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02:のじゃロリ神様、降臨!



 小麦畑に一株だけあった『光る麦穂』。

 それを僕の神器【宝剣の槌】で打ったら、麦穂は美しい長剣に姿を変えた。


 両手に乗ったそれから目が離せなかった。

 口は開いたまま「あ、あ、あ」と言葉にならない。



 しかし突如起こった不思議な出来事はそれだけでは終わらなかった。


 そのすぐ後に、僕の真横に、またも『光の塊』が現れたのだ。

 麦穂の時よりも少し大きな″光″。

 すでに驚き疲れていた僕は「今度は何なんだ!?」と顔だけをその光に向ける。


 光は再び姿を変えた。


 今度は――小さな少女の姿に。


 ポンッというように、光から生まれた(・・・・)その少女は、何事もなかったかのように地面に下り立つ。

 またも呆ける僕を見て、その少女は開口一番――



「遅いわっ! バカたれっ!」



 腕を組んで、座った僕を見下ろしながら、いきなりの怒声。

 正直「は?」としか言えない。


 見た目は七歳児くらいだろうか。子供らしい麻のワンピースを着ている。

 深紫の髪は長いのだろうが、後ろでまとめて毛先を上に向けて縛っている。

 こんな少女は知らないし、光から出てくる意味が分からないし、怒鳴られる謂れはない。

 だから「は?」としか言えない。



「せっかく我が【宝剣鍛冶師】の天職を与えたというのに五年も″宝剣″を作らんとは! ああ、誤算じゃった……いや、まだ五年もあると考えるべきか……しかし、うーむ……」



 少女は一人でブツブツと呟きながら悩んでいる。

 でもその中にいくつか聞き逃せない言葉があった。



「え、あの、ちょっと待って。今『天職を与えた』って……」


「ん? うむ。其方に【宝剣鍛冶師】を与えたのは我じゃぞ?」



 ……は?


 いやいや、だって″天職″ってのは神様に与えられるもので、【鍛冶師】であれば【鍛治の神ドルフェチアーノ】様に――



「だから我がドルフェチアーノじゃ。まぁこの姿は地上に顕現する為の分体じゃがのう」


「え、いや、ドルフェチアーノ様って、君、それは不敬じゃ――」



 幼い頃から【鍛冶師】になる事を夢見ていた僕は、神殿で何度も【鍛治の神ドルフェチアーノ】様の神像にお祈りしていた。

 そのお姿は、老いても尚美しく、力強い表情を浮かべた毅然としたまさしく″鍛治の女神様″。

 目の前で仁王立ちしている少女とそれを見間違えるはずがない。



「ううむ、これもまた誤算じゃったか。我を信じさせる事からするはめになるとは……説明めんどいのぅ。……ふむ、とりあえず【宝剣鍛冶師】と【宝剣の槌】の使い方を教えればよいか」



 驚き続きで流してしまったが、彼女は僕が【宝剣鍛冶師】だと知っていた。そして神器が【宝剣の槌】だという事も知っている。

 僕が教えたわけじゃないのに。

 そんな事を言うと「だから我が与えたと言っておるじゃろうが」と不機嫌そうに彼女は言った。



「とりあえず其方が持っておる剣――エクスカリバーという銘らしいが、それを仕舞うか」


「エ、エクスカリバー……? えっ、この剣の事、知ってるの?」


「我が分かるのは名前と基本的な性能くらいじゃがな。この世界で造られた武器ならばあらゆる事が分かるが、異界の剣となるとそんなもんじゃ」


「い、異界の剣!?」



 彼女曰く、このエクスカリバーという長剣は、こことは別の世界に存在した剣らしい。

 何となくそれが正しいのだと分かる。

 素材も技術も製法も文字も、全てが異質なのだから。それこそ″神器″の剣ならありえるのかもしれないけど。


 ともかく仕舞え、と彼女は言う。

 しかし鞘もないのにどうやって仕舞えと言うのか。



「ああそうか。宝剣を打った(・・・)事がないからスキルも使った事がないのか……設定を色々とミスっておるのぅ。ともかく其方のスキルに<宝物庫>というものがある。口に出す必要はないが意識してみよ。そこにその剣を仕舞う(・・・)と」



 僕にスキルがあるという事にも驚いたが、もはや驚きの連続で頭は麻痺していた。

 言われるがままに<宝物庫>と念じてみる。

 すると両手に乗せたエクスカリバーは水に沈むように消えて行き、終いには空中に水の波紋のようなものを残してトプンと消えた。


 消えてしまった事にまた慌てていると。



「案ずるでないわ。<宝物庫>は別空間に造られた『宝剣置き場』じゃ。また<宝物庫>を使えば出し入れは自由に出来るわい」


「……あ、ホントだ。良かったぁ……無くなっちゃったかと思った……」


「ともかくその<宝物庫>が其方の【宝剣鍛冶師】としてのスキルの一つ。どうじゃ? これで我の事は信用したか?」



 彼女は「ふふん」と勝ち誇ったような顔をしていた。

 それを見るとやっぱり【鍛治の神ドルフェチアーノ】様とは思えない。僕の中の女神様像が壊れる。

 でも誰も知らない僕の″天職″、そのスキルまで知っているわけで、それじゃあやっぱり……ともなる。



「え、えっと、ドルフェチアーノ、様?」


「うむ。……いや待てよ? 地上でドルフェチアーノと呼ぶのはマズイのぅ。よし、我の事はチーノと呼ぶが良い」


「チ、チーノ、様?」


「そうじゃ、どうせこの先、共に地上を旅せねばならん。我はベッシュの妹という事にしておくか。敬称はなしじゃ」



 ……え? 旅? どういう事です?





 その日は結局暗くなったという事もあり、スターリッジの街の宿屋に泊まった。

 そこで色々と話を聞く。


 【宝剣鍛冶師】とは何か。【宝剣の槌】とは何か。僕は他にスキルを持っているのか。

 あの『光る麦穂』は何だったのか。エクスカリバーとは何なのか。

 ドルフェチアーノ様……チーノがなぜ顕現したのか。旅とはどういう事なのか。


 そのどれもにチーノは答えてくれた。かなりめんどくさそうだったけど。

 でも聞けた事で納得出来た事も多く、「やっぱりチーノはドルフェチアーノ様なんだ」と実感するに至った。



 一応、頭を抱えながらも何とか整理出来た所もあるのでまとめておく。


 まず僕が今居るのは、アムステルド大陸の東方にあるガルッソ王国、スターリッジの街。

 世界には東西南北に計四つの大陸がある。そのうち東大陸と言われるのがアムステルド大陸だ。


 四つの大陸の中心には島がある。

 そこは【創造の神ティアモーゼ】様から名をとって【モーゼ島】という。



 百年に一度、モーゼ島で【神子闘技大会】というものが開かれる。

 もちろん僕も見た事ないし、実際に見た事がある人なんて世界に居るのかって感じだけど、そんな僕でも知っているような歴史的な催しだ。

 世界中から選手も観客も集まるっていうし、おそらくその賑わいは王都のお祭りどころの騒ぎじゃ済まないのだろう。


 出場する選手は【神子】と言い、言わば″神様の代理人″とも呼べる存在。

 【創造の神ティアモーゼ】様以外の六四柱の神々が、自身の【神子】を選出し、戦わせる。

 そんな世界最大のお祭りなわけだ。



「…………ん? ま、まさか僕、【神子】じゃないですよね?」


「【神子】に決まっておるではないか」



 さも当然とでも言うようにチーノは言う。

 いやいやいや、僕、戦った事なんてないですし!

 魔物どころか、そこらの野良犬にだって負けますし!

 闘技大会なんて出れるわけがないですよ!


 と、ひとしきり騒いでみたがチーノの中ではすでに決定事項らしい。

 僕はまた頭を抱えた。



「まぁそれを何とかする為の【宝剣鍛冶師】であり、我が無理をして顕現した理由でもあるのじゃ」


「……と言うと?」


「ベッシュ、其方は我の【神子】の今までの戦績を知っておるか?」



 過去の闘技大会の詳細までは知らない。

 でも何となく【戦闘の神ラウセウス】様とか【魔法の神デメリアロス】様の【神子】が強そうなイメージがある。


 【鍛治の神ドルフェチアーノ】様の【神子】って、やっぱり【鍛冶師】関連の″天職″だろうし、そういう人たちが戦闘系の神様の【神子】と戦って勝つようなイメージは湧かない。



「九九連敗じゃ」


「えっ」


「今までの九九回の大会、全てが一回戦負けじゃ」


「うわぁ……」



 というか九九回もやってる事さえ知らなかった。つまり今度が百回。

 百年に一度だから、一万年も続いてるって事か……神様のスケールが大きすぎる。



「その都度我は馬鹿にされてきた! ラウセウスは鼻で笑い、デメリアロスの陰険馬鹿は見下して来る! ロゥメインもイルグリードもニーランダもみんな同じじゃ! 果ては一度だけ二回戦に行っただけの【学問の神リブロジィ】までもが我を下に見ておる! あんなもんクジ運が良かっただけではないか! あんの頭でっかちめが!」



 話す内容は天上の神々ばかりで想像を絶するんだけど、見た目がなぁ。

 七歳の少女がプンスカ怒っているようにしか見えない。

 束ねて上を向いた髪の毛先が感情を表現しているようにヒョコヒョコ動いている。正直なごむ。


 コホンと咳払いを一つ、落ち着きを取り戻したチーノが話を続ける。



「そもそも我の【神子】にどのような″天職″を与えても、結局は『強い武器を造る為の職』になってしまうのじゃ」


「そりゃまぁ″鍛治の神様″なわけですし……」


「うむ。そして『人の手で造られた武器』で″神器″に勝てるわけがない」



 それはそうだろう。″神器″は神様から下賜されるものだ。

 仮に″神器″が剣であれば、『神が造った剣』となる。

 例え最上級の【鍛冶師】が打った剣でも、それが『地上の素材で人間の手により打たれた剣』である以上限界がある。

 とても″神器″の剣に勝てるとは思えない。


 ついでに言えば【鍛冶師】が戦闘職の人と戦って勝つわけもない。

 いくら強い武器を造ったところで、使う人間が戦えなければ意味がない。

 強い武器は使う人が優秀だからこそ、強い武器足り得るのだと思う。



「だから我は考えたのじゃ。この世界で造られた武器で″神器″に挑むから負ける――ならば、異界の武器を【鍛治】で生み出せる″天職″を作ればよい、とな」



 ――それが、【宝剣鍛冶師】?



「異界の素材で出来た武器、異界の神が造った武器、亜人や精霊が造った武器もあると言う。そしてそれらは″神器″にも劣らぬ性能を誇ると」


「じゃあ、あのエクスカリバーっていう剣も……?」


「うむ。我が見る限り相当な業物じゃな」



 チーノは自分で異界の武器を選んで、この世界に下ろしているわけではないらしい。

 よく分からないが、『異界の武器をランダムでこの世界に下ろせる仕組み』を作ったらしいのだ。

 そうしてこの世界にやって来た武器は【宝剣鍛冶師】の目にはぼんやり光って見えるようになる。

 それを【宝剣の槌】で打つ(・・)事で、この世界に武器(・・)として生まれる、と。


 やはり【宝剣鍛冶師】は【鍛治】の為の″天職″ではなかった。

 【宝剣の槌】は鉄を打つ為の″神器″ではなかった。

 全ては『異界の武器』の為の能力だった。


 長年抱えていた疑問が氷解した事に喜ばしい気持ちもある反面、憤りや疑問が次々溢れてくる。



「……なんで五年も放っておいたんです? ″天啓の日″に教えてくれれば……」


「作った我が言うのも何じゃが【宝剣鍛冶師】の能力は斬新すぎる。我が直接教えねば理解も活用も出来んじゃろう。そう思って他の連中には内緒で分体を顕現させる算段をしておったのじゃ」



 何でも神が地上に顕現するのはルール違反らしい。例えそれが分体であっても。

 だからチーノは「ドルフェチアーノと呼ぶな」と言う。どこかでバレるのが嫌だから。

 それに巻き込まれた僕は……神罰とか下らないですよね?



「しかし顕現させる鍵を『宝剣を初めて打った時』としておいたのがマズかった。まさか五年も能力を使わんとは……」



 それは待たせちゃってスミマセン……いやいやいや、今日使ったのだってかなり偶々ですよ!?

 偶々『光る麦穂』を見つけて、偶々【宝剣の槌】を使っただけですから!

 そんな超限定的な能力の使い方、知りもせずに使えるわけないですよ!



「まぁそれでも『大会まであと五年ある』と考えた方がよかろう。それまでになるべく多くの″宝剣″を手に入れなければならん。百本全てを集める事は難しかろうが、五年のうちで出来る限り集めねば大会で勝てんからのぅ。ベッシュよ、明日から忙しくなるぞ」



 え? ひゃ、百本?




※ベッシュ:15歳、170cm、薄緑のショートボブ。

 チーノ:7歳(見た目)、130cm、深紫のポニーテールのちょんまげ風。


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