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今からお前に決闘を挑む  作者: アスク
日輪の華は戦場を照らす-後編-
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戦極に王華よ咲き誇れ【15】



「まてゴルァ!!地雷仕込んでただで済むと思うなよテメェ!!」


「うぬが自分で踏んだのだろう?自業自得だぞ」


「るっせえ!!」



 カセイは腹を立てる。ちょこざいな攻撃を繰り返し奔走するクズリューに。

 だが当たり前である。呪術師とは殴り合いではな知恵を絞って工夫を凝らして戦う魔法職なのだから。



「【強制誘導(ターゲットアンカー)】おうおう、俺と向き合え、腹割ってお話しようぜィ?」


「お断りだ、死ね」



 杖を取り出して振った。属性のないひかる魔法の弾が飛ぶ。




「そんなやわな攻撃じゃ俺ァ倒せねえぜ!!」



 


「ふっ、ほんとうにうぬは甘いな。ランカーとしているのもただの運か」



 目閉じた、右手を出した、そして光った。



「あァ!?その瓶!!」


「【ボーナスハイヒール】のポーション。隕石分のデバフはこれで完治する。うぬにわっちは倒せんぞ」


「どっから手に入れやがったんだ?」


「なに、ちょっとした仕掛けだぞ【拡散する岩石弾ストーンディフュージョン】」



 展開される紫色の魔法陣から石の礫が射出される。


「一回は一回だぜェ!」



 対してカセイは瓦礫の破片を拾って投げ返す。だがそこには物理と魔法という明確な違いがある。


「【速度低下の呪術(スロウエンチャント)】当たらないぞ、そんなもの」




 五分だ。たった五分間耐えればいい。クズリューはそう考える。

 モンスターの巣窟と化した【紫煙の箱庭】に閉じ込めた3人。生きて帰れない。それは間違いなかった。

 しかしそれでも最後の不安要素が付き纏う。モンスターの集団に放り込んだって五分間耐えるだろうからと箱の外に出しておいたキング・カセイの存在。こいつに倒されてしまっては、使用者が死んでしまっては箱庭が強制解除される。



「必ず万超を勝たせる。わっちだけが負けようとも、せめて万超だけは」



 予め唐獅子牡丹の用意した20人の囮には爆破の呪符が貼り付けてある。既に一人起爆させて殺し、ボーナスポーションを使っていた。残る個数は19。耐えるに申し分ない数字。

 キング・カセイは無理に倒す必要はない。ここを耐え凌いで店長、炉万、狂夏を倒し、囮役はのちに全滅させ、鬼桜、キング・カセイ、唐獅子牡丹、億戦万超、そしてクズリュー本人が残れば勝ち。だからこそ逃げと妨害に徹する。


 カセイが敏捷にステータスを振ってないおかげか、足で追いつかれることはない。現実より早く走れる世界でよかったと安堵している。

 が、それも束の間。



「おい、まてやコラ【異様】!!」


「な、身体勝手に!」



 黄金甲冑に刻まれた赤の模様は怪しい輝きを放ち、視線は釘付けになる。目を離そうとしても、身体の制御が効かなくなっていた。

 【特殊効果:異様】オムニスタートルの甲羅と黄金の鎧を組み合わせて作られた【禍々しき黄鎧(おうがい)】の持つ効果。



「こっちこいや!」



 【異様】は単一の敵から規定以上のダメージを受けたときに発動でき、ヘイト上昇と標的の固定および吸い寄せ効果が発生し、本人筋力を上昇させる。



「ここなら、拳が届く距離だァ!【業火の制裁拳】」


「【防御の高位加護】」



 逃げる、守りのスキルを使う、地雷を仕込む、足止め、体力が五割を切る。呪符を起爆させ回復手段を確保する。これを繰り返す、耐え凌ぐ、勝った。勝利の方程式は見えたと、クズリューは確信する。

 一方でカセイの考えることはそんな難しいことじゃなかった。ぶっ飛ばす。ただそれだけ。そしてそれを口で言う。



「ぶっ飛ばァす!」


「やってみるがよい。無理だぞ」



 呪符の準備が全て整った。保有するそれらの設置が終わった。【紫煙の箱庭】でもかなりの費用を使ったが、それと同等のもの。下準備に手間と時間がかかる分威力は強力。



「無理、と言ったのはうぬがわっちを倒す手段がなくなるからだ」




 開眼。右左の手を交差させる。つい先ほどまで月夜の戦場であっが、朝日のように明るい光が空に登る……という幻視。実際には何も変わっていないが、カセイの目にだけそれは映る。


 黒に限りなく近い藍色、白に限りなく近い空色、陰

、陽、即ち太極図。



「【呪札:月と太陽の到達点】」



 回転。逆転。それは隕石を降らせるような破壊の力ではない。悪を吹き飛ばす正義の味方の必殺パンチのようなものでもない。決して誰かを倒すこともできないが、終わらすことなら可能。


 攻撃力の一時的喪失。キング・カセイの筋力値と魔力値は0となる。どれだけ攻撃しようとも傷一つ付かない。凶悪なデバフ効果が発動する。



「勝った、勝ったぞ!万超!!」



 感極まったクズリューは崩れた壁の隙間から中央競技場を見た。










見てしまった。



「は!?」



 今まさに鬼桜に斧で叩かれ、死にゆく億戦万超の姿が目に飛び込み絶句した。



◆◆



 死亡の合図。白に手招きされ、億戦万超が消滅しようとしていた。それを背に、桜色の髪を靡かせながら歩き出す。



「はは、別ゲーとはいえ、素人に負けてしまったで御座る。お主は強い」



 認めた。しかしその言葉に対して鬼桜は首を横に振る。



「今の戦い。たしかにたぎった。けどお互いに、底を見せてないだろ」


「なぜ……そう思う」



 鬼桜がそう思う理由はいくつかある。ここは【チャンバリオン】ではないこと。剣一本で世界を登った男が剣士ではなく戦闘狂を選んでいること。勝つことよりも楽しむことを優先していたこと。つまり要約すると。



「私の勘だ」


「そうかもな……」


「次は、マジのあんたと戦いたいよ」



 その言葉が届いたかどうかわからない。振り向いた時には居なくなっていた。



◆◆



「おいよ、戦いの最中によそ見たァいい度胸じゃねーか。ってな」



 カセイが声を上げようと、クズリューは反応をしなかった。

 ただ茫然と立ち尽くす。ぼそぼそとなにか言っているようだがカセイには理解されない。



「俺ァお前をぶっ飛ば(・・)すって言ったんだ」


「むっ、無駄だ、攻撃は効かない」


 平静を保とうと必死だったがその声は震える。筋力を0にした。ここから死ぬ要素はない。その安心感だけが心の拠り所となるぐらいに気が滅入る。

 と、いうよりも生き残る云々の前に億戦万超が敗北したという事実を受け止めきれずにいる。


 そうして、油断し切って、気がつく頃にはもう遅い。



「ぶっ倒すじゃねェ。ぶっ飛ばす、だ。その位置ちょうどいいぜェ?」


「────まさか、貴様!?最初からソレを狙って!?」




 出会い頭に放った一見無茶苦茶なパンチの連打。だがそれが勝利を生み出す。カセイはクズリューの胸ぐらを掴む。



「小さくて投げやすいぜ、テメェは!【弩砲投げ(ボンバースイング)】!!!」



 脚をかけ、百点満点の背負い投げが決まる。ダメージはない、ないのだが、文字通りぶっ飛ばされる。

 筋力がなかろうと、ダメージがなかろうと【拳法:弩砲】は吹き飛ばし効果を持つ。

 飛んだ先には、遮るものが何もない最初のパンチによって崩落した壁。



「場外は、判定負けなんだぜィ」



ーーーーー


敗北条件:死亡する、又は闘技場エリア外に出ると失格


ーーーーー



「貴様!?」


 にたりと笑った白い舌がクズリューの脳裏にトラウマとして焼き付く。

 唸るような重低音とともに、敗北を告げる。



『クズリュー 場外につき失格』



◆◆



「あぁ、二人ともやられてしまいました」



 フレンドリストから通信不可となったユミヤマスターとクズリューを見てそう言った。彼女の心は揺らぐ。それは敗北を恐れてか、否。



「どうして、酷いわ、あの子たちはいい子だったのに、あぁ、キーちゃん、アナタはいけない子、悪い子よ」



 闘技場地下の隠し部屋。それは拷問部屋。松明一本しか明かりの存在しない小部屋。足元には拷問器具が散乱している。

 闘技場運営側NPCから聞き出さなければまず知らないような場所に、唐獅子牡丹はいた。台座から立ち上がり、服についた埃を払い落とす。

 


「悪い子にはお仕置きが必要ね」



 

 そう言う。ちょうど同じタイミングで鉄の扉がひとりでに開く。

 そこには十数名の人間がいた。各々目立ち過ぎる閃光を放っている。それはプレイヤーではなかった。



「あら、どうやってここがわかったのかしら」


「ここが一番安全だからきっといるだろうと思ったんだ。案の定、いやがった」



 彼らもまた安全圏を知る闘技場運営側のNPC。通常戦闘員は施設内の全てを知っている。故に唐獅子牡丹探し当てることに成功したのだ。



「アナタたちも、ワタシを裏切る親不孝、いけない子なのね」


「何を言っているか知らないが、俺たちはお前を許さない」



 最後に残った聖霊は化け物の王、人類種は……果敢に立ち向かおうとしていた。

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