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弟が猫を拾いました

 「はよー、今朝のご飯何ー?」


 2階から弟の声が降ってくる。

 今年高校生になったばかり。図体は大きくなったけれど、三つ子の魂百までを地でいくから、幼子の頃と変わらず、やんちゃでかわいい。こんな事、本人に言ったら嫌がられるってわかってるから黙ってるけど。


 私達は血は繋がっていない。

 弟は父の友人が夜逃げして置いていかれた子供だった。置いていかれた日はたまたま…多分計画的にだろうけど…うちで預かっていて、一人で残されたってわけじゃなかった。かの家に近しい親族もいなくてそのままうちで引き取った。

 ずっとひとりっ子だった私は、少し年の離れた弟が出来て嬉しかったのを覚えている。


「おはよう。今朝は目玉焼き。両面?片面?」

「片面で2個!」

「わかった。顔洗ってきて。その間にちゃっちゃと作っちゃうから」


 両親は不在。父の単身赴任に母がくっついて行ったのが、つい2週間前。弟の入学式を終えたら飛んでってしまった。

 昔から放任主義だと思ってたけど、私が就職して2年、弟の手も離れたからちょうど良かったんだろう、多分。そうでも思わないと腹立つ。

 幸い母方の祖父が近くに住んでるから何かあった時に頼れるけど、祖父もいい年だからあまり甘えるのもなんだかな…と思って、近年は足が遠のいてる。

 生活費は親が送金してくれてる。というか、生活費も入れなくなったら許すまじ。親類縁者に声掛けて有る事無い事ばら撒いてやる!と思うくらい憤怒モノだ。

 家の事は私が出来るし、気楽な二人暮らしを楽しんでいる。なんなら遅くに帰宅した、両親達の晩酌の後片付けをしなくて良くなった分、イライラする事も減って精神的にも非常に楽になった。食べっぱなし、飲みっぱなし、出しっぱなし…の、ぱなし星人だったから。

 私の目の届かない場所で、好きにやってください。

 親の住む地方に向けて合掌。



 5月の連休が過ぎたころ、弟が猫を拾ってきた。

 白と黒のブチ模様の猫で、うにゃうにゃと喋るように鳴く。

 世話は自分でするから、と積極的に猫の世話をやっているけれど……

 私の弟はいつの間に猫の下僕になったのだろう?

 いや、猫は確かにかわいいし、肉球は最高だし、世の中には猫の下僕に成り果てる人が一定多数いるのも知っている。

 実際、私の友達にも何人かいる。「猫にベッドとられちゃった。でもかわいいから許せるんだよね」とか、「好みの餌をあげないと食べないの。餌代が高いから今節約生活してるんだー」とか。

 弟は猫の為にバイトを始めて、バイト代を猫に貢いでいる。水はどこどこの天然水、餌はオーガニックなもの一律。餌入れには親が置いていったブランド物のお皿。バレたらうるさそうなんだけど!?

 そして、極め付けは猫に対して敬語を使っているのを目撃した。


 うにゃーん、うにゃ

「そうですよね。仰る通りです」

 にゃうにゃ、にゃー

「了解しました」


 え、ホントにどうしたの?会話してる、の?

 額を触って熱があるか確認してしまうくらいには動揺した。……平熱だった。

 一応、アルコール類は隠しておく事にした。


 

 夏休み明け、弟の生活リズムが狂い始めた。


 朝はギリギリまで寝て、夜は遅くまで誰かと話してる声が聞こえる。朝ご飯抜きは習慣化し、私との会話も減った。

 遅く来た反抗期かしら?と思った。テーブルに置いてあるおかずは食べてあるし、空になったお弁当箱は流しに出してある。

 ま、そのうち元に戻るでしょ、と思って私も親が居なくなってから途絶えてた、友人達との交流を復活させた。


 

 呑み会という名の合コンに参加した日、久しぶりに酔っ払って帰宅した。

 キッチンで水を汲んでちびちび飲みながら、どこを見るとなしにぼんやりと立っていた。

 ドン!!

 背中に衝撃。お腹に回される腕。ふっふっ、と浅く吐く息が首にあたる。

 

「やっ!!」


 しがみつく誰か、に恐怖を覚えて振り上げた腕が後ろから抱きついてきた不審者の頭に当たる。ふわっとした髪、それにゴツッとした何か。

 無理矢理、振り向いて、喉から「ヒッ」と小さな悲鳴が出た。


 そこにいたのは、多分弟。


 あちこちに跳ねる癖っ毛、耳の上にはくるりとした羊のような角。角…としか言えない。なにあれ。え、仮装にしてはよく出来てるね?

 腰パン状態のハーフパンツ、その腰から生えてるのは犬みたいな尻尾。なんかふわふわ揺れてるけど、あれどうやって動いてるの?

 その尻尾の近くでうろうろしてる、二足歩行の猫。背中から羽生えてるけど、えーと、どうやってくっつけたんだろう?


 混乱しつつも、きっとこれは酔っ払って見てる夢だな!と結論つけた。だってあまりにも非現実的過ぎて。

 弟っぽい人が後ろから抱きついてるのも夢!

 猫が飛んでるのも夢!

 

 なんだか疲れたので、キッチン隣のリビングに移動。後ろにくっついてるのも猫も静かに着いて来た。


「これ、どうなってるの?」


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