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05:過去の因縁との対峙



 ルッコイの街で【聖剣ダモクレス】の鞘を作って貰っている間に、僕らは付近の森に繰り出して、適当に狩りを行った。

 Eランクで受けられる依頼なんてたかが知れてるし、だったら魔物素材の買い取りだけお願いしてお金を稼いでおこうと。



「むむっ! この屋台のものは非常に香ばしいのう! 昨日食べたものより甘味が強くなっておる!」



 隣でチーノは満足気に焼き芋を頬張る。

 それは単に焼きすぎなんだと思うけど言わないでおこう。幸せそうだし。



 ともかく旅費や消耗品の買い出し、宿泊や食事、チーノの焼き芋代も含めてお金はあるに越したことはない。

 稼げる時に稼いでおかないとね。



 そんなわけで今日も冒険者ギルドに来て買い取りを頼む。

 さすがに三日連続となれば受付嬢さんも慣れたもので「またこんなに! ありがとうございます!」と対応が良くなった。

 背後の酒場で飲んでいる冒険者の人たちも「またあいつらか」と見慣れた様子。

 チーノが居るだけで目立つのは分かるんだけどね。絡んで来ないだけマシかな。


 これで明日には鞘を受け取って出発出来そうかな、と思っていると冒険者ギルドの中が急にザワッとした。

 どうやら誰かがギルドに入って来たらしい。



「お、おい、あれって【猛火の手甲】じゃねえか!?」

「マジかよ! たった五年でBランクに行ったっていう!?」

「じゃああの先頭のヤツが【バルザック】か!」



 そんな冒険者たちの声に、僕は思わず動きが止まった。

 買い取りが終わったカウンターから入口の方に顔を向ける事が出来ない。

 バルザック、そして【猛火の手甲】。それに聞き覚えがありすぎた。



『やーいやーい! 弱虫ベッシュ! 泣き虫ベッシュ! 悔しかったらかかって来いよ!』



 幼い頃の記憶がフラッシュバックする。

 僕を見下す赤髪の少年の姿を。



「ん? どうしたんじゃベッシュ。買い取りが終わったのなら早く宿に戻ろうぞ」



 隣のチーノがそう言うけど、僕は未だに動き出せずにいた。



「はあ? ベッシュ、だと?」



 入口の方から聞き覚えのある声。

 そしてズカズカと近寄って来る足音。

 はぁ、と心で溜息を吐き、僕はようやく顔を向けた。


 そこに居たのは五年ぶりに見る男の姿。

 身長は僕より高く、身体つきなんか『いかにも冒険者』と言うほどの筋肉だ。

 革鎧と外套、靴も上等なものなのだろう。一見でそれは分かる。

 しかし僕を見てニヤつくその表情は変わらない。



「クックック、誰かと思えば泣き虫ベッシュじゃねーか。″落ちこぼれ鍛冶師″のお前が何だって冒険者ギルドなんかに居るんだよ。ああん?」



 バルザックはスターリッジの街の孤児院で一緒だった男だ。

 いわゆる悪ガキでいつも僕を虐めて来た。見るからに弱そうな僕は標的にされたのだ。


 最悪な事に年齢も一緒という事で、僕とバルザックは共に神殿で『天啓の日』を迎えた。

 僕が憧れていた【鍛冶師】になれたと喜んでいたのも知っている。

 それが【宝剣鍛冶師】という誰も知らない″天職″で、<鍛治>スキルもなく、″神器″が明らかに鍛治に使えない『木槌』だったのも知っている。



『ハッハッハ! 良かったじゃねーか泣き虫ベッシュ! 念願の鍛冶師になれてよお! それでどうやって鍛治が出来るのか知らねえけどな! ハッハッハ!』



 僕はそのまま走って神殿を出て、孤児院を去り、鍛冶屋の門を叩いた。

 意地でも鍛冶師になると。僕の夢を笑ったアイツを見返す為に。

 でも孤児の上に【宝剣鍛冶師】というよく分からない″天職″になったせいで、結局はベルナルド親方しか受け入れてくれなかったけど。


 一方でバルザックは【轟炎闘士】という″天職″と、【猛火の手甲】という″神器″を頂いていた。

 いかにもすごそうな戦闘職と、それに見合った武器であり防具。

 羨ましいとは思わなかった。

 ただ、らしいな(・・・・)とは思っていた。



 それから風の噂で耳にした。

 バルザックは孤児院を出て冒険者となり、自分の″神器″と同じ【猛火の手甲】という名前のパーティーを組んだと。

 破竹の勢いでランクを上げ、スターリッジのギルドでも指折りとなり、もっと大きな都市に行ったと。


 僕はバルザックが居たとしても王都か、もしくは他国に行っているものだと思っていた。

 良く言えば性格的に向上心があるヤツだから。悪く言えば強くなって弱いもの虐めしたいタイプだから。


 このルッコイはスターリッジに比べて極端に大きいというわけではない。

 おそらく王都あたりから遠征で寄った程度なのだろう。正直油断していた。



 と、そんな事を苦々と思い出しつつ、特に言葉も交わしたくないと、無視して入口に向かおうとした。

 でもすれ違い様に肩を掴まれた。痛いが意地でも顔には出さない。



「ちょおっと待てよ。せっかく久しぶりに会ったんだ。無視は酷えんじゃねえか? なあ、泣き虫ベッシュ」


「……ほっといてくれ」


「クククッ、ホントに冒険者になったのか? お前が? ランクは何だよ」


「……Eだよ」


「クククッ、ハーッハッハッハ! ――そらよっ!」



 ――ドカッ!



 肩を掴まれたまま倒され、僕はうつ伏せで押さえつけられた。

 呼吸が一瞬止まる。ぐぅっ、と声を出すのが精一杯だ。



「頭が高えんだよ、Eランクのカスが! こちとらBランク様だぞ? 身の程を弁えろっての!」



 バルザックのパーティーメンバーであろう男たちが大声で笑っている。

 酒場の連中は引き気味だ。僕に敵愾心を持っていたヤツらも「やりすぎだ」と思っているんだろう。

 かと言ってバルザックに何か言えるヤツも居ない。

 受付嬢さんたちも怯えているくらいだ。

 この場でバルザックに対して何か言えるヤツなんて僕以外じゃ――



「ふむ、冒険者同士の争いはご法度と聞いたんじゃがのう。上位ランクの者がそれを破るんじゃなあ。それともここのギルドには特別なルールでもあるのか?」


「ああん? なんだこのガキは」



 チーノは腕組みをしながら不遜な顔でバルザックを見上げていた。いつも粗暴な冒険者たちに見せる顔だ。

 真上を向いた髪の毛は内心怒っているのを現している。

 背中の痛みで声の出ない僕は心で叫んだ。

 やめろチーノ! こいつは少女だろうが殴り飛ばすヤツだ! 近付くんじゃない!


 と思ったが、バルザックも気概が削がれたのか僕を抑えつけていた腕を放した。

 僕はよろよろと立ち上がり、対峙するチーノとバルザックを見る。



「はんっ! なんだ知らねえのか? 俺様は【神子】だぜ?」


「何……?」



 僕とチーノの眉間に皺が寄る。

 周りの反応を見るに、どうやら周知の事実らしい。

 だから誰もバルザックに何も言えないのか。ギルド内でのもめ事なのに……。



「世界に六四人しか居ねえ【神子】様だ! ギルドは俺様を保護して当然だろうが! ギルドだけじゃねえ! 国も貴族も俺様を大事に扱おうって必死だ! そりゃそうだよなあ! 五年後の闘技大会じゃ俺様が優勝する! そうなれば世界的英雄だ! それを今潰すわけにもいかねえからなあ!」



 それが本当かどうかは分からない。国やギルドが実際保護しているのか。

 でも少なからずバルザックに苦言を呈せない空気があるのだろう。ギルドはそんな感じだ。

 そしてバルザックは増長している。

 ……いや、こいつがイキがってるのは昔からだけど。


 大仰に手を広げて自分を正当化するバルザックに対し、チーノは先ほどの怒りが静まったように笑みを浮かべていた。



「ほうほうほう! なんと其方が【神子】か! それは素晴らしい!」


「クククッ、なんだガキ、てめえよく分かってるじゃねえか」


「で? どの神の【神子】なんじゃ?」


「【猛火の神ドゥドンスル】様よ! 俺様の炎は全てを焼き尽くす! どんなヤツが相手だろうがなあ!」


「ほーうほうほう! ドゥドンスルか! なるほどなるほど!」



 チーノは笑顔で拍手をし、それに気を良くしたのか単純馬鹿のバルザックも合わせて笑っている。

 ギルド内の空気はすでに一変していた。



「これは五年後の大会が楽しみじゃのう!」


「ガキも俺様に賭けておくんだな! 未来の英雄になるのは間違いなしだぜ!」


「しかし神は大会に出場する【神子】を自由に変えられるとも聞くぞ? 五年後に【神子】で居られたら良いのう」


「はんっ! なんだ、五年以内に俺様が死ぬとでも言いてえのか? んで代わりの誰かが【神子】になると? んなわけねえだろうが!」


「杞憂であればそれで良い。我も其方が大会に出る事を願っておる。心の底からな(・・・・・・)



 僕に興味をなくしたのか、チーノの言葉に気を良くしたのか、バルザックは笑いながら受付の方へと向かう。

 チーノに腰をポンと叩かれ、僕はギルドを出た。


 苛立ちや悔しさ、色々な感情が過去の思い出と共に甦る。

 歯を食いしばり、僕は足元を見つつ宿へと足を向けた。



「ベッシュよ」



 二歩前を歩くチーノが振り返らずに、僕に言う。



「ヤツが【神子】で居続けてくれたら良いのう。もし其方と一回戦で当たれば勝ちは確実じゃ」


「……えっ、僕は……バルザックに、勝てる、の?」


「当たり前じゃろう。其方の敵ではないわ。五年後じゃなく現時点でも殺せるわい」



 相手は戦闘職で、Bランク冒険者で、パワーだって体感した。

 殴られ、叩き伏せられた過去のイメージが過り、僕が勝つという想像が出来ない。


 でも、チーノは「確実に勝つ」と言う。

 相手は【猛火の神ドゥドンスル】の【神子】。

 対してチーノは万年一回戦負けの【鍛治の神ドルフェチアーノ】だと言うのに。


 しかしそれは気休めには聞こえなかった。

 チーノは本心で僕が勝つと言っている、そう聞こえた。



「だいたいドゥドンスルも単純馬鹿じゃからな。まあ、よく似たヤツを【神子】にしたもんじゃよ。よくあんな″考えなし″を選んだもんじゃ。馬鹿だから馬鹿を選ぶのかのう」



 チーノの顔は見えないが、愚痴は止まらず、髪の毛先がさっきから激しく動いている。ビュンビュンと。

 どうやらドゥドンスル様にも馬鹿にされていたらしい。



「じゃからベッシュよ。明日からまた″宝剣″を探しに行くぞ。なるべく多く集めて万全の体勢を整えなければのう」


「――うん、そうだね」


「うむ、よい返事じゃ」



 闘技大会でバルザックを倒す。

 それは過去の僕との清算であると同時に、チーノの為の勝利でもある。

 僕は″宝剣″の力に頼る事でしか戦えないけど、それが【宝剣鍛冶師】としての戦い方であるのなら――それをもって僕は勝つ。


 その為には世界中の″宝剣″を集めないとね。

 明日、鞘を受け取ったら早速出発しよう。




64柱の1柱:猛火の神 ドゥドンスル

その神子:バルザック 天職:【轟炎闘士】 神器:【猛火の手甲】

現在Bランク冒険者。弱いもの虐めが大好きな暴虐脳筋タイプ。

かませ犬にならない事を祈ります。

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