白蓮騎士団の団長
蒼の瞳を真っ直ぐこちらに向けていた。身長は150……いや、今の私は175ぐらいあるからこいつは160ちょっとか。
「私の部下が失礼をしたようだな」
「そうでもない」と私は答える。
そうか、とそいつも一言だけいって、先程私に敗北したシュータを一瞥してから、向き直った。
「申し遅れたな。私はクラン【白蓮第二騎士団 】の団長。アッシュ・ベルナデッタだ」
「鬼桜だ。クランってのは入ってない」
なんだろう。この感覚は。どこか懐かしさすら感じる。
目の前の奴から感じる強者の風格。だがそれだけじゃない。
炎だ。膨大な熱量を持った魂の炎が奴の内側の底に眠っている。確信した。それは見えたものじゃない、ただの直感
アッシュからは、私と同じものを感じる。
そしてそれはどうやら向こうも感じ取っているように見えた。
「鬼桜。シュータと決闘をしていたな」
「あぁ」
「どうだ?」
漠然とした質問。私はシュータの方を見た。気がつけば周りに同じような服を着た、おそらく白蓮騎士団のメンバーたちが六人くらい集まっていた。
どうだ?その質問に対して私の今の気持ちを率直に述べるとすれば。
「まだ、足りてない。かな」
そう答えるとアッシュは、微かに微笑んだと思えばその両手に剣を出してみせた。右と左で違う。右はおそらくガラスだが、もう一方の黒いのはなにかわからない。
「なんにせよ、シュータは白蓮の一員だ。やられっぱなしではこちらとしても面目が立たないのでな」
「てめえの使いっ走りの尻はてめえで拭うのはどこでも一緒らしいな」
そういうことだ。とアッシュは構えをとる。完全に戦う体制だ。
「鬼桜、今からお前に決闘を挑む」
「その決闘────」
【アッシュ・ベルナデッタから決闘が申請されました 承諾しますか? はい/いいえ】
「乗った」
◆◆
さっき覚えたスキルを一通り確認して……といってもややこしくてあまりじっくり読む気が起きなかったが、私はアッシュの方へ向き直った。
【賭ける所持品を選択してください】
さて、賭けるものといえば、やはり服か武器かなのは変わらない。
実は「壊れない」という一点で絶対的な信頼を置いている【最初の霊剣】さっきシュータからぶんどった【冬印-鉄製の槍-】そして今着てる【旅人の服セット】
「鬼桜」
名前を呼ばれて、アッシュはこちらに向けてそれを捨てた。
「一体どういうつもりだ?」
目の前に投げ捨てられたのは、【冬印-鉄製の斧-】だった。冬印の名を冠する武器はいくつもあるようだ。
「お前はそれをベットしろ。わざわざお前の所有物から何か取る気も無いからな」
これは、舐めているな。
まあそれはどうでもいい。
アッシュ、私がここで意固地になって受け取らない奴だと思ったならそれは大きな間違いだ。
どんな手段を取ろうと、最終的に勝ったものが正義だ。目の前に勝算を伸ばす武器があるというのなら、どうしてそれを振り払うと?
「勝つ事前提なのが気に食わなねーな。じゃあ、うちも遠慮なくこれは貰ってやるよ」
そう言って私は拾い上げた。すると白蓮の団員たちがアッシュの方を見て言う。
「いいのですか!?アッシュ様。これでは敵に塩を贈るようなもの……」
「構わん。知れてる手の内は恐るに足りぬ」
アッシュが前に出ようとすると、さらにそれを妨げるように口を開いたのはシュータだった。
「アッシュ様!俺はこいつに冬印の槍を取られたんだ!だから取り返────」
それは、と一言、シュータの台詞の上から被せ、次の言葉は敗者を冷たく突き放した。
「貴様の責務だ。取り返して欲しければ、自分で取り返せ。それができないのなら、騎士団には要らない」
「随分と手厳しいな」
「お前もそうする筈だろう?鬼桜」
「わかった気になるなよアッシュ、うちはあんたより寛容だ」
自分にパシリなんていた事ない。が、もし私について来る者がいるなら、そうやって突き放すだろうか。いや、そんなことどうでもいいか。
「まあいい、やろうぜ」
と構えたら、いつのまにかさっきまで持ってた霊剣と拾い上げた鉄の斧が消え去り、手元には槍が。
シュータのあの悔しそうな反応からしてこれは、冬印の槍。
ここで私は初めて、武器の持ち替えが自由自在な事に気がつく。
【鬼桜は冬印-鉄製の斧-をベットした】
【アッシュ・ベルナデッタは煌黒の剣をベットした】
「煌黒の剣は、この白翠嵐の片割れ」
両手に手にした剣。白い方が美しく洗礼された剣であるのに対し、黒く妖しく輝くそれは、斬ると言うよりは叩くものと相応しい凶悪な見た目だった。
「随分と大盤振る舞いじゃねーか。騎士団さんには賭けものは一級品じゃなきゃいけない掟でもあるのか?」
「その方が、お前も私も、全力でやりあえると思ってな」
「アッシュ、あんた気に入ったよ」
【鬼桜とアッシュ・ベルナデッタの決闘が開始した】
◇◇
アッシュ・ベルナデッタというプレイヤーはことフルダイブゲームにおいて他の追随を許さぬ強さを持っていた。
卓越したプレイヤースキル。幅広いゲームの知識と経験。まずもって脳味噌の使い方から違う。
身体の動かし方を知り尽くしているのが桜だとすれば、彼女は脳の動かし方を知り尽くしている。
「おいおい……冗談みてーな動きだな」
「お褒めに預かり光栄だ」
鬼桜が驚くのも無理なかった。あり得ない動きをしているのだから。
現実では絶対に不可能な動きを物理法則の異なるこの世界にしかできない動きをどうすれば出来るのかアッシュは知っている。
「その動き、一体」
「不思議だろう?でもこれがゲームのいいところ」
例えば、全力疾走から前へ飛ぶ動作をしたまま後ろにジャンプなんて現実でできるだろうか?
身体と地面の角度が十五度の状態で走れるだろうか?
バック宙をしている途中に回転を逆向きにできるだろうか?
アッシュにはそれができてしまう。
それまで現実世界で戦ってきた鬼桜にとって、その未知の動きの数々は強力な攻撃として襲い掛かる。
癖も掴めなければ、予想もできない。アッシュの紡ぐ戦いの旋律は、法則性のない変拍子。
「さて、【ステータス鑑定】……ほう?なんとその状態でシュータを倒したというのか?」
「だったらなんだ?」
アッシュはリアルタイムで進行する戦いにおいて、情報アドバンテージを最も重要視する。
スキルを1枠潰してでも入れた【ステータス鑑定】は戦闘中にレベルが下の相手に対してそのステータスを透視するもの。ここで初めて鬼桜がまだレベル5であることが発覚し、驚くのであった。※1話前で5に上がったと記述があります。
そして、この【ステータス鑑定】鬼桜という格下である相手に対して、これ程までに効果的なスキルは無かった。
「今後は剣士としてやっていくのかな?」
「ムカつく。【斬撃一閃】!」
「【カウンタークラック】悪いが対策済みだ」
払った剣撃を白翠嵐で受け止めると反響する、不快な金属音が鬼桜の動きを止める。
斬撃属性に対する、カウンター硬直スキルが、見事に刺さり攻撃を許す。
「残り3割をきったな、さあ、どうする?」
「どうしてやろうかなぁ」
お互い睨み合う。アッシュの体力は、まだ1も減っていなかった。
ということでタイトル回収でした
読まなくていい設定集
今回のスキル詳細
【技能:ステータス鑑定】
タイプ:ACTIVE
リキャスト-
説明:戦闘中に相手のレベルが自分のレベル以下である場合に、相手の持つステータスを見ることができる。
習得条件:同じモンスターを倒した回数が25回を超える。
【技能:カウンター】
説明:特定行動「受け流し」を行なった場合、次の攻撃の威力を少し上昇させる。
【カウンタークラック】
タイプ:ACTIVE
リキャスト8秒
説明:相手が斬撃属性の攻撃をし、それを斬撃属性の武器でガードした場合に発動できる。
「音」を出し、その範囲内にいる全ての敵を3.5秒間硬直させる。