戦極に王華よ咲き誇れ 【11】
「んなこったろうとは、思ってた」
ものの数分で全員降参してしまった。これにて私の勝利だ。じゃあ唐獅子牡丹の居場所を教えてもらおうかと聞けば……
「本ッ当にすみませんでした!」
「俺たちは、言う通りに従っただけで、あいつの場所は知らされてないんだ」
使えない奴め!と剣を見せて脅してみた。抵抗せず目を瞑り、やるならやってくれ状態。
「目を開けろ、うちは斬らねーよ」
「な、何故ですか」
「まだ質問が終わってないから」
私が聞きたいのは一つ、この二十名が自ら檻の中にはいって囮になった理由。そこにどのような経緯があったか。
そもそも二十人都合よく檻の中にぶち込むには、決闘王選抜のルールを前々から知っていることになる。
唐獅子牡丹にはまだ何かあると、私の直感がそういう。
「なんであんたらは唐獅のいうことを聞くんだ?金でも握らされたか?」
こういう三下が金に釣られて惨い終わりを迎える様子を何回も見てきたから、それとなく匂いがした。しかしどうやら違うようで。
「……そもそも俺たちが特殊戦闘員になれたのはあの人のおかげなんだ」
「そうだ、ジェイスさんたち運営本部に根回ししてくれたんだ」
「恩義がある……あったんだ」
正式戦闘員から特殊戦闘員になりあがるのは本来1人なるのも至難だという。
今回も選抜受験者のプレイヤーがあふれんばかりにいて、その中に二十人も滑り込んでいるとしたら、裏口があって当然、という考えに私は至った。
地下牢を大々的に自分の所有物にしている時点で気がつくべきだったが、闘技場運営陣と唐獅は相当深い関係だ。
「ここにいれば安全だ、ってあいつが」
「牡丹様は、全プレイヤーをこの手で全滅させるって言ったんだ」
「牡丹様が決闘王になり、最後に残った俺たちで四天王を決める、そういう約束だった」
それでこのザマか。
「どうだった?現にうちに檻を壊されてるし、少なくとも安全じゃなかったな。ほらみろ」
牡丹様は嘘八百の畜生だ。私の指差す方向、隷属はそれをみた。
「へへっ、残り物には福があるってねぇ」
「頑張って待った甲斐があったぜ……ボーナスがたんまりだ」
「耐えて、凌いで、勝つ。これぞ必勝法よ」
外の状況はよく知らないが、二十の光を求めてプレイヤー三名がここに集まってきた。
「こいうことだ、あんたらは唐獅子牡丹にいいように囮にされただけさ」
コンピューターの脳味噌なんかしらないが、人間に近しい頭があるならわかるだろう。安全に勝つなんてそんな美味しい話あるわけないんだってことを。
「……おいおい兄さん、なんかいるぞ、プレイヤーじゃね?」
「あー?1人じゃんか」
「やっちまえやっちまえ!」
私は冷静に【鉄製の弓矢】を構えて【強力化】を発動。脳天を狙って。
右から、ヘッドショット、ヘッドショット、ヘッドショット。
「つ、つよい」
手で口を抑え絶句した。さっき蛇倒したのみただろう?これでくたばるわけがない。
「言いたいことも、聞きたいことも、もうないわ。じゃあな、うちは戦う相手がいる」
それに『億戦万超がこの先にいる』って通達が入ったから。私はそそくさと場を後にしようとする。が、引き留められる。
「俺たちを見逃すのか!?」
見逃す?そういうわけじゃない。単に私は戦う意志のない奴に興味がないだけだ。
「お前ら仮にも参加者だろ?諦めてんなら一人で自害でもしてろ。そうじゃないなら、勝つために頭を回せ」
その上で。
「その上で私と戦うって選択なら全力で潰す、それだけだ」
私は今度こそその場を後にした。
◆◆
積み上がった瓦礫、よじ登った先に、エントランスホールの壁は崩れて、中央の競技場がよく見える。
月光照らすコロシアムにて、そいつは待っていた。
「クズリュー殿から言伝を聞いてな。其方が居ると聞いたので、モンスターは片付けておいた」
モンスターどころか沢山いたはずの参加者すらいない。がらんとしたその場所で、大きく長い刀を背負った武士が近づいてくる。
今から始まるのは一対一の決闘。私と、億戦万超との、戦いだ。
「待たせちまって悪かったな。うちも面倒なモンスター共に足止め食らってたんだ」
私もそいつのもとへ足を動かす。歩く。ゆっくり距離を縮める。
「先の蛇の討伐、見事であった」
「あれ頭一個斬られてたけど、あんたか?」
「つまらぬもので御座る。拙者は人との斬り合いを楽しみと見つけたり。意思を持たぬ怪異などに興味はない」
「ゲーム始めたてのうちみたいな事言ってんな」
「はて、其方も拙者と同じ輩だと踏んでいたが、勘違いだったか」
「興味がちょっとあるってだけだよ。私だって人との殴り合いの方が好き」
特に強者。今のところ雑魚なプレイヤー、軟弱なNPC、雑多なモンスターしか相手しておらず、満足度的には全く満たされちゃいない。
だがそれも、今から解消される。億戦万超は、強者だ。
お互いの距離が、まさしく今から戦う間合いまで詰まった。
「案ずるな、クズリューには手を出さぬよう言ってある」
「ああ。私も店長たちには直接対決させろって頼んだからな」
和服の戦闘狂は、【甲殻喰らい】の刃の先を私に向けた。だから私も、右手に【向日葵-初め咲き-】左手に【煌黒の剣】を持ち。剣の先をそいつに向けた。
「「いざ尋常に────」」
【死線の心眼】発動。
月明かりも松明の炎も色褪せ、相手の攻撃の軌道が赤色に染まる。それが移り変わり続けるのを見るに、相手も発動しているのがわかる。
効果終了。
「「────勝負!!」」
◆◆
自慢の大蛇が討伐された。唐獅子牡丹は鬼桜の存在を少々甘く見過ぎていたのだ。
「あの子、あそこまでやるなんて思わなかったわ」
計画失敗……というわけでもない。大多数のプレイヤーを葬ったのだからいい方である。
それに万が一プレイヤーが徒党を組んでトライガルドが討伐されてしまうことをちゃんと想定して作戦を立てているのだからリカバリーのしようはある。
ただ討伐を鬼桜一人で完遂したのが誤算であり、さらに言えば店長、炉万、狂夏、カセイが全員生存している状態でユミヤマスターを失ったのが致命的だった。
「狂夏っていう子が厄介ね。こうなると狙われるのは……クズリューちゃん、アナタよ」
『おい、約束したはずだぞ。勝たせると』
「全てワタシ任せにされても困っちゃうわ。時には親孝行してくれなきゃ」
『いつからわっちの親となったのだ。さっさと策を教えるがいい』
億戦万超と鬼桜がついに対峙をした。
クズリューは万超本人から手を出すなと言われていたが、お構いなしにそれを裏からアシストしようとしていた。唐獅子牡丹もできることならそれで鬼桜を撃破してほしいところだが、そのアシストをする暇はない。
現在自由行動が可能になった狂夏がクズリューを討ちに動き始めるからだ。であれば、どうするか。
「先手を打ちましょう。ユミヤマスターは最後の通信から分かる通り、四人の現在位置は彼の陣取っていた場所と同じ」
『それはいいけども、わっち一人で倒せるかわからんぞ』
「勿論モンスターは送り込むわ。リカバリーは任せて」
『ふん、ならよい』
ここからは鬼桜と万超の直接対決と、その裏側の攻防戦である。
『────さあ、滅ぶがよい。【龍征す隕石】』
◆◆
「やっぱ厄介だね、唐獅子牡丹。一体いくつモンスターをテイムしてるんだ?」
元来モンスターの知能は、対象の脅威度から攻撃の優先順位を決めるものとなっているが、【魔獣使い】はその上から指示してヘイトに関係なく行動させることができる。
これは親密度が高ければ高いほどより精密な指示を出せるのだが、混乱した状況で複数のモンスターをピンポイントで送り込んでくるあたり、唐獅子牡丹はプレイヤーとして凄腕だと店長は再確認する。
「ただまあ、近接相手だとカセイ君一人で止められるからいいんだけどね。頼もしい壁だよ、脳筋だけど」
モンスター全員を相手に無限に回復しながら殴り飛ばして、少しずつ、少しずつ、処理していく。たまに取りこぼしは炉万と狂夏が対処した。
「さて、こっからボクの本調子かな。どっしり構えて堅実に行くのが本来のスタイルだからね」
電撃戦で終わることなく耐え凌いだ店長は余裕を取り戻す。
「狂夏ちゃーん」
「はいはーーい」
「クズリューを倒そうか」
「了解だぜぃ!兄弟!」
因縁の相手を討てるともあってテンションを上げて、モンスターを斬り伏せながら返事をする。
もう既に作戦は整った。早速すっ飛んでいこうとする狂夏だが、まったをかける。
「少しだけまってね。今出ると危ないから」
「えぇ?」
カセイにも声をかける。
「カセイちゃん、モンスターは無視して一旦下がって」
「んァ?倒さねェのか?襲われちまうぞ」
「大丈夫さ、作戦作戦」
言われるがまま、狂夏もカセイも後ろに下がり、炉万と店長が前に出た。そしてこう言う。
「クズリューの狙いはボクらをまとめて倒すこと。だからきっと、もう攻撃の手は打たれているだろうね。上を見て」
見る。
相変わらずの夜空。魔法はあれど文明レベルは低い世界、都会の明かりで潰されて普段見えない星々をここでなら観測できる。と、だんだんその煌めきが煩いぐらいに光を纏い始めた。
「お、おいアレ!」
「隕石!?」
狩りきれなかった生き残り。それを滅さんと星が落とされる。【龍征す隕石】序盤プレイヤーを一網打尽にした広範囲高威力の大魔法が襲いかかる。
「なァァァァ!?」
「あぴゃああ!!」
おかしな断末魔をあげる武器職二人。対してすこぶる冷静なのが魔法職二人。
「そうだよね、クズリューはボクらを一気に殲滅したいはずだよね」
「よくわからないけど、吾輩は守ればいいんだね?」
「……バトル屋さんって意外と脳筋だよね」
「君はさらっと毒を吐くな。【加工:石蜥蜴のウロコ】【多重錬成:石壁】」
「よく言われるよ【呪文:対攻呪文の加護領域】」
瞬時に形成される灰色の壁と薄いシャボン玉のような膜。降り征く威光が、一方間違えれば四人を抹消させるぐらいの距離で止まる。動きが止まり、魔法の輝きは徐々に力を失っていく。
「桜ちゃんもカセイちゃんもいかんせん魔法に強く出れないと思って対策は練っていたんだ」
今、隕石が完全停止し、白い砂となって散った。
「打ってしまったね?クズリューさん」
極大の攻撃魔法を防ぐのは極大の防御魔法が一番だ。相手は一人、【龍征す隕石】さえ防げれば数的、能力的優位で後隙を詰める。
「2度目の出勤だよ、暗殺者さん」
「いってきまぁす!」




