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15/15

15:正当な取引です



「それでもう一つの理由とは?」


「えーと、アダマンティアさんにお願いがありまして……」


「あたしにかい?」



 ここで初めて会うのに、面識もないのに、学術都市に来た理由としてアダマンティアさんの名前を出した。

 どういう事かと首を傾げる二人に説明をする。



「アダマンティアさんの着けているイヤリングを譲って頂けないかと……」


「これかい? ああ、どうりでさっきから視線を感じるわけだ。しかしこんなものをどうして」


「先ほど言った『特殊な剣』を打つ(・・)為に必要な『光るもの』が、それなんです」


「これが? ……あたしには光っているようには見えないが。そこいらで普通に買ったものだしねぇ」


「ベッシュ殿の″目″には光って見えるという事か……。おいババア、さっさと献上せい」


「ジジイはすっこんでな! しかしそうさねぇ……」



 アダマンティアさんは少し悩んでいる。

 そりゃ身に付けている装飾品をいきなり「くれ」と言われたら躊躇するだろう。



「そっちのジジイの話じゃないがチーノ様への供物とするのは問題ない。むしろ安物で申し訳ないくらいだよ」


「おおっ! ありがとうございます!」


「ただ二つばかりお願いをしてもいいかねえ」


「貴様! 儂には見返りどうこう言っておきながら! しかも二つ!? この姑息ババアが!」


「うるさいっ! 黙ってな! ――で、一つはジジイと同じようにあたしもチーノ様のお話をお聞きしたい。もう一つは本当にこのイヤリングで『剣』が出来るもんなのか見せて貰えないか、って事さね」



 アダマンティアさんもやっぱり学院長さんだけあって知識欲の塊なんだろう。

 ダナンモランさんと同じくチーノの話が聞きたいそうだ。神の言葉……になるんだろうね、二人にとっては。


 つまり僕らの目的である地図とイヤリングを手に入れる代わりに、二人にチーノがお話すると。

 ″宝剣″を打つ(・・)のはモモレス村でコレットさんにも見せているから問題ないと思うんだけど。



「どうかな、チーノ?」


「『剣』に関しては内密にする事を条件で問題なかろう。しかし我が話すと言っても、大した事は喋れんぞ?」


「か、構いませぬ! 儂は神々の魔力や魔法について少しでも――」


「あたしは天上の様子や歴史、地上との関わりとか何でも――」



 ぐいぐい来た。二人とも身を乗り出して来た。

 でもチーノは説明とか面倒臭がって嫌がるからなー。

 あとでダナンモランさんに茶菓子で釣るよう言っておこう。

 とりあえず甘いの食べさせておけば機嫌良く喋るだろうし。


 ともかくそんな感じで取引めいた事は終わり。

 早速実践という事で、アダマンティアさんから左耳のイヤリングを受け取る。



「本当にこれが『剣』に? ……ちっとも光っているようには見えないんだが」


「儂の【理の眼】でも右耳のものと何ら変わりないように見えますぞ」


「まぁ見ていて貰えれば納得できると思います。すいませんアダマンティアさん、では頂きます」



 僕は左手にイヤリングを受け取り、右手に持った【宝剣の槌】でそれに触れるように打った(・・・)

 するとイヤリングは光の塊に姿を変える。

 向かいに座る二人にもこの光は分かるようだ。「おおっ!?」と声が漏れる。

 光の塊は空中で細長く形を変え、光が収まると共に僕の両手にふわっと下りて来た。



「こ、これはなんとも……!」


「はぁ~~~、ホントにイヤリングが変わっちまったよ……」


「……でも『剣』じゃなかったですね」



 両手に乗るそれ(・・)は『杖』だ。

 ″宝剣″を打ち(・・)始めて十六本目にして、初めての『杖』。


 普通の杖が足元から胸くらいまであるのに対して、この杖は腰までといった所。短杖とまでは言わないけど片手で振れる短さだ。


 そして何より装飾がとんでもない。

 柄に巻き付くのは二匹の蛇。杖の頭部に上るように向かい合っている。

 頭部にはよく分からない真球の宝石が乗っているが、そこには広げられた翼の装飾が。

 もう誰が見てもこの世界の物ではないと分かってしまうほどの豪華な杖。



 ――【聖杖カドゥケウス】。それがこの杖の銘だ。



「いや、こりゃとんでもない杖さね。”神器”でもここまでのは見た事ないよ」


「儂の【理の眼】でも全く分からん……『特殊』というより『異質』……まるでこの世のものではないような……」



 あんまり見せるのも何だからすぐに<宝物庫>にしまった。二人は目の前から急に消えた事に名残惜しそうにしてたけどね。

 アダマンティアさんはともかく、ダナンモランさんにはあまり見せちゃいけないと思った。

 【理の眼】は『魔力の本質を見る』って話だけど、それがどれほどのものか分からないし。


 というのも、【聖杖カドゥケウス】の『使用者の魂』に少しだけ触れた感じだと、ブリューナクみたいに英雄を超える使用者と、それに見合った性能を持っているらしい。

 詳しい所はチーノにも見て貰いつつ相談になるけど、この世界の常識から外れたものであるのは確かだ。

 まぁ”宝剣”はどれもそんなもんなんだけど。


 ちなみに<宝物庫>に関しては僕の”天職”によるスキルだと説明した。

 “宝剣”以外には使えないから、これはバレても問題ないからね。



「と、こんな感じです。これを旅しながらやってるんです」


「はぁ~、なるほど、よい物を見せて頂きました」


「長生きしてみるもんだね。あたしの知らない事なんてこの世にはいくらでもあるってこった」



 とりあえず目的の一つ目を達成し、一安心。

 次いでダナンモランさんが地図を持って来てくれた。



「これがラズール大陸の地図です。それと世界地図と念の為、各大陸の地図もお持ちしましたぞ」


「おおっ! これはすごい!」


「ジジイ、あんたこんなのまで持ってたのかい。魔法学院じゃ必要ないだろうに」


「場所が変われば魔法は戦争の道具じゃからな。知識はまとめておいて損はない。現にこうしてチーノ様のお役に立っておる」


「けっ! 物は言いようだね!」



 ラズール大陸の詳細地図だけでも手に入れば御の字と思っていたのに、各大陸の地図や世界地図までくれると言う。

 世界地図なんか初めて見た。存在自体知らなかったよ。


 こうして見ると来年向かう予定の西大陸――ガイオーク大陸が非常に大きいと分かる。

 一方でラズール大陸は一番小さい。ガイオーク大陸の三分の一程度だ。



「チーノ、これ、ラズール大陸もガイオーク大陸も一年を予定してたけど、早めに行った方がいいのかなぁ」


「そうかもしれぬ。これだけ広さに違いがあれば″宝剣″の数に差が出てもおかしくはないじゃろう」



 地図を眺め、今後の僕たちの動きを予想してみる。

 ダナンモランさんとアダマンティアさんも、相談に乗ってくれるようだ。

 知識人のお二人の意見は本当にありがたい。



「ラズール大陸は山脈を中心としておりますので探索には不向きかもしれませぬ。年中雪が残っている場所も多いですからな。山脈周りの国々を回るだけでも一苦労かと」


「一方でガイオークは平野が多いね。アムステルド大陸とそう変わらず回れるかもしれない。ラズールよりかは探索向きだろうが、しかし――」



 そこでアダマンティアさんの表情が曇る。



「ガイオークの中心部のここが問題さね」


「【ティアール神聖国】【エジムンド帝国】【バケイオス王国】……ですか?」


「ああ、その三か国は長い事戦争状態さ。ガイオークを縦断しようと思ったらどうしたって通る事になるだろうよ。その時に戦争になってなきゃいいんだが……」



 戦争してるの!? え、僕ら戦争してる所に″宝剣″探しに行くの!?

 うわぁ……何とか迂回路は……って考えても、近くに″宝剣″反応があれば行かざるを得ないか……。



「あと先ほどのお話ですと、チーノ様は【ティアール神聖国】の聖都には行かない方が良いでしょうなぁ」


「うむ、最初から行く気はないぞ。あそこは【創造の神ティアモーゼ】様の直轄みたいなもんじゃからのう」


「ほぉ、聖都全体が神殿のようなものと。なるほど勉強になるねぇ」



 ああ、そういう条件もあるのか。難しいなぁ。

 神聖国の聖都を避けて、戦争を避けて、ガイオーク大陸を縦断しなきゃいけないの?



「しかし一番戦争の被害を受けにくいのもまた神聖国。そもそも帝国が領土を広げようとし、王国が応戦し、神聖国にまで戦火が広がったのが現状の戦争ですからな。今は三大国で睨み合いつつ、いつどこで何が起こってもおかしくはないでしょう」



 ……ちょっと僕にはもう何も考えられなくなってきたよ。

 チーノはもっと考えないだろうし、僕がある程度理解しておかないといけないんだけど。

 結局は″宝剣″反応によりけりで、行き当たりばったりになりそうな気がする。





 それからその日の夜までと、翌日に掛けてチーノとの座談会が開かれた。

 泊まるのも魔法学院の宿舎を借りて、食事も教職員用の食堂だ。ダナンモランさんに甘えてしまった形。

 アダマンティアさんは「是非とも大学院に」と言ってくれたが、すでに魔法学院に居る身だしね。


 でもアダマンティアさんは寝る以外は大学院に帰らず、ダナンモランさんと共に僕たちとずっと一緒に居た。

 ダナンモランさんもそうだけど、学院のトップが僕らと話してるだけで大丈夫なのかと心配してしまう。



「学院の仕事よりも優先すべきはこちらですぞ。誰が見ても」


「ああよ。こんな機会、数千年に一回あるかないかだろう? それに比べりゃ学院長の仕事なんぞどうでも良いさね」



 時々仲良くなるんだよなー、この二人は。実は息が合ってる。


 と、そうまでしてもチーノの話を聞きたい感じだったけど、神々の事とか天界のルールとか仕組みのような事はチーノにも話せない。

 話すとバレるかもしれないという懸念もあるが、どうも『話したくても話せない』ものもあるようだ。

 分体に何かしら制限が掛かっているのかもしれないね。


 結局は他愛もない話になるんだけど、それでも二人にとっては『神の言葉』なわけで、知る術もなかった天界の様子を知る機会になったようだ。



「普段何をしておるか、と言われてものう……我の場合は鍛冶をしたり地上を覗いたりかのう」


「他の方々との交流があったりは……」


「そういうのが好きでしょっちゅうつるんでいるヤツらはおるぞ? 我はあまりせんがな」


「日常的に鍛冶というのは、もしや”神器”をお造りになっているのは……!」


「いや”神器”はそれぞれ造っておるな。其方らの眼鏡やサークレットは我には造れん。ベッシュの木槌は我が造ったが、鍛冶で造るようなものではないしのう」



 僕からするとそんなに興味がない事も二人は食いつく。

 二人にとってはそれだけ重要な事……なのかな?

 チーノは説明したりするのが苦手で面倒くさがりだから、結構適当に喋っている感もある。

 機嫌が悪くならないよう、常にお菓子を食べさせている状態だ。


 ダナンモランさんに事前に言っておいた。

 喋るの苦手ですけど食べさせておけば大丈夫ですと。その代わり延々と食べますのでと。

 これは功を奏したようだ。チーノは美味しそうに頬張りながら喋ってるから。



 そんな事を続けていると、このままでは終わりが見えないという危機感を覚えた。

 丸一日の予定だったが、二人の知識欲が止まらない。延々と質問してくるし、チーノもさすがに辟易している。

 数日間もここで隔離されるわけにはいかないので「すいませんがそろそろ」と僕が止めた。



「もうそんな時間かい? 年甲斐もなくはしゃいじまったねぇ」


「まだお聞きしたい事が山のように――」


「もう勘弁してくれ。我も限界じゃ」



 結局その日も夜遅くになり、宿舎で二泊目となった。

 さっさと行こうと急かすチーノを前に、僕らは早々に魔法学院を出る。

 もちろんダナンモランさんとアダマンティアさんのお見送り付きだ。



「チーノ様、この度はありがたいお話を聞かせて頂きありがとうございました」


「またお立ち寄りの際は是非とも――」


「来ないと思うぞー」



 チーノも扱いが段々にぞんざいになってきたなぁ。ヒラヒラと二人に手を振って魔法学院を後にした。

 その後、学術都市を出るまでの大通りで屋台の名物をあれもこれもと食べたのは言うまでもない。



「よーし! 大体目ぼしいものは食べたし! さっさと行くぞ、ベッシュよ!」


「はいはい。とりあえず西に向かおうか」




というわけで地図ゲット。これで今後の旅が楽になりますね。

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