04:一応旅の冒険者って事にしています
「一月で三本か。まぁまぁのペースかのう」
「そうだね。でもやっと普段使い出来そうな″宝剣″が出てくれて助かったよ」
「前の二本がいかにもじゃからのう。まぁそこは我も選べぬし蓋を開けるまで分からぬ。打ってみなければ分からぬ博打のようなものじゃな」
僕とチーノはまだアムステルド大陸の東側にあるガルッソ王国に居る。
近場の″宝剣″反応をチーノが探って、それを順々に手にしながら歩みを進めている。
今はルッコイという大きな街の宿屋。その二人部屋。
片方のベッドの上ではチーノが屋台で買った焼き芋をもしゃもしゃと食べている。
街に行く度に色々と買い食いしているが、どうやら焼き芋にはまったらしい。
砂糖菓子よりも安価でボリュームのある甘藷は確かに人気だが、屋台を見つけるたびに買うのはどうかと思う。
夕飯を抜いてでも食べる時があるくらいだ。
【農業の神ノッチローデ】様とかにお願いすれば天界でも甘藷を作ってもらえると思うんだけど……。
僕はと言えば床に座って、三本の″宝剣″の手入れをしている。
何だかんだ言っても僕は鍛治仕事が好きだし、″宝剣″はどれも素晴らしいものだ。
いつまでも触っていたくなる。磨いているだけで思わず顔がにやける。
「……ベッシュよ、ニヤニヤと気持ち悪いぞ」
焼き芋を頬張る少女神様にジト目で見られた。
コホンと咳払いし、僕はポケットから【神器メダル】を取り出すと、親指でピンと真上にはじく。
「<覚醒>」
メダルは空中で【宝剣の槌】となり、右手でその柄を捕まえた。
膝の上に乗るエクスカリバーの刀身にコンコンと軽く叩き、持ち上げて見ては、また軽く叩く。
何度か繰り返して、仕上げに布で拭き上げた。
僕の″天職″【宝剣鍛冶師】には三つのスキルがある――と、チーノが設定したらしい。
一つ目は<宝物庫>。
手にした″宝剣″を別の空間に収納するスキルだ。
これにより僕が今後、仮に百本全ての″宝剣″を手にしたとしても持ち歩く事に難儀はしない。
ただ″宝剣″以外は仕舞えない為、背負う荷物は多いんだけど。
いやまぁ<宝物庫>なんだから宝物じゃないと入れられないって分かるんだけどね。もうちょっと何とかして貰えればなーと。
二つ目は<宝剣操作>。
戦闘職でない僕でも″宝剣″で戦えるようになるスキルだ。これがあるから二人旅をしていられる。
武器を手に持つタイプの<演武>と、持たないで操作するタイプの<操演>がある。
チーノが後から名付けた。
基本的には近距離が<演武>、遠距離が<操演>と使い分けている。
三つ目は<宝剣修繕>。
今僕がやっていたように【宝剣の槌】で″宝剣″を修繕する事が出来る。
いくら異界の素晴らしい剣だと言っても、痕がついたり、かすり傷がつく場合もある。
それをコンコンと叩くだけで修繕できる。磨くのも含めたこの手入れが毎晩の日課だ。
つまり何に使うのか分からなかった僕の″神器″【宝剣の槌】は
① 『光るもの』を打つ事で″宝剣″を生む能力
② <宝剣修繕>で″宝剣″の手入れをする能力
と、二つの能力を持っていたわけだ。
″天職″と″神器″。【宝剣鍛冶師】と【宝剣の槌】。
どちらも″宝剣″ありきの能力なわけで、どうりで五年間も色々頑張っても何一つ出来なかったわけだ。
ベルナルド親方じゃないけど、本当に鍛治仕事が無駄だったと突きつけられた気分で少し落ち込んだ。
いや、闘技大会が終わればチーノから<鍛治>スキル貰える約束だし、そうなれば僕は念願の【鍛治師】になるから、決して無駄なわけじゃないんだけども。
で、肝心の″宝剣″収集の方だけど、今日で三本目の″宝剣″を手に入れた。
一本目は小麦から【聖剣エクスカリバー】が。
とても豪華な幅広の長剣で、とんでもない威力の聖属性の魔法攻撃も可能。
二本目は河原の小石から【魔剣ティルフィング】という剣が生まれた。
黒曜石のような真っ黒な剣で、見た目もトゲトゲしている。非常に厳つい。
おまけに闇属性も備えていて、剣を叩きつけると同時に<闇ノ爆発>のような攻撃も出来る。
エクスカリバーほどの威力はないが、とても人前で使える剣ではない。見た目も性能も含めて。
そして三本目が今日、森の中の『光る李の実』から生まれた【聖剣ダモクレス】だ。
それこそ街の武器屋にでも置いてそうなシンプルな造りだけど、刃は極めて鋭利。レイピア並みに鋭いショートソード。
何より<危険察知>の能力があるらしく、腰に佩いて身に付けているだけで、近くに危険が迫っていると感覚で分かってしまうという優れもの。
チーノ曰く、【狩人】などの″天職″で発現する<危険察知>のスキルと同じようなもの――もしくはそれ以上の性能、との事だ。
何にせよ旅の最中、魔物との戦闘なんてそれこそ毎日あるわけで、そんな中手に出来た【聖剣ダモクレス】は本当にありがたい。
街中だって危険があるわけだしね。
僕らは十五歳と七歳(見た目)の兄妹を自称しているわけで。
怖い人に絡まれる事だってありそうだし。
あ、ちなみに【聖剣】とか【魔剣】ってのを全部まとめて″宝剣″と言うらしい。
中には″剣″じゃない″宝剣″もあるらしいけど……どういう事?
「″剣″とは″武器″だと思っておけば良かろう。聖だろうが魔だろうが『宝となりえる武器』それが″宝剣″じゃ」
そういう事らしい。神様は時々よく分からないルールを作るから人間の僕には理解できない。
♦
翌日、【聖剣ダモクレス】用の鞘を作って貰おうと、鍛冶屋へと足を運んだ。
<宝物庫>には入れず、常に佩いておきたいからね。
店主さんには立派な剣だな、とは言われたけど怪訝に思われる事はなかった。
これがエクスカリバーやティルフィングだったら「なんじゃこりゃ!?」と大騒ぎだっただろう。
鞘が出来上がるまで数日かかるが、これでいつでも身に付けていられる。
<危険察知>は常時使えた方がいい。もちろんチーノもそれには納得していた。
そういうわけで数日はルッコイに留まる事になる。
「まだ食べてない焼き芋の屋台があるからのう。ちょうどいいわい」
どうやら制覇するつもりらしい。
焼き芋なんてどこで買ったって大して変わらないと思うんだけど……。
♦
その足で冒険者ギルドへと向かう。
僕たちは一応、『冒険者』の扱いになっている。
正確には僕だけが『冒険者』で、七歳(自称)のチーノは『冒険者見習い』という感じだけど。
僕たちは五年後の【神子闘技大会】に向けて、世界中を巡り、なるべく多くの″宝剣″を入手しなくてはいけない。
そんなに必要か? と思っていたけど【聖剣ダモクレス】の<危険察知>のように日常でも使いやすい能力を持った″宝剣″があると分かれば僕も乗り気になる。
これが【聖剣エクスカリバー】のような規格外ばかりだったら必要性を感じないが、魔物と戦いながら国と街を巡る旅となると、普段から使える能力を有した″宝剣″というのは非常にありがたいのだ。
ましてや僕は″宝剣″に関する三つのスキルしか持ってないわけだし。
話を戻して、国や街を巡るとなれば、個人証明が必要になる。
一応、鍛治見習いだったので鍛治ギルドのカードは持っているけど、二人旅をするには不十分だし、かと言って行商するわけでもないのに商業ギルドに登録をするのもどうかと。
結局は消去法的に冒険者ギルドに登録する事になった。
路銀稼ぎも兼ねて道中の魔物も狩っているので、剥ぎ取った部位を売るにしても都合が良い。
そんなわけで今日も、昨日【聖剣ダモクレス】を入手した時に入った森で狩った魔物を売りに来たのだ。
「三~四日滞在するなら普通に依頼を受けてもいいかもね」
「日帰りで街に帰ってくるなら良いぞ。我はこの街に居る間に全ての焼き芋を食わねばならぬのじゃ」
「いやそんな言い切られても……」
握り拳を胸に、チーノは何やら闘志を燃やしている。
髪の毛が真上にピーンと向いていた。
まぁ街を出れば食べられなくなるから食い溜めしたいんだろうけどさ、何かが間違ってる気がする。
そんな事を言いながら、大通り沿いにある冒険者ギルドへ。
冒険者ギルドはどの街も似たような造りだ。
扉のない大きく開いた入口と、入ってすぐには依頼ボードに依頼票がいくつも貼り出されている。
横を見ればカウンターがあり受付嬢が並び、奥には酒場のような広いスペースが広がっていた。
僕とチーノが入れば大概「どこの小僧だ?」「あのガキは何だ?」「子供の遊び場じゃねえぞ!」とか言われる。
そりゃ僕は鎧もローブも着ていないし、普通の平民服と外套だけだ。
おまけに武器も佩いていない。(ダモクレスは鍛冶屋に預けたままだ)
冒険者には″神器″が武器だった人も多いだろうけど、普段は【神器メダル】にしている人も多いから武器を佩いていないのはそんなに珍しい事じゃない。
とは言えそういう人も防具はちゃんとした装備品だし、体格も含めてそれ相応の見た目になる。
僕はどう見ても戦闘職には見えないし、隣に七歳児(年齢不詳)が居るから余計だ。
最初はそういった粗暴な人たちが怖かったけど、これが冒険者ギルドの普通なんだと分かればさすがに慣れてくる。
僕は無視して受付に行くだけだ。
でもチーノはギロッと睨み返す。これもいつもの事だ。
冒険者は当然ながら戦闘系の神々から″天職″を賜るのがほとんどなわけで、つまりはチーノの『闘技大会九九回連続一回戦負け』という不名誉を笑う神々とダブるらしいのだ。
神々にも馬鹿にされ、その神々から″天職″を与えられた冒険者たちも同じように馬鹿にする、と。
別にチーノが【鍛治の神】だから馬鹿にされてるんじゃなくて、分体が幼すぎるから揶揄われてるだけなんだけど……と言っても無駄らしい。
【神子】たる僕には「まあまあ」と宥めるくらいしか出来ない。
あと焼き芋買ってあげるくらいしか出来ない。
と、そんないつも通りを潜り抜けて、カウンターへ。
「旅の道中で魔物を狩ったので買い取りをお願いします」
「かしこまりました。カードと素材を出して下さい」
冒険者と違って受付嬢はちゃんと対応してくれる人が多い。ここもそんな感じだ。
僕は自分の冒険者カードと麻袋に詰め込んだ魔物の素材をカウンターに並べた。
「こ、これは……魔青熊!? それに魔影鹿も……! えっ、Eランクなのに!?」
こんな感じになるのもいつも通りなんだけど……静かに買い取って欲しいなぁ。
じゃないと、また――
「なにぃ!? 魔青熊だと!? あの小僧が!?」
「嘘だろうが! ありゃBランクだぜ!?」
「魔影鹿にしたってCランクだ! それすらありえねえ!」
「何者なんだあのガキ……!」
ほら、こうなる。
そして隣のチーノが「ふふん」と得意げな顔を見せるまでがいつも通りだ。
※正確には「ダモクレスの剣」は比喩表現の一つであって聖剣でも何でもありません。
ダモクレス自身も英雄並みに戦える人ではありません。




