黒の魔女
王都ユリシーズ。オージア領一の都であり、リンドブルムとハイゼルの出身地でもある。
一行も旅の補給で何度か戻ってきている。
今回も凱旋帰還とはいかないが、王都の人々は暖かく迎えてくれた。
勇者達はそのまま所属するギルドに向かう。
代わりとなる魔術師を探す為である。
カガリの気持ちは道中で既に伝えていた。
魔王討伐で人々の役に立ちたかったし、なにより旅に誘ってくれた勇者達の気持ちに応えたかった。
だが、そんな勇者達が自分を必要としていない以上は、迷惑をかけることはできないと判断したのだ。
だが、ギルドに近づくにつれ胸の締め付けがより強くなる。私の旅はここで終わりなんだ、しかも中途半端な形で、と。
足取りもだんだんと重くなる。
街中の道中では無邪気な子ども達が手を振りパーティを迎えてくれているが、大人達は悲壮的な空気を察してか、必要以上に声をかけてこない。
今のカガリにはそれすら自分の責任の様に感じてしまっていた。
この空気感から逃れるため早くギルドに到着して欲しい思いと、旅の終わりを意味するギルドに到着してほしくない気持ちが混在する。
しかし無情にも彼らの所属するギルドの特徴てきな屋根が見え始めた。
カガリにはそれがまるで、自らを断罪する絞首台の様に見えていた。
ーーーーーー
「おかえりなさい、勇者様。今日はどの様な御用でしょうか」
受付嬢の崩れぬ笑みも、今のカガリには機械人形にしか感じられていない。
「いや、...」
先頭のリンドヴルムが、最後尾のカガリを一瞥する。
それに合わせる様にハイゼルが、リーシェがカガリを見やる。
大人なんだから自分で始末をつけろ、とでもいう様に。
「あの、パーティの編成手続きをお願いします...」
消え入りそうなやっとの思いで言葉を紡ぐカガリ。
「はい。どの様になさいますか?」
受付嬢の笑顔も少し引き攣っているかの様である。
「...はい。私、魔導士カガリは勇者様のパーティから脱退します。」
後ろの3人はやっと終わったか、と薄情にも少し安堵している様である。
対してカガリは世界の終わり程の絶望を感じて、頭が真っ白になっていた。
「アラ?じゃあ私とパーティ組まない?」
突如横から、艶やかな声が緊迫を破る。
そこには黒い外蓑に身を包んだ、背の高い女性が立っていた。