五人の有力候補
「交渉?」
今、私と狂夏は向かい合って座っている。
場所は移動して、闘技場内の食堂エリア。まさかゲームで飲食できるのか?と思って期待したが、味覚やらなんやらの再現は法律で制限されてるとか。食べるという動作は出来ず、飯は消滅し、なんか体力だけ回復するらしい。
「アタシの情報を上げる代わりにお姉ちゃんに頼みごと、だから交渉。するんでしょ?リベンジ」
まあ確かにそうだ。今負けて、情報のなさを思い知らされたところだ。こいつの知識は絶対に役に立つだろう。が、交渉をするとなると二つ返事はできない。いろいろあってその手の話には慎重になるのが私だ。
「情報と引き換えに欲しいのはなんだ?」
単刀直入にそう言った、狂夏はアタシの欲しいものは、という切り口から要求を言った。
「わたしとお友達になって欲しい」
「え?」
「だ、だから。その、わたし一人ぼっちで寂しいから、さ」
まるで人が変わったように声が小さくなって顔を赤らめていた。ほんと変な奴だな。
「わたしは、さ、プレイヤーキルするの好きだけどさ、人並みに友達は欲しいわけ」
「……で、なに?うち?」
こくりと頷いた。
いや。そりゃ人を殺しにかかるような奴と友達になりたがるやついないだろうよ。なんだ?私ならそれでもダチになってくれると思ってんのか?
はあ。まったくこいつは。
「ダチなんて言わなくてもいつのまにかなってるもんだろ」
交渉とかいうからお堅く構えちまったわ。飛んだ拍子抜けだ。
友達、ね……そういえば私も友達とか高校入ってから居なかったしちょうどいいわ。嘉靖と店長はノーカウントだ、あれは腐れ縁のクソ野郎共だからな。
「……じゃあ、友達ってことでいい?」
「2度言わせんな……勝手にしろ」
「やったぁぁあ!!!」
ぴょーーんと椅子から飛び跳ねる。いつものうるさい調子に戻ったようだ……がこういうところとかも嫌いじゃない。『店長代理』とは性格違うけど同じものを見てる感じがする。
「じゃあじゃあ!早速色々話しちゃうよ!唐獅子牡丹の情報よりももっと重要なことがあるの!」
「重要?」
「そう!さっきも言ったとおり決闘王選抜について!」
決闘王選抜の概要。物凄く噛み砕いて説明すると、それは一つのエリアに選抜受験者全員がぶち込まれて、最後に生き残った5人が『四天王』『決闘王』になるというもの。
「決闘王選抜の情報戦はもう始まってるよ!噂によるとぉ、唐獅子牡丹も出るみたい」
「ほう、出るのか」
「リベンジできるね!」
「いいね。再戦は盛り上がる場か」
決闘王選抜なんてたいそうな名前の戦いで堂々と勝負できるなら最高だな。まあ勝つ方法考えてからの話だけど。
「で、ここで一つ注意が必要!」
人差し指を立てて続けて言う。
「この選抜戦は邪魔者いっぱいのバトルロワイヤル……に見せかけた集団チーム戦だよ」
曰く、複数人で協力して倒しつつ全員で決闘王と四天王の座を埋めようと考える輩がいるとか。
「そりゃあ、つまり、なんだ?もう既に何人かはグルになり始めてるってことか?」
「うんうん!唐獅子牡丹はどうか知らないけどもう数名は手を組み始めてるってーこと。
【激ムズ!決闘王への道】自体が五人一組でやるやつだから仲良しこよしで協力して生き残った方が本番に活かせていいよネ!って話。うーーんまとめて暗殺したいな!」
「なるほど確かに合理的だな。つか意外だな、あんた暗殺したいだけで、決闘王なんざ興味ないと思ってた」
「たまには息抜き息抜きぃ!てゆーか決闘王選抜の内容が奇襲暗殺どんとこい!で楽しそうじゃーーん」
折角やるなら勝ちたいのだ!アハハアハハとナイフを振り回している。愉快なやつ。こんな隠密行動出来なさそうな性格してるのにな。
「狂夏・ザ・リッパーの名を世に知らしめる為にも!アタシ、決闘王選抜、参加します!って感じ。さぁさぁいっちょ派手に暴れますか鬼桜の姉貴!」
「はん、その前に情報が必要だろうよ。今持ってるものを全部教えてくれ」
「んー!りょーかい!」
そう言って狂夏は右の掌をこちらに向けて見せた。
「早速ですが!この決闘王選抜において警戒度激ヤバな5人を発表しまーーす!いえーーーーい!」
「え?は?い、いえーい」
一気に置いてけぼりにされた気が。なんかよくわからないうちに話が急に進んだと思えば、まずは一人目!と人差し指を立て、1を示すその指先が向けられた。そう、私に。
「レオンハーツのリーダーたるバディレオンを倒した!?人力で致死を発動させた精度の化け物!『戦極のクリティカルヒッター、鬼桜』!!!」
「……あーー、いきなりどうした、おだてても何もでねーぞ」
「おだててないよぁ?事実だもん」
曰く、私が当たり前のように叩き出していたクリティカルを出来る奴は少ないという。
視線誘導に行動誘発、読みに差し込みは現実で培った経験だが、しっかりと生かされているんだと改めて実感する。
で、そうやって何人も倒してきた私はいつしか他の人から最重要警戒されようになっていたらしく。
「クリティカルを狙って出せちゃう脅威!旅人装備の癖にタイマン最強クラス!他の四人ともどもお姉ちゃんが強すぎるから協力チーム組み始める人はいっぱいいるんだから!」
「そうか、そうか」
その、なんだ。そんなに影響出てたのか。ってーかここまでベタ褒めされるのも慣れてなさすぎて、こう。
あぁ、嬉しいのか私。なんだか上機嫌になっている自分がそこにいた。
もしかしなくてもチョロいんだな。自覚したけどダメだ、広角上がってきてる。
「もしかしてーー、お姉ちゃん照れてるぅ?」
「ごっほん、要するに選抜候補五人ってわけだな。次の奴いこうか」
にんまりと指を一から二に変えて、ピースピースしている。早く次に行けと小突く。
「二人目!現段階唯一の【魔獣使い】大量のモンスターを隠し持つ艶麗な美女!『百獣百華のビーストテイマー、唐獅子牡丹』!!!」
ひゃーひゅーと口笛を吹く。二つ名が私よりかっこいいのが不服。このリング入場の肩書紹介みたいなやつはこいつが考えるんだっけな。
自分の名乗りの時もそんな感じだったな。『天下に轟く大犯罪者、狂夏・ザ・リッパー』
「お姉ちゃんの狙う仇!実はあの人も結構警戒されてるんだよぉ。モンスターを引き連れてるせいで一人でチームつくっちゃうから」
下手したら一週間の間にレベルが上がりすぎて唐獅vsその他全員になりかねないと言う。そんな相手と知らずに一人で突っ込んだのか……と反省する。
とりあえず数の戦力なら最大なのは間違い無いな。
「三人目!必中必殺の神エイム!近距離もお手の物!『至高で孤高の狙撃名人、ユミヤマスター』!!!」
「知らないやつだな。名前の通り弓矢使うのか?」
「正確には弓矢も使うって感じ」
寧ろ本職は、と、小刀を二丁取り出し、構えるポーズをする。なるほど、狂夏に似た暗殺タイプ。
「タイマンも強いしぃ、暗殺も強いしぃ、弓矢の命中精度がとち狂ってるの……」
ばきゅーーんと指で打つ真似をしてるがそれは弓矢じゃなくて銃だろう。
ユミヤマスターという者、秀でて強いというよりはなんでもできる実力者。
「おい、ユミヤに株取られてないか?お前」
「ひぃぃぃそれは言わないでぇぇ」
耳を塞いで、机の下に蹲み込んだ。もちろん引っ張り出す。散歩に行きたがらない犬みたい。
「気を取り直して四人目、決闘王最有力候補!別ゲーじゃ知る人ぞ知る!『無双剣聖!億戦万超!!!』対一戦闘もさることながら!何人来ようが返り討ちにする技量も持つ!鬼桜の姉貴との対戦カードには期待だぁ!!!」
「ほーーーう」
「あっ、今までにないくらい興味もったね!!」
補足説明された。その男は【チャンバリオン】っていうゲームでプロやってるらしい。プロゲーマーってのには疎いが強いのには間違いない。それで金貰って飯食ってるような奴なのだから。
「ほーーんとに強いから。生ける伝説だよ」
「いいね、燃えてきた」
闘志が湧いてきた。そう、一番熱いのはお互いが同じ土俵での戦いを得意としてる者同士の対決だ。私と億戦万超は聞くに同じタイプ。
唐獅子牡丹との勝負は私の馬鹿が招いた敗北だが、もし億戦万長に負けたならそれは単純に実力負けだ。それは負けられない!絶対に負けられない!!名前覚えたぞ。
「よし、その調子で最後の一人、紹介頼む」
「おーけー、んじゃ五人目」
5本の指を立てて、グッと握りしめる。私は期待を寄せた。
「アタシの調べに狂いがなければ、なんだけど」
と、前置きを一つ。そして最後の一人のリングネーム読み上げが始まる。
「現プレイヤー最高金額所有者、数多のレア武器素材を初日で総なめしたという、闘技場選抜に轟かす台風の目」
「その名は」
「その名は……」
「『黄金の女帝!キング・カセイ!!!!』」
「はああああああ!?」




