百獣百華のビーストテイマー
初の対モンスター戦です
情報戦で完全に負けた。目の前に現れた赤色で形のないスライムみたいな奴。
剣を弾き返した。素材は一体何でできているんだろう。
「【決闘の心得】【格闘の心得】【片手剣術:斬撃】【打武器術:撃振】【槍術:貫き】【技能:カウンター】そして……【クリティカルブリンガー】」
ニヤけた面で私のセットしているスキルを読み上げる。まったく、せっかく新技お披露目タイムだったのに。なんつーか……
「ムカつくな」
「ふふっ」
「てめえとは馬があわねぇ!!」
「奇遇ね、ワタシもそう思うわ、さあ出番よクロコちゃん」
パチンと鳴らされた指、その音が廊下に響き渡る前にそいつが解き放たれたのがすぐにわかる。
私のすぐ隣の檻、百足鰐との間にあった壁は消失していた。奇声を上げて、襲いかかってくる!
「なにが、奇遇だ。あわねえって言ってんだよッ!」
四つに分かれた顎っぽいぐしゃっとした牙、狙いは、肩か。喰われる前に斧を振る。
「【撃振一打】!!!」
「【呪文:電撃の拘束】」
バチン!と身体に衝撃が走る。振ろうと思った腕が途中で止まる。
搦手とは厄介だ。右肩をモロに噛まれ、引き摺り回される。デタラメな顎の力が、私を掴んで離さない。
「どんな生き物だろうと……目は弱点!!!」
複数個あるから狙いやすい。
左手に持った斧の刃をその目ん玉をえぐるように突き立てる。血はでない、しかし、「傷痕」として赤色のエフェクトとなってそこが崩れた。
「キャァァァォ」
ようやく腕を離してくれた。そのうるさい叫び声はもう出ないようにしてやろう。【冬印-鉄製の槍-】に持ち替えて【貫く一迅】発動。四つに分かれた顎の下、口があるなら喉もある!
ぐさりと突き刺す槍一閃、キャォンと狂騒をぶっちぎる。腹を見せるように打ち上げられるモンスター。
流れるように斧に再び持ち変え、百足のようにみえて爬虫類の鱗をみせるその腹をかっぴらく。
「傷痕の手応えよし……ただ斧の消耗が激しいなっ!!」
身体を反転させて、モンスターの親玉……唐獅子牡丹へ投げ飛ばす。
「それは聞かないわ」
「チッ」
やはりあの赤色スライムの壁が邪魔だ。弾き返されてしまう。
百足鰐に向き直って斧から【赤鉄の大剣】に持ち替え上に昇った頭部目掛けてぶちかます!
天井ギリギリから振り下ろされた一振りは、奴を粉砕してみせた。
「あら、死んでしまったわ。酷いことをするのね」
「勝負に慈悲なんざいらない」
スライムへ攻撃。打撃でダメなら斬撃で、剣に持ち替えて斬り付けてみればそいつは見事にはち切れて消滅した。
「突破!」
「おめでとう」
「ぶっ倒す」
「頑張れー」
槍をそのまま投じる。せいぜい頑張って防いでいろ、その隙に斧二刀流に切り替えて、一直線を駆け抜ける。【決闘の心得】のおかげで【加速化】と同等のスピード、一瞬にして距離を詰めた。
「貴女、凄く強いのね」
「そりゃどうも!」
【片手剣術:斬撃】の斧、打撃バージョンである【打武器術:撃振】はリキャストタイム8秒、もう既に再発動可能だ。その調子になったツラをぶっ叩く!
「いやーーーん」
痛みはないとはいえ顔面にモロ直撃して後方に吹き飛ばされたのに、このふざけたような反応とは……肝が座っているのか。
「レディのお顔を傷つけるのはよろしくなくてよ?」
「戯け」
「ふふっ」
奴の手から投げ込まれた、理科の試験管みたいな物。ポーション瓶とは毛色の違うそれは地面に叩きつけられ煙を放つ。
「対人用に育てているの、この子の対戦データが欲しいわけ、付き合ってね」
「あぁ?」
煙の中、それは姿を現した。人型、にしては影が大きすぎる。成る程、霊長類たる人間には、霊長類の王様をぶつけるってか。
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エルフィードコング
種族:猿類種
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大体4〜5メートルくらいの巨人か、猿……いや深緑色の体毛に覆われたゴリラ。棍棒を携え牙を剥き出し襲いかかってくる。こりゃある意味人と戦ってる……のか?
「【ジャストカウンター】」
ゴリラのフルスイングに合わせてスキルを発動、HPを減らすことはなく、攻撃のお釣りを返す。
「やっとそれを使ってくれたわね【呪文:薔薇の捕縛蔦】」
それはどうやら向こうの目論見通りだったようで、【ジャストカウンター】を使わせてから拘束の魔法を発動させた。
石壁の隙間から刺のある蔦が生え、私の四肢に絡みつく。力自体は弱いし、刺のダメージも少量、力尽くで引きちぎった。だが隙を見せすぎた。ゴリラの二撃目は、直撃する。
自分の身体が宙に浮いた、背中から壁……いや天井に叩きつけられ、落ちる前に腹から蹴り飛ばされた。
吹き飛ばされて、一直線に廊下を不可抗力で飛んでいく。障害物がないので随分遠くまで飛んだ。
「HP……【大撃斬】と同じくらい、いやあの時よりうちもレベルが上がってるからそれ以上か?」
グルグル唸ったら、雄叫びをあげながら胸を手で叩く。「どうしたどうした?こんなもんか?」と挑発されてるようにさえ思えた。
圧倒的なパワーを誇るモンスター……だがモンスターでもさっきのジェムや百足鰐みたいな謎生物でもない、シンプルなゴリラ。
「人型なら、やりやすい!」
インベントリから斧を出す。耐久値ゴリゴリ減ってようが斧は余りある。投げるには申し分ない数だ。
槍二本分ぐらいの距離まで接近したら即座に両手に持ったそれを────ちょっとまて!?
「腕が生えた!?」
「エルちゃんは、モンスターだよ」
先程まで二本だったそれが四本に、肩からさらに肩が生えて腕が伸びている。これで腕を封じて弱点を狙うという戦法が取れなくなった。
「さあ、やっちゃいなさい、エルちゃん」
「やられるのはそっちだ」
斧を持ったまま突撃する。左手側の上手投げで敢えてふわりと飛ばし、注意を引きつける。身をかがめ、本命は脚元!
「っしゃあ!」
足首に斧による斬撃の傷痕をつける。弱点が分からないのなら、作ってしまえばいい。
振り下ろされる拳、体を捻ってすんでで避ける。
足元を集中して狙う、その肩の上に乗っかった腕は地面に届かぬ飾りよ。
「へぇ、エルちゃんは期待の新人なのだけれど」
期待の新人だかなんだか知らないが、今倒してやるよ。所詮ゴリラ、生存する為の戦い方をしてきたお前に私は倒せない!
「なるほど十分ね。戦闘用に育てるモンスターはもう少し考えた方が良かったかしらね。失敗、失敗」
「あぁ!?」
エルフィードコングは消滅した。倒したからか、否、カラシの意思によって手持ちにかえったともいうべきか。奴の手元に、試験管が戻っていた。
「てめぇ」
「ふふふっ、じゃあ次、ワタシのお気に入り!」
投じられる二本目。先程と同じように煙を放って、モンスターが姿を表す。
山羊のような巻き角、淀んだ赤色光沢のある鱗、霞んで汚れた牙、二つに分かれた毒々しい舌、配管みたいに長く伸びた胴、向けられる蛇眼。
「モノガルド、モノちゃんって呼んで」
「あぁぁ?しつこいなぁモンスターどもがよぉ……」
通路を塞ぐ大蛇の向こうに、ふふふと微笑む女一人。
【魔獣使い】
スキルでテイムしたエリアモンスターを「召喚薬アイテム」や「檻」に入れて主従関係を作ることができる。詠唱と違い、テイムさせる手間があるものの、リキャストを必要としない。その為連投が可能。
通常戦闘で死亡したモンスターは戻らない。決闘の場合は戻る。
テイムに必要なステータスは主に技量と運気。さらにモンスター一匹ごと育てなければならないのでさらに手間。
その独自性と、極めればラスボスムーブできるという噂で後に少し人気を博すが強くなるのも遅い上戦闘での扱いが難しい為不遇職と言われることになる。
【檻】
テイムしているモンスターをオブジェクトとして収容できる。
また戦闘状態となった場合、所有者は檻からモンスターを放つことが可能。




