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王国滅亡記 -序章-

作者: 夕顔

なんで………俺を残した。見捨てれば生き残れただろうに。どうして。

『後は任せた。皆を頼む』

どうして、アイツはあんなに清々しい笑顔で死地に向かえた?死ぬと分かって尚、どうして………どうしてッ!!!

「シャキッとしろ!追ってくるぞ!!」

「っ、ごめん」

「気にするな、魔王様の最期の願いだ。お前は絶対に殺させない。境界山脈の砦まで引けば当面は問題ない。……体力と魔力は持つか?」

「うん、無駄に沢山あるから……」

「……そうか、それなら少し早くするぞ」

「うん!」

後ろで鳴り続ける戦闘音から一秒でも早く遠くへ。そうして俺は、恩人の命と引き換えに死地から脱した。

1年前

リズベル王国・王都リズベル・王城

「王よ、勇者様の召喚に成功致しました」

「おお……!ようやった!」

「はっ!…今代の勇者様を紹介してもよいでしょうか?」

「あぁ、ぜひ頼む」

現実感は無かった。それでもこれは現実なのだろう。異世界召喚なんてものはフィクションの中だけだと思っていたのに。まさか自分が巻き込まれるなんて思わなかった。自分1人だけなら発狂していたかもしれない。あまり関わりはなかったが、同じクラスの人間が2人もいる。それだけが救いだった。

「それでは、最初にカツヤ・ヒジリガワ様」

「カツヤ・ヒジリガワです」

聖川 克也。クラスの中心人物……では無い。イケメン、高身長、文武両道、モテる要素をこれでもかと待っている男。まぁ彼女持ちだ。圧倒的人生の勝ち組だろう。俺なんかは嫉妬も浮かばないくらいに完璧な男。男女ともに人気だが、彼女との甘い雰囲気に耐えれる者がいないためにクラスの中では鑑賞対象だった。

「次にカナデ・ユリカワ様」

百合川 奏。聖川の彼女。聖川が彼氏じゃなければ彼氏がいても告白されていたかもしれない、とクラスの中でも噂されてるほどの美少女。聖川とのラブラブ振りを見れば万に一つ……億に一つも可能性はないために告白される事はない。という結論に至っていた。

「最後にシゲクニ・クロザクラ様」

他2人と同じように頭を下げる。黒桜 重國。それが俺の名前。こんなに厳つい名前にも関わらず俺は四捨五入すれば160cmのチビなのだ。名前負けしすぎだろう。

「以上3名が、今代の勇者様です」

「そうか。よくぞ来てくださったな、勇者様がた。お疲れでしょう、部屋に案内させるので今日のところはお休みください」

王様がそう言って手を叩くと、メイドさんが俺たちの隣に並ぶ。

「案内しなさい」

綺麗なお辞儀をした3人のメイドさんが俺たちを先導する。

「行こう、奏、黒桜くん」

「うんっ」

「うん」

聖川に促されて王様のいた部屋を出てメイドさんの後を歩くこと数分だろうか。お城っていうのは広いらしい。

「こちらの3部屋が勇者様がたのお部屋になります。部屋順はどうされますか?」

「うーん……黒桜くんはどこがいい?」

「俺は……隅っこでいいよ」

「じゃあ手前から、奏、僕、黒桜くんでいいかな?」

「いいよ!」

「うん」

「それじゃあ、後で僕の部屋に集まってくれないかな?話したいこともあるし。……いいかな?メイドさん」

「えぇ、構いません。なんなら今すぐお話し合いを始めても構いません。夕食はお部屋に運びますので」

「そうなんだ、ありがとう。じゃあ、2人ともおいで」

手招く聖川に従って聖川に割り振られた部屋に入る。部屋の鍵はいつのまにかメイドさんが開けていた。いつ開けたのだろうか。

聖川が指を鳴らす。その瞬間何かが俺を通り抜けてこの部屋を覆った………そんな気がした。

「さ、これで部屋の中の声は外に聞こえないよ」

「……何したんだ?」

「うーん、僕と奏はね、一度異世界召喚されたことあるんだって言ったら信じる?」

「克也くん?」

「あはは、怒らないでよ、奏。黒桜くんは初めてだろうに動揺しなかった。多分大丈夫だよ」

「……いや、動揺してないわけじゃない。あまり顔に出ないだけだよ。それで、異世界召喚があるのは当事者だし分かったけど、すでに一回されたことがある?」

「うん、その時に覚えた剣術と魔法はこの世界でも使えるらしいね。まぁ地球でも使えたんだけど魔力を消費すると回復する手段が無くて使えなかったんだけどね」

「へ、ぇ……ああ、でも、そうか。異常に体幹がしっかりしてたし、荒事にも慣れてそうだった理由がわかったよ」

「信じてくれるのかい?」

「うん」

「あはは、ありがとう。でも、黒桜くんもなんか特殊だよね?」

「あー………うん、説明したいんだけどもし地球に帰れるなら不都合が生じるから話さない方がいいんだよね」

「奏?」

「んー………………多分あの召喚陣は拉致だった。帰還用は無いでしょうね。仮にあっても魔力が足りないと思う」

「て、わけでここに永住しなきゃだね」

「…………まぁ、信じるしかないかな。俺の親戚、すっごい特殊なんだ。家族揃って陸自だったりヤクザの一家だったり古武術の道場主だったり、ね」

「黒桜くんの異常な身体能力ってそーゆーことだったの?」

苦笑を浮かべながら言う聖川にこちらも軽く笑って返す。これはもう笑うしかない。

「あー、まぁ、ね。道場に行けば稽古に巻き込まれるし陸自の身体能力で山の中追いかけっこするし…そのまま野宿もよくあったかな。親戚一同で集まって宴会しようとしたら敵対してる組が攻めてきてそのまま家族全員で抗争に参加して潰したこともあったかな?」

「えぇ……黒桜って本当に同じ世界線の日本の人間?」

「多分、そうだと思うんだけど……?」

「黒桜くんっていつも1人でラノベ読んでからなんというか、もっと陰気な人かと思ってたよ、ごめんね」

「気にしないでよ。………ねぇ、そろそろ本題に入らない?」

「あぁ、そうだったね。奏、鑑定はした?」

「うん、私と克也くんは引き継いでるね」

「そう、僕らは前の能力を引き継いだまま。それで、黒桜くんなんだけど」

「俺?」

「魔法適性が重力と闇なんだ。どうもこの世界の闇属性はデバフというよりも攻撃力に特化した属性みたいだから、使うときは気をつけて欲しいのと、闇属性って基本良いイメージ持たれないから、この国の人が突っかかってくるかもしれないから、それも気をつけてね」

「分かったよ、忠告ありがとう」

その時、コンコン、とノックが聞こえる。メイドさんが言うに夕食ができたらしい。部屋に運んできてもらうと、3人で食事をとりながら話し合いの続きをした。そして、次の日は魔法の適正を見る水晶とやらで案の定俺は不信感を持たれた。その日の午後から始まった戦闘訓練でも騎士たちにいじめのようにボコボコにされ、聖川との戦闘力の差をコケにされた。

そんな日々が続き、この世界に召喚されてから5ヶ月経った頃には実戦が始まった。まぁ、異世界召喚経験者の2人は言わずもがな。俺も……見たくはなかったけどヤクザ同士の抗争で怪我は当たり前、ひどい時は拳銃持ち出してくる馬鹿がいて死者も出た。死体には慣れていたしそこまで悲惨な初戦ではなかったと思う。それでも自らの手で殺す、ということには慣れそうになかった。

あぁ、ちなみにこの世界は1週間が7日、1ヶ月は4週間丁度、1年は12ヶ月で336日らしい。地球の単位に当てはまると月曜から火の曜日、水の曜日、風の曜日、土の曜日、氷の曜日、光の曜日、闇の曜日のようだ。月は1の月、2の月、と数え、週は1の週、2の週、らしい。

というのも、今日は1の月、1の週、火の曜日。つまり地球で言うところの元日なのだ。ちなみに召喚されてからは大体10ヶ月経った頃だ。今までは騎士たちと訓練をしながら冒険者として経験を積んでいた。明日はついに王様から俺たちが召喚された理由が伝えられるらしい。俺たちが何故か境界山脈の方への依頼を受けれなかったのと関係してるのだろうか。

1の月、1の週、水の曜日、王都リズベル・王城

「さて、これまでの訓練、実戦の数々、ご苦労であった。3人を召喚して約10ヶ月。召喚した理由を、教えよう」

柄にもなく緊張してるのか、知らず知らず溜まっていた生唾を飲み込む。

「結論から言うと、魔族を殲滅して欲しい」

「魔族の、殲滅ですか?」

聖川が問い返す。

「そうだ。境界山脈は知っておろう?その反対側には魔族たちの国がある。魔族連合ルイン、魔国ルインとも呼ばれている。その国が人間を滅ぼそうとしているのだ。しかし、帝国と神国は我が王国が魔国との間にあるために危機感が無く、兵を出してくれない。魔族は個々の力は凄まじいが数は少ない。勇者様がたと我が国の兵たちが力を合わせれば必ずや魔族たちを滅ぼせると信じている」

「克也くん…」

「ああ、王国だけ異様に魔法が発達していない理由がわかったね。それと同時に最悪の事態だよ、ほんと」

「?」

「黒桜くん、魔族は魔法が得意な種族が多いんだ、僕らが召喚された異世界でもそうだったし、調べた限りこの世界でもそう。帝国と神国は秘密裏に魔国と技術交流してる。だから、帝国は1番小さい国ながら最強と名高いし、神国は神聖術……まぁ、光魔法の亜種だと思うんだけど、その技術が異様に高い。まぁ王国も光魔法だけは発達してるみたいだけど、魔族への切り札だろうし、それもそこまで強くはないから、ね」

「なるほどな…」

「……………して、返答は?」

「拒否します」

堂々と、なんの躊躇いもなく、聖川が言い切った。

「……………コソコソと隠れて何かしていたようだが、魔族に誑かされたか?」

ぞろぞろと兵士、冒険者が数人入ってくる。冒険者連中は全員が二つ名持ちか。どうするつもりだ?

「うわぁ……黒桜くん、ごめん。この人数は想定外だ。僕と奏で8人くらいなら問題なさそうだったんだけど20人近いときっついなぁ……それに、あの黒コートの剣士。アイツは別格だね。すごく強いよ」

「聖川………お前らは逃げろよ」

「いいや、僕らが残る。なんせ君は魔王から1番信頼を得てる人間だからね」

「は?知り合いに魔王なんていないぞ?」

「君が気づいてないだけさ。………さて、そろそろ敵さんが待ってくれないみたいだから逃げようか。いいかい?黒桜くん、君は絶対に死なずに逃げるんだ。僕と奏、魔王で確実に足止めする。大丈夫、秘策があるから死ぬ事はない」

「………信じるぞ」

「よし!逃げるよ!」

俺、聖川、百合川の3人を中心に周りを押し除けるように暴風が発生する。それと同時に謁見の間の扉が大爆発を起こして粉砕された。

「ナイス、奏!」

マジか………百合川ってこんなに魔法が上手いのか。百合川の魔法で道を切り開き、聖川が有象無象を切り捨てて逃げる。俺は何もすることがない。

「っ、ゼフ!?」

進む先に立つ男。冒険者活動の中で特に仲良くなったゼフというソロ冒険者がそこにいた。

「よう、シゲクニ、お前勇者なんだってな」

「今はそれどころじゃねぇよ!?」

「いやいや、重要だぜ、そこは。なんせ俺の正体は魔王ルゼフ様だからな」

「あっさりネタバレすんな!くたばれ!」

なんとなく察してはいたが。なんせ俺の知り合いなんてこいつしかいなかった言えるくらいに交友関係が狭かった。

「で、カツヤよ、逃げか?」

「想定外だよ。飛び抜けた1と精鋭が21」

「俺も合わせての3人でも13くらいか?」

「飛び抜けた1と精鋭8は無理だね」

「今のコイツじゃ無理か」

「将来性はとんでもないよ。22相手しても殺し切れる」

「やっぱりか?属性がえげつないからな、吹っ切れたら強い。変な方向に吹っ切れさせたくないけど」

「どうする?」

「まずは俺が残る。死ぬって分かってりゃやりようはある。半分は削ってやるよ」

「それなら僕も無茶しようかな」

「おいおい、お前はカナデがいるだろ。死ぬなよ」

「勿論さ、奏を残して死ねない」

「お前ら、なんの話をしてる?」

「ハッハ!気にすんなシゲクニ!」

「不穏すぎる、気にするに決まってる」

「まったくお前はよ………まぁいいさ、よく聞け」

「あ?」

「残してきた仲間にお前のことは話してある。俺が仲良くしてた女だけの冒険者パーティあったろ?アレうちの幹部連中だから、アイツらに仲介は任せた。お前を匿う用意はある」

「は?お前、なんの話を……」

「チッ、もう追いついてきやがった。……俺はな、長く生きすぎて疲れてた。だが、お前と過ごせた時間は楽しかったし、それで満足しちまったんだな、そろそろ寿命だ。これでもうん百年生きてるからな、最後に希望を託してジジイは先に天国で待ってるぜ!」

そう言ってゼフが後ろに向き直る。

「シゲクニ---」

「お前ら!まさか……!」

「後は任せた。皆を頼む」

「ッ!!!!!」

止まるな、止まるな。なるほどよく分かった。

「聖川!お前も死ぬつもりか!?」

「いいや、僕は死なない。奏もね。ただ、僕らは逃げれるんだ」

「は?」

「前に召喚された異世界、あそことの繋がりを持つ聖剣を僕は喚び出せる。世界を超える転移は消費魔力が大きいけど、(えにし)を持つ僕と奏だけなら渡れるんだ」

「お前、この世界に残ってたのは俺がいたからか?」

「そうだよ、けれど、それもなんとかなりそうだ。君が彼と、ルゼフと仲良くなってくれたから、君は魔族のところに身を寄せれる。まぁ、召喚された国が悪すぎて戦争に巻き込んでしまうのは悪いと思ってる。それも、君1人だけの状態になるだろうから」

「…………」

「ごめんね、黒桜。でも私たちも死にたくない」

「だから、最後に君と、君の未来へ贈り物をしようと思ってね」

「それが、敵戦力の消耗と、武器」

「追手は多分敵兵の中でも最強に近い連中だろう。僕らを削れるだけ削って、世界を渡る。君のポテンシャルはね、実は僕を超えてるんだ」

「魔法のスペシャリストとして召喚された私よりも、闇と重力の魔法は確実に上、それに黒桜は武器の扱いが上手い。武器さえあれば、化けるだろう?」

「だから、どうにかした武器がこの2つ。刀は永永無窮(えいえいむきゅう)。こっちの腕環が千変万化(せんぺんばんか)。四字熟語の意味は知ってる?」

「うん」

「2つとも意味としてはそのままだよ、能力もね」

「なるほどな……」

「それじゃ、ルゼフもそろそろ限界っぽいし、僕らも参戦してくるよ、黒桜くん。君はこの世界で生きてくことになるかもしれない」

「それでも、楽しいことも嬉しいことも幸せなことも必ずある。けして逃すな、掴み取れ。己の力で、な」

「じゃあね、黒桜くん。もう会うことはないかもしれない。けれど君と会えてよかったよ」

「少しの間だが話せてよかったよ、黒桜」

「………じゃあな、聖川、百合川。俺の方も迎えが来たみたいだから、お前らに迷惑かけないためにも行くよ」

むしゃくしゃする。自分の弱さが憎い。すぐにでも3人のところへ行って一緒に戦いたい。

「……行くぞ」

「……うん」

こうして冒頭へと続き、魔族と王国による最後の戦争へと、物語は加速していく---。

これ続くの?

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