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異世界転移した男の物語  作者: デニ
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第四話

まとめました

「この者を連れて行け」

ニーナと名乗った女性は、後ろに控えていた騎士達にそう言った。百九十センチはありそうな大柄な男が俺の前にガチャガチャと音を立てながら近づいて来る。


「団長の手を煩わせるな、行くぞ小僧」


低く有無を言わせない物言いだった。


 俺は一団に連れられ、馬車まで案内された。

馬車は数台あり、どれも純白の装飾がされており。馬車の周りには数十人の騎士達が悠然と整列していた。白銀の甲胄が日の光で輝いて見える。

聖騎士とでも言えるその見た目は、男心に来るものがあった。

そのまま騎士の一人が馬車の扉を開き中へ促す。

隣にはサテラが座り、前にニーナが座った。


 間も無く、馬車が移動を始めた。そう言えば馬車には初めて乗った。だがこういう形で乗りたくは無かった。


「珍しいか?」


俺がキョロキョロとしていたのが分かりニーナは俺の顔を見てそう聞いてきた。


「はい、馬車に乗ったことがないので」

「ほう」


目つきが鋭くなるのがわかった。


「ニーナ、捜索してたんじゃないの?」


サテラがニーナに質問をぶつけた。張り詰めた空気が和らいだ気がする。


「別部隊もいるのだ、帝都に戻りまた来たら良かろう」


特に気にもせずそう答えた。


「それから、私個人としてもニーナ殿がどういう風の吹き回しで、この者を囲っているのかが気になっていたのだ。人間が嫌いなニーナ殿だ、よもやその者は魔族ではあるまい?」

「違います」


俺は即答した。


「まあいい、もう一度其方の事を聞きたいがよいか?」

「ええ、勿論です。私は月見浩二と言います。記憶を無くし彷徨っていた所をサテラさんに助けられました」


ニーナの刺すような瞳をこちらに向けてきた。


「ええ、本当よ」


サテラが頷いた。

ニーナはそのままフンと鼻を鳴らした。


「記憶がないのか、馬車に乗ったことがないと言っていたしな。信じるぞ?」


念を押すようにしてそう聞いた。


「構いません」

「コウジはね最初は言葉も話せなかったの」

「言葉すらか!?確かにコウジ殿の発音には少し違和感を覚えていた。ああ、失礼、コウジ殿と呼ばせて頂く」

「構いません」

「だがそうだとすると記憶が無くなるまでどう生きたのだ?いや、聞いても分からぬか」


 サテラと考えた作戦は記憶喪失ということで行く作戦だった。この世界のことも分からなかったし、何も分からなかったので間違っては無い。


 ニーナは何やら考え込んでしまった。


「まあそれも帝都についてからだ」

「帝都の何処に向かうのですか?」

「騎士団の詰所だ、それと当分の間、帝都で生活してもらう事になる為に居留できる場所を手配する、サテラ殿もよろしいな?」

「ええ、そこまでしてくれるのなら文句も無いわ」

「それにしてもニーナ殿とこんな場所で会えるとは思わなかったぞ。あれ以来、私も忙しくなってな、今や帝都でも有数の騎士団に上り詰めた」


 会話が終わり、沈黙が場を支配していた。

それはそうだ、容疑者として連行されているからだ。


 どれぐらい経ったのか、馬車が停止した。


「団長、一度、食事にしましょう」


外からそう声を掛けられ。ニーナは「わかった」と返事をした後、俺達のことも案内してくれた。


馬車の近くで、火を焚き、騎士達は各々調理の準備を始めた。


「彼らは剣の腕だけではなく、調理も出来る、生憎、私は剣の腕だけしか才能はなかった様だがな」


ククっと自傷気味にニーナは笑った。


 騎士団の人達は総勢15名程いた。残りの15名は、捜索を続けている様だ。


「アルベルト、伝令鳩の用意を」

「はっ!」


ニーナがアルベルトと呼ばれる騎士にそう言い、アルベルトは馬車に向かって行った。

その間にも騎士達がテキパキと要領よく料理を作り30分程かけて出来上がった。


「サテラ殿、コウジ殿、遠慮せずどんどん食べろ」


火を囲んで各々食べる食事は、少し懐かしい気分にさせた。

俺とサテラは丸太に腰を下ろし、持ってきた肉と野菜を食べていた。

騎士達もヘルムを脱ぎ食事を始めていた。

食事をしていると一人の騎士が近づいて来る。


「サテラさん、あなたの武勇は団長からお聞きしました。貴方にお会いできて光栄です」

「ありがとう、えっと」

「ガレンと申します、では失礼します」


チラリと俺の方に目を向けるガレン、そしてすぐに騎士達の所へ戻って行った。


俺達が食べ終わる頃にニーナが此方へとやって来た。


「そろそろ出発する」


それからまた馬車に乗り込んだ。


 夕暮れの山は不気味な様相を呈していた、木々の隙間から見える真っ赤な日は地面に黒い影を落とし森の中を進む馬車の音や遠くで獣の吠え声がまるで地獄へ向かっている気分にさせた。


「サテラ殿、わかるか?」


突然、ニーナが、緊張した声色でそう言った。


「見られているわね」


サテラも同様に何かを感じているらしい。


「団員、迎撃の準備を整えろ!」


ニーナが声を上げた。


「サテラ殿、コウジ殿、ここで待っているのだ」


 そう言って金髪を靡かせ外に飛び出した。 外の様子は分からないが、静まり返る空気に自然と緊迫した雰囲気が漂って来る。


「何者だ!出てこい!」


ニーナの怒号が聞こえる。


 刹那、突然地鳴りが響いた、ゴゴゴと地の底から鳴り響く音、乗っている馬車が小刻みに揺れ、そして、地獄から聞こえる様な、恐ろしさを感じさせる咆哮が何処からか聴こえた。


ーーやばい


何がやばいかは分からないが、何かとんでもないことが起こる予感がした。


「出るわよ!」


サテラに手を引かれ外に飛び出す。


 飛び出した先に騎士達が居た、そして、ニーナの立つ先に真っ黒い何かが立っていた。

それを見た瞬間に、全身の毛穴から冷や汗が滲み出る感覚があった。


ーー駄目だ......


恐怖が体の自由を奪う、まさに、恐怖が形を持っていた、恐怖の権化。


 そして、その黒い影が徐々に形を成していく、2メートル以上はあるその影は、額に角があり、青い皮膚、身体には赤く発光する紋様が、脈打っていた。


ニーナが焦った声で「アルベルト、伝令鳩を飛ばせ!!」と言った。


「よくも、我が子を殺したな、お前達は全員殺す。お前達の国を滅ぼすまで我の歩みは止まらん!!」


突然、発せられた言葉に違和感を持った。


「な、何を言っている!!」


ニーナは言葉が理解できていない様だ。


それはそうだ。


ーーだってあの言葉は、日本語に聞こえるのだ。


 何故その言葉を喋っている?謎が謎を呼び頭がひどく痛くなる。


「魔人ディアブロ.......」


サテラがポツリと呟いた。


「攻撃開始!!手を休めるな完膚なきまでに潰せ!!騎士団の力を見せてやれ!!」


 ニーナの叫びと共に、騎士団達が一斉に攻撃を開始した。騎士団の一人が、火に包まれた剣を、ディアブロに振り下ろす。しかし次の瞬間、ディアブロの姿が横にブレ、騎士の頭が下にコロンと落ちた。あまりの瞬間的な事に皆、唖然と立ち尽くす。腕を横に振るった。それだけなのに。


「恐れるな!行けぇええええ!」


 その声と共に、騎士達から発せられた火の玉やディアブロの頭上から雷が落ちた。

耳を塞ぎたくなる様な爆音が鼓膜を伝って脳を揺らした。


ーー直撃だ!


 相手も無事では済まないだろう、巻き上げられた砂埃がディアブロの姿を覆い隠した。


ーーどうなった!?


 10秒、20秒と時間が経ち煙の中で黒い影が未だ倒れずに立っていた。そして、その姿を現したディアブロは平然とした顔でーー


「軟弱な魔力だ」


そう言った瞬間に姿はかき消えた。


 それからは一方的な、暴力の嵐だった。

振るった腕が、二、三人を吹き飛ばし、騎士が振り下ろした剣を腕ごと吹き飛ばした。

無くなった腕から夥しい程の出血が見られ、地面を転がり回る騎士。


 阿鼻叫喚の地獄がそこら中で繰り広げられている。


ニーナがこちらを見ずに大声で叫ぶ。


「逃げろ!!」


その言葉がきっかけでサテラは、俺の腕を引き走り出した。

俺とサテラは夢中で走った。後ろを振り返らずに

走りながら、恐怖で竦んでいる身体に鞭を打つ様に。ただただ、恐怖から逃れる様に我武者羅に走った。

圧倒的な力を持った魔族、人間を易々と破壊しその怒りを振るった。後ろの方から、叫び声が聞こえてくる。悪夢だ、血に染まった様な空模様がまるでここが地獄だと言わんばかりに目に焼き付いている。

どれぐらい走っただろうか。

気が付けば、声も聞こえず静寂が包む世界へと変わっていた。


「逃げ切れた様ね.......」


息も絶え絶えでサテラは絞り出す様にそう言った。


「うん」

「でも、まだ安心出来ないわ、移動しましょう」


 俺達は無言で走った。

もう当たりはすっかり暗くなっていた。

見えない、何も見えないが。俺とはぐれない様に小さな手でしっかり握ってくれていた。

それが俺にとって何よりもの救いで、俺の中でサテラは掛け替えの無い存在だった。

俺と言う存在を見て、知って、受け入れてくれて。俺は無事に戻れる事を祈りながら歩みを進めた。


  森の様相は不気味なほど静かだった。

揺らめく木々が、心のざわめきを表すように揺れていた。騎士団の人達はどうなったのか、逃げ延びたのか。いや、きっとやられたに違いない。

皆殺しにすると言っていた、あの魔族の男ディアブロはきっと俺達の事を追って来る。

俺達はただただ、前を向いて走るしかなかった。

思い出す、憎悪に染まった声色、あの地獄から這い出て来たかのような恐ろしい見た目。

魔族と言うのは、人間に恐怖を植え付ける存在だった。勝ち目が無い、何をされたのかもわからない。ただただ、いとも簡単に命を奪っていく圧倒的な力を持つ者。あれが、ゴロゴロ居ると考えるだけで、良く今まで人間は生きてこれたなと思う得るほどだった。


 家が見えた。少しの安堵と同時に不安が走る。

追って来てないだろうか?

急いで部屋に入り、サテラと共に息を殺して、夜が明けるのを待った。長い長い夜だった。

待てど待てど一向に明けない夜は俺の精神を擦り減らすには十分すぎた。だが、そんな俺の気持ちを察したのか、何も言わずに手を握ってくれるサテラの存在が、俺にとっての救いであった。

サテラがどう言う気持ちでいるのか分からないが、きっと自分も恐ろしいと感じているに違いない。そのような状態なのに俺の為に励まそうとしている姿は愛おしく思えた。


 そして、気が付けば外が明るく光っていた。


ーー朝かーー


いや、違う!!!


そう思ったーー


周りが、ゆっくりに見えた、壁が音を立てて崩れ、その間から眩い光が見えた。


「あ」


そう口から漏れた。


 俺は咄嗟にサテラを抱きしめ、覆い被さった。

その直後、鼓膜が破壊される様な、爆発音がビリビリと身体を走っていった。

ーー熱い、刺すような熱さを背中に感じた。


「あああああああああああ!」


 喉から血が出るほど叫んだ。

腕の中に居るサテラを離さない様に強く抱きとめ、耐えた。耐えた耐えた。

途端、恐ろしい迄の暴風が俺の身体を浮き上がらせた。激流に飲み込まれるように前へと吹き飛んだ。



ガツンと、何かに当たった。痛みは無かった。


そのまま、地面に叩きつけられゴロゴロと転がる。


 両腕で抱きしめ、離さないと思っていたのに、その時、何故か簡単に離れてしまい、サテラが俺の腕を離れ地面に転がる。


そして気が付いた、左腕が焼けるように熱い、自分の左腕を見たが肩から先が無かった。


ーー腕が無くなっちゃってる.......どうしよう.......


あまりの出来事にそれが、現実だと受け入れられなかった。


 少し離れた位置にサテラは倒れていた。

側まで行かないと。俺は右腕を伸ばし、這いつくばりながらそこに向かう。抉れ肩から先が無くなった場所からは血が大量に流れ出し地面を赤く染め上げていた。


サテラの側に誰かの足が見えた。

俺は視線を上に向けた。


あの魔族が立っていた。そして、倒れているサテラの首を掴み持ち上げた。サテラは気を失っているように手足は力無く垂れていた。


「やめでぐだざい」


叫びんだせいで喉を傷付けていたのかガラガラとした声でそう言った。


「なんでもじばす、彼女はたすげてくだざい」

「だめだ」


肉が潰れた音がした。動けない、視線も逸らせない。俺は見た。


「かひゅ」

と言う息がサテラの口から洩れた。

それが彼女の最後だった、魔族によって握り潰された彼女の首はボトリと後ろに落ちた。

下に落ちた、首のない胴体は、脊髄反射のようにビクビクと震えていた。


「あ」


あまりにも呆気なく、そこに情緒など何も無く彼女は突然訪れた死の片道切符を手にした。もう戻ることがない事切れた屍に対し魔族は興味を無くしたようで、俺の元にゆっくりと歩みを進めた。


「ひゅ」


俺の口からは息なのか声なのかわからない音を発していた。


嘘だ嘘だ嘘ダウソダウソだ。


「お前は何故、我々の言葉を喋っている、お前は何だ」


もはや、相手が日本語を喋っているとかはどうでも良かった。

視界が歪んでる。ああ、楽になりたい。

もう嫌だ。おかしいのは俺なのか?俺は狂ってる?狂ってないと耐えられない。サテラーー

会いたい、温もりを感じたい。



起き上がりゆらゆらとサテラの頭が転がっている所に、向かった。


サテラの瞳は輝きを失い、遠くを見ているようだった。ふと、あの殺された子供と重なって見えた。そして同じような表情をしていた。

サテラの首を持ち上げる。

走馬灯のように、サテラと過ごした日々が蘇る。

決して長くは無い、だけど、この世界で唯一出来た俺の味方で恩人だった。そして何より俺は彼女のことが好きだ。大好きだった。


 まだ、少し濡れていた唇にそっとキスをした。

掛け替えの無い人だった。だったのに

だったのに

幸せに暮らしたかったのに

奪われた

俺の全てを奪った。

彼女は俺の全てだった。

何故こんな酷い仕打ちを?

俺が何をした?

悪いのは誰だ?

誰だ?

誰だ?

誰?

お前か?

おい、こう言うのが好きだったんだろ?

こういうストーリーが好きだったんだよな?

人を殺して楽しいか?

だけど主人公が成長する為に必要な犠牲だよな?

思い出した。


ーー俺は思い出したのだ。


これはゲームだったんだ。

これが現実な訳があるか!

剣と魔法の中世ヨーロッパ風の世界の物語だった。


「答えろ、何故我々の言葉を喋れるのだ」


思い出したぞ!


これが現実なわけが無いんだった。


ーーああ、視界が少し暗いぞ。


なのに何でこんなーー悲しいのか

それはサテラが死んだから。

だけどここはゲームで、生き返らす方法は有るはずだ。


「答えろ!!下等種族が!!」


あのNPCキャラのサテラには愛着があった。

何故気がつかなかったのだろうか。


俺は********を止めなければならない。


「まあいい、お前もすぐにその女の元に送ってやる」


ーーさっきからぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐと煩いな。

[ステータス]

名前:魔神ディアブロ

種族:魔族

レベル:68

HP:500/500

MP:25/100

STR:200

DEX:500

INT:50


ーーはは、本当にゲームの世界じゃないか!


 俺は確信した。俺は騙されていたのだ。このクソみたいな世界に閉じ込められ、それがあたかも現実かの様に錯覚した。本物のバーチャルリアリティー。

気がつく事が出来て俺は幸運だった。


サテラには本当に感謝しても仕切れない。


ーー俺の情報を教えてくれ。


名前:月見浩二

種族:人間

レベル:10

HP:3/20

MP:∞

STR:20

DEX:30

INT:500


[限界突破][熟練度100倍]


状態異常:出血 

    :狂気

    :混乱


ーーわからない。技とかわかったとしてもどうやって出すのかわからない。


「死ね!」


 魔族が沸を切らし此方に向かって来た。

それがやけにゆっくりに見えた。


 俺はサテラに言われたことを思い出す。

魔力制御、自分の魔力を相手にぶつける。

そうか、やってみよう。

俺は拳に魔力を乗せて魔族に向かって振りかぶった。


空間が歪んだと思ったらーー


魔族の居た場所が爆発した。


あまり衝撃で前方の木々が地面ごと抉れてへし折れていく。


その後に残ったのは捲れ上がった地面だけだった。


ーー倒した........


それは酷く呆気なかった。

だってただのゲームで、チート能力を持った俺にはーー

突然、頭の中がシェイクされる感覚に陥った。

痛い、痛い痛い痛い痛い。


頭が痛い。

口から大量の吐瀉物を撒き散らした。

それから俺は膝をついて倒れた。





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