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腐れ縁の修理屋店長



「いらっしゃいませー……なんだ桜ちゃんか」


「ったく、客に対する態度かよ」


「君と僕の仲じゃない」


「親しき仲にも礼儀あり」



 ガレージの中、ひょっこり顔を出したのは、金髪童顔のチビだった。その口にはタバコをくわえている。

 ここは修理屋【陽炎】そしてこの違法感満載の中学生と見間違えるような青年はここの店長……その足元に愛くるしい三毛猫の店長代理が。



「にゃーん」


「おー店長代理ぃ。元気してたか?」



 抱き抱えて、暫くモフモフして癒される。

 そうして店長の方へ向き直り、モフモフを続行しながら本題に入る。



「おい店長。うちの相棒はまだ直んねーのか?」


「そりゃあ時間かかるよ。あれだってもう70年選手の御老人だからね?」



 店長の指差す先に、鉄のワイヤーか何かで吊るされた相棒、ズタボロになった私のバイクの姿が。つい最近色々あって事故ったので治療中だ。

 今の技術だ、直すのなんてわけないが、時間がかかるらしい。



「ったく。最近ゴロツキ共もシケた野郎しかいねーしよ」



 店長は私が悪名高いあの鬼桜だと知っている。その上で厄介払いしない数少ない人物。

 タバコ吸ってその上ド金髪で察せられるが店長もわけあり。

 多くの店で出禁になってるから、こうして落ち着いて過ごせる貴重な場所でもある。



「あれ?arrowsはどうしたの?」


「戦ったよ」


「強かった?」


「控えめに言って雑魚」


「辛辣だねぇ」


「期待外れ、おかげでこっちは不完全燃焼ってもんだよ」



 直前にそこそこな奴らと連戦したせいか、より一層弱く感じた。あれだけ大きく挑発しておいてその程度だったのだ。

 改めて落胆していると店長は言った。



「ふむふむ、そんな不完全燃焼な君に一つ提案があるんだけど聞く?」


「なに」



 店長は人差し指を上げて、目を瞑り、こう言った。




「私と一緒にゲームしよ?」


「あんたはバナー広告か何かか?」


「簡単ログインでゲームスタート」


「特典あってもそのリンクは踏まない……やらせんな殴るぞ」



 グーを見せると店長は両手を上げて降参のポーズを取った。



「真面目に言うと前々から君にはゲームを薦めたく思ってたんだよ」



 私は興味ないと答えると「でも君今暇だろう?」と言われた。

 確かに暇だが人に言われるとそれは違うと返したくなる。



「つい先日発売されたゲームがあってね」


「まだやるなんて一言もいってねーつの」


「まあまあ、聞くだけ聞いてってよ」



 店長は手元にあるペットボトルの蓋くらいの小さな電子機器(タブレット)を起動させると、空中に青白く発光する四角い半透明な板が現れる。俗に言うホログラムだ。


 手に連動して目まぐるしくページを移動し、その「情報」を私に見せつけた。



「【World(ワールド) Intercept(インターセプト)】新作MMORPGさ」



 パッケージ画像が表示されていた。そこには広大な空にポツンと浮島とファンタジックな服装の少年が描かれていた。



「えむえむおーなんだって?」


「マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム略してMMORPG」


「おい、ここは日本だ、日本の公用語はわかるよな?」


「これだから学の無いやつは。簡単に言うと沢山の人が同時参加するゲームさ」


「ふーん」


「本当に理解してる?」


「バカにすんな」



 沢山の人が同時参加するゲームだろう?それぐらい理解している────いや正直半分も理解できてない。

 私の中でゲームは部屋で一人で楽しむ物か、隙間時間にポチポチやっとくやつのイメージが強く定着し過ぎていてピンと来ない。

 



「君普段からゲームしてないし、MMOはややこしいから、『みんなでワイワイする物』ぐらいで考えといて」



 みんなでワイワイ。

 一人立つ私、襲いかかる大勢の不良、喧嘩屋、ならず者たち……ワイワイ、ガヤガヤ。



「じゃあ普段やってる喧嘩と一緒だな」


「確かに君がレイドボスって考えたらあながち間違ってないけど、違うね」


「知らない単語を次から次へと、で?それがうちの沸切らない心を解決してくれるって?」



 くれるともさ。と店長は豪語する。

 だから「何故そこまで言い切れる?」と問い返してやった。



「つまるところ君は好敵手に飢えている」


「わかったような口だな。あー、そうだよ、貧弱な奴ばっかで退屈さ」



 うどんをかき込んで飲み込んだ。

 その通り。私は好敵手に飢えている。


 戦い続けていたら、『鬼桜』として広まって、私を見ただけでびびって逃げ出す輩まで出る始末。

 未だに手合わせしてくれる奴は指で数えるくらいしかいない。



「電脳の世界の先には、君の知らない強敵がたくさんいるよ」


「なにが、電脳だ。偽物には興味ない」



 目の前の奴と魂を乗せてアツい戦いをする事こそ、私の感じる浪漫だ。ゲームなんて所詮はおもちゃ、電脳の世界は嘘、本物じゃなくてはダメだ。



「はい、なんとここに、超最新式のVRマシンがあります」



 ニヤニヤしながら店長が出したのは、真っ黒なヘッドホンに似た何か。耳当ての真ん中には見覚えのある企業マーク。



「おい、うちはやらねーぞ」


「正確に言うと【多次元情報転移ユニット:ノア】フルダイブの常識を塗り替えた代物なんだけど、まあ言ってもわからないか」


「聞いてんのか?」



 店長は私の言葉を無視してさらに付け加えた。



「僕おっちょこちょいでね。間違えて二つ買っちゃったから、君にひとつあげるよ」


「何言ってんだ?いらねーっての」



 すると店長、何やら3本指を立てた。そりゃ値段か?3000か?いやそんなはずない、もっと高い……



「多分君が想像してる額の10倍かな」


「なんだと……」


「いらない?」



 多次元なんちゃらっていう御大層な名前と、超最新式と言わしめた上、私には手の届かない代物。あろうことか無料で差し出すと言っている。

 これは罠か、何かの差し金か、私の本能の警戒レーダーが反応を示す。



「そう勘ぐったような顔しないでくれよ」


「目当てはなんだ?私に出せるものはなんもない。悪いけど受けとれない」


「君そういうとこ律儀だよね。でも残念、サンタさんのプレゼントに拒否権はないよ」


「今三月だぞ、本当になにも無いのか?」


「無いってば」



 なんだか腑に落ちない。私がこいつになにかしてやった覚えはない。私の疑問解消のためだけに、大金叩いて、最新の機械をくれる理由がわからない。



「なんでそこまで……」


「自分のこと最強だと思ってるであろう君に知って欲しいんだよ」


「なに?」


「世界は、広いのさ」



 目の前のヘッドホン型のそれに手を伸ばす。おいまて、落ち着け私の身体よ。冷静になれ。

 ゲームも興味ないし、お金なんて気にしない、そうだろう?そういう人間だろう唐木田桜?

 

 だがもしこの先に、電脳の世界の先に、私の求める闘争があると言うのなら。興味がないわけじゃない。



「にゃーーん」


「店長代理……わ、わかった受け取ってやるよ。ただし見返りは無しだからな」



 結局店長代理の一声ならぬ一鳴きに押し負け、頂くことにした。満面の笑みで二回頷く店長を尻目に、その最新機器とやらをもらうことにした。

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