いざ行かん
「私が、強い?」
「えぇ、アナタは強いはずよ?」
「自分で言うのもナンだけど、私とそれほど変わらない魔力を抱えてるわよね?」
「以前、戦闘を見かけた時も上位の魔法を詠唱短略で放っていたし、なにより出力がケタ違いだったワ」
シェーンが楽しそうに続けた。
「なんで追い出されたの?」
戦力の殆どを自ら手放した勇者パーティの今後を嘲笑う様にとびきりの笑顔だった。
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リーシェは苛立っていた。パーティにとってのお荷物を片付けた今、憂いはないはずであった。
パーティの荷物、尋常ならざる魔力・戦闘力を持ちながら自己主張とコミュニケーションの下手さからパーティで上手く立ち回れないカガリを厄介払いできたのだ。
勇者様は知らない。ステラが本気を出せば、我々三人など歯牙にもかけずに葬れることを。
「なーんでこうなったかな」
リーシェはなんとかしようとしていた。パーティの崩壊を。
ただ、いかな賢者といえどどうにもできないこともある。例えば、今回のような人間関係だ。常々自分の無力さに嫌気がさす。
ただ異常なほど早くはあるが、彼女の引き取り手が見つかってよかった。それもあの『孤高の魔女』である。謎は多いが実績も上々でカガリが燻ることもないだろう。後は上手くやるのは彼女次第だ。
だが、近くにいた自分が助けることは出来なかった。
心底自分に苛立っていた。
「もうちょっとやりようあったのかな?」
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シェーンはカガリから、勇者パーティの時に何があったか聞いた。それに対してカガリは何とか言葉を紡いだ。おまりにも辛く、記憶の彼方に忘却させた筈の思い出すら、なんとか吐き出して。
「ソウ、辛かったわね」
シェーンも、おそらく進んで話したい事柄ではないことを察していた。だが、無理やり話させた。
詮索屋は嫌われる、無論世の常であるが、今泣きながら佇む彼女はこれから背中を預ける仲間なのだ。
同じことを繰り返さないためにも、キツく当たる必要があった。だから無理やり吐き出させた。
「...ありがとうございました。聞いて頂いて少し、楽になりました。」
少し落ち着いた所で、カガリが溢す。
「パーティを、まぁ追い出された、わよね?その原因はアナタにもあるのよ?」
シェーンの言葉に胸が締め付けられる。だが、逃げてはいけない。自分をパーティに誘ってくれた恩人だ。
「もう少し、ぶつかるべきだったんじゃない?」
「なんでも決めつける勇者にも問題はあるし、まぁ問題しかないけど、あのパーティで続けて行きたかったんなら自己主張はすべきだったわよね?」
言われて思い出す。リーシェにも同じこと言われた、と。
あの時は、今思えば皆んな敵にも思えていたし、何故あのパーティに固執していたのかも自分で理解できない。ただ、リーシェは自分の味方でいてくれたんだ、と。
「思うことがあったらハッキリ話すこと。それがこのパーティのルールね!」
シェーンが艶っぽい笑顔を戻して、楽しそうに言った。
釣られてカガリも、涙でぐしゃぐしゃになった顔を綻ばせて、
「ハイ!」
と返した。
「じゃあ早速、連携の確認ということで、霊山オヴニルに行きましょう」
「ハイ、えぇ!?」
あまりの唐突な提案に果実酒を吹き出すカガリであった。