旋回尽くす暴風
「なーにしてんだあいつ」
「ほぼ全部に属性耐性持ってるのか、はたまたレベル差なのか全然効かないから一発でかいの決めるって」
「店長さんはチャージ中というわけだな。おもしろい」
「時間稼ぎしろって?癪だな。回復、回復」
【ヒール】の用意はいい。インベントリいっぱいに詰まったそれをみるみるうちに消費していく。あっという間に体力半分回復。本当は全部回復したいところだが、連続使用するとどうにも効力が薄くなるらしいのでここで止めておく。
そういや聞いたんだ。ヘイトってやつは敵にとっての優先度なんだよな。
多分喉に爆弾ぶち込んだバトル屋、顎に一発ぶちかましたカセイ、目ん玉に一撃いれた狂夏は高くて……私と店長がノーマーク。その、なんというか、ムカつくよな?そんなの。
「【鉄製の長槍】【武装狂化】」
二度目の【武装狂化】を増やされた長槍。しかし今回は決闘じゃないので今度こそさよならになる。
さて、幸いこいつは避けるって行動はしない、受け止め型のすっとろいいわばでかい亀みたいなもの。気兼ね無く狂化できるってわけだ。
「帳尻合わせに使われるのは死ぬほどムカつくけど、まあいい、あんたを一人で倒すにはまだ足りないみたいだからな。だから、せめて、店長の大技で消し飛ぶ前に貰えるものは貰っておく」
オーデンフライトラップなる巨大ハエトリグサは花を刈り取ると部位破壊ということで素材をもらえた。じゃあこのタルピードラゴニックなる土竜は果たしてどこが部位破壊判定でボーナスポイントなのかと考える。
そんなの私でもわかる。その背中で生え変わる鉱石だ。それがオレンジになった時を付け狙う。
次の行動は、針ならぬ岩飛ばし。下から潜り抜けたら長槍を生え変わりたてのそれに突き刺す。
「【強力化】!!」
長くて隙が大きい分威力は抜群。穴を開けてぱっきりと一つ砕けてそれを落とした。
ーーーーー
土竜石(陽)
タルピードラゴニックのなかでも陽数珠の原石を食している個体の背中から生える鉱石のような性質を持つ硬毛。エネルギーの蓄積と放出が可能。
ーーーーー
「ガルルゥ」
「ひとつで満足すると思ったか?」
一つ隣にまた突き刺す。怒ってるなこれは。だがその背中に乗ってるやつは全部毟り取らせてもらうぞ?
「姉貴!【死線の心眼】!!」
と、狂夏の声が耳に飛び込んできた瞬間【死線の心眼】発動。何かを察して私に言ったのだろう。そしてその予感ってやつは的中だ。
真っ赤に燃え盛るのは背中全般。ヒビが割れて自ら爆発を巻き起こしてるみたいだ。
【ジャストカウンター】耐え。
「部位破壊発狂。この手のゲームだとあるあるなの」
「なるほど。本気モードってか?」
砕いた先から背中の鉱石は溶け出し、全身マグマのように発光している。流石火炎放射するだけあって体内に隠してたエネルギーは規格外ってか?
「四つん這い……まさか」
「やっば!?みんな伏せて!!」
四方にマグマになりかけている鉱石を吹き飛ばす。触ったら一発で死にそうだが……突撃している馬鹿がいるじゃないか。
「【野生解放】!!俺は火傷しねぇぜ!!!」
殴って回復が主軸のカセイは逃げても結局【不沈不屈の戦進】の自傷ダメージで死んでしまうからって結論なんだろうが馬鹿っぽい。
別に無作為に突っ込めて羨ましいなんて思ってないし。
私は私なりのアプローチをするだけだし。
「【鉄製の長槍】他人から奪ったもんだが最後の仕事だ」
オリンピックとか、見るの好きでな。人類文明の開発した競技の中にはこんなものがある。
「槍投げ、シンプルだろ?」
【強力化】力が篭る。これを発動すると赤色のエフェクトが出るとかなんとか、発動者本人は見えないけどな!
「貫く!」
戦闘狂式人力ミサイルだ。どうにも弓矢よりコントロールが効くそれはしっかりとモグラの背中を射抜いた。
チェンジアップ【鉄製の弓矢】投げて覚えた軌道をなぞるように……そこ。そこ。
「アタシも!【音速化】」
「【多重魔槍投げ】」
私とカセイの猛攻に続いて狂夏が、バトル屋が、一気に畳み掛け、最後のとどめまで出来るだけ稼ぐ。
「準備完了。さて、やろうか」
蒼の開眼。尋常じゃない圧を店長から感じた。その手に持つのは【黄金の魔杖】先端の水晶部分がエメラルドグリーンに発光する。
冷たい、空気の流れ。漫画でよく見るような円形魔法陣が三列、面の方向は当然ながら陽光の土竜。
「聖なる母、子らにそよ風の導を。やがて種は揺蕩い、原初の核に【旋風】は刻まれた。全ての風よ、聖霊の名の下に、七の大いなる創世が一、その片鱗を」
その長文を言い終えて、終わりの呪文が発動する。
「────【呪文:旋回尽くす暴風】」
暴れ狂う巨大な竜巻砲、土竜の身体を打ち砕く。岩の鱗が全て剥がれ落ち、煌く宝石のような身が剥き出しになっていた。風圧に耐えることなく体勢が崩れた。
「いいロマン咆だな、これは」
みると【黄金の魔杖】は壊れたようにひび割れ、水晶から色が抜け落ちていた。確かにバトル屋の言う通りとんだロマン咆だ。
「さて、タルピードラゴニック君もやっと隙を見せてくれたんじゃないか?」
「隙どころかかなり弱ってるな」
土竜は小さく吠えていた。覇気がなく、もう死ぬ直前であるのはみてわかる。
「いひひっ最後のとどめは早い者勝ち!!」
と、狂夏が飛び出していこうとする。なので私はまったをかける。
「んがっ!?姉貴ぃ!?妨害はナシでしょ!」
背中側の襟を掴んで引っ張った。狂夏の着てる服は襟が出っ張ってるから掴みやすい。
なぜそんなことをするか。とどめを取られたくないからか。いや違う。
「生き物ってのは追い詰めた時が一番危険だからな」
「ふぇえ?警戒を怠るな的な?」
「3、2、1、伏せろ!」
全員に呼びかけ、狂夏の身体を地面に押しつけ、自分も屈み込む。
【死線の心眼】がそれを捉えていた。タルピードラゴニックが最後の力を振り絞って、私たちを殺そうとするところを。
「自爆するぞ」
宝石の体は内側から爆発を引き起こして、粉々に砕け散った。近づいていたらひとたまりもなかっただろう。
「わお、ありがとう姉貴」
「たまには借りを返さねーとな」
◆◆
「馬鹿でかい竜巻起こしたと思ったらそのあとはお荷物かよ」
「上級の魔法スキルはでかいぶん反動があるんだよね。あと威力増大させる為にあれやこれやしちゃったからね」
「作戦担当が聞いて呆れるな」
店長を担いで走る。駆けるで来た道を戻った。しかも反動で灯していた光も消えていたので帰りの方が大変だった。まあ無事帰還したが。
「まあまあ、戦利品も貰えたし!」
結果オーライ。まあ、そうだな。
本来取り分は殆ど店長が貰うべきだったが私と狂夏と嘉靖に均等に4等分した。
土竜由来の素材の数々は物理攻撃に対して耐性を持つ物か、エネルギーを蓄積するという性質を持っている物。
「さて、これで素材やらなんやらは集まってるはずだ。できるか?バトル屋」
見やる。仮面の者は頷く。
「勿論だとも」
さてみなさん。次回からいよいよですよ
【呪文:旋風】
ACTIVE 下級
リキャスト:8秒 風属性 攻撃
魔法ダメージを含んだ広範囲の風を放つ。ダメージは少量。
【阻む旋風】
ACTIVE 下級
リキャスト:5秒 継続時間:1秒 風属性 妨害
ダメージのない風の見えない壁。一部例外と強力なものを除き、向かうものを押し返す事ができる。
【旋回尽くす暴風】
ACTIVE 上級
リキャスト:240秒 風属性 攻撃
効果発動から「呪文詠み」必要となり、それを行うまで攻撃は発生せず、代わりに風属性の魔力補正をスタックする。(10秒毎に1スタック、最大12スタック)
巨大な竜巻を任意方向に放出し強大な魔法ダメージを与える。その後発動者は「状態異常:疲労困憊」となる。
呪文詠み
「聖なる母、子らにそよ風の導を。やがて種は揺蕩い、原初の核に【旋風】は刻まれた。全ての風よ、聖霊の名の下に、七の大いなる創世が一、その片鱗を」




