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異世界転移した男の物語  作者: デニ
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第二話

 最初にぶち当たるのが言語の壁だったがお互い絵を描いたり、ボディーランゲージでそこはなんとかなった。

サテラさんは俺を空き部屋に案内してくれた、もしかして住まわせてくれるのか。

見ず知らずの、俺になぜここまでの親切を働いてくれるのか、わからないが感謝しても仕切れない気持ちだった。


「ありがとうございます」


俺がそういうと、サテラさんは首を傾げるだけだった。


 まず、最初にサテラさんに連れられて来たのが森の中だった。何をするのかと思って見ていたがどうやら、狩をするらしく、家から持ち出した弓を手に持ちずんずんと真っ赤な髪を靡かせて進んでいく。そして不意に立ち止まったと思いきや、弓を構え矢を射た。ギュンと音を立てて、矢が猪の様な生物の額に吸い込まれて行く。

一瞬で命を刈り取られた猪の元に行き、サテラさんは俺を一瞥し猪に指をさした。 


「ボア」


――ボアという生物なのだろうか


「コウジ」


サテラさんは、俺の名前を呼び、物を持つ振りをした。 要するに俺に運べと言いたいのだろう。

このボアという生物、百六十センチ程の大きさで丸々としており、見たところかなり重いだろうと予想できる。

そして、案の定ボアの前足を手に持ち少し持ち上げて見たところ、今の俺では腰の辺りしか持ち上げることが出来なかった。


それを見ていたサテラさんは額を押さえていた。


――力がなさ過ぎる、筋トレしないと俺はそう誓った。


サテラさんはボアに近づくと、後ろ足を持った。


「コウジ」


名前を呼ばれて、前足の方を指差した。


二人で、ボアを家まで運んだ。


 サテラさんの住んでいる家は、壁が石で出来ており、木造ではなかった。内装も、床が大理石の様に見え、高級そうな品々がそこら中に置かれていた。


 家の前でボアを下ろし、サテラさんは部屋から大きな肉切り包丁の様な物を持ってきた。

そして力一杯振り下ろし、手慣れた感じで、ボアを捌いていく。

脚を切り落とし、頭を切り落とし。身体を捌いていく、内蔵を取り出し。俺はここで気分が悪くなってしまった。蒼ざめた俺の顔を見て溜息を吐くのが分かった。それを見て俺はこんなことでは駄目だと思い解体を見続けた。

30分ほど掛けて解体作業は終わり部位を外に置いてあった木製のテーブルの上に無造作に置いていく。そして、サテラさんは、山積みになった木片をいくつか持って来て積み重ねていた。


 そして、突然手から火が出現したかと思うとその木片に火の玉を投げた。


ーーえ!?すげぇ!!手から火出したぞ!!


サテラさんは俺を見て目を細めて笑っていた。

そして、すぐに真顔になり何やら考え込んでしまった。もしかして何か不味かったか!

そう言えばこういう事が出来るのが当たり前の世界だったか!

自分の失態に舌打ちをした。

だが、特に何も言って来なかった。まあ言葉も分からないので言えないのかもしれないが。

もし追い出される事になれば、受け入れるしかないのか、そんな事を考えて急に怖くなった。

今追い出されたら、どうすればいいのか。


ーーいや、そんな事考えるな、不安になるな!


そう自分に言い聞かせた。


 ボアの肉は非常にジューシーだった。肉汁が火にかかりバチバチと音を立てている。

焼けたボアの肉を口に入れると、肉汁が口の中に広がり、腹の中が満たされていく。幸せを噛み締めた。


それから、サテラさんは俺を家の裏に連れて行った。石をで出来た簡易的な風呂場があった。


ーー風呂があったのか!


驚きと嬉しさが込み上げてきた。

それから、サテラさんは俺を井戸に案内した。木製のバケツを俺に渡してきた。どうやらこれで風呂の水を満たせ、ということだと分かった。

かれこれ1時間程で、風呂に水を満たす事ができた。俺にとっては中々の重労働でかなりへばってしまったが、そんな姿は見せれない。俺は頑張った。


 そして、どう言う仕組みか分からないが、いつの間にか温水になっていた。多分だが、途中でサテラさんが何やら丸い石を水の中に放り込んでいたのを見たのでその石が関係があるかもしれない。


 湯船はかなり熱かったが、此方にきてからの初めてのお風呂なのでそんなに気にならなくなった。身体の疲れが取れていく感覚に身を委ねていった。


そんなこんなで怒涛の1日は過ぎていった。


 用意してもらっていた自室のベッドに横たわり、昨日今日あった事を振り返る。

ふと、あの連れて行かれた女性が気になったが、結局何も出来なかった。無事で居てくれと心の中で悔いながら、気が付けば泥沼に沈んでいった。


 次の日、キューキューと鳥が鳴く音で目を覚ました。ベットから起き、昨日、サテラさんが用意してくれた麻の様なもので作られた服を着て、そのままリビングへ向かった。

が、サテラさんの姿はなく、キョロキョロと探してみたが見つからなかった。


ーーどこかに行っているのかな。


そんなことを考え、昨日、自分の体力の無さを痛感したので、そのまま外に出た。澄んだ空気を思いっきり吸い込み、草木の香りを堪能した。


ーー生きている。


地獄のような時間、と言っても一日だけだが、を経験して。混濁した思考が睡眠により、幾分かマシになっていた。

今日から、体力作りの為ランニングをすることにした。と言っても、ここがどこなのかわからない為に遠くに行くことはせず、家の周りをぐるぐると走ることにした。

15分程、走ったが案の定、脇腹に刺すような痛みが走った。そりゃそうか、運動なんてちゃんとしなかったのだから。

痛みに耐えながら、何周かしたところで限界が来て、その場に倒れこむ。


ーーああ、やっぱりきついなぁ


数十分休憩した後、腕立て伏せでもしようかと思っていたところに、森の奥からサテラさんがやって来た。真っ赤な髪なのですぐに分かった。

サテラさんは、俺を少し見た後、何をしていたのか聞きたそうな顔をしていた。

なので、俺はそのまま黙って、腕立て伏せを始めた。そして、それを見ていたサテラさんも真似をし始めた。

20回程で腕が上がらなくなったが、サテラさんはかなりのペースで腕立て伏せを行い50回以上やったところで、ダウンしていた。

その後、腹筋、背筋を行ったが、サテラさんはそれを全て真似した。そして、俺より遥かに回数をこなしていた。

酷く負けた気分だ。


 それから、毎日走りこみをし、腕立て伏せ、腹筋、背筋、そして、逆立ちも始めた。気が付いたのだがサテラさんは毎朝何処かに出掛けているらしかった。

なにやら、食材やらを持ってきているので、どこかの街にでも買い物に行っているのかなと思う。


 そうして気が付けば2週間経っていた。

時間というものはあっという間だ、慣れない事を覚え、覚えることだけで1日が終わっていく。

それを繰り返していた。


 そして俺の中で1日のルーティーンが出来ていた。


 朝にランニングをし、筋トレ、そして、終わってから、サテラさんに言葉を教わった。

知識や技術がどんどん吸収していく感じがとても楽しかった。新しい事を覚えるのは楽しい、やはり人間は死ぬ気で頑張ると出来るもんだなと思った。


「コウジ、*****行こう」


 多分、狩りのことを言っているのだと思う。がそれよりも、言っている事が理解できるようになったのがとても嬉しかった。

分からない言葉も、ニュアンスやら動作で大体わかる様になっていた。ただこうもすんなり理解出来る自分が少し怖かった。そして、一度憶えると思ったのは確実に憶えることが出来た。

そして、弓の技術も勿論、正確に射抜く事が出来る様になっていた。


「コウジ、天才?」


サテラさんは呆れながらも、驚いていた。


ーー俺ってもしかして天才なのかな?


と勘違いする程度には。


 それから5日程経過した。俺は、日常会話ほどなら難なく話せるようになっていた。

サテラさん曰く、天才のそれ。俺はもっと、サテラさんの役に立ちたいと思うようになっていた。

彼女がいなければ俺は今頃死んでいたと思う。


 そんなある日、いつもの様に昼食を食べているときに、ふと気になっていたことを聞いた。


「サテラさん、あの俺はどうやってここにたどり着いたんです?」

「それは、三人の冒険者がここに運んできたんだよ、というか押し付けられたと言ってもいいわね」

「知り合いか何かなのですか?」

「ええ、顔馴染みね」


ーーついでに、聞いておこう。


「あの、何で俺を泊めてくれたんですか?」

「そうね。会話も出来るようになったし、言っておこうかしら」


サテラさんは居直ると真剣な面持ちで此方を見つめた。


「話す前にあなたに謝らなければならない事があるの」


ーーな、なんだ


俺はごくりと唾を飲んだ。


「あなたが運ばれた日に私はあなたの事を調べたの、良い生地の服を着ていて、最初は何処かの貴族の坊ちゃんかと思ったけど、三人が言うには言葉が通じなかったと、でいろいろと推測したの、単刀直入に聞くわ、あなた何者?」

「ああ」


ーーまあそうなるよな、どう言ったらいいのか、寧ろどういえば納得して貰えるのか。


「魔族でもない、ただの人が持っていい魔力ではない、その力は何れ周囲とあなた自身をも滅ぼす。正直あなたは危険すぎる。一歩間違えれば大災害を巻き起こす危険性がある、あなたは人の皮を被った化け物のように見える」

「化け物……か、はは」


ーー言ってることが良く分からない、魔力?俺はそんな恐ろしい魔力がある?何故?どういうこと?


俺は自分という存在が分からなくなっていた。


ふいに、涙が溢れてきた。


「自分自身のことがよくわからなくなりました。気が付けば森の中に居て、人が殺されているのを見ました。罪もない人が殺されて、そして、俺をこの家まで運んだあの三人も子供を殺していた」

「まず誤解を解いておかないと行けないけれど、あの三人はあなたの為にその子供を殺したのよ。あれは魔族と呼ばれる人間の天敵」

「魔族?」

「そう、本当に知らないのね。魔族、魔の人と書いて魔族。人間とは相容れない存在。たとえ子供でもね。なんの罪もない魔族の子供でも人間にとっては害があるの」

「そうなのか……」


ーーあの、子供の瞳が脳裏に焼きついて離れない、あれは敵だとそう思っていても、あの瞳は怯えていた。実際に、魔族だから殺せと言われても俺は殺せる気がしなかった。


「あなたは、気が付いたら森の中といったけど、それより前の記憶はないの?」

「多分、信じてくれないと思いますが、僕は死んだんです」

「詳しく聞かせて」

「俺は、こことは違う世界に居ました。その記憶があるんです。この世界とは違い魔法などなかったです」

「魔法がない世界ね……考えられないわ……それで、そのあなたの持つ力はなんなの?魔法がないと言ったわよね?それだとおかしいと思うのだけど」

「それが、よくわかりません。気が付いたら森の中に居ました」


サテラさんは、ふぅーと息を吐き背もたれに身体を預けた。


「なんだか、余計に分からなくなったわ」

「すみません」

「じゃあ聞くわね、あなたはこの世界の知識はないのね?」

「はい」

「わかったわ、そして、私は幸運だわ」

「え?」

「ただ、ひとつ言える事は、恐ろしい被害が起こる前で良かったということ、あなたが無自覚で魔法をつかったらそれはもうとんでもない被害が起こっていたはず」

「はい……俺ってそんなに凄い魔力があるのですか?」


サテラさんが急に席を立ち、棚から袋を持ってきた。


「この中に、魔力測定の水晶が入ってるの、貴方に使ったのだけど粉々になったわ。この世界で一番魔力がある人物でさえ割れなかった、と言ったらわかるかしら」

「は、はあ」

「明日から、魔力の使い方を覚えましょう」

「わかりました」

「私が、貴方を鍛えるわ」


ーーもう縋る人がこの人しか居ない、この世界で俺はこの人の為に生まれてきたのだと、そう思ってしまった。


 次の日から本格的な稽古が始まった。

朝のルーティーンを終えて、昼飯を食べ、その後にサテラさんと外に向かった。

家から少し離れたところに空けた場所があり、魔力の練習はそこでやることになった。

正確には魔法を使わない。魔力を制御するだけだ、サテラさん曰く、魔法を打つと恐らく、ここら辺一体焼け野原になる可能性があるというトンでもだった。

流石に、そこまではないと思うが、あまりにも真剣に言うので、魔法は使わないと誓わされた。


「まず、この魔石に魔力を流してみて」


そもそも、魔力とは一体何なのか、俺は理解していなかった。


「あの、サテラさん」

「なに?」

「魔力ってなんですか?」


サテラさんが前のめりになった。 いや、ここまできれいにおっとっとする人見たことない。


「ああ、そうだったわね、私も馬鹿ね。まずその説明からしましょう。まず魔力とは何なのか、ずばり、命そのものよ」

「え?ということは、魔力が空になれば死ぬってことですか?」

「そうね、ただ魔力を全て使い切る前に、無意識に使わせないように防衛反応が起きるらしいの、だから空にはならない、そうね例えるなら物を食べ過ぎるとこれ以上食べれないって思うわよね。そういう感じでいいわ」

「なるほど」

「そして、この世界には魔素といわれる物がそこらじゅうにあるの、体内にある魔力とその魔素が合わさり現象が起こる。例えば「出でよ火」」


サテラさんの手のひらから火がゴウゴウと音を立て現れる。


「言葉が魔力に伝わり、それが魔素と反応してこのように現象が起きる、これが魔法よ。言葉など無くてもイメージの力だけで魔法を起こすことも出来るんだけど、明確なイメージを維持しないといけないので難易度は跳ね上がるわ」

「すごい……」

「で、次は、魔術と言うものもあるのね」

「魔法とは違うんですか?」

「魔術は、既に出来上がっている現象ね、設計図があって、それを組み立てるだけで効果が現れるの、まあそれと精霊術もあるんだけどそれはおいおい教えるわね」

「わかりました、ありがとうございます」

「よろしい!じゃあ、早速、コウジ手を出してみて」


言われたとおり手を出す、サテラさんの手が俺に触れた、サテラさんの手はすべすべしていた。

突然、手の中に何か塊のようなものが入ってきた感覚に襲われた。


「うわぁ!」

「今のが魔力よ」


その塊が、全身に行き渡っていく感じがした。それはなんともいえない気色の悪い感じがした。


「感覚では、塊を出すイメージのほうが分かりやすいかもね。じゃあ、魔石にその塊を流してみて」


ーー塊が腕を通って、手に出る感じ


「うわっ!」


手の中で粉々になっていた。


「そうね、取りあえず、割れないようにやるところかしら」


 その日から、魔石を割らないようする訓練が始まった。しかし、これが難しい、というのも、どんな小さなイメージでも魔石を通すと簡単に破壊してしまうのだ。

それに、魔石をそうぽんぽん割るわけにはいかないので、魔石を使わず、ただイメージをするところからはじめた。

座禅をし、頭の中で、魔石を割らないように、割らないようにと暗示をかけながら。そういう訓練を唯ひたすらやっていた。

サテラさんは「イメージも大事」と言って、あまり口出しをしなくなった。


朝のルーティーンが終わり、昼飯、狩に行き、魔力制御、風呂に入り、就寝。といった感じの日々を繰り返した。

そして、その日々が俺にとって充実した日々だったし、サテラさんの力になりたいという気持ちも、原動力になった。

俺の中では、世界がここだけであった。


 そして、気が付けば身体も筋肉質になっており、息もあまり切れなくなっていた、そして、その目に見えて分かる成長は俺自身の心も強くなっていく気がした。


「流石ね、普通は5年は掛かる工程なのにもう、制御できてる」


一週間足らずで、制御することが出来ていた。


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