【非戦闘エリアでの戦闘は行えません】だと!?
気がつけば何事もなかったかのように、私と調停者は初期位置に戻されたいた。両者の体力は戻り、右手には最初の霊剣がしっかり握られている。
『鬼桜のレベルが2になった』
『剣の修練度がEにランクアップした』
『拳の修練度がEにランクアップした』
『スキルを習得した 習得したスキルを確認しますか?(後からでも確認できます) はい/いいえ』
「新しくスキルを覚えたようじゃな」
「スキル、なあ」
この戦いで反省点はある。それはスキルを「よくわからない」の一言で片付けてしまったことだろう。
ようはこれって新しい身体機能で武器と言っていいのだ。これから戦うにあたって、折角使える武器を使わず蔑ろにするのは下策と言えよう。
「どうやら話を聞く気になったかの?」
「手短に頼む。うちは習うより慣れろってタイプだからな」
「ふーむ」
と、まあここからスキルについて確認することになった。
◆◆
「常時スキルは2つまで、発動スキルは5つまで付け替え可能。あってるか?」
「飲み込みが早いのう。その通りじゃ。そしてお前さんの現在のスキルは自由に確認可能じゃよ」
『スキルを確認します』
スキルについて理解して、開かれるの2つの枠と5つの枠で、そこには現在覚えるスキルがセットされていた。そもそもまだ7個もスキルが無いらしい。
ーーーーー
PASSIVE
【格闘の心得】
【────】
ーーーーー
ACTIVE
【片手剣術:斬撃】
【────】
【────】
【────】
【────】
ーーーーー
「【斬撃一閃】!」
とりあえず素振りしてみた。【片手剣術:斬撃】の技の一つが【斬撃一閃】というらしい。少し溜めて思いっきり振るだけで発動するという。あまり実感湧かないが、調停者の反応を見るにちゃんと斬撃が出てるっぽい。
「そしてスキルをたくさん使うと派生をする。覚えとくと良い」
「派生?なんのこっちゃ」
「習うより慣れろ、というのなら気にすることもないのう。そのうちわかる」
そのうちわかるならまあいいか。細かいことを気にするのは良くない。イラついちゃうからな。
「にしてもお前さん、中々の腕前じゃったのう」
「まあな」
現実でこれまで何人と戦ってきたことか。純粋な力だけじゃどうにもならない状況はある。
時に多対一、時に武器対素手、それ熟すにはこれくらいの動きは当然。
「けどあんた、まだ力を残してんだろ?」
「何故そう思うのじゃ?」
「なんとなく」
口ではなんとなくと言ったが、一応そう思う理由はある。
今の決闘は死ぬ気で本気の戦いじゃない、チュートリアルバトルだ。そこにはガイドNPCとしての本領があった。
調停者はこの決闘で私にスキルについて教えていたんだと思う。
自分の手の内をわざとらしく晒し、スキルを使えばどういうことが出来るか説明するように。
それは手加減に他ならない、現に私がイマイチ煮え切ってないのが確たる証拠だ。
老婆は仮面の顎に手を当てて首を傾げ、返答に困っている様子で少し考えた後、答えを言った。
「確かにそうかも知れん、じゃがお前さんは今から、嫌でもわしより強い奴と戦うであろうさ」
そう言って老婆は再び光の魔法を展開する。今度は何を描くこともなく、ビームを放つわけでもなく、私の周りを舞っていた。
「今からお前さんを街に送る」
【最初の街に移動します、街を選んでください】
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東の街【ハルジア公国連合/イーステッド】
西の街【リーエン帝国/ウェスチェリカ】
南の街【リーガルデン共和国/サウザニア】
北の街【エデスレーア王国/ノースタリア】
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表示された四つはどれもしらない名前だ。まあ、この世界は地球じゃないし当然か。
「強い奴がいっぱい居るとこがいいな」
当然。私がこのゲームをするたった一つの理由は、強いやつと戦うことなんだから。
「強い奴かわからぬが、最も人口が多いのはイーステッドじゃの。人が多ければ必然的にお前さんの求める戦いに遭う確率も高くなるじゃろう」
「ほう、言うじゃんか。ならイーステッドで頼む」
私がそういうと青と白の魔法は渦を巻き、包み込まれ、誘われる。
【東ユグド/ハルジア公国連合/イーステッド】
既に私は、その街に立っていた。
◆◇
私は街に来た。送られてきた。ここは東の街、イーステッド。
仮面の老婆曰く「ここが最も人の多い街」
「よし、あいつにしよう」
早速いきの良さそうな奴を見つけたんで剣で斬りかかろうとした。
が、それは私の身体を縛る謎の力とその一文によって阻まれた。
【非戦闘エリアでの戦闘は行えません】
「あぁ?」
さてどうしたものか、この街にいる奴らをテキトーに潰して回ってあのバカ二人との戦いに臨もうと思ってたのだが。
「たしか非戦闘エリアつったな。つまり戦闘エリアでなら殴っていいってことだ」
ここでジッとしていても何も始まらない。そう思った私は街の中をくまなく散策する事にした。
どっかに路地裏的な喧嘩場があるかもしれない。
街の外観は日本のそれじゃない。近いのはパリみたいな都。割と建物が入り組んでいる。
例えば手前に見える路地裏とか喧嘩するためにあるようなもんだろう?
【非戦闘エリアでの戦闘は行えません】
「あぁん!」
試しに路地裏でなんか仲良さそうに話してる男女に向かって剣を持って突撃したが、やっぱり体が硬直してしまう。
この文字、なんかイラつく。
「人の多い大通りはどうせ無理だろうしな……やっぱここら辺だと思うだけどな」
剣を担いで再び歩き出す。武器をここで装備できてるってことは、どうにかすれば戦えるんだと私は考える。しかしそのどうにかが全くわからない。
「人全然居ねーな」
こういうところ歩いてたらゴロツキの一人や二人いてもおかしくないだろうに。ここは平和である。
ラクガキの一つだってありゃしない。綺麗なもんだ。
「にしたって広い」
大通りの外れの外れまで来てしまった私はいよいよ自分が何処にいるか分からない。
とりあえず目安になるのはここからでも見える高台そびえる立派なお城と、城の反対側にあるデカイ闘技場、そのちょっと隣にある十字架を掲げた巨大教会。
全部サイズが大きすぎる。
「あぁ?まてよ?」
今見た巨大建築物三種を順にもう一度見る。
城、闘技場、教会。
闘技場、城。
闘技場。
「戦える場所があるじゃねーか」
そうだ、闘技場はまさしく闘うためにある場所。非戦闘エリアなわけがない。むしろ戦闘してくれエリアな筈だ。
「そうと決まれば……」
私の足取りは迷いなく一直線。闘技場に期待を込めて向かった。
丘に沿って建てられてるのか知らないが、この街は上り坂下り坂が多いもんだから、闘技場についた頃には怠さに襲われていた。
息切れは全くしないし疲れも無いのになんか怠い。
「さあ、着いた」
歩いて数分。建物の密集地帯から抜けて、遂にその闘技場とご対面した。
目の前闘技場。その周りは平地。さあ、ここが戦いの場ですよ、みんな寄った寄ったと言わんばかりに障害物など何もなく、整地されている。
「まずはここで戦えるかどうか、それが一番知りたいことだ」
私は腕を回して準備運動しながら歩き出す。仮に戦闘ができて、しかも闘技場に人がいるかもしれない。今のうちに肩を慣らしておく。
「おい、待ちな」
振り返ると、白い服に身を包んだ奴がいた。両手を腰に当てて偉そうにしてるそいつはさらに続けた。
「ここは今、俺たち白蓮騎士団が調査中だ。去れ」
目の前に勝手に表示されるテキスト、シュータという名前とその横に書かれた聖霊種の三文字。
こいつは、中身のある人間か。
「そりゃ人に物を頼む態度じゃあねーな?」
「頼んでるんじゃない、命令してるんだ」
「あ?なんでうちがあんたの指示に従わなきゃならねーんだ?」
そいつは少し驚いたように目を開き、そして嘲笑うように、見下すように言った。
「あぁ、君、白蓮騎士団の名もしらぬニュービーか。はっ、愚かだね」
「はん、知らねーよんなもん。もう少し有名になって出直したらどうだ?無名騎士さんよ?」
「己の無知を知らぬとは、まったく。愚かな君に教えてやろう」
目の前の奴は人差し指を上げる。
さっきよりも一層、大きな態度で高らかに口にした。
「白蓮騎士団!傘下を含め総勢300名を優に超え、あらゆるMMOジャンルを全て制覇してきた、最大にして最強のクラン!それが俺たちだ」
「ほう、最強ね」
「そうだ、怖気付いたか?わかったら早く去れ」
去れ?
私にそれだけの啖呵を切って今さら去れと言うのか?
折角強そうなやつと会えたのに、今戦わずしてどうする?
「おい気色悪いぞ、何笑ってやがる」
「お前強いんだよなぁ?」
「なんだおまっ!?」
【非戦闘エリアでの戦闘は行えません】
「ああ!腹立つ!!」
クソムカつく文だ。目の前の奴と今すぐ喧嘩したいのにさせてくれない。私の怒りは溜まる一方だ。
「俺を殴ろうとしたな?白蓮騎士団の一員であるこの俺を」
「あーそうだ、そのなんたら騎士団もひっくるめてお前に喧嘩ふっかけてんだよ」
総勢300名超え、全制覇、最大最強、だからどうした。こちとらそんな数目じゃないくらい喧嘩してる。怖気ずくどころか楽しみだ。
「愚か過ぎる!はっはっは!その喧嘩買ってやるよ、実力の違いを思い知らせてやる」
【シュータから決闘が申請されました 承諾しますか? はい/いいえ】
「あぁ?」
「決闘システムすら知らないとは、まったく。まあいい、説明文を読む時間くらいは与えてやろう」
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決闘システム
説明:プレイヤーまたはNPCと所持品を賭けて勝負する。非戦闘エリアでも決闘可能。
決闘発動中であった場合HPが0になってもデスは無効とされ、かわりに敗北扱いとなり決闘が終了する。
また回復や蘇生などのアイテムの使用は一部制限となる。
決闘が終了すると消費したHPやアイテムなどは発動する直前の状態に戻る。
なお同プレイヤー同士の再戦は12時間後でなければ不可。
勝者は敗者側の賭けた所持品の所有権を得る。
なお決闘中に賭けた所持品を使用することは可能である。
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つまり今すぐこの場で戦えると言うこと。なんたる発見。私の求めていたものは最初からあったのだ。苦労して闘技場まで歩いて来たというのに、馬鹿馬鹿しい話だ。
「これなら、戦えるじゃねーか」
勿論私は【はい】と答えた。
【賭ける所持品を選択してください】
ルール上絶対に何か物を賭けないと決闘は開始しない。賭けると言っても服か剣しか無いが。
「さあ何を賭けて欲しい?君が決めてもいいよ。武器?回復薬?バフアイテム?」
これで私が勝てば、奴の今から賭ける物は私の物になるということ。なんで美味しい話だ。
「お前が一番取られたく無いやつはなんだ?」
「はん、ニュービーが勝てるわけないのに愚か……じゃあ俺の一番武器、冬旗カゼさんが直々に加工してくれた槍を賭けよう」
どっからか取り出した鉄製の槍を掲げてそう言った。目の前に互いの賭けた物が表示された。
【シュータが冬印-鉄製の槍-をベットしました】
【鬼桜が最初の霊剣をベットしました】
「所詮そんなものしか賭けられない君の底の浅さが見え透いてるよ」
「弱い犬ほどよく吠える」
「ぬかせ、雑魚が」
【シュータと鬼桜の決闘が開始した】