深まる暗雲
沼地を抜けた先の森、その少し開けた所でキャンプを貼る勇者一行。
辺りはすでに暗く、焚き火を囲んで食事を取っている。
全員が一言も喋らず依然、重苦しい空気である。
最近は魔物と相対した後は大体こうなる。
小型の魔物の肉はいつもよりも硬く感じ、酷く食欲を削がれる。だがそんな食事でも取らないと、旅に影響してしまう。
カガリは肉を噛み、水で無理やり流し込んでいた。
「...みんなに提案がある」
勇者リンドブルムが口を開く。
依然、空気は重苦しいままである。
そして、全員が内容をなんとなく察している。
カガリは勇者に目を合わせず食事を続ける。心なしか少し、震えていた。
「カガリはこれ以上、旅に連れて行くことはできない」
勇者は静かに、そして吐き出す様に言った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
カガリは俯いたまま、涙声で呟く。
「確かに、魔法能力は問題ないが...」
と、ハイゼル。
パーティの中では唯一の支援役であり、勇者であるリンドブルムや剣士のハイゼルに比べて体力的に劣る。さらには賢者リーシェの様に身を守る術もほとんどない為、カバーも必要となる。
魔王の領土に近づくにつれ旅路も険しくなり、カガリに速度を合わせる場面も出てきた。
現れる魔物もより強力になり、自分達を守るだけでも精一杯なのである。
「勇者様とハイゼルの言わんとすることは分かりますが、ここはカガリの意見も尊重すべきかと」
リーシェもそう言うが、実際のところ彼女もパーティとしての瓦解に諦め感じており、言葉にも少々トゲが現れている。
「私は、私は、勇者様達と魔王城を目指したいです」
カガリは言葉を繋げるが勇者達は然とした態度である。
「我々は一度、王都に戻ろうと思う。幸いにも山脈、霊山、そして湿地の主も倒すことができた。」
「今一度物資を整え、この先の魔王領に挑もうと思う」
「少し足踏みになるが、二度目ともなれば行脚も楽になろう。」
「...王都で新たな魔導士を探すつもりだ。それまでに答えを出してくれ」
リンドブルムは話した。
それまでに決心してくれ、と言っているようである。
「あーあ、逆戻りか」
「ハイゼル、勇者様も好きで戻るわけではありません。」
と言う二人のやりとりもカガリには責められている様に聞こえる。
「今日は俺が見張りをする。全員、休んでくれ」
そう言うと勇者は、森へと歩みを向ける。
「明日は早い。休みますよ。」
「へいへい。」
リーシェとハイゼルが寝所に向かう。
カガリは、既に自分が居ないかのような錯覚を受ける。そのまま声を殺して一頻り泣き続けると、自らのテントに向かった。
泣いたことにより少し落ち着きを取り戻し、これまでのことを少し思い出していた。
勇者様達の旅に加わった時は、確かに自分は必要とされていた。リーシェさんもまだいなくて貴重な魔法支援役として戦闘の役にもたっていた。
いつからだろう、旅について行くことに精一杯になったのは。守られてばかりになったのは。
もしかしたら、はじめから役になんて立っていなかったのかもしれない。
フフ、と自虐的な笑みを溢すと諦めがつき、この先のことを考えようとしている自分に少し驚いていた。
旅を通して成長しているかも。そんなことを考えながら眠りについた。