第三話
まとめました
この世界には何もなかった。
無だ、あるのは不毛な大地だった。生物も居ない、何も居ない世界だった。
何かを欲した世界は、神を創り出した。
神は何かを欲する世界に応え、生命体を創り出した。最初に創り出した生命体はこの世界に水、火、土、風を作る魔素を生み出した。
そして、この生命体は何も無い世界を喰らい世界に色が着きだした。
次にこの生命体は識る者を欲した。溢れた魔素と共に生き、この世界の色を濃くするものが欲しくなった。
そして何より、この生命体は孤独だった。なので、純粋な生物を創り出した。 ドラゴンの誕生である。
ドラゴンは地を空を海を自由に駆け回った。しかし、致命的な欠点があった。最初に生み出したこのドラゴンは子をなす事が出来なかったのである。
なので生命体は、魔素と共に生きる種族を産んだ。土と共に生きるドワーフ、風と共に生きるエルフ、火と共に生きるドラゴン、水と共に生きるウィンディーネ――
様々な生物が産まれた。産まれた生物は子をなす事ができ、次の世代へと引き継ぐことが可能になっていた。
しかし、魔素と共に寄り添い続ける彼らは魔素をどんどん溢れさせた。溢れ出た魔素は大きな災害を引き起こした。世界のバランスが崩壊しかけた。
それを見ていた神は、魔素の調節を任せる二人の小神を造った。男神、女神だ。そして女神が作ったのが人間だった。
しかし、女神の予想に反し、人間は凄い勢いで、勢力を広げていった。知恵を持ちすぎてしまったのだ。人間は新しい物を作り出す力に長けていた。
英雄、マルディオス率いる人間の軍勢が元から居た何種類もの種族に対して宣戦布告を行い、人間に追いやられたり滅ぼされたりもした。
これを見ていた男神は怒り人間に対抗できる種族、魔族を造り出した。
初代魔王、エルデバラン率いる魔族の軍勢は人間に宣戦布告した。これが第一次大戦。今から1000年以上前に起こった戦いだった。
その壮絶な大戦では夥しい数の命が散って逝った。
マルディオスは人間の国家を作り、一方エルデバランは魔族の国家を作った。
これが今なお続く、人間と魔族の争いである。
「と、まあざっと話すとこういう話があるわ」
サテラさんは、俺に歴史を話していた。
「ほかの種族はどうなったんですか?」
「そうね、大体が魔族に付いたわ、一部、エルフやドワーフ等は人間側に付いているけど、といっても、エルフとドワーフは人間の作り出す品物に興味があって付いてるといった感じだけれども」
「もっと色々教えてくれませんか?この国のことも」
この国は、ファイファル帝国と言われていた。アルフレイル・アドルフ・ファイファル皇帝が200年前に建国した、現在は5代目の皇帝だそうだ。
強大な軍事国家みたいだ。
そして、今居るところは首都から離れたところにある僻地のようだ。
そのほかにも、
ドーラ王国、臆病な国王ドーラ・フェン・シュルゲンが国の周りに巨大な城壁を作らせ鉄壁の国家となっている。
ファミリア法皇国家、元神父の男、エルドラ・ライコックがある日、天啓を聞いて、世界を平和にするために信者たちと共に作り上げた国家。
ガレイ魔法都市という4人の賢者が国を守護し、国王は国民の選挙で決まる資本主義国家。
セイレル共和国、獣人で集められた国家
ラダリス同盟国、元海賊の男ラダリスが立ち上げた国で、主に貿易の武器の輸入などを積極的に行っている。海の女神ウェンディーネに祈りを捧げる為に、皆仮面をつけて踊りを踊ると言う行事がある。
空中都市、ドラゴンが住むとされている場所。
捨てられた大地、魔族が住んでいるとされている。魔族たちも独自の国家がいくつかあるらしい。
取り敢えず、この様な国家があるようだ。俺は本当に異世界に来てしまったみたいだ。
魔力の制御やら魔法やら魔王やら魔族やら獣人はたまたドラゴンなどがいる世界。
この世界にちゃんといると言う実感が今になって湧き上がってきた。今までは日々必死だったが漸く少し落ち着いた、と言うか心に少しの余裕が生まれたと思う。
「さてとそろそろ夕食にしましょ」
サテラさんがそう言ってキッチンの方に移動していった。
その後ろ姿を見ながら、いつまでもこの人の世話になっていいのかという疑問といつまでも居たいという願望が同時に襲ってきた。
ステラさんにじゃ感謝しても仕切れ無い、熱い何かが胸の奥から込み上げてきた。
ーー何か望みはあるのかな?
何かあれば叶えてやりたいと、この人の為なら出来るだけ力になってあげたい。
その日の夕食は少し暖かい味がした。
次の日、サテラさんと狩りを終え家に戻ると見慣れない馬車が止まっており、一人の男性が此方へ向かってきた。白髪の人の良さそうな笑みを浮かべた40代ぐらいの男性だった。
襟元には金の刺繍がしてあり、高そうな生地の服を着ている。
「どうも、サテラさん、それとーー」
と言いチラリと此方を見やった。
「コウジと言います。サテラさんのーー」
俺もサテラさんをチラッと見た。
「彼は私の弟子みたいなものよ」
「ほう、サテラさんが弟子を取るとはよっぽどの逸材なのですね」
ニッと歯を見せて笑う男。
「では自己紹介をしましょう。私は帝国の調査員ヒュードルフ・ハンソンと申します。以後お見知り置きを」
「こちらこそよろしくお願いします」
「では、早速ですが今から日が二十五回程沈んだ前に伯爵の御令嬢が行方不明になりまして、何か心当たりがあればーー」
「いえ、ありません」
サテラさんはそう言ったが、俺は内心というか心当たりが合った。しかし、もしそれを言ったとしたら必ず迷惑がかかるそして何より、俺はそれを見た後に、その場所で物を盗んだ。疑いが掛かるのは明白だった。
「そうですか、ああ、それよりサテラさん。ギルド長がお呼びですよ。いつになったらギルドに復帰してくれるんだって」
「いえ、戻る気はないわ」
「そうですか、またあなたの活躍を見たいですね雷姫のサテラさん」
「煩い、その名で呼ぶな」
「あらら、気分を害した様です。では私はこれで」
そして馬車に乗り込もうとした時に急に立ち止まる。
「そう言えば、実はここから遠くない所で乗り捨てられた馬車が見つかってね。伯爵の家紋が有りました。そして、やはりというか野盗か何かに襲われた形跡が有りました。だけど妙な事に衣服が無くなっているんです。可笑しいですよね。少しの間ここら辺に騎士団の方達が彷徨くと思うので怒らないでくださいね。では、失礼します」
ドキリと心臓が跳ねた。手が急に汗ばみ、少し目眩がしてしまう。気がつかれている?いや、そんなは筈はない。いや、もしかして誰が見ていた?
考えれば考えるほど不安の連鎖でぐちゃぐちゃに思考が掻き回された。
馬車が言った後に、そのまま家に入る。
「ねえ、コウジ、あなた前に人が殺されているのを見たって言ったわよね?あの魔族が殺される前に」
ーーやはり、覚えていた。そして俺はサテラさんには、嘘は付けないと観念し正直に事のあらましを話した。
「なるほど、ね」
ふぅーと深いため息を吐いて、真剣な面持ちでこちらを見た。
「なるほど、そう言うことなのね」
「ごめんなさい」
「謝らないで頂戴、仕方のない事だとは言え、いえ、もう過ぎた事を言っても無駄ね、先ず、これからどうするかを考えましょう。あなたの着ていた服はこちらに持ってるわ。他にはこの金貨ね。それだけ?」
「いえ、後ナイフも持ってきてました」
「それはなかったわ、もしかして、コウジを運ぶ時に落としたか、あいつらが持っていっちゃたのかしら、もしそうなら厄介な事になるかもしれない」
ーーたしかに、何処かで出所がバレる可能性が有るかもしれない。
「もし何かあったら私からもちゃんと言ってあげるわ、心配しないで」
「すみません、迷惑掛けてしまって」
サテラさんは笑顔をこちらに向けて、俺の頭を撫でた。
「そんな顔しないで、大丈夫だから。さあ、取り敢えず食事にしましょう」
なんだかとても嫌な予感がした。そして今朝見たあの男、恐らく、目星は付けているのかもしれない。サテラさんに迷惑掛けれない。この家から出て行った方が良いのかもしれない。心臓の鼓動がやけに大きく聞こえた。
それからの俺は、気が気ではなかった。
逃亡中の犯罪者とはこう言う気持ちなのだろう。
俺は、言うなれば伯爵令嬢を見捨てて逃げてしまったのだ。あまつさえ、その現場に戻り金品や衣服を漁り取って来てしまった。いや、あの時は仕方が無かった。仕方なくやってしまったのだ。
ーー俺は関係ないーー
そうだ、確かに関係が無い。しかし、他の人達から見たらどうだ。
ーー何故報告しなかった。 何故馬車の物をお前が持っている!
そう言われるのは明白だ。
サテラさんに、もっと早く言うべきだった。
いや言ったところで盗んだ事には変わりが無い。
ーー俺はこの国の言葉も話せない。ここがどこかもわからない、そして何よりも裸だった!
いやいや、駄目だろう。そんなのが通じるはずがない。俺だって他の人から裸だったから服を拝借しましたと言われたら、信じることが出来ない。
ーーならどうする?
正直に言ったところで他者から見たらただの見苦しい言い訳に思えてくる。あのハンソンと名乗る人物に顔を見られた。あの人は不気味だ、そして、消えたナイフ、あの俺を運んだ冒険者達が取っていったのだろうか、もしかしたら、運ばれている時に落としてしまったかも知れない。
あの冒険者達は伯爵令嬢が行方不明になった事がわかり捜しに来た人達かも知れない。サテラさんはあの冒険者と知り合いだと言っていた。
ーーああ!考えれば考えるほど思考の渦に呑まれていく。
サテラさんに、これ以上迷惑を掛けれない。ここを出る事を言わなければ行けない。俺は意を決して言う事にした。
リビングで飲み物を飲んでいるサテラさんに俺は自分の思いを言った。
反応は無かった。そして一言。
「駄目よ」
ーー何故
「考えてもみて頂戴、コウジあなたが突然居なくなった。それは自分が関係ありますと言っている様なもの、指名手配され追われるのは明白よ。
多分だけど、あのハンソンは目星を付けていると思うの。今逃げると余計、疑われるわ。私に任せなさい」
ーー確かにそうだ。軽率な行動を取ればサテラさんに迷惑を掛ける。
だが、サテラさんは、何故そこまでしてくれるのか俺にはわからなかった。
「なんで、見ず知らずの俺にそこまでしてくれるのですか?」
聞いてしまった。いや聞いておかなければ行けない何か理由がある筈なのだから。
「そうね、昔、私はね、弟を失ったの」
ゆっくりと思い出す様にサテラさんは語り始めた。
「昔、私が、冒険者として活動していた頃、パーティーを組んでいたの。四人のパーティーで、私と弟、そして僧侶の男性と騎士の女性、私たちは、色々な任務をギルドから受けていたわ。それをこなしていくとギルド内でも名前を知られる様になったわ。
そして、ある時、ある貴族からの指名任務が入ったの。娘が囚われた救い出して欲しいという任務だった。正義感が強くパーティーのリーダーだった弟はそれを受けたが、私はどこと無く嫌な予感をしていた。そして、それは現実となった。
山の奥で囚われていたのは魔族の女だった。そうとも知らず解放した途端、その女は暴れ出し、私達の制止を振り切り、街へと向かって行き沢山の人を殺したわ。そして、私達に依頼を寄越した貴族がその魔族を殺し、英雄として讃えられた。一方私達は、魔族と繋がっている容疑を掛けられた。私達は騙されたと抗議した。しかし、その貴族は、その様な依頼は出していないと一蹴された。そして、弟が国家転覆罪で捕らえられ、処刑された。
弟は、私達に迷惑はかけまいと何も言わずに罪を被ったの。世間では弟が私達を脅し、無理やり手伝わされたと言う事になっていた。
皆、哀れな目で私達を見ていた。
それから、私も自暴自棄になり記憶があまり無かったわ。 パーティーも解散になり皆散り散りになった。そして私はーー」
俺は何も言わずにサテラさんを抱きしめていた。
震える身体を癒す様に、強く抱きしめていた。
「私はあなたを弟と重ねていたのかも知れない」
耳元で紡がれた言葉がすとんと胸に落ちた。
「嫌な記憶を思い出させてしまい、ごめんなさい。俺はこの世界に来てまだ分からないことが多いです。自分の軽率な行動であなたに迷惑をかけてしまうと思います。だけど俺はあなたに出会えて良かった」
「私もよ」
「俺は貴方の為に生きたい」
口に出した途端にカッと顔が熱くなった。
いつからだ、俺はサテラさんを一人の女性として意識していた。それが今実感を持ったのだ。
それから、その時が来るまでサテラさんと寄り添う様に、時を過ごした。
ーーー
そして、ある日、突然荒々しく入り口のドアが開け放たれた。
白い甲冑に身を包んだ男たちが部屋の中へとなだれ込んでくる。
いや、男だけではない。
透き通った金の髪をなびかせて、男たちの後を悠然と歩いてくる女性。
意思の強そうな瞳は、何事も押し通すと言った気概を感じる。
「ファイファル帝国騎士団団長、ニーナ・ハイランドである。久しいなサテラ殿、早速だが、今から5つの日が沈む前に帝都が二度、魔族の襲撃に遭った。魔族によって、大勢の民の命が奪われた。魔族はそのまま何処かへと飛び立ち行方知らず、そして王命によりこの辺り一帯の捜査を命じられた。して、サテラ殿、聞きたい事がある、17の日が沈む前に其方の家に不明な男を囲っているという情報がはいった。どうやらその男はフェイラル伯爵の刻印が入ったナイフを持っていたと言うこともわかっている。フェイラル伯爵の御令嬢が攫われたと言うことは知っているな?未だそちらも発見には至っておらん。わかっていると思うが、その者を参考人として帝都へ連れていく。その男を出してもらおうか」
ニーナと名乗った女性騎士の声は凛と通って、その見た目に似合わず、力強く、人の上に立つ者の有無を言わさない調子があった。
「いないわ」
ニーナはフンと鼻を鳴らす。
「冒険者ギルドに捜索を依頼したのだ。この差し迫った事態においても、冒険者という奴は金でしか動かない。唾棄すべきことだが、この一事が金で済むことであれば是非もない。然るべき報酬を用意したら、すぐに報告があった、サテラ殿、昔のよしみだ、今の言葉は聞き流す」
あの三人の冒険者達だ
「さあ、男をこちらへ渡せ」
ニーナの言葉に、サテラはーー
「彼は違うわ」
「それはこちらで判断することだ。身柄をこちらへ渡せ」
ニーナは更に詰め寄って来る。
「それは出来ないわ」
ニーナの纏う空気が一変する。
激しい怒りに満ちた目が、サテラを射抜く。
「それは、我が王家に、叛意あり、と受け取ってよいのだな?」
一句一句、言葉が実際の重みを持つように、ニーナはそう言った。
「ニーナ話を聞いて」
ダン!と激しい音を立てて、ニーナが壁を打ち据える。
「何万の民が同じ想いをしているのだ!貴様の手前勝手な考えのために、その静かな暮らしを奪われる者たちがいるのだぞぉっ!」
烈火の如き迸り。
怒りが、その女性の体を支配していた。
「知らないとは言わさぬぞ!いつ来るかわからない魔族に今この瞬間にも民は怯え続けているのだ!街は焼かれ、村は滅び、魔王の侵攻は王の喉元まで迫っている!父も!母も!死んだ!私も死ぬ!民のために戦って死ぬのだ!」
凄まじい怒りの奔流。
目の前の女性から発せられたとは思えないほどの激しい怒号。
「サテラ殿、そなたにも戦ってもらうぞ。その命、我が王家がもらい受ける」
圧倒的な意志に睨み据えられた。
そのニーナの怒りを遮るように、サテラは前へと出る。
「彼は渡しません。もう二度と同じ過ちはしたくない」
ニーナの目が明らかな侮蔑の色を放って、冷たく細められた。
「弟殿だな?安心するがいい。あの様な事はもうおこさん。その男が無実であればな」
「信用してもいいの?」
「そうか、そうだったな。私達は騙された者だった。信用できないのも無理ないか。私が責任を持ってその男を預かる」
「コウジ」
俺は、隣の部屋から姿を見せた。
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