弟が猫と喧嘩しました
くっついてくる弟を引っ剥がして…私より大きくて力が強いから非常に大変だった…私は弟と向き合った。
明るい蛍光灯の下で改めて弟の姿を見る。
癖っ毛からくるりと伸びる羊の角。
少しタレ目がちの瞳は光の加減で赤っぽい。
ガリガリ爪を齧る歯は少し尖り気味。
腰から生える犬の尻尾。
うん、やっぱり何度見ても『おかしい』
ハロウィンはまだ先だよ?季節が先取りされるのここ近年どんどん早くなってきてるけど、ちょっと早過ぎるんじゃないかなーってお姉ちゃんは思うのよ。だってまだ初秋だし、半袖の季節だもの。
そこにうにゃーん、と甘えたような猫の声。私の足に擦り寄ってくるしなやかな身体につい頬が緩む。私は猫の下僕じゃないけど、人並に動物は好きだから。抱き上げてあごの下をくすぐるとゴロゴロ喉を鳴らしてくる。
うん、かわいい。背中に生えてる羽根もなんか違和感ないし、ちょっと変わった猫だと思えばいいかな。
ちょっと常識外れな事を考えてしまうくらい、私は酔っていたし、混乱もしていた。
さて、問題なのは目の前にいる弟だ。
この格好は悪魔をイメージしてるのかしら?尻尾があるなら、ケモ耳つけても良かったのに。
やっぱり切り出すならこれよね。「ハロウィンにはちょっと早くない?」それとも「学祭の準備?」
んー、なんかパッとしないなぁ。
「爪、齧るのやめたら?」
結局はこんな小言しか出なかった。
爪を齧るのを止めないまま、身長が高いのに下から見上げるような目をして私を見つめてきた。なんとなく卑屈さを感じる目つき。なんでそんな目をしてるのよ。
「先輩、この場合はどうするんですか?」
「は?」
人生初の弟からの先輩呼びに、素の声が出た。しかも問われてる意味がわからない。
「え、先輩って何?」
「そこにいる」
弟が指差したのは、私の腕に抱かれてるブチ猫。まあ、敬語で話すくらいだから弟にとっては先輩なのかも?
「うにゃ、にゃあん」
「先輩、ここまできたら普通に話してもいいと思うんですけど」
「にゃ…「先輩!」
「えー、あたしこの子大好きだから、あまり話したくなかったなぁ」
は!?
急に第三の声がして、酔いも吹っ飛ぶくらい驚いた。確かにゴロゴロ言ってた猫から声がした。目線を下すとブチ猫の金眼がキラキラ光ってる。あれ、この子金眼だったっけ?
「先輩、説明してくださいよ」
「なんで、あたしが説明しなきゃいけないのよ。あんたのドジじゃない」
「自分の失敗ではありますが、やっぱりここは自分より上の先輩が説明するべきですよ」
「ハアーー?甘ったれてるんじゃないわよ。自分の失敗は自分で挽回しなさいよね!」
なんだろう、この疎外感。猫と弟のどちらかが説明する、しないで口喧嘩になってるみたい。そして、猫の方が気が強くて口が達者だ。ほっとくとずっと喧嘩になりそうで、仲裁しようかな。
「えっと…とりあえず、喧嘩はやめたら?」
ぱあああ、と猫の瞳が輝く。
「そうね、あたしも喧嘩はしたくないわ。大好きなあなたに幻滅されるのも嫌だし」
「ちょっ!先輩!」
「うるさいわね。さっさと説明しなさいよ」
「………説明ってなんの説明?」
「わかんないわよね、ごめんね。……ほら、早くしなさいってば!いい加減にしないとキレるわよ」