入学
「なんか、貴族の娘が入学してくるらしいよ」
「本当それ?」
「貴族のフレッドに娘なんかいたのね」
教室の中で何やらひそひそと噂が聞こえてきた。
おそらくだが俺のことだろう。あまり目立ちたくないのだが。
そう思っていると隣の女子が話しかけてきた。
「ねえ、あなた名前なんて言うの?」
と彼女が俺に向かって緊張した顔で尋ねてきた。
こいつは、まさかあいつではないだろうか?
「…………」
あの日以来、俺は同年代の話しかけてくる人間は、ゆうとなのかもしれないと疑心暗鬼になっていたのと転生者かもしれないという思いから彼女を無視してしまった。もし、この子がゆうとだったら? そんな疑問を抱きながら人と接するようになっていた。
「あれ、聞こえなかったかな?」
「あの、名前なんて言うの?」
「皆さん席についてください」
教師のヘイズが教室の中に入った途端、教室全体に響き渡るような大きな声で指示した。
「あ、先生来ちゃった」
と言って彼女は席に座った。
「皆にはこれからこの学園を過ごしてもらうのだが、親睦を深めるためにまずは、軽く名前を紹介してもらおう」
教師がそう言うと皆が次々に名前を言っていった。
隣の女子が名前を言う番になった。
「メアリ・アリスです、よろしくお願いします」
ふーん『アリス』って言うのか。
そして、俺の番になった。
「クレアです」
俺はボソッと誰にも聞こえないような声で言った。
「あの貴族の!?」
アリスが大声を出してしまったばかりにいっきに皆の視線がこちら集まってきた。
怖い、やめろこちらを見てくるな。
こちらを見てくる顔が全て忌々しいゆうとの笑顔に変換されて思わず吐き気がしてきた。
「顔色悪いけど大丈夫!?」
アリスが心配そうな顔をしながら言ってくれた。
「アリス、クレアを医務室まで連れて行ってやれ」
教師は俺が具合が悪そうに見えたのかそう言った。教師に言われてアリスが、俺を連れて教室を出て行こうとするとまたもや視線がこちらに注目していた。
教室中の顔がまた、ゆうとの顔に見えてきて疲れが俺を襲ってきた。
目を開けると目の前には、アリスが俺の顔を覗いていた。
「何をする気だ!?」
俺は驚いてアリスを突き放した。
俺は、アリスが転生者なのではないかと思って信用していない。
「ごめん……」
「こっちこそごめんね、きれいな顔してたからつい覗いちゃった」
こんな顔を褒めないでくれ俺の顔でもない、ましては殺人鬼の顔を褒めるなんてこと。昔は、この顔を見たくもないくらいで、いっそ顔を傷つけようかと迷うぐらいに憎んでいた。
「あの、今何時ですか?」
「もう、三時だよ」
「みんな寮に行ったと思うよ」
「私たちも行こうよ」
「はい」
その瞬間、医務室の扉が勢いよくガラッと開いた。
扉を開けたのは、教師のヘイズだった。
「体調はどうだ? クレア」
「大丈夫です」
「そうか、ならよかった」
「寮に行っておけよ」
「では、また明日」
と言ってヘイズは去っていった。
ヘイズは、転生者ではないだろうけどゆうとだという可能性があるためまだ信用していない。というか、俺はこの学園の人間は誰一人として信用していない。
「じゃあ、クレアちゃん寮に行こ」
「わかった」
アリスと一緒に寮へと歩いた。
アリスはなぜこんなにも馴れ馴れしいんだ。転生者だからか? それともゆうとだからか?
そう考えただけでもぞっとする。俺に話しかけないで欲しい。なんなら誰も俺に近寄らないで欲しい。それに転生者ではなくても俺のせいでゆうとに殺されるかもしれない。誰も巻き込みたくないのだ。
なら、近寄りがたい雰囲気をつくればいいのだ。
そうと決まれば明日から実行しよう。
そう考えているうちに女子寮についた。
まてよ、この学園に入る前はきずかなかったけど俺、今日から女子と一緒に生活することになるのか。いいのか? 中身は、男だぞ!! どうしよう……
なんて、思っていたが部屋は個別でシャワーまでもある。
俺は何を期待していたんだ……
その夜、食堂で食事を運んでいるところ、ばったりアリスと出会ってしまった。
「ねえ、一緒に食べない?」
俺は、この子を巻き込みたくないと思い無視をした。
「また、聞こえなかったかな?」
「一緒にご飯食べよ」
彼女は、さっきよりも近くでさっきよりも大きな声で言ってきた。
アリスは優しい子なのだろうこんなにも俺を誘ってくれるなんて。だけど、そんな子が俺のせいで殺されたくない。もう、嫌われてもいいから関わるのをやめよう。
「いや」
躊躇ってしまいボソッと言ってしまった。だが、今度は聞こえる声で言おう。
「あ、あなたとなんかいやせす」
「でも、クレアちゃんそんな悲しそうな顔で言っても説得力ないよ」
そんな顔をしているのか? ならもっと嫌そうな顔で
「あなたとなんかいやです」
「もう、遅いよお」
そう言いながら彼女は、笑った。
駄目だ、引き離すことができない。傷つけたくはない。なら、守るしかない。でも俺なんかに守れるのか? そもそもアリスは、転生者ではないという確証もない。
そんなことを考えながらも結局彼女と一緒に食事をとることになってしまった。
「クレアちゃんって貴族なんだよね」
俺は首を縦に振った。
「やっぱりそうなんだ」
「あの時叫んでごめんね、人が怖いんでしょ?」
「うん……」
「私も怖い?」
一応頷いといた。
転生者ではないと分かれば怖くはない。
その夜、俺はアリスのことについて考えていたら眠ってしまっていた。
翌日
ドンドンと扉を叩く音が聞こえて俺は目を覚ました。
どうしたんだ? まさか、寝坊したのか!?
そう思って時計を見ると時刻は、まだ5時だった。
誰なんだこんな時間に?
扉を開けるとそこにいたのはアリスだった。
「たいへんなことが起こったの!!」
「どうしたの?」
アリスは慌てているようだ。
「とりあえず、ついてきて」
アリスについて行き食堂に着くと、大勢の人が集まっていた。
どういうことだ? 何かあるのか?
そう考えているうちにヘイズが出てきた。
「一年は、全員いるか?!」
ヘイズは大声で言ってきた。
本当に何があったんだ? くだらないことでなければいいのだけど。
「あの、先生アン・クラークさんがいません」
「あぁ、その生徒か」
「驚かないで聞いてほしい」
やっとか、そんなにも驚くことのものなのか?
「この寮でアン・クラークという生徒が殺された」
ヘイズがそう言った瞬間、食堂中がざわついた。
「静粛に!!」
なんでもっと早くきずかなかったんだ、まさか一日目からなんて。この学園にはノースのほとんどの住人が集まるため転生者が少なからずともいるんだ。だから無尽蔵に殺戮が行われてしまう。つまり、ここにいる人達が殺されるかもしれないということだ。
ヘイズは、全生徒を部屋に戻るように促し、誰も部屋に入れてはいけないということとした。
部屋が個別ということもあり安心できるだろう。だが、魔法で部屋に入ったらどうするんだ? そうなった場合犯人の特定は無理だろう。
そうだ、犯人を誘き寄せるのはどうだろうか? 誰かに転生者の可能性がある言動や行動をさせる。そうすれば犯人が転生者ならそいつを狙うだろう。
そんなのだめだ、もしそれで犯人が捕まったとしてもその後にそいつが違う転生者に殺されてしまうかもしれない。
どうしよう…… そもそも俺が解決しようとしなくても誰かがやってくれるだろう。
部屋に戻ってきてから1時間が経っただろうか。
部屋の外には軍人が来ていた。
「キャー!!!!」
廊下に悲鳴が響いた。
転生者に襲われているのか? 悲鳴がした場所に駆け付けようと扉を開けようとしたがふと脳裏に今現場に駆け付ければ俺が犯人だと疑われるかもしれないという考えがよぎった。
そんなこと気にしてどうする? まだ、助かるかもしれないのに!!
俺は扉を開けた。悲鳴が聞こえた方向に向かって走るとちょうど誰かが扉から出てきてちらっと俺を見たと同時に俺の反対側に逃げていった。
あいつか、犯人!?
俺はそいつを死に物狂いで追った。
ここで逃がしたら死んだ子が報われない。そんなのだめだ。
そいつはだんだんと疲れがでてきたようでぐんぐんとそいつの背中に近づいてきた。
手を伸ばすとそいつの背中が掴めた。犯人を引き寄せた。
するとボソッとそいつが何かを言った瞬間、床に一階の廊下が見える穴が開いた。
やばい、魔法を使われたか!? 逃げられる。
そいつは俺が驚いている間に穴に入ろうとしたが、すかさず俺はそいつの腕に掴まり一緒に一階へと落ちていった。
落ちた衝撃で犯人の腕を離してしまったが、目の前にやつはいる。
犯人は、仮面をしている。
そしてそいつは、話しかけてきた。
「お前は転生者か?」
と女性の声で聞いてきた。
「なんだ、それは?」
「そうか、そうだよな、転生者がライバル減って喜ばないはずがないよな」
なんて、やつだ人間が死んだのだぞ、それもゲームには関係ない。
こんなやつは、生かしちゃいけない!!
そう思った瞬間、俺は瞬時にそいつに隠していたナイフを投げつけた。
ナイフの刃が犯人の腕に刺さった。犯人はいきなり、その場で倒れ込んで言ってきた。
「許してくれ、俺はあるゲームで勝ったらこの世界を操れるんだ」
「だから、協力してくれたらお前の願い事叶えてやるよ」
「そんなことは、どうでもいい」
「信じられないよな、でも信じてくれよ!!」
そうじゃない、お前みたいなやつなんかと協力なんかしたくない。それにもう、人は信用していない。
「そうか、その顔信じてくれないか」
そう言って犯人はまた、ボソッと何かを言った瞬間犯人と俺との間に壁が生成された。
油断していた、まさか、まだこんな余力があるなんて。
これじゃあ犯人を逃してしまう。俺は魔法が使えないからこの壁は壊せれない。
そうだ!! 思いついた犯人を捕まえる方法。速くしないと逃げられるてしまう。
「殺人鬼よ、この学園は軍によって包囲されている逃げても無駄だ」
ヘイズの声が神器によって学園中に響いた。
俺の予想なら、犯人が外に行こうとまだこの学園からは出れていないはずだ。なぜなら、この学園は無駄に広く、犯人は怪我を追っているからだ。
だからヘイズに頼んで軍人に学園の周りを囲んでもらった。これでもう、犯人はこの学園からは逃げられない。
そして、俺は女子生徒を食堂に集めた。
今俺の前には全女子生徒がいる。複数の顔が見えてしまって今にも吐き気がしてきた。
「今から私に一人ずつ腕を見せてもらう」
俺の代わりにヘイズに言ってもらった。
ここからはもう、探すのは簡単だ。俺はナイフでやつの腕に傷をつけたのだから。
ただ不安なのは、犯人が俺がクレアの体にされてしまったときに使われた仮面のような物を使っていれば怪我などないようにできて体格までも変えることができるだろう。
次々に犯人ではないと分かった生徒にチェックが入っていく。
そして、犯人と体格が似ている生徒が現れた。
もしかしたら、こいつが犯人かもしれない。
そう思うと犯人が何をしてくるか分からないから俺は警戒した。
そいつが腕を見せたが傷はなかった。そして、そいつが立ち去ろうとしたとき俺は呼び止めた。
「待って、もう一度見せて」
「もう、いいでしょ」
何かを隠しているようだった。
俺は強引にでも、彼女の腕を見た。
見た瞬間、俺は小声でヘイズに捕まえるように指示した。
ヘイズがそいつを取り押さえた。
「傷なんかなかっただろ!!」
「何を見るかは言っていないはず何だけど」
「そ、そんなの誰でも予想できるから」
「でも、決定的証拠がある」
「傷が付いたはずのところの色が他のところとは違っている」
「くそ!!」
そいつは暴れようとしたがヘイズに抑えられていたため暴れられなかった。
そして魔法を使わせないために口も押さえつけていた。
その後、犯人は処刑にされた。
どうやって傷を塞いだのかはだいたい想像できる。一つ疑問がある、それは神からの報酬が違うことだ。俺は過去に戻すという報酬だったが犯人は違った。ますます神のことが信用できなくなってきた。
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