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よろしくお願いしますm(_ _)m
World Online。それはVRMMOの中でも世界最多の利用を誇る、大ヒットゲームだ。
そのWorld Onlineで一番栄えている国にアルトテラ帝国がある。その帝都、グレースには今日も多くのプレイヤーがログインしていた。
プレイヤー達がグレースに集まる理由の一つにコロシアムがある。コロシアムというのはプレイヤー同士がお互いに負けた場合相手に渡す賞品を事前に決め、一対一で戦うことが出来る場所だ。
コロシアムは常に賑わっているが今日は一段と賑わいをみせていた。
「おい、あれって1ヶ月で三次職まであがったって噂の、剣鬼レオだろ?」
「ああ…すげー。俺、本物に会ったの初めてだ…」
「俺もだ!衣装も凝ってるよな、スーツなんてどこにあるんだよ、しかも黒」
口々に語られるのは驚嘆の言葉ばかり。
注目を集めているのは背中に大剣を装備した剣士の男だ。金髪に鋭い目付き、服装は上下黒スーツというまるでどこかのマフィアのような格好。
その特徴的な容姿にプレイヤー達は剣鬼レオだと確信する。
「しかし……なあ、剣鬼の相手。あれは誰だ?」
「わからん。見たことないプレイヤーだ」
そんな声が飛び交う中、剣鬼レオと謎のプレイヤーは互いに距離を取り、向かい合う。
戦いが始まることを察した周りのプレイヤー達は会話をやめ、静かに観戦する。
「では、今一度確認致しますが両者の掛けられた賞品はお互いの一番欲しいもの。これでよろしいでしょうか?」
審判を務めるNPCはいつもどおり、開始前の最終確認を行う。
それを聞いていた他のプレイヤーたちは、剣鬼が欲しがるもの?と首を傾げる。
当然だ。通常、掛ける賞品は金なら金額、武器、アイテム類ならその物の名称、という感じで具体的に伝える。
一番欲しいもの、なんて抽象的にしておけばうやむやにされる可能性があるからだ。
だからこそ聞いていたプレイヤーたちは戸惑った。
「ああ、それでいい。宗光、お前もそれでいいんだよな?」
「当然です。この為にわざわざこのゲームを買ったのですから。しかし貴方がトッププレイヤーで、剣鬼レオなんて異名までつけられているとは意外でしたね」
「だろ?だからこそ、ここにあいつがいたらもっと楽しいと思うんだよ俺は」
「どう思うかは貴方の自由です。ですがあの方の時間を奪おうというなら私に勝ってからにしてもらいます!」
「わかってるよ。だからこうしてコロシアムに来たんだろう」
審判を務めるNPCが戦闘区域から出る。
「……開始!」
そして一呼吸置き、そう宣言した。
開始の合図と共に、レオは三歩後ろに下がって距離を取り、剣先を相手へと向け、剣を構えた。
そして足の指先に力を込める。
「おい、剣鬼が相手のこと、宗光って呼んでたが、そんな名前のプレイヤー聞いた事あるか?」
「いや、ないな…。そういえばこの決闘のためにゲームを買ってきたとか言ってなかったか?」
「たしかにそう言ってたな。そこまでして欲しいものってことか。じゃあ現実世界で欲しいものってことかもな」
決闘を観戦するプレイヤー達は、賞品が何なのかという意見の言い合いや二人の戦い方の分析をする者など様々だった。
観戦人数も時間が経つごとにさらに増えていき、その人数は数百人を超えた。
それだけ大勢のプレイヤー達の歓声や会話は大きな騒音を生み出した。
しかしその騒音などまるで聞こえていないようにレオと宗光は二人の世界に浸っていた。
レオの職業は剣を使いつつ、魔法の詠唱もできる魔法剣士だ。
審判の開始の合図がされた瞬間に、レオは身体を加速させる効果のあるブーストを使う。そしてレオと同等のレベルのプレイヤーを一発食らわすだけで体力ゲージをゼロにすることが可能な業火の炎を起こす【インフェルノ】を詠唱しつつ、レオ自身は宗光に向かって一直線に走る。
だがレオがそう行動することを当然のように宗光が読んでいることをレオは知っていた。
だからこそレオがそう行動した際の宗光の行動を予測し、宗光の行動に対しての対策を考える。
インフェルノと剣、両方防がれるなら詠唱時間が短いボルトで一旦距離を取るか。
そう決め、インフェルノの詠唱を済ませたレオは剣を宗光の腹へと突き出す。
真っ二つに斬るつもりで腕に力を込め、薙ぎ払うように横に動かしたレオの大剣は宗光の腹へと直撃する。
宗光は迫り来る剣を避けるため後ろへ跳ぼうとして、そこで地面が赤く変わっていくのに気づく。
それを何らかの魔法攻撃と判断し、自分が剣を避けるため後ろへ跳ぶと思われていることを考え、魔法は自分を逃がさないための広範囲魔法だと考える。
ならば、と宗光はすでに腹を掠めていた大剣の下をしゃがみつつスライディングして躱し、起き上がることなくそのままスライディングでレオの真正面を突っ切った。
当然スライディングの勢いは落ちていたが、それは二丁の拳銃で自分の身体の後ろの地面に向け銃弾を放つことでブースターにし、スライディングの速度を加速させた。
想定外の宗光の行動に一瞬、目を見開き驚くレオだったが、ならば!と自分が詠唱したインフェルノの発動位置に立ち、インフェルノの爆発を移動に利用し、レオは空中へと跳び上がった。
そしてそのまま自分の体重を乗せて勢いの増した大剣を宗光の立つ位置へと突き刺すように落とす。
物凄い速度で上から迫る大剣に宗光は対応しきれず、ダメージをまともに受けた。
数分後___
「はぁ、はぁ…そういえば、お前。種族はエルフだったな」
「…そ、うですよ。相手の情報を、事前に調べていないとは……。あなたは既に負けているも同然ですよレオ」
レオの大剣の斬撃でコロシアムの端に身体を吹き飛ばされつつ、宗光は銃弾をレオの脳天に二発、レオが握る剣と手の間にさらに二発命中させた。
そして距離を取ったまま、互いに会話をしながら呼吸を整えた。
宗光は二丁拳銃を構えながら一歩一歩レオへと近づいていく。
宗光とレオはWolfというマフィア組織に所属し、組織で宗光はNo.3、レオはNo.1の強さを誇っている。
宗光を約1000人程が所属するWolfでNo.3に成れたのは銃の扱いが飛び抜けて上手く、さらにどんな銃を扱わせても上手く使いこなすからだ。
宗光の服装はどこにいても、常に黒髪、黒縁眼鏡に黒スーツに統一されている。
姿勢が良く、戦闘中だというのに服の乱れ一つないその姿からは二丁拳銃を持っているというのに気品すらも感じさせる。
「銃変換モード〈自動擲弾銃〉」
宗光がそう言うと同時に構えていた二丁拳銃の形が変わった。
「……っ!自動擲弾銃というのはですね、重量が30kgほどあり使いづらいので私も普段は使わないのですが、こういう次の手に困った時には便利なんです。なにせ、最大で毎分300-400発の連射速度で発射されますから。行きますよ!」
ドドドドッ!!
低い重低音が連続して鳴り響きとてつもない騒音を出しながら、銃弾の雨がレオに襲いかかる。
「っ!!シールド!」
「無駄です!」
「くそっ!」
防御膜を張るシールドを咄嗟に詠唱したレオだったがそのシールドは一瞬で破り去られ、銃弾の雨はレオへと直撃した。
「ちっ……容赦ないな、宗光」
「もちろんです。これは互いの望みを掛けた決闘なのですから」
「お前……全然楽しんでないだろ。たとえ決闘であろうが、これはゲームなんだ。もっと楽しもうぜ」
レオと宗光の相性は最悪だった。
同じ空間にいるだけですぐに喧嘩になる。まさに犬猿の仲だ。
宗光は緻密に計画を練り、ミスのないように進める慎重派だ。
一方レオは計画は何となく大まかにだけ決め、実行に移してから何とかする直感派だった。
そんな二人の仲を何とか取りもたせようとしているのWolfのNo.2黒瀬蓮だ。
そしてその黒瀬蓮の執事が宗光だ。ちなみにレオのクラスメイトでもある。
「……楽しむ?レオ、貴方はいつもそればかり。だから駄目なのです。もっと集中し、緊張感を持たなければそれが油断に繋がるのですよ!」
「宗光、お前は緊張感を持ち過ぎだ!それに頭も固い。ピンチに陥ったらもっと柔軟な思考が必要とされる。その訓練にもこのゲームは丁度いいだろ、命の危険もなく、その危機を体験できて解決方法まで探すことが出来るんだからな。それにお前の好きな緊張感もこれでたっぷり味わえるぞ」
No.1からNo.3までの三人の実力に差はほとんどない。それぞれが自分だけの強さを持ちその力は均衡しあっている。
だがその性格はバラバラだ。
レオは好奇心旺盛、直感型、仲間思い。
黒瀬蓮は大人しめ、温厚で自分より他人の意見を尊重する。
宗光は計画的で頑固、真面目だ。
そんな三人に唯一共通点があるとすれば、どちらも女性が寄ってくる容姿をしていることくらいか。
この決闘は黒瀬蓮をWOに誘うか誘わないか決めるものだった。
「必要ありません。訓練などしなくても実戦で経験を積めばいいのです。計画さえしっかりと立てれば危険など生まれない」
「宗光が計画を重視していることはよく知ってる。だけどお前にだってたまには息抜きも必要だろ。たまにでいいから少し肩の力を抜いてみるのはどうだ?」
「だから貴方のそういう所が嫌いなのです。そういう油断が命取りになるのですよ!それにゲームなどそんなことをやる暇があるなら現実の実戦で鍛えるべきです」
「いやお前、今ゲームしてるだろ?」
「……なっ、それは貴方が蓮様をゲームに誘うというから!」
「でもしてることに変わりはないだろ?それにさっき、……じどうてきだんじゅう、だっけ?あれを使った時、少しは気分が上がったんじゃないか?」
「……なっ、違いま」
そうレオに言われ、宗光は一瞬あの時を思い出し、慌てて否定しようとして、
「あれ?二人とも、何してるの!?」
賞品の人物の声が聞こえてきた。
ありがとうございました。