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03:旅立ち、そしてお試し



 翌日、僕はチーノに急かされるまま旅支度をして、スターリッジの街を出た。

 感慨も何もあったもんじゃない。

 でも相手は神様だし、導かれるままに行くしかないんだけど。……見た目は七歳児なのに。



「よーし、では二本目を探しに行くかのう! いやぁ地上は初めてだから楽しいもんじゃな! 昨日の飯も旨かったし!」



 大きな背嚢を背負った僕の二歩前を元気に歩くチーノ。

 腕をぶんぶんを振って、本当に楽しそうだ。髪の毛もヒョコヒョコしている。

 僕は不安でいっぱいなんだけどね……。



 百年毎の【神子闘技大会】。百回記念大会となる次回は、なんとたった五年後らしい。

 やっぱりモーゼ島から離れているから情報が遅れるものなんだろうか。

 ガルッソ王国から行く貴族とかだって居そうだけど。


 そしてその大会で僕が勝つ為に、『異界の武器』をなるべく多く集めなければいけないとチーノは言う。


 異界からこの世界に下ろされた″宝剣″は全部で百本あるらしい。

 それは世界中に散らばり、『光る麦穂』と同じように自然物と一体となり、僕の【宝剣の槌】に打たれ、武器として生まれるのを待っている状態なのだとか。


 どの武器をどこに、というのはチーノにも分からないらしい。

 それはランダムで決められていると。



 そう聞くと、僕が昨日『光る麦穂』からエクスカリバーを造った事がいかに奇跡的な事だったかよく分かる。

 一生【宝剣鍛冶師】の能力が分からないままだった可能性の方が高い。

『光るもの』が僕の近くにある保障すらないのだから。



 で、チーノが分体を顕現させた理由は、そんな説明の他にもう一つある。


 さっき『どの武器をどこに、というのはチーノにも分からない』と言ったけど、それは異界からこの世界に下ろされる際の事であって、すでに下ろされた状態である今、チーノには『光るものがどこにあるか』大体は分かるというのだ。


 だからチーノは僕の前を歩いている。

 ここから一番近くにある『二番目の光るもの』の場所へ向かう為に。

 基本的には街道を進み、街に泊まりつつ、そこを拠点として『光るもの』の場所へと探索に行く。そんなイメージだ。



「とりあえず西の街に行こうかのう! 名物は何じゃ!」



 チーノは地上の食事に結構衝撃を受けたらしい。天界にはないものも多いんだとか。

 というか、そもそも神様は食事をしない。必要ないから。

 趣向で口にしたり、それこそ【料理の神バロウイーツ】様くらいしかまともに料理なんかしないそうだ。

 だから宿での食事もそうだったけど、通りに並んだ屋台とかにも目が釘付けだった。

 僕にそんなに蓄えがないから諦めてもらったけど。


 ……いや、鍛治の神様なんだから、料理より鍛治の方に目を向けてもらいたいんだけどね、僕とすれば。

 僕も鍛治の神様から鍛治の話とか聞きたいし。

 正直、戦う事だとか、闘技大会に出るだとか無理だと思ってるし、未だに僕は【鍛冶師】に未練がある。


 一応、その事も昨日話した。

 せっかく【神子】に選んで頂いたけど、荷が重いですと。

 するとチーノは協力する交換条件として報酬をくれると言った。



『報酬?』


『うむ。ようは鍛治が好きで鍛治がしたいが才能がないのじゃろ? それは我としても嬉しい事じゃし、危険の絡む旅路に無理に付きあわすのは神としても忍びない。じゃから――大会が終わり、我の目的を達成できたのなら<鍛治>スキルをやろうではないか』


『やりますっ!!!』



 僕は即答した。念願の<鍛治>スキルが手に入る。

 その為に五年間も我武者羅に頑張ったんだ。

 見えているゴールに向かってもう五年頑張るくらい、どうってことない。



 神様が設定をいじって後天的にスキルを与えるというのは、よほどの事がない限りやらないらしく、チーノが分体として顕現している現状では本体が天界に居ても出来ないらしい。

 大会が終わり、チーノが天界に帰った時にスキルを下賜してくれるそうだ。


 これで僕もちゃんとした鍛治が出来る!

 でも今は『ちゃんとしない方の鍛治』を頑張らないといけないんだけど。

 そう。『光るものを木槌で打つ』という、火も金床も使わない鍛治を。


 ただそうは言っても――



「ねえ、チーノ。本当に僕戦えるの? すっごく不安なんだけど」



 ちなみに兄妹の設定で旅をする以上、僕が敬語を使うのはおかしいと指摘された。

 神様相手に不敬だとは思うけど、そのうち慣れると思う。



「安心せい。昨日、其方のスキルについては説明したじゃろ?」


「そうだけど……」


「おっ、ちょうど良く狼がおるぞ。あれで試してみるがよい」


「ええっ!? あ、あれ、魔狼の群れじゃないか! 六体も居る!」



 魔物となった狼。数が多く被害が出やすいという事でも有名だ。

 戦わない僕であっても危険だと知っているくらいには。

 せめて最初は魔物でない動物か、魔物にしても魔鼠とか魔兎とか、そういう小動物系にして欲しかった。

 でもそんな事を言っている暇はない。魔狼はこちらに気付いて向かって来ている。



「<宝物庫>!」



 口に出す必要のないスキルをわざわざ言った。気持ちを籠めて。

 伸ばした右手の先、空中に水面の波紋のようなものが広がり、そこから『豪奢な剣の柄』が出る。

 僕はそれを掴んで一気に引き抜いた。


 両手に持つ長剣は、戦えない僕からすれば過ぎた代物(・・・・・)

 見る者を魅了する未知なる剣――【聖剣エクスカリバー】だ。


 僕は即座に次のスキルを発動。



「<宝剣操作>!」



 【宝剣鍛冶師】第二のスキル。それは『戦えない鍛冶師』を『戦える』ようにする為のスキルだ。

 と言っても<宝剣操作>の使い方は二つに分けられる。


 一つは操り人形のように、手元から離れた武器を操作する事。

 まだ練習してないから使わないけど、もし使えればエクスカリバーを弓矢のように飛ばし、そのまま遠くの魔狼と戦わせる事も出来るはずだ。

 近付くよりも安全そうだし出来れば使いたいけど、今は無理。


 二つ目は『宝剣を持つ僕自身を扱えるよう(・・・・・)操作する』事。

 これは異界でその武器を実際に使っていた人の記憶を僕に映す(・・)らしい。

 何でも″宝剣″にはこの世界にはない能力や″魂″のようなものがあって、その魂を一時的に僕に同化させるとか。

 詳しい原理は分からないけれど、それによって僕は『その武器を完全に扱える』ようになると言う。



 両手に握るエクスカリバーを<宝剣操作>した事で、僕にはエクスカリバーでの戦い方が分かった気がした。

 とても不思議な感覚だ。

 まるで僕が僕じゃなくなったような。全能感に近い力強さを感じる。

 別に剣を持つ腕が太くなったわけじゃないし、経験を積んだわけじゃないのに。



「ほう、姿勢も気概も一気に変わったのう。まるで歴戦の英雄じゃな」



 僕の後ろでチーノが楽し気に言う。

 それに何かを返す余裕なんてないし、視線は魔狼に向けられているけど。


 ……でも恐怖とかはなくなった。初めて魔物と戦うのにとても落ち着いている。



 ふっ、と息を吐き、僕は魔狼の群れに突貫した。待つより攻めるべきだと感じたから。

 その一歩目で想像以上の速さに驚く。

 戦闘職の人の本気の速さなんて知らないが、少なくとも僕の経験した事のない速度であるのは間違いない。

 それでも動くし見えるし考えられる。その事にまた驚く。

 初めてのはずの速度に慣れている(・・・・・)と。



「はああああっ!!!」


『ガウッ! バウッ!』



 振り下ろした剣はほとんど抵抗なく、するりと一体の魔狼を切り裂き、感覚のまま流した身体で二閃、三閃。

 気付けば五秒程度の時間で魔狼六体は地に伏していた。

 僕にはダメージもなければ疲労すらない。ただ感覚のまま振っていたら終わっていた。


 改めてエクスカリバーの刀身を見る。

 魔狼の血に汚れてはいるが、とても綺麗な刃のままだ。

 その血もビッと剣を振るだけでほとんどが落ちた。どんなコーティングなんだ……。



 しかし――このエクスカリバーを使っていた人は、本当に英雄と呼ばれるような人だったのかもしれない。

 少し使ってみただけで、その″魂″を自分に映した(・・・)だけで、その人のすごさが分かる。

 これほどの剣を使いこなす人というのは、やはり人知を超えるような力を持っていたのだろうと。

 そして、その力を紛いなりにも借りて、自分の力にしている事に少し怖く感じた。



「ふっふっふ、やはり″宝剣″は強いのう。異界の武器、異界の戦士、よもやこれほどとは」



 チーノが近づいて来た。とても良い笑顔だ。

 神様が喜んでいるのは良い事なんだろうけど、僕には苦笑いしか出来ない。

 今自分で起こした現象を頭の中で反芻するので精一杯だ。


 ただ――



「確かに斬るだけでもスゴイ剣だと思うんだけど、エクスカリバーの能力って別に何かあるっぽいよ」



 <宝剣操作>して″剣の魂″に触れたから分かった事だ。



「聖属性の魔法攻撃か?」



 チーノも鍛治の神様として鑑定眼のようなものを持っているらしく、最初に見た時からエクスカリバーの性能についてはある程度掴んでいたようだ。

 異界の武器である以上、全てを見通す事は出来ないらしいけど。



「どうなんだろう。少し違うような……もしかしたら異界の魔法はこの世界の魔法とは違うのかもしれないし。ちょっと使ってみていいかな?」


「構わんじゃろ。慣れておくに越したことはない。人通りもないしのう」



 僕は魔狼が出てきた森の方に、エクスカリバーの切っ先を向ける。

 特に魔法の詠唱のようなものはないようだ。

 使うと念じるだけで何か(・・)が撃てるらしい。



「ほいっ」



 一番手前にある木の幹を狙ったつもりだった。

 そこを的にして試射してみようと、ただそれだけの軽い気持ちだった。


 ところが――



 ――ズドオオオォォォォン!!!



「うぇえっ!?」「むおぅっ!?」



 ……森には馬車が通れそうな道が延々と出来上がっていた。


 こ、これは……最上級魔法とかそういうレベルじゃないのか?

 いや、最上級魔法とか見た事ないけど。少なくともそこいらの【魔法使い】が撃てる魔法のレベルではない。

 そして僕の身体に魔力減少のような不調はない。

 つまりこの魔法(・・)はエクスカリバーの能力だけ(・・)で撃たれた攻撃なわけで……。


 冷や汗を流しつつ横を見ると、同じような表情をしているチーノと目が合った。



「……使う場所は選んだ方がいいじゃろう、な」


「……そ、そうだね」


「……これ、早めにこの場から立ち去った方が良いのかのう」


「……そ、そうだね」



 僕たちは逃げるように、次の街へと急いだ。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] エクスカリバーの真価は鞘に有ったと思うんだが。 とんでもな大技が欲しいのも解らんくも無いけど、それは空想像の剣でやるべきかと。
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