霊峰オヴニル
オヴニルの頂きは僅かばかりの平地が広がっており、山頂を包む止むことのない吹雪もここではなりを潜めている。
別名・神(死)に最も近い場所。
「...なんでここなんですか?」
カガリが寒さに両手を抱えながら問う。
それもそのはず、霊峰オヴニルの山頂といえば、この山の主が鎮座する...場所だった。
オヴニルの主、白龍オヴニルは先日、勇者パーティーによって討ち取られた。
そこにはカガリも伴っており、百も承知だった。
故に実力を試す、真意には些か疑問であった。
「コレを試すには丁度いいかと思ってネ」
そう言ってシェーンは翡翠に輝く魔石を取り出す。
「それは、古書物にしかでてこないとされている...」
「ンー、あんまり数は無いわよね?」
慌てて引き留めようとするカガリを差し置いて、
「召魂石」
そう言ってかざした石を砕く。
刹那、吹き荒ぶ吹雪。
雲よりも高いこの山頂で立ち込める雷雲。
何より、侵入者を押し潰さんとする魔力の重圧。
「再び我とまみえんとする愚か者は誰ぞや」
雪華の様に透き通り、氷塊の様に重苦しい声が響く。
声の主、白龍・オヴニルが辺りを一瞥すると見覚えのある小動物と目が合う。
「我を討ち取った大魔導師ではないか」
オヴニルが豪快に笑う。
「なんだ鱗が足りなかったか、それとも龍殺しの名声か」
そして、
「二度も易々と討ち取られんぞ」
闘志を剥き出しにする。
カガリが恐る恐るシェーンの方を向く。
が、
頑張って、
と軽く手を振るのみである。
やるしかないのか、と覚悟を決める。これでも彼女も冒険者である。
「どうやら覚悟が決まったようだな」
戦いの駒は向き合い、
そして魔力を高め合った。
「さぁて、役者は揃ったわね」
カガリとオヴニルが構えて合っている様を僅か後方、比較的安全地帯から眺める。
シェーンがタバコに火をつけた時、カガリが魔力を瞬時に高めた。
呼応するかの様にオヴニルの瘴気も濃くなる。
開戦。
カガリの頭上に巨大な氷柱が現れ、理に従い地に突き刺さる。
無論、カガリは既にいない。身力強化を伴い、一飛びにオヴニルの側面に立つ。瞬間、タメる。
お返しと言わんばかりに炎塊を生み出し、オヴニルに叩きつける。
直撃、だが浅い。
鋭い目つき、だがとても楽しそうにオヴニルを眺める。
「お主、動きが違うが...何があった?」
オヴニルのといに口角をあげて返すのみであった。