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異世界転移した男の物語  作者: デニ
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第一話



「わしの手違いで死んだから、お詫びにチートスキルを授けよう」


 突然、目の前のご老体にそう言われた。


 ここはどこなのか、目の前のシルクのような物を体に巻いたご老体、そして異常に白い空間。


――仏教に聞く天国とか?

いやいや、まさか、そんなーー


「え、と俺死んだんですか?」

「うむ、其方は死んだ。そして此処は天国じゃ、だからお詫びにチートスキルを授けよう」


ーーそうなのか、俺死んじゃったのか


 にしても、さっきからお詫びと言っているが、お詫びとは何なのか、全く意味がわからない。


「何故私にあなたが詫びる必要があるのですか?そもそもチートスキルってなんでしょうか」

「物分かりが悪い男じゃの、お前は死んだ、ワシのせいで!お前は天寿を全うする筈じゃった、なのに、ワシがミスってお前を事故で死なせたのじゃ」


 ミスとかこの天国はどんだけ杜撰なんだよ、と言いたくなった、他にも色々と言いたい事があるのでぐっと言葉を飲み込んだ、そうだ起こってしまったことはどうしようも無い、甘んじで受け入れるしかない。


ーーいや、まて、目の前の老人が神だったら、ミスなどなくしてしまえるのでは無いか?

神の力を使って無かったことに出来ないのか?


「あのーー」

「だからお詫びにチートスキルを授けよう!そしてお主を異世界に転移させてやるのじゃ!喜べ!ゲームの様な世界じゃぞ?」

「結構です」


 つい即答してしまった、神様と言うのは自分本位なんだな、いやそんなことよりも異世界ってなんなんだよ、お前が頭が異世界だわ。


「チートは無限の魔力、熟練度100倍!おまけに限界突破じゃ!」

「要らないです」


ーーこいつ頭イカれてんのか?何も言ってねぇーのに勝手に話し始めやがって、そもそも何のために俺は異世界に行くんだ?


 この際、神様と言うのは置いといて同じ人としておかしいんじゃ無いか?

無限の魔力?熟練度?なんだよおまけに限界突破って、お前の頭が限界突破だよ。


「あの質問良いですか?」

「なんじゃ手短に頼むぞ」


ーー落ち着け俺、イラついてはダメだ。


「ミスって仰っていましたけど神の力でどうにか出来ないのですか?あと異世界って何処なんですか?何故行かないと行けないのですか?魔力、熟練度、限界突破ってなんですか?そもそも異世界に転移させなくていいです」

「手違いをなくす事は神の力を持ってしても無理なのじゃ、もう決まった事なのじゃから受け入れてもらうしか無いのじゃ。して、転移先はアルカディアという惑星じゃ、何故、其方がその世界に行くのか、災厄を止めるのじゃ、わしもその惑星の対処にちょうど困っていたのじゃ。して魔力とはその世界に存在する魔素を媒体として発動する力じゃ、熟練度はそのものの技術や体術の熟達の度合いを表しとる、限界突破は本来打ち止めされた才能を超えることが出来る、そしてもう時期、お主は転移先に移動する」


ーーこれは本当に酷い、こいつが何を言ってるのか全く分からない、怒りで内容を忘れてしまった。神だからってなにしても許されるのか?


「なんじゃ?不服そうじゃな。他の者は喜びおるのに」


ーー他の者?つまり他にもこういう目にあった人がいると


「その人達は?」

「泣いて喜んでおったぞ、ああ、心配せんでいいその者達と一緒のところには送るまい」


そんな心配なんてしていない。


「ワシは退屈でな、楽しみが欲しいのじゃよ、そしてなもう時期そちらの世界の神が其方を送る手筈になっている」


ーーあまりの、理不尽さに目眩を覚えた。


「と、取り敢えず、気が動転してしまって先程の内容を忘れたのでもう一度説明してください」

「もう無理じゃ、では第二の人生楽しむのじゃ」


ーー俺は虚無感を覚え失意のまま意識を手放した。


ーーーー


 突然、頭が冴え渡り、目を開けると澄んだ青空が木々の隙間から覗かせていた。上体を起こし周りを見渡すとどうやら森の中の様だった。草が鬱蒼と茂っており、何処からか鳥の囀りが聴こえていた。そして、温気を含んだ土が直接肌に当たる。


ーーそう、なによりも俺は服を着ていなかった。

もはや神を敬うと言う気持ちは頭に消え去り、純粋な殺意が芽生えてしまっている。


 足取りはとても重かった。なんせスースーするし土と石を踏みしめ数歩進んだところで尖った石で足を怪我する始末、そして俺の心が沈むのは、何より心の整理が出来ていないままこんな場所にほっぽりだされた事だった。

 何処かわからない森の中でどうやって生きていけばいいかわからない。サバイバル技術も無く、何を食べたら良いのかも分かっていない。下手に知識があるせいで、全てが毒のある物に見える。      

 無心にトボトボ歩みを進めていると、突然言いようのない恐怖が身体を襲った、死んだのに、また死んでしまうのか、俺が一体何をしたと言うのだ、いつの間にか頬を止めどなく滴らせていた。悔しくて、何も出来なくてどうしようもなくて。   


 一通り泣いた後、俺は未だに震える足を無理やり抑え獣道を歩き続けた。


 どれだけ歩いただろうか、ジクジクと痛む足を感じながら気が付けば、空を赤く染め上げていた。


 突然、森全体に響き渡る悲鳴が聴こえた、声からして女性だろうか、その声に驚き、鳥達がキューキュー鳴きながら羽ばたいていく、何かに襲われているのか、それよりも人に出会える喜びが勝り取り敢えず声の元に行ってみることにした。


 近づくにつれて全容が明らかになって来た、開けた場所で煌びやかな馬車の周りに、何人もの甲胄の様な物を着た人が倒れており、その近くで女性が野盗の様な半裸の男達に囲まれていた。女性は遠目から見る限りドレスの様な物を着ており裕福な育ちだと思わせた。そして野盗の1人、大柄な男が徐に女性の髪を掴み、服を引きちぎった。


 俺はその光景を背丈程ある草の隙間より見ていた。自分の鼓動が激しくなる感じを覚えた。

これから先に起こるであろう女性の事を思うと胸が痛かった。そして少しばかりの性的な興奮も感じてしまう自分に腹が立ってしまった。

服を剥ぎ取られ、美しい裸体が曝け出されていた。それがきっかけなのか、女性の周りに男達が覆いかぶさって行った。


ーー俺はその光景を、固唾を飲んでみる他なかったのだ。


 これが女性だったから、これだけで済んでいるのだと思う、倒れている人達は槍の様な物が顔に刺さっている人も居れば、首がない者もいた。悍ましい光景に自然と手足が異常に震える、それを見てしまった後、性的な興奮も何処かへ消えてしまった。後悔と吐き気をぐっと堪えた。思考がぐちゃぐちゃしてしまう、物音もさせてはいけない、見つかったら死ぬ。あの倒れてる人たちの様に惨たらしく殺される.......恐怖で身体が強張った。


 もし俺が下手な正義感を振りかざし、飛び出て行ったことを想像すると、恐ろしさのあまり息がし辛くなった。あの女性は気の毒だが、俺の中では見捨てるしか選択肢はなかった。


 時間が流れ、汚れた行為が終わり、叫ぶことに疲れ果てた女性が息も絶え絶えに、地べたに倒れている。


 もし助けるのであれば、野盗が何処かへ立ち去ってからにしよう、そう考えた。


 しかし、そううまくは行かなかった。野盗達は女性を連れて森の奥へと行ってしまった。


 後に残されたのは馬車と護衛の亡骸だけだった。奴らが行って安心したのか全身の力が抜け、目眩が襲って来た。あのジジイは、なんてところに転移させやがったんだ。俺はこの先に起こるであろう未来に絶望を感じた。もうこの場所から動きたくない、まだ止まぬ動悸を感じつつ、俺は裸体まま生茂る草に身を投げた。


 少し経って、肌寒さに身を震わせ、俺は立ち上がった、背中に付いた土を払い死体に目を背けつつ、も抜けの殻になった馬車へと近付いた。


 馬車の中は向かい合わせの席が有り、やはりというか馬車の中をざっと見る限り衣服の様なものは見つからなかった。しかしながら死体の衣服を剥ぎ取る事はしたくはない、俺は諦めきれず馬車を隈なく探した、そして馬車の後ろに取っ手があるのを発見した。それを引くと中には数点の衣服と何やら金貨の様なものとナイフが数本入っていた。金貨を手に取って見ると見慣れない文字が描かれておりここが異国だという事を認識させられた。と同時に不安が俺を襲った、知らない言葉と言うのは則ち、コミュニケーションが取れない事を意味するのだ。目の前が真っ暗になった、やる事が多過ぎる、今更他の言語を覚えられる気がしない。


ーーいや、取り敢えず今はごちゃごちゃ考えるのは止そう。


 盗人の様な事をしているのは重々承知しているが背に腹は変えられず、俺は肌触りが良い絹の短パンと、同じく半袖を手に取り、無事に猿人から脱する事ができた。

金貨も数枚失敬することにした。そして金貨を入れる為に適当な衣服をナイフで裂いて簡易的な物入れを作った。


 そしてふと、奴らがもしかして戻ってくるかも知れないと言う不安を覚え、亡骸に黙祷を捧げつつその場を後にした。


 どれぐらい経ったかすっかり夕も暮れた。

まだ視界が明るいうちに、人に、それも善人に会いたい、俺は馬車の通った後を歩いた。


ーーどこか舗装された道に出れば...


 そしてそんな思いが通じたのか一本に続く道を見つけた、車輪の通った跡があるからこの道に沿って行けば村、もしくは街に出るかも知れない、漸く、人が踏み入れない森の中から多少文明の痕跡を見つけ、少しの安堵とそれと同時に何も食べていないことに腹の虫が鳴っていた。


 だが現実は甘くなかった、歩けど歩けど一向に人里に着かない、人にもすれ違わない。そして陽が落ち周りが全く見えなくなっていた。


 通り道で野宿するわけもいかず、そこから傍のところに移動し草が生茂る場所に身体を横たえた。


 何処からか狼の遠吠えのが聴こえてきた。

あたりは完全に暗闇になり、頼りになるのは、聴覚であった。草木のざわめきが言い知れぬ不安を抱かせ生臭い草の臭いと空腹感で気が休まる事がなかった。この世界に自分一人しかいないと錯覚してしまうほどの暗さ、何よりも、また野盗の様な奴らに出会ってしまわないかと言う不安が襲い掛かり、中々寝付けなかった。思えば思う程、人はそればかり考えてしまうのだ。


 ーーまぶたの縁が妙に明るく見えた。


 バッ、と反射的に飛び起きてしまった。

すっかり青空が広がっていた。

ああ、寝れたんだ。そして分かってはいたが、ここは夢では無かった。空腹での痛みを覚えつつ、歩こうとしたが、足先に痛みが走った。そこに目をやると、蛆の様なものが、親指に群がっていた。

「うわぁ!」

 俺はブンブンと足を振るって、手ではたき落とした。蛆の様な生き物が取り除かれた部分を見ると、傷口が膿んでいる様であった。靴を履かないと不味い、そして消毒もしないと悪化してしまう。痛めた右足をなるべく地面につけない様に、移動し始めた。


 なんでこんな目に遭わないと行けないんだ。

こんな場所に移動させた神を酷く恨んでしまう、しかし、いない者を恨んでも仕方が無い、今日中に人がいる場所、集落でもいい、食い物が欲しい。

最悪、食べれそうな物を食べると言う考えに変わった。一本道をひたすら進んでいく。


向こうから小さな影が見えた。

ーー人!?それも小さい子だ。


全容が見えた時に、俺は固まった。


 それは小さい男の子だった。必死の形相で此方へと向かってきている。その後ろには、革の胸当をした3人の若者、手には剣を持ち追い掛けている。どう考えても子供を狙っている様に見える。

そしてその子供は俺の5m程手前で転んだ。


 子供は俺の方を見た。何よりも目についたのはその額から出ている二本の角だった。


ーーそんな哀しい瞳で俺を見ないでくれ!!


 突然、子供の額から夥しい程の血が噴射した。それは空気を赤く染め上げる様に。いつの間にか子供の背後に男が立っていた、男が振り下ろした剣が子供の頭上に刺さったままだ。

そのまま子供は前のめりに倒れ、突き刺さった剣がカランと音を立てて地面に転がった。そして、赤い血溜まりがその剣を呑み込んでいった。


 男三人、ファンタジーの映画とかで出てくる様な冒険者でもあろう装いの男達だった。

皆、190近くはあろう長身の男達だ。

肩に斧を乗せている男が徐に子供の前に進み、そして、何の躊躇いも持たず子供の首を斬り落とした。


 余りにも非情すぎる、昨日の出来事がフラッシュバックする。あの女性の事、無惨に殺された人達。そして子供も容赦なく殺す、人の形をした化け物達。

「あ、ああ」

 口をついた怯えた声、物言わぬ子供の首がコロコロと転がり俺の足元まで来て止まった。光を失い虚空を見つめていて、なんとも言えない表情をしていた、悲しんでいるのか、苦痛に満ちているのか。


ーーこれは本当に現実で起こっている事なのか?


「*******!」


斧を担いだ筋肉隆々の男が笑いながら近づいて来た。


ーー何故この男は笑ってるのであろうか。


「げぇえええ」

突然、こみ上げて来て胃袋の物を撒き散らした。

そして、何故か男は優しい手つきで俺の背中を摩ってくれていた。


ーー何が目的なんだ?考えている事がわからないが、敵意は無いのかも知れない。だがこの男は子供を躊躇なく殺せる奴だ、安心など全く出来ない。


「********」


 さっぱり判らない、がこの男が2人に何かを言ったのだと言う事はわかった。残りの二人が子供の遺体を森の中へと運んで行った。


ーー気を利かせてくれたのか?わからない。


数十分程経って男達が戻って来た。


「********?」


 斧の男が俺に何かを聞いている。だがわからない。言葉を出そうと口を開くも、吐くものが無いのに無理矢理吐いたので喉を傷つけてしまったのか、ジクジクと傷んだ。


「あ”あえーど」

「********?」

「わがりません」

「********?」

「ギャン ユー ズビーグ English?」


ーーまあ無理だと思う相手の言葉は英語では無いと思うし。


 男は立ち上がり、険しい顔で此方を見ていた。

まさか、殺されてしまうのか、俺は余りの恐ろしさに腰を抜かしてしまった。

「や、やめでぐださい」

男は何やら目頭を抑えながら、俺の腹部へと、腕を伸ばしそのまま抱え込まれ持ち上げられた。


ーーなんだ、なんだなんだなんだ!


俺はジタバタと暴れたが、後ろに居た1人が此方にやって来てーー


ーー最後に見たのが迫り来る拳だった。


ーーーー


 芳ばしい焼き鳥の様な匂いが鼻腔をくすぐりパチリと目を開けた。じーんと痛む後頭部を摩りながら、今ここは何処なのだろうかと考えた。


 どう考えても室内だ、そしてベットの上に俺は寝かされていた。もしかしたらあの殺人鬼達の家かも知れないと思ったが。その前に暖炉の近くにこちらに背を向けている髪の長い人物に注目した、その髪は真紅の様に赤く染まっており、目が離せなかった。そしてその人物は何かを焼いていた。


 俺が起きたのが分かったのかその人物は顔を此方に向けた。


ーー綺麗な人だ


 俺は素直にそう思った。キリッとした意志の強そうな眉に何処か冷たさも感じさせる目その紫色の瞳は爛々と輝いていた。


「*******」


何を言っているのか分からないが、多分、おはようみたいな事を言っているのだろうか。


「わかりません」


やはり聞いたことのない言葉なのか少し考えたあとその人物は自分を指してーー


「サテラ・ビリアーレ」


ーー自己紹介なのだろう。


俺も真似して。


月見(つきみ) 浩二(こうじ)


 そこからサテラさんとの奇妙な共同生活が始まった。

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