「使える武器ならなんだって使う」
風にのって草木の匂いがする。空は夕暮れ。黄色の太陽の光が眩しい。
そして────。
「なんだこの服は」
制服から変身した。草原の雰囲気に似合う昔の旅人って感じの服になっている。
ただこの旅人の服も悪くはないので許そう。
「おや、そこの方」
振り返るとそこには仮面を被った黒装束の知らない人がいた。
「誰だお前」
「わしは調停者」
【この調停者はガイド役NPCです。今からチュートリアルを開始します】
「お前さん、この世界の事を良く知らんのじゃろう?」
テキストと共に現れた、得体のしれないそいつ。声質と体格から察するに年老いた婆さん。
ノンプレイヤー、つまり生身の人間ではないということか?嘘だろう?
目の前にいる婆さん、魂が入ってないとは思えないぐらい現実味がある。
「マジか。こりゃ、想像以上」
これなら創作物に少し期待持っても良さそうな気さえしてきた。
「おい、きいておるのか?」
「んあ?」
「だから、お前さんこの世界のことをよく知らんのじゃろう?」
ガイド役よ、そうでもないんだな、これが。なんとさっき説明書を読んだ。いつもなら読まずに進んでいただろうが、生憎今の私は全てに対して警戒度が高い。
「モンスターを倒せばいい、そうだろう?」
「そうじゃ、が、今回わしが教えるのはもっと深い所よ」
「深い?」
そう。と一言嗄れた声を上げてみれば、調停者を名乗る仮面の婆さんは手を叩き、青と白の光を出してみせる。
どういう仕掛けか、そういう魔法か、青と白はあらゆる種族を記した樹形図を空中に描き出す。
人類種と書かれたものの先に伸びる聖霊種の文字。
「お前さんらは、この世界で聖霊と呼ばれる。人類種を超越した不死なる存在じゃ」
「な!?つまりうちは不死身なのか?」
「厳密には制約を払う事で再臨できる、ってことじゃ。死にはする、ただ蘇れる」
と、ここで私の知り得ぬ法則に補足情報としてテキストが表示された。
【聖霊が死亡した場合に、最後に訪れた街に再臨します。ただし制約が課せられるのでご注意を】
これがこの世界でのルール。用語について事前知識が全くないからカタカナで読むと意味不明だが、漢字でならニュアンスは伝わる。
「死んだら蘇るけど罰はあるよ」って事、考えてみりゃこれゲームだし、「死んだら終わりで遊べません」なんてする筈ないか。
「そして聖霊であるお前さんには【武器使い】か【魔法使い】のどちらかになる権利がある」
「なんだそりゃ」
【どちらか選択できます】
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武器使い:剣、槍、斧、弓をはじめとする物理装備を使用できます。実際に身体を動かして戦うのが好きな方、得意な方におすすめです。
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魔法使い:呪文、錬成、詠唱をはじめとする魔法を使用できます。頭を使って考えて戦うのが好きな方、得意な方におすすめです。
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なるほど、と私はうなずいた。
「武器使いだな」
即答。言うまでもない。私は魔法なんか使った事ないし、変に頭を使う事は嫌いだ。正直今もちょっとイライラしている。
ゲームのルールを世界観に落とし込んでるせいで説明がややこしいったらありゃしない。
「【武器使い】か。では武器を授けるとするかのう」
先程まで樹形図を描いてたものが崩れ去る。そこにも読み込む要素があった気がするがまあいい。かったりぃしな。
青と白の光、今度は大きく分けて4つの箇所に集合して、徐々に形を帯びて、それらが姿を表す。
「ここに、最初の武器を用意した。好きなのを一つ選ぶといい」
左から、剣、槍、斧、弓矢。素材が何かわからないが確かにその形を模したものがそこにはあった。
手は自然と、木刀に一番近い形状をしたそれに伸びていた。
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【最初の霊剣】
武器種:剣 斬撃属性 必要練度:ー 耐久値:ー 補正:筋力+5
説明:調停者の力によって錬成された剣。どれだけ使っても壊れない。攻撃力は低め。
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「ほう、剣とな」
「長ものが一番使い慣れてるからな」
刀と剣っていう若干の差は有るが、極論武器は棒でもいいし、こだわりはない。なんなら戦いで使えるものは全て使う。斧だろうが槍だろうが、そこらに落ちてる枝小石だろうが。
「さあ、これで武器を手にしたわけじゃが……」
「なんだ?」
ふう、と一息ついて、調停者は一歩引き、距離を取った。
その距離の意味はすぐわかる。ゾクゾクと内側から湧き上がる悦び、私の口角は勝手に上がる。
「察しがよいの、お前さん。どうじゃ、ここは試しにわしと、勝負といこうかの?」
「自分から仕掛けてくる奴は嫌いじゃ無い。あぁ、勝負しよう」
最初の霊剣を右手に構える。なんだ木刀より軽いじゃないか。もう少し重みはあっていい。
「あくまで力試しじゃからな」
『チュートリアルバトルが開始されました』