霊峰登山
霊峰オヴニル
麓に広がる森林には豊かな作物が実り、人々の生活を支えている。反面、有数の魔石の産出地でもあり、生み出される魔物、魔石が発する瘴気に群がる魔物もまた強力な物が多い。
また山頂は万年雪に覆われ、山中の気候も変わりやすく例年死者が多くでる、まさに自然を体現した土地である。
入山できるのは上級以上の、さらに認可を受けた冒険者に限られる。
無論シェーンはその限られた冒険者であることは言うまでもない。
「以前は勇者様のパーティでギルドを通して認可を受けて入りましたが、そとそも私も入って大丈夫なんですか?」
「パーティの中に許可降りてるのがいれば大丈夫なのよ?当人達の自己責任ってことで」
「ならばいいんですが...」
本当はよくない、いきなりすぎる。そんな彼女の思いを見透かしたかのようにシェーンが詰める。
「ハイ!孤高の魔女ルール!思ったことはちゃんと言うコト!」
「うぅ、いきなりすぎます。それに戦闘の準備もできてないです。」
消え入りそうな声でカガリが言う。
「よくできました!じゃあワタシから。目的はアナタ自身の戦闘力の把握。それに準備なんかいらないわよ?アナタは加減なしで魔法を放てばいいの」
「それじゃあ飛ぶわね?」
麓に到着したシェーンが魔法陣を展開する。
「それじゃあ山頂まで!」
「だから待ってくださいー!!」
カガリの絶叫の中に、彼女の姿が無かったことからおそらく既に到着しているのであろう。
王国領内でも屈指の危険地帯に。
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勇者一行は停滞していた。
代わりの魔導士を探そうかと言う時に、
「私もパーティ抜けていいですか」
とリーシェが言い出したのである。
彼女曰く、
「カガリはこのパーティの要であり、彼女が抜けないよう画策してきた」
「だがそれも虚しく、彼女はいなくなった」
「何より不要な者を切り捨てるこのパーティを信用できず、背中を預けられない」
とのことである。
これにはリンドブルムとハイゼルも困惑した。
一介の魔導士はともかく賢者などそうそう替えは効かない。
打倒魔王を命じられたリンドブルム達には戦力低下を認めるわけにはいかない。
だがその旨を彼女に伝えると、
「自分で戦力さげといてよく言いますね」
としか返さない。なにより、
「カガリの重要性は何度なく進言しましたよね?」
「この話、何百回目ですか?」
と彼女の逆鱗に触れてしまう。
恐らくリーシェの決心は固まっているのであろう、このやり取りが何日も続いたのであった。