覇神の先導
【死線の心眼】これは相手の攻撃を事前に察知する戦闘狂専用スキル。現に今槍から放たれた貫通弾のようなものを避ける事に成功した。
「当たらぬか」
「あっぶねえなぁ?」
すかさず反撃の一矢を脛に当てる。が、どういうわけか傷痕が付かない。よくみると先ほど当てた肩もなんともなってないじゃないか。
「ちっ」
もっと直接的な急所、心臓を射抜かんと再び弓を引く。対してローグは蒼の光を纏って、槍を構え直していた。
蒼の効果、スピード、加速化。
「距離を詰めてくる気だな……」
左脚を踏み込んできた時点でこちらも【加速化】を発動してバックステップ。これにより私とローグの戦闘は一気に展開を早めることになる。
普段通りでやるとこの一矢は牽制で撃って、次の一撃を確実に通すのだが、なるほど【武装狂化】を使用するとそれをやるのが億劫になる。
「まあ打つけどな!」
軽々避けられ鉄製の弓矢全損。今後これがあるから金策必須だな。
もう使い物にならなくなったので、すかさず【冬印-鉄製の槍-】に持ち替えて、逸れた方向へ偏差撃ち……これも避けられるがなんのこれしき、加速化の乗ってる今のうちに敢えて急接近。
斧二丁を肘からスナップして、0距離まで。
「なぬ」
「攻撃は最大の防御でありながら最大の隙だ」
鼻先に放ったエルボーがクリーンヒットした。ゲーム的に大したダメージにならないが、怯んだらもうこっちのもんだ。
胸ぐらを掴んで、一本!
体育館とかだったら痛かっただろうが、草花がマットの役割をしてそうでもなさそう。
【赤鉄の大剣】を手にしてさらなる追撃を試みる。
「この範囲からは逃さん」
「良い」
するとどうだろう、奴の身体は突然白い炎で燃え盛り、大剣の一振りをすり抜けてしまった。
炎は消えず。それがこいつにとっての服であると言わんばかりに冷静な顔をしていた。
「【形状変化:DAGGER】」
槍の柄の部分が分かたれて、双剣となる。そしてその剣を……投げてきた。
ダガーはどこから力が加わったのか知らないが、途中で横回転を始めて、フリスビーを投げたような曲線軌道を描く。全く翻弄してくれるな。だが。
「対処に容易い!」
「どうかな」
【形状変化】。ローグの固有の能力か、いろんな武器に形を変えられる粘土みたいに見えて鋼鉄のそれは、槍、盾、ダガーに変化してきた。
ああ、私は武器にしか変化しないものだと思っていた。
「【SALAMANDER】」
武器と同じ色をした鱗の火竜の頭。作り物ではない。眼はこちらをしっかり覗いていて、鼻息を荒げていた。
灼熱の火焔放射が向けられる。熱風だ。かすっただけとおもっていたんだがHPの減り方が異常だ。一瞬で4割削られた。
「まさかこれ……魔法か?」
あまりにも武術チックな動きをするせいで気がつかなかった真実。変形するコレを武器だと思っていた弊害が今のしかかった。
何を隠そう私のステータスで一番低いのは魔力、二番目に低いのは魔防。直撃したらひとたまりもない。
きっと、あの槍の状態でも、当たれば、即死?
その事実が脳裏によぎって背筋が凍った。この戦いを勝つことがどれだけ困難かわかってしまった瞬間である。
しかしそれで、逆に、私の口角は上がるのだ。
「なんだよコンピューターの癖に熱いことしてくれんじゃん」
ゲームが好きっていう人達の気持ちが少しわかった気がした。
目の前の奴が人間に見た目がすごく近いとはいえモンスターの類。そう思うと感覚的に人間と戦ってる気はしなかった。
しかしそれでも私は楽しいと思ったのだから、きっとそれはゲーム好きってことなんじゃないだろうか。
「ぶちとばしてやんぞ」
迫る覇神に、立ち向かう。
◆◆
75秒。たったいま【武装狂化】が再起動した。一体このスキルを何度使ったかわからない。殆どの武器を壊し尽くして戦い続けて、回復薬もポーションもなくなって、それでもまだ決着はつかなかった。
「随分とタフだな!」
「聖霊の子、其方も中々の手合いであるぞ!」
長い時間戦ってわかってきたことがある。
一つ。ローグは人間の弱点を突いても怯むことはない。どうやらクリティカル判定にはなっているらしいが、あまり効いてない。
二つ。私の弱点は魔法攻撃。改めて攻撃されて実感した。ある程度の食いしばりが効かないってのは辛い。これは決闘王選抜前に知れてよかった。魔法対策はしよう……。
三つ。ローグという者の性格。顔は爽やか系イケメンなのに、なかなかどうしてこいつは誇り高き武人であった。そこには戦いを楽しんでいる心がある。これをどうしてコンピューターと呼べようか。
私が何振り構わず搦手を使えば、奴も竜の首やら象の足やらぽんぽん出してくる。
反対に近接のみで攻めて攻めてを繰り返しているうちはそういう変な技は使ってこない。
ローグが上位者で私に合わせていると認めよう。手加減されているのも認めよう。
しかしそれは最早関係ないのだ。今、私も奴も清々しい表情で剣を撃ち合っているのだから。
「ぶっ倒してやんよオラァ!!」
「望むところ!」
いざ尋常に。潔く、立派に、胸を張れる勝負をしよう。
使える武器ならなんでも使うってのは私のモットーだが、時として理屈じゃない事だってある。
「【武装狂化】!!」
「【原点回帰:レーヴァテイン】」
形状変化とは違う、何か大きな力が働いたと、肌で感じる。
それは武器とは言い難く、変な模様が彫られた燃える棒といって差し支えないくらい武骨。
その炎に反応するように、霧がはけて覗く漆黒、草花は急激に萎れ、やがて花園は……砂漠となった。
ローグは両手で棒を掲げた。
「おいおい、千手観音っていうんだっけ?こういうの」
背中から六つの腕が生えて、黒かったタトゥーが黄金に煌めき、燃え盛る炎も相まって神々しい。
ああ、そうか。覇神。そのまんまの意味で目の前にいるのが神なのだと悟った。
「耐えてみせよ」
【死線の心眼】が映し出した赤色は、ローグと私を繋ぐ一直線を描いていた。
これは、加速化込みで避けれると思った。が、耐えてみせよと言われた相手にそれは癪だ。
だから防御?いいや違う。
答えは5個目のスキル。クリティカルブリンガーだ。
「お前こそ耐えてみせろよ神様!」
宙から降りてくる業火へ、百幾つと蓄積された斬撃を当てる。
「吹っ飛べ!!!」
「くっ……」
衝撃波に飲まれ踏ん張る。だが、私のHPはその衝撃に耐える事なく散って……。
『特殊クエストextra:覇神の先導をクリアした』
『特殊クエストextra:覇神の試練が解禁された。クエストを開始しますか? はい/いいえ』
────────はっ?




