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14:二人の学院長



「ヒッヒッヒ、何やら面白そうな事になってるじゃないか。あたしも混ぜてもらうよ」


「こんの地獄耳ババアめが! 貴様などお呼びではないわ! さっさと立ち去れい!」


「全く頑固ジジイは頭が固くて困るね。あたしが居ようが居なかろうが同じ事だって分かってるだろうに」


「誰が頑固ジジイじゃ! 場を弁えろと言っておる! 貴様という存在そのものが無礼の塊みたいなもんじゃ! こちらの御方をどなたと――」


「あー、あー、ダナンモランさん、ちょっと落ち着きましょう! とりあえず座りましょうよ!」



 結局僕が仲裁する感じになってしまった。


 しかしこのお婆さんは何者なんだ?

 僕らの事はともかくダナンモランさんは貴族が相手でも……いやむしろ貴族側が無礼な真似の出来ない立場にある人だ。

 だと言うのにその人は、そんなの関係ないとばかりにダナンモランさんと接している。


 奥さん……じゃないよね。絶対。



 とにかく僕らの座ったソファーの向かいに二人を座らせた。ダナンモランさんはかなり嫌がってたけど「まあまあ」と言いつつ。

 僕としてもお婆さんには用があるしね。

 左耳の『翡翠のイヤリング』をどうにか手に入れないといけない。


 と言うか、”宝剣”が宿るものって自然物だとは聞いたけど、まさかイヤリングになっているとは。

 市場に売られている『採取された作物』とかは見た。鉱物が『光る』事も確認している。河原の石とかあったしね。

 でも『採掘され加工された宝石』というのは初めてだ。たまたま『光った』翡翠を加工したのだと思うけど。


 と、そんな事を思いつつ、僕の隣を見ればすでにチーノがお茶菓子を頬張っていた。

 恍惚の表情だ。むほーとか言ってる。髪の毛もヒョコヒョコだ。

 呆れてしまう気持ちを抑え、僕がしっかりしなきゃとダナンモランさんを見た。



「えーと、何から話せばいいですかね。あ、僕はベッシュ。アムステルド大陸から来たEランク冒険者です」


「では改めて。私はダナンモランと申します。このような場所しかご用意出来ず申し訳ありませぬ。まさか気高き天上の一柱にお越し頂く事になるとは夢にも思わず……」


「天上の一柱だって!?」



 ソファーの前に膝をついて挨拶するダナンモランさん。

 その言葉を聞いて、お婆さんも慌てて膝をついた。



「私はアダマンティアと申します。この地、学術都市リベラルシアにてリベラル大学院の学院長を務めております。先のご無礼、誠に申し訳ありませんでした」



 リベラル大学院の学院長さんなのか! それでダナンモランさんとも気安い感じなのかな。

 学術都市の二大学院のトップって事は、この二人が学術都市で一番すごい人たちって事だよね。

 なんか大変な事になっちゃったな……。



「よいよい。我の事はチーノと呼ぶがよい。軽々に『天上の一柱』とか言わんでくれると助かる」


「「ははっ」」


「あの、普通に喋ってもらって大丈夫です。ソファーに座って下さい。チーノはあくまで僕の妹として一緒に旅をしているので」



 あれだけ仲の悪そうだったダナンモランさんとアダマンティアさんが互いに目を合わせ、意を決したように「失礼します」とソファーに座った。まだ緊張はだいぶ残っているようだけどね。


 僕からも聞きたい事はあるし、向こうからも色々とあるだろう。

 でも最初にはっきりさせておかなきゃいけない部分もある。



「それで、その……ダナンモランさんはどこまで(・・・・)掴んでいるんですか?」



 チーノが神様だと分かっている。それはここまでの流れで理解出来る。

 その上でチーノの身体が神の分体であると分かっているのか。どの神様なのか分かっているのか。

 そして、なぜ分かったのか。


 もし他の神様の入れ知恵とかで知ったのなら大問題だ。チーノが地上に顕現しているのがバレているという事。

 そうなれば天上に帰ってしまうかもしれない。


 僕はこれ以上”宝剣”を探せなくなるし、下手するとチーノがルール違反を犯した罰とかで神子剥奪とか天職剥奪とかあるかもしれない。神罰がどんなものだか知らないけど。

 そうなったら僕がチーノと約束していた<鍛冶>スキルも与えられなくなるかも……。


 だから最初に確認したかった。

 ダナンモランさんは自分の顔の丸眼鏡を指さして言う。



「儂の”神器”は【理の眼】と言いまして、魔力の本質を見抜く力がございます。チーノ様が都市に入った瞬間に膨大かつ神聖な波動を感じました。神殿で似た魔力を感じる事がありますが、それよりもっと神々しく且つ具現化された神の魔力、と申しましょうか。人では決して持つ事を許されぬ力。『神に最も近しい人間』と称されるかの神聖国の教皇であったとしても、このような力は持てますまい」



 ダナンモランさんは眼鏡の奥の目を輝かせながら、そう力説する。

 じゃあ単純に”神器”の力で見破ったって事か。「こいつ神じゃね?」と。



「急いでここから向かいまして、図書館で実際にお目にした時に確信しました。この御方こそ、地上に顕現せし神々の――」


「あー、あー、ちょっと待って下さい! それ以上は!」



 ダナンモランさんがテンション上がって、また「神」とか言い出したからとりあえず止めた。

 これも言っておかないとダメだね。



「えっと、チーノは訳あってこの姿で顕現しています。これは天上の決まりから外れた行為でもあるそうなので、内緒でお願いしたいんです。口に出すとそれが(天)上の方々に聞こえる可能性もあるので」


「なんと、そういう事でしたか」


「ふーむ、何とも興味深い話だねぇ」



 ここまで僕が神の代理のように話してたけど、チーノも口を出し始めた。



「其方らの崇める神に対して『祈る』とかもダメじゃからな? あれ、聞くヤツは聞いてるからのう」


「なんと! わ、私の声が神に!?」


「ちなみに其方は誰から”天職”を貰った?」


「わ、私は【魔法の神デメリアロス】様に……」


「かぁ~~~っ! ダメじゃ! 言語道断! 祈っても絶対に我の事は言うでないぞ!? そうか、その”神器”もヤツの仕業か! あいつは本当にろくな事をせんのう!」



 チーノの九九連敗を馬鹿にしている神様で、最初の方に名前が挙がってたなあ。【魔法の神デメリアロス】様。

 嫌な思い出があるのかもしれない。でもそれをダナンモランさんに当たるのは間違いだけど。



「其方は?」


「私は【学問の神リブロジィ】様に……」


「かぁ~~~~っ!!! いかんいかん! あんの頭でっかちになど毛ほどの情報も与えてはならん! 嫌味ったらしくグチグチ言うに決まっておるわい! 其方はヤツに祈る事すらせん方がよい!」


「あ、頭でっかち……」



 いやチーノ、それは言い過ぎだよ。祈るくらい人の自由にさせてあげないと。せっかく”天職”と”神器”頂いたんだし。


 そういやリブロジィ様の事も言ってたな。

 クジ運に恵まれて勝っただけとか。なのに一勝も出来ていないチーノを見下してくるとか。

 まぁ本当にそうなのかは知らないけど。



「あ、あの、儂の崇神がデメリアロス様という事に何か不都合が……」


「あたしもリブロジィ様には祈らない方がいいのかねぇ……」


「あー気にしないで下さい。上の方々の事ですし、ダナンモランさんもアダマンティアさんも無関係です。チーノがムキになってるだけです」



 頭を抱える二人を慰める。二人にとっては自分の崇神じゃなくても神の言葉には違いないからね。

 気に掛けるのも分かるけどチーノの事を少なからず知っている身としてはフォローせざるを得ない。

 他の神々がチーノをどう思ってるのか知らないけど、チーノが目の敵にしてるのは確かだからね。

 ダナンモランさんもアダマンティアさんも何も悪くない。


 プンスカしていたチーノには高級茶菓子を追加してあげたら機嫌良くなった。

 軽い神様だなー。

 でもおかげでだいぶダナンモランさんとアダマンティアさんの態度が柔らかくなってきた。



「それでベッシュ殿がお近くに居るという事は、つまり【神子】様って事なのかい?」


「あー、やっぱりバレちゃいますよね。これも秘密にしておいて欲しいんですけど」


「そりゃもちろんさ」


「こっちのババアはともかく儂は他言しませんぞ。身命に誓いましょう」


「ジジイは黙ってな。あたしだって神敵になるつもりはないよ。――しかしさっきアムステルドから旅して来たって言ったろ? いくら神子様だって冬のラズールを旅して学術都市(ここ)まで来るのは大変なはずだ。やっぱり四年後の【神子闘技大会】に向けての訓練か修練か、って事かい?」



 旅の理由と、学術都市に来た理由か。

 ある程度言わないとイヤリングがなぁ……。

「ちょっと相談させて下さい」と断りを入れ、チーノと内緒話。

 アダマンティアさんのイヤリングの事も伝えつつ、どこまでバラして良いものかと打ち合わせた。



「えっと、まずチーノが何の神様なのか、もうご存じですか?」


「姿形は違えども、『チーノ』というお名前から想像つくのは一柱しかおりませぬ」


「あたしも同じく。口には出さない方が良いんだろうけども」


「ですね。姿形が違うのは地上に顕現するにあたって変わっているのだと思って下さい」



 やはり二人とも【鍛冶の神ドルフェチアーノ】と分かっているようだ。



「で、僕も当然【鍛冶師】のような”天職”なんですが、普通の鍛冶ではないんです。チーノはその説明も兼ねて顕現してくれてるわけでして」


「ふむ、普通の鍛冶ではないと言うと、『鉱石を打って剣を作る』ような鍛冶ではないと言う事じゃろうか」


「チーノ様がわざわざ顕現なさってまで説明が必要な″天職″とは……興味あるねえ」



 僕は【宝剣の槌】を出し、「これで『光るもの』を打つ(・・)と特殊な剣」に変わる」と説明した。

 ″神器″が木槌だった事に怪訝な目をしていたけど、チーノが「ベッシュの言う事は正しい」と言うと納得してくれる。

 僕が言うのも何だけど、ホントにチーノを神様だと見てるんだね。どう見てもお菓子大好きな七歳児(年齢不詳)なのに。



「ただその『光るもの』が世界中に散らばってまして、それを探す旅というわけです」


「なるほどのう。闘技大会までにそれらを集めようというわけですか。それはまた何とも」


「わざわざ冬のラズールに来るわけだね。神子様は大変だ」



 苦笑いしか出来ないね。本当なら雪解けまで待ちたいくらいだし。

 さて、ここからが本題だ。



「で、学術都市に来たのは二つ理由がありまして、一つは詳細な地図を探しに来たんです。どうしても森や山に行く事が多いので地形や道が細かく描かれた地図が欲しくて」


「なるほど、それで図書館へ」


「しかし図書館でも詳細地図となれば閲覧出来ないんじゃないかい? あたしらが許可を出して三階までの閲覧が出来たとしても……」


「うむ、図書館の地図では限度があるのう」



 うーん、やっぱり図書館に置かれているのは限度があるのか。

 そりゃ軍事国家の手に渡ったら国防の危機、と言うか大陸全体の危機だろうしね。

 と、諦めかけた所でダナンモランさんが声を上げる。



「儂の持っている地図でよろしければお譲りしましょうかのう? 模写ですが」


「ええっ、いいんですか!?」


「おいジジイ。そりゃばら撒いていいもんじゃないだろうに」


「ばら撒くつもりなどないわい。あくまでチーノ様にお供えするだけじゃ」



 神様に対する供物か。それなら言い訳になると。



「ちなみにラズール大陸の地図ばかりか世界の地図も持っておりますぞ。この先の旅に入り用でしたらどうぞお持ち下され」


「うわあ! ありがとうございます! 本当に助かります!」


「ただ……」



 そこでダナンモランさんが目を伏せる。言いづらそうな表情だ。



「代わりと言ってはなんですが、チーノ様から色々とお話をお聞き出来ればと……」


「おい、そりゃ姑息ってもんじゃないかい!? 何が供物だ! 見返り期待してんじゃないよ!」


「うるさいわいっ! こんな機会などないんじゃ! 天のお言葉を拝聴出来る事なんぞ終ぞないわい!」



 どうやらダナンモランさんはチーノに色々と聞きたいらしい。

 あまり天界の事は喋れないって分かってても、それでも聞きたいと。

 やっぱりここは知識欲の高い学術都市で、この人はそのトップに居る人なんだね。




チーノは「軽々に神とか言うな」と言ってますが念の為という意味合いが強いです。

口に出した所で聞いてる神は聞いてますけど、聞かない神は聞かないですし、むしろ後者が多くて当然。

自分が下界から情報を仕入れるとすれば、という基準で考えているようです。

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