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12:白銀の世界で宝剣を探します



「おおー、街の外は白銀の世界か! これもまた素晴らしいのう!」



 馬上のチーノは機嫌良さそうに辺りを見渡している。

 僕はと言えば、防寒具に身を包み、目くらいしか出ていない状態だ。


 街を出た時はチーノと同じように感動もしたけど、尋常じゃない寒さの前にそんなものは消え去った。

 なるほどクレアスマさんがあれほど心配するわけだ。

 雪に慣れたラズール大陸の人でさえ、危険が伴うというのも頷ける。



 馬はゼッタブの街で借りたもので、適当な街で返す手筈になっている。馬匹ギルドは大体どこの街にもあるからね。

 で、今回の馬は重毛馬という種類の大型の馬だ。長い体毛でフサフサの馬。

 ラズール大陸では一般的らしく、雪道であっても問題なく進める馬なのだとか。

 その代わり非常に遅いし、雪道を走るとかも出来ない。


 街から出る時は僕も馬に乗っていたわけだが、あまりに寒く、あまりに遅い為、僕が下りて手綱を持って引く事にした。

 馬に乗っているのはチーノと荷物だけだ。


 なんでわざわざ積もる雪道に下りたのかと言うと、僕が右手に持つ″宝剣″がその理由。



 ――【聖剣ガラティン】。僕が九番目に打った(・・・)″宝剣″だ。



 見た目はエクスカリバーに似た感じの豪華さ。一応ロングソードだが片手剣ではある。

 大きく違うのは刀身が『赤銀』と言えるような色合いという事。エクスカリバーは『白銀』だからね。

 能力もエクスカリバーが『聖属性』であったのに対し、ガラティンは『火属性』だ。


 で、僕は馬の手綱を引き、先導しながら、右手でガラティンを前に出している。

 うん。つまり雪を溶かし、暖をとりながら進んでいるというわけだ。

 おまけにガラティンの『使用者の魂』も英雄級らしく、寒さに負けるような事はない。


 ついでに言えば、微妙にガラティンの火魔法を使い続けるというのは、非常に繊細な<宝剣操作>を必要とするので訓練にもなる。

 扱いを間違えれば、道の先が焼け野原になるからね。

 グラスの水を一滴ずつこぼすような細かな操作が必要なのだ。



「一気に速度が上がったのう。馬も喜んでおるぞ? やはり寒さに強い馬とは言え、雪道よりも雪のない地面の方が好きらしいわ」


「えっ、チーノ、馬と喋れるの?」


「イルクグリードじゃあるまいし喋るのは無理じゃがな。気持ちくらいは分かるぞ」


「ああ、イルクグリード様なら喋れるんだ」


「そりゃ【鳥獣の神】じゃから当然じゃろう」



 流石だなぁ。動物だけじゃなくて魔物もイルクグリード様の管轄なのだろうか。

 いや、そうするとイルクグリード様が”天職”と”神器”を与えたクレアスマさんたちとかち合っちゃうか。同士討ちみたいな感じ?


 そんな事を思いつつ、僕らは銀世界を進む。

 後に「なんか除雪された道が出来てるんだが!?」とイントープ王国の人たちの間で噂が出たそうだが、それを僕らが知るのはかなり後の話だ。

 雪がちらちら降っていたからすぐに積もると思ったけど、どうやらガラティンの熱が残っていたらしい。





「ねえチーノ! ホントにこんなトコ登るの!?」


「間違いないぞ! この上にあるはずじゃ!」



 眼下のチーノに向かって叫ぶ。


 僕らは馬を途中で置いて雪山を上り、凍った森を抜け、道なき道をガラティンの炎を使って無理矢理進んでいた。

 そして辿り着いたのは凍り付いた滝だ。

 滝つぼも滝自体も見事なまでに凍っている。


 チーノ曰く、この滝の上に『光るもの』があるらしいので、僕は崖上りならぬ滝上りをしている。

 ガラティンの炎を使うと滝が溶けそうで怖いから、グレイプニルを崖上に伸ばし、それをロープ代わりにしている。


『使用者の魂』で難なく上る力もあるんだけど、いかんせん天候は吹雪だ。

 “宝剣”の力がなければ死んでいる状況なのは間違いない。

 だからついつい声を荒げてしまうのだ。


 崖下のチーノは吹雪の中でも元気そう。やっぱり神様の分体はすごい。

 一応そっちも気にしつつ、僕は一人で滝を上った。


 後からチーノに「”宝剣”を<操演(オート)>で飛ばせて上まで運んでもらえば良かったのでは?」と言われたけど……え? 手に持ったまま<操演(オート)>操作なんてやった事ないんだけど……出来るの?



 ともかく苦労して滝の上まで到着。すると確かに『光るもの』が【宝剣鍛冶師】の目で確認できた。


 それは樹氷の幹から顔を出した白い花。

 木とは関係ない花だろうし、どうして幹に咲くのか、どうして氷に覆われた幹から芽吹いたのか、全く分からない。

 とても不思議で幻想的な花。それが僕の目には光って見えるので、余計に幻想的に思える。


 失くしてしまうのも勿体ないと思いつつ、これが目的でもあるので「ごめんね」と声を掛けてから【宝剣の槌】で優しく触れるように打った(・・・)


 白い花は光と変わり、そして細長く形造られていく。

 光が消え、両手で受け止めたそれ(・・)は、サーベルのような刃をもった槍だった。


 豪華にして異質。明らかに『異界の宝剣』と呼べそうなそれを、とりあえず<宝物庫>に仕舞い、チーノと合流した。

 詳細を知るのは後だ。今は落ち着ける場所に行きたい。





 下山して馬と合流し、一番近くの街へと向かった。

 もちろん街の付近になれば、僕も馬に乗っている。

 馬は僕が乗った事で重くなり、さらに雪道を歩く事を強いられるから嫌がっているらしい。

 僕が雪を溶かしながら進んだ事で楽に慣れてしまったか……。そこは重毛馬の特性として頑張って欲しいんだけど。


 ともかく宿に着いて一息。

 改めてチーノと共に手に入れた”宝剣”を見る。



「ほお、これはまた異質な剣じゃのう」


「一応『刀』らしいよ。【妖刀ムラマサ】と同じには見えないけど」



 槍のような長柄は金属なのか木材なのか、十分な強度と柔軟性を兼ね備えているようだ。

 鱗のような模様がびっしりと刻まれており、滑り止めの役目を果たしていると同時に、豪華さも演出している。

 刃は鋭いサーベルを彷彿とさせるが、『刀』と言うよりは大振りな『曲刀』のようだ。

 槍のように突くよりも、薙いで使うように見える。


 そしてその刃にはどうやって描かれたのか、おそらく『竜』と思える図柄。海蛇竜のように長い体躯の竜だ。それもあって一層力強さを増している。



 ――【青龍偃月刀】。『使用者の魂』はその銘を僕に教えた。



 使用者はやはりこの武器に相応しい英雄級。そして馬上戦闘で活きる武器らしい。

 もう一つの特徴として、水属性及び氷属性を司るようだ。おそらく魔法攻撃のような事も出来るはず。



「むむ、また氷属性か」


「ラズール大陸だから氷属性の”宝剣”……って事ないよね?」


「アムステルド大陸でも氷属性のブリューナクが手に入っておるからのう、それはないじゃろ。偶々だとは思うが」



 【青龍偃月刀】はラズール大陸に来てから二本目の”宝剣”だ。合計で十四本目にもなる。


 港町ゼッタブを出てから最初に辿り着いた街。

 そこの市場で売られていた『光る葱』から生まれたのは【聖剣アロンダイト】というロングソードだったが、それもまた氷属性だった。


 つまりはこれで二連続の氷属性となる。

 ラズール大陸が寒すぎるから氷属性の”宝剣”ばかり手に入るのかと思ったけど……ランダムらしいしね。



 ちなみに店売りの葱が光っていた事で「作物は収穫しても光ったまま」という事が分かった。

 モモレス村でコレットさんにバラさずに持ち帰れば良かったと思ったけど後の祭りだね。



 ともかく僕としては”宝剣”が増えた事で<宝剣修繕>をしつつ磨く作業が増えた。

 さすがに野営をする時は無理だけど、街に来て、宿に泊まれる状況であれば磨きまくる。

 毎日使っているわけじゃないけど、それでも磨きたいし眺めていたい。やっぱり『異界の宝剣』ってのは凄すぎて魅了される。



「じゃからニヤニヤと気持ち悪いと言っておろうが」



 そう言うチーノは小ぶりの馬鈴薯が刺さった串を手に、ベッドの上であぐらをかいている。

 チーノは【鍛冶の神様】なのにこの”宝剣”の素晴らしさが分からないのだろうか。

 剣よりも芋に夢中とか、やっぱり【芋の神様】になってしまいそうで怖い。

 そうなったら僕の<鍛冶>スキルが手に入らなくなる。


 ともあれ、周辺地図を広げ、計画を練らないといけない。お互い自重しよう。



 ラズール大陸はアムステルド大陸の半分ほどの広さしかない。

 とは言えどこも雪が積もっているから移動に難があるし、大陸の中央には東西に連なる山脈がある。


 さすがに山脈に上るのは骨が折れるので、それを避けるように”宝剣”探索をするつもりなのだが、そうなるとラズール大陸を横断どころの騒ぎではなく、ぐるっと一周した上で西端を目指し、そこからガイオーク大陸に渡る……という事になる。つまりはラズール大陸一周半だ。


 それを一年で熟すのは無理じゃないかと。

 雪がなければ行けるのかもしれないけど。



 で、どうしたもんかとチーノと相談し、クレアスマさんが言っていた”学術都市”とやらに行ってみる事にした。

 そこで詳しい地理が分かれば探索経路を読みやすいし計画を立てやすい。

 まぁ本当に地図が手に入るかも分からないけど、ダメ元で行ってみようと。



 学術都市は中央の南側にあると言う。

 ラズール大陸の東端にあるイントープ王国から南の海沿いに西進するとリッジ公国という小国がある。

 そこを抜け【学術都市リベラルシア】へ。


 途中にある”宝剣”反応を寄り道がてらに回収しつつ、目指して行ければいいなーと思っている。

 多分イントープ王国やリッジ公国にも取りこぼしがあるかもしれないけど、本格的な雪山長期探索になりそうだし。

 【青龍偃月刀】も比較的近めにあったから無茶したようなもので。



「我らが”宝剣”に乗った状態でベッシュが<操演(オート)>で飛ばせばいいのではないか? そうすれば雪道だろうが山脈だろうが苦ではなかろう。”宝剣"の能力の精密な操作を練習するにも良い。おおっ、これは良い考えではないか!?」



 ほらまた無茶を言い出す……。僕らを乗せて飛ばすって、途中で操作ミスったら死んじゃうでしょう。

 って言うか【鍛冶の神】が剣を乗り物代わりにするとか、ホント勘弁して下さい。




宝剣操作は汎用性がありすぎる。

そのスキルを作ったチーノでさえも十全に活かせるのか不安なレベルですね。

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