ワールドインターセプトというゲーム
【World Intercept】突如世界に現れた異形の生物。人類種はそれを悪魔の使徒と呼び恐れた。地上は地獄と化し、人類種は絶滅の一途を辿っていたという。
「そんなときに現れたのが聖霊神。設定上は聖霊種の母。つまり僕らプレイヤーのビックマザー」
「ビックマザーか、大きいおっぱぐへっ!?」
「続けてどーぞ」
「聖霊の母が世界に作った四つの塔を中心に、悪魔の使徒が入らないように結界を貼った。メタ的に言うと最初の街4つのことだね。……そして次に母は、聖霊の子を創った」
「それがうちらプレイヤーってわけか」
後の聖霊種。人類種からは悪魔の使徒と対比で聖なる使徒とも言われ敬服されている。
そして聖霊種の使命は徒党を組み、悪魔の使徒を倒すこと。これはゲーム的に「みんなで協力してモンスターを倒そう」ってことなんだが。
「人類種を救済する為に僕らが動いてるって構図になる。でだ、『悪魔の使徒が突如現れた』ってのは語弊があるんだよね」
「はぁ?ゲーム説明で嘘ついてるってのか?」
「そう。この説明だとぽっと現れてる事になる。いやまあ、ゲーム的モンスターポップと考えれば正しいだけどね。作品の織りなす歴史上ではそうじゃないんだよ」
「ややこしくなってきたな」
「すまないね、つい周りくどい言い方をしてしまったよ」
そこで店長代理と焼き鳥でポッキーゲームしてる嘉靖程じゃないが、私だってそこまで聞いてられる性格ではないのだ。
「調べたところモンスターが現れる前までは犬や猫みたいに普通に動物がいたらしいんだよね。それが今は居なく代わりに似たようなモンスターがいる。
それで僕は考察するわけさ、それって『突然変異』なんじゃないかってね」
「どっちにしろ、ぽっと出たのには変わらないだろ。で、それが十戒と関係あるってか?」
「そう。突然変異の原因が間違いなく十戒。大体の創作物のお決まりパターンだよね。大元を断って解決に向かわせるのは。つまるところこのゲームのボスキャラは十戒ってわけだ」
ボスキャラ、ボスキャラ。なるほどね。あんまりゲームしないが、悪い事する敵がいて、その敵をまとめ上げるリーダーがいて、そいつを倒せば万事解決。なんだ、シンプルな事じゃないか。
「っし、じゃあ倒すか。中身がコンピューターなのが些か不服だけど、うちの十戒はほぼ人間だからな」
「そこなんだよね」
首からぶら下げたヘッドホンを耳にかけ、いざログインしようとする私に待ったをかける。
「君の十戒が人間なのがどうもひっかかる。いやね、モンスターならわかるんだよ」
言うに、嘉靖の出会った十戒。それはゴブリンやオーガ系の魔人種モンスターだと推測されるという。
「嘉靖君、どうやって十戒に会ったっけ?」
突然呼ばれた嘉靖はアホみたいな顔して何の話か聞き返してくる。店長がもう一度質問して、やがて答える。
「ゴブリンの顔ムカつくから倒しまくってたらいつの間にいた。場所は森だぜ」
「とまあ、ゴブリンが何から変異した存在かは知らないけどボスモンスター感があるんだ」
私のはどうだろう、何の親玉なのだろう。見た限りは人間。それとも人間に化けたモンスター?
「人間そっくりなモンスターかもな」
「ありえるね」
タバコの吸殻を擦り潰して、「ところで」という切り出しから問われる。
「どうやって十戒に会ったか覚えてる?」
ああ覚えてるとも。数えちゃいなかったが、それを達成しましたと告げられれば、覚えるし嬉しい。
「決闘勝利数100回。これで十戒に会って、特殊クエストextraが始まった。」
それを聞いて深く考え込んでいるのか、神妙な面持ちになった。
ゲームの楽しみ方がそれぞれなんだなと思った。
私からすれば世界の話なんて凄くどうでも良くて、十戒とバチバチに熱い戦いが出来るかしか考えていなかった。
「取り敢えず殴ろうぜ、俺ァそうした」
「言われなくともそうするっての。会った時点で気絶しちまったから、今からカチコミよ」
「なるほど。んじゃ結果報告をお願いするよ」
「了解」
それだけ言って、首からかけたヘッドホンを耳に当てて、電脳空間へと飛び込んだ。
◆◆
ついさっきまで私服の女子高生だった私は、自警団をなぎ倒してぶんどった【武人の服[赤]】を着た戦闘員になった。ちょっとのステータスアップぐらいで目立った効果は無いがこの服は気に入った。
さて、ここがワールドインターセプトの世界。
「よーう、待たせたな十戒。決闘王選抜に闘技場イベントが控えて時間はあんまねーんだ。話は短くお願いするぞ」
霧の花園。遠くが白く見えないが、足元には選り取り見取りな花たちが咲き誇る。これが晴れていたならどれだけよかったものか。
「よかろう」
諸々の理由と、さっきまでの長話の反動か、既に私の闘志は煮えたぎっている。
その証拠に木刀十三号を握る拳が無意識に硬くなってる事に気がついた。
そして、それに答えるように奴は、台座から立ち上がる。
「やる気か」
十戒の白い腕、蛇と間違うような謎の黒紋様がウネウネと浮かび上がる。
「オンオフ式とは随分と洒落込んだタトゥーじゃねーか」
「貴様の道を示してみせよ」
冗談の通じない奴。中身がコンピューターだからなのか。それとも威厳のあるボスキャラだからか。
ちなみにうちはタトゥー入れない。銭湯入れなくなるのは勘弁な。
「上等!」
「いざ尋常に」
「「勝負!!」」
『十戒 真なる覇神・ローグヴァルハロードとの戦闘が開始されました』
黒い粘土が現れたと思ったら長槍型取り、ローグは手にした。
それに対し私のとった行動は弓矢による狙撃。あまり得意武器ではないがこれを使えると戦術の幅が広がると思ったからだ。練習も兼ねて!
「さあ新技のお披露目だこの野郎!!」
現在レベル18。先の戦闘で幾つもスキルを覚えることができたわけだが、ついに戦闘狂専用のスキルが3つ解禁された。今回使うのはその内の2つ。
固定された【戦人の酔狂】。ほぼデメリットしかないアホスキルは置いといて、新たな手札を持って迎え撃つ!
「【武装狂化】!」
私の見立てじゃかなり強力なんじゃないかと思う新スキル。強弓が奴の右肩をぶち抜いた。
そう、【武装狂化】に武器条件は無いし固定モーションも存在しないスキル。リキャストは75秒とだいぶ重いがそれ相応の効果がある。
「いい破壊力だ。百発百中で当たりゃデメリットなんざ関係ないね」
一度【武装狂化】が乗ったものは、「攻撃を外すか戦闘終了時に武器耐久値を全損させる」効果を持つ代わりに、威力を何倍も跳ね上げる。
倍率が発動時の残り耐久値に依存するせいで【煌黒の剣】と噛み合ってないが他の武器のパワーを永続的に底上げしてくれるのはありがたい。
「追撃!」
狂パワーが乗ったこの鉄製の弓は、外すか素で耐久値が無くなるまでは無限にパワフル発射できる!さあさあ遠くから削り切ってやろうか?
「【形状変形:SHIELD】」
タトゥーの模様が渦を巻く。まるで生命が吹きかかったように。
槍を形成していた漆黒は盾のそれへと変化する。
当たったはいいがガチンと弾かれまるで聞いてない。粘土のように見えて実は鋼鉄のように硬いと?
「【LANCE】」
伸びて槍の姿に戻った。
ビリヤードの打ち方みたいな……いやちょっと違うか。とにかく威嚇的な構え方をしたのを見て、本能が警戒を示す。
そして、そういう場面にはコレを使う。
【死線の心眼】
目を瞑り、目蓋の裏に映る、3秒間のゆっくりと動くモノクロ世界。
私の致命を予見する赤いひと筋が、槍の先から心の臓まで繋がっていた。
ああ、ついに手に入れたぞ。鑑定系のスキルとは違うが初見殺し殺しスキルだ。
当たれば即死と言わんばかりの槍一閃、ばっちし身を翻してこれを避ける。
「当たらぬか」
「あっぶねえなぁ?」
さて、反撃だ。
【武装狂化】
タイプ:ACTIVE
リキャスト:75秒
攻撃装備の筋力補正を永続的に増幅させる。ただしスキル使用時の装備の残り耐久値によって変わる。
増幅された装備は「攻撃を外す又は戦闘終了時に装備の耐久値を全損させる」効果を持つ。
この効果は重複しない。
このスキルの作者的見解
命中精度機械のエリートのみが使いこなせる理論値スキルにして、今後使っていくであろうスキル筆頭候補。
武器によっては2倍4倍とか鼻で笑えるレベルの高倍率をはじき出せる。倍率は発動から変動せず、耐久値は普通に減っていく。なので発動後から全攻撃を当てて使い切るのが理想的。煌黒の剣や最初の武器シリーズは使っても意味ない。
外せば終わりな上にリキャストが長く要求値高いので、大衆の評価では雑魚スキル、上位層ではレイド攻略なら悪くないかもだがもっと勝手の良いスキル他の職にあるんで、といった感じ。
【死線の心眼】
タイプ:ACTIVE
リキャスト:14秒 効果時間:3秒
発動後、自身と周囲の空間の彩度、速度を低下させ、その間に発生するダメージ判定及びそれになり得る予備動作を赤く色覚化させる。ただし範囲外からの攻撃はその限りではない。
この効果は発動者のみが認識できる。
このスキルの作者的見解
桜待望の情報アドスキルに見せかけたまさかの空間操作系。サーバー側があれやこれやしているのである。初見殺し殺しといっているが、いつ来るか分からないのが初見殺しなのであって、結局相手が「なにかやばいことする」ってのがわかる直感力がないと使いこなせない弱スキル。しかも自分だけ普通に動けるというわけでもない。従ってこれも大衆からの評価は低い。




