酒場にて
カガリは現在、半ば無理やり近くの酒場に連れてこられている。パーティ脱退手続きの後、呆然と立ちすかす周囲をさしおき、黒のフードの女性に従っている。
いや、呆然としているのはカガリも同様であり、従う他無かった。
「あの、」
「とりあえず自己紹介しなきゃね?」
小さな二人がけのテーブルに向かい合わせで座り、軽めの果実酒と安い串焼きが数本、カガリの混乱を誂えていた。
「私はシェーン・イクリプス。シェーンって呼んでネ?」
悪戯な笑みを浮かべて黒のフードの女性、シェーンが続ける。
「魔導士であり近接を担当することになると思うわ。」
「!あのシェーンって、『孤高の魔女』のシェーンさん...ですか!?」
「フフ、それは周りが勝手に言っていることよ?」
あまりにも突然の、一般生活の範疇外の事が起こりすぎカガリの思考回路はパンク寸前であった。
それもそのはず。今、彼女の目の前にいる人物は世界でも三本の指に数えられる大魔導士であり、さらに王国きっての戦力を持つ冒険者でもある。
そんな人物が、
「何故、私なんですか?」
シェーンの名を聞いた時ほどの勢いはなく、視線を落とし掠れた声で問う。
優れた魔導士が、先日までパーティでお荷物だった私なんかを、と卑屈的に考えてしまう。
「アナタにクイズを出すわね」
雰囲気を察してか、それとも知らずにか、シェーンが答えるでもなく切り出す。
「何故、孤高の魔女は孤高だったでしょうか?」
シェーンの悪戯な笑みは崩れない。
「何故って、存在すらも半信半疑で、自分の前にいるのも、パーティに誘って頂けているのも信じられなくて、」
「ソンナに堅苦しく考えなくていいのヨ?ただのクイズなんだから」
「...分かりません」
カガリにとっては今はちょっとしたクイズなんぞ、考えられる精神状態ではないのである。
「じゃあ私の勝ち、ネ?」
「正解は、私と相性の良さそうな冒険者が居なかったからから」
カガリはかたまる。あまりにも漠然とし過ぎている。
相性とは?と。
「フフ、単純に戦闘にも冒険にもついてこれる人がいなかっただけヨ」
そう言ってシェーンが串焼きを頬張る。彼女が触れると街酒場の、安い串焼きも貴族が食べる上品な食事の様に思える。
シェーンの食事姿に見惚れていると、先程の答えを得れなかった質問が熱を帯びてくる。
「何故...私なんですか?」
ココの料理美味しいわよ?と勧めてくるシェーンは、
こともなさげに返した。
「今までの説明が答えにならないかしラ?」