。
何度考えても理由などわかるわけもない。
しかし、これが一種の奇跡である事は間違いが無い。
そして、その奇跡に対して文句を言いたくなる私の気持ちも理解して欲しい。
(ヤバいヤバいヤバいってこれ。あとどれくらい猶予があるか知らないけどこのまま行けば処刑まっしぐらじゃない!)
何故なら、現時点での私は悪徳大貴族の令嬢。
あまりにもやりたい放題をしたために国から粛清され一族郎党が処刑される事になるどうしようもない家の娘だからだ。
以前までの私であれば何も考えずに暮らして何もわからないままに処刑台に送られていただろう。
だけど、今の私は違う。
私にはこのまま行けば死んでしまうという確信がある。
魂の中に刻まれた聖女の記憶が今すぐ悔い改めろと叫ぶ。
(このままじゃ駄目なのはわかる……わかるけど、どうすれば良いのかしら?)
どうにかして処刑を回避しなければならない。
それにはどうすれば良いのか。
少し考えた結果として出てきたのは単純な答えであった。
(この家が粛清されたのは力を持ってしまって調子に乗ったから。そして、その原因は王族との婚姻だったはず。つまり、私が王子と結ばれてしまった事による権力の肥大化)
今までもそれなりに大きな家であったというのに更に力が増したために勢いが付きすぎて調子に乗って断崖絶壁から飛び立ってしまった。
それが私の家が皆殺しになる顛末だったはずだ。
ならば、それを止めるには私が本来は辿る事はなかった道を歩む。
これが良い。
だけど問題もある。
(くぅ!なんで王子と婚約済みなのよ!もう暴走始まってきてるじゃないの!)
もっと早く記憶を思い出していれば色々とやりようがあったというのに既に破滅への第一歩を踏み出してしまっていた。
どうせ奇跡が起こるならもっと融通を効かせろという話だ。
(文句を言っても始まらないわ……私はなんとかして滅亡を回避する!暗殺された聖女が転生先で処刑とか神が許しても私が許さないわ!)
そうして私の奮闘は始まったのだった。
◇
まず手始めに私は王子との婚約を何とかしようと考えた。
というのも、この王子という奴が基本的にろくでもない奴だ。
女遊びは激しいし権力欲も強く、選民意識の塊だ。
こんな男だからこそ見た目が派手でわかりやすい美女というカテゴリにある私に引っかかったのだろう。
ろくでもない女にろくでもない男が権力を与えた。
それが悲劇へと繋がるのだからまず私はこの王子から離れるべきだと言う事だ。
単純に離れれば良い話ではあるのだけれど聖女の魂を受け継いでしまった私にはそうできない理由があった。
それは悪事を見逃すと罪悪感が凄いという事だ。
「そこのあなた!悪巧みをしていますわね!」
私の実家が悪事の坩堝なのだから普通に生活をしていれば悪人ばかりが目についてしまう。
以前は私もその一員だったわけだから何の問題もなかった。
でも、今の私は違う。
あまりにも目につくからイライラするし、見過ごすとモヤモヤするし、ストレスがとにかく溜まる。
そんな私は物心ついた頃から仕えてくれている執事へと相談をしてみたのだ。
その時の彼の言葉は目から鱗であった。
『お嬢様がやりたいようにされるのが良いかと』
何の表情も変えずに私にそう言った彼の言葉が胸にストンと落ちた。
思えば聖女であった頃は禁欲とかそういうのばかりで思った通りにする事はできなかった。
だったらやりたいようにやろう。
そう思ったのにはもう一つ理由があった。
聖女の記憶に目覚めた私は記憶だけではなく、もう一つの力を手に入れていたのだ。
それは相手を見るだけで力やスキルが数値として表示される上、自分の能力を好きに設定できる力だ。
設定できる内容は多岐にわたり出来ない事はほとんど無いと言っても過言ではない。
見えない場所を見る能力。
相手からの攻撃が効かない能力。
私の魔法は全部必ず当たる能力。
何でもありだ。
聖女と呼ばれていた時もそんな力は持っていなかった。
私はこの力を使ってまずはろくでもない王子の取り巻き達をボコボコにすることにした。
試運転を兼ねた世直し。
この時はそう思っていた。
「ひぃ!やめてぇぇぇ!」
「止めません!反省しなさい!」
唐突に正しい行いをし始めた私は王子達から見れば裏切り者に見えるだろう。
以前までは一緒になって悪事を行っていたというのに突然凄い力に目覚めて取り締まって行くのだから意味がわからなかったはずです。
叩けば埃しか出てこない輩達なので気分良くボコっていたら。王子の勢力の7割を再起不能にしてしまいました。
「ふんっ!これでこの国も少しは良くなって私の処刑は無くなるわね!」
そう思っていた時代が私にもありました。
◇
心の赴くままに悪人を蹂躙する日々を過ごしていた私。
そんな私が放って置かれるはずもありませんでした。
「そこまでだ化け物め!」
そう言って乗り込んできたのは件の王子だった。
私に対して怒気を隠そうともしない姿には以前の私であれば怯え怯んでいたかもしれない。
でも、今の私はそんな事で怯みはしない
私の目にうつる王子の戦闘能力は一般兵の半分程度だ。
つまり、私の数百分の一の力しか無いわけで、そんな男に何を思えというのか。
「化け物呼ばわりとは酷いですわ!私はあなたの婚約者だというのに!」
巫山戯ながら芝居がかって王子をあしらうがあちらにそんな余裕はありはしない。
何十人と騎士を引き連れていてもそれが私の敵になる事なんて無い。
「えぇい!何が婚約者だ!貴様との婚約など破棄だ破棄!辺境へ追放など生ぬるい!ここで殺してやるわ!」
その言葉に私はピンと閃いてしまった。
街中に居るとどうしても私の目には悪人ばかりが映ってしまい手を出さずにはいられなかった。
全能と言っても良いほどの力を持ってしまったからこその悩みだ。
何とかできる力があるのだから見て見ぬふりをすると罪悪感が強いのだ。
これは目の前のクズを処理したとしても消えることはない問題。
それに、どうにも私を祀り上げようとする勢力が居る事も把握していた。
聖女として暮らしていた時は特に不満はなかったけれど今となってはああいう権力者的な生活はしたくはない。
面倒くさい事は嫌いなのだ。
もっと自由気ままが良いのだ。
「辺境……辺境に行けば人も少ないから悪人も目につかないかもしれないわね……」
私は街にいるかぎりは忙しく暮らすことになるという自覚があった。
面倒は避けたいと思いながらも聖女の魂が悪事を許さないからだ。
「うん!そのアイディア!いただきましたわ!私!追放されます!」
人が多いところに居るよりは過ごしやすそうだ。
辺境となると色々と生活が大変とは聞くけれど私に限ってはその限りではない。
不便だったら環境を変えれば良いだけだ。
「でも、その前にやることやらないとね」
そう私が言った瞬間に爆音が響きその場に居る人間の足が崩折れる。
私のスキルで敵の生命力を瀕死にしたのだ。
「うぅ……な……なにが……おき……」
そんな中で王子は虫の息になりながら私へと怨嗟が籠もった視線を向ける。
だが、そんな彼に思うことはない。
ここで王子を殺したほうが後腐れない気がしないもないけれど、変に追手がかけられるとそれはそれで面倒ごとに発展しそうでもある。
「辺境へ行く前にあなたの悪事を全て精算してからにしないと行けないわね。立つ鳥跡を濁さずと言うしね」
ここは一つ社会的にこの王子を再起不能にするくらいが良いだろう。
そうして私は王子をボコボコにして悪事を全て白日の下に晒した後で辺境へと旅立つ準備をすることにしたのでした。
◇
「お嬢様。どちらへ?」
辺境へ追放とは名ばかりの引っ越しをする事となった私へと声をかける者がいた。
私付きの執事だ。
彼は悪女であった私にも付き従っていた男だけれど悪人かというとそういう訳ではない。
生粋の執事であり、仕えるべき主の言うことに従っていただけだ。
それはこんな能力を持つ前の私ですらわかっていた事。
「私、辺境へ行く事になったの。追放されちゃったから」
そう明るく言う私を見て彼が当然のようにこう言った。
「では、私も準備をしなければいけませんね」
彼がこう言う事はわかっていた。
私が辺境に行くならば彼は何を言っても付いてくる。
主がある所に彼がいるのは当然の事だから。
辺境だろうと処刑台の上だろうと、彼はいつも私の側に居る。
それが私付きの執事だからだ。
普通ならばこれほどまでに想ってくれる異性がいれば心惹かれるものだっただろう。
それが恋愛のものなのか、それとも別のものなのかはともかくだ。
でも、私はチートに目覚めてしまった。
私は彼を対等の人間として見ることができるかどうかわからなかった。
男としては勿論、人としても愛することができるかどうかわからなかった。
そんな非人間な女に付き従う事が彼にとって幸福なのだろうか?
「私、あまりにも強くなりすぎてしまったみたいなの。だから、あなたを愛する事は無いわよ」
一緒について来てくれるという彼の言葉が嬉しくなかったと言えば嘘になる。
だけど、もしも私に付いてきた事を彼が後悔したとしたら耐えられなくなってしまうかもしれない。
だから予防線を張った。
引き返すならここだという境界線。
だけど、そんなものは何の意味もなかった。
「愛する事はない?えぇそれは何の問題もありませんが?」
「え?あなた……私の事、好きなんじゃないの?」
「いえ?私の好みはもっと静かでお淑やかな女性ですのでおかまいなく」
平然な顔で私に答える執事の彼。
こいつ何言ってんだ?
という気持ちが私の能力など使わなくても感じる事ができるくらい本気の疑問が伝わってくる。
「ぐぅぅぅぅ……そうですか!だったら付いてくればいいわ!というか荷造り手伝って!あと溺愛して!」
「お嬢様がそう望むのであれば」
恭しく礼をする執事。
どう見ても溺愛なんてする気はないように見えるけど処刑台まで付き合ってくれる人だからもしかしたら溺愛してくれるのかもしれない。
そうして私は辺境に行って思ったよりも荒れ放題だった諸々に対して無双を始めるわけだけれど、それはまた別のお話。
タイトルが全て
全盛りしたらどうなるかなって思っただけ
最後のやっつけ感が我ながら凄い