最速の暗殺者
「よろしくで死ねるか!」
「いっひ、じゃあ殺すね!」
なんてやろうだ。殺気満々だ。本当にいるんだなこう言うやつ。
にしたって脚が早い。マジに早いぞ。ここに来たばかりの時戦った調停者やシュータの速度上げ状態が常時かかってるような感じ。それでいてまだ速くなれるという余裕を感じさせられる。
「うーん、凄いね!さすが戦極のクリティカルヒッター」
「なんだそれ」
「アナタの二つ名、今考えてみた!」
お喋りだなこいつ。その割に動きにキレがある。マルチタスクっていうのかな。
だが、それはそれとして刃の通しが甘い。それじゃあ私のガードは崩さない。そろそろ目が冴えてきた、攻撃に転じる隙を窺う。
「じゃ、ちょっと本気出そ【透明化】!」
消えた。誇張表現ではなく今まさに目の前から姿を消した。成る程な、目に頼るなってか。おーけそれじゃ瞑ろうか。
「集中……はいそこ!」
「ぬぇえ!?なんでわかったの!?」
「感覚だ!」
嘉靖とつい昨日目隠し喧嘩したのが功を奏す。指の先まで繊細な感覚。いやまあ現実よりその先っぽ伸びてるけど数分間ダイブしてりゃ慣れる!
「速いけどその脚に頼りすぎだな攻撃に工夫が足りてねえ!それでうちは倒せねー!!」
「ダメだしぃ!?ひどくない!?」
「もっと楽しませろってこった!」
やっててわかった。こいつは特別強いってわけじゃない。ただし秀でた能力はある。しかしそれに頼りすぎている。言ってしまえばそれこそ筋肉の硬さに頼ってる嘉靖と一緒だ。ただ硬いのもただ速いのもダメだ。
いかにして勝利するかを考える。
右側に腰を落とす。剣を構える。左がガラ空きになる露骨な誘い。かかるか、かからないか、動きが短調、読みやすく、引っ掛けやすい!
「せやっ!」
「おぶっ!?」
「かかったな」
飛び込んできたので早めのタイミングで右から豪腕スイング。奴の腰にクリーンヒットしそのまま吹き飛んでいった。やはり速いだけあって当たれば軽いな。
「いひひ、痛いな。おかしいな。工夫はしてるんだよ?これでも」
「している?スピード一辺倒でそんなもの────ッ!?」
ーーーーー
状態異常:毒(小)
ーーーーー
2秒刻みで身体が勝手に震える。ちくりちくりとダメージを受けているということ。いつ毒を盛られたのかと思えば、右肩に針が刺さっていた。誘いに乗ったのはわざとだったのか、それとも私がどんな手を出してもダメージを与えるように両側から同時に攻めたのか。
「【暗殺撃ち】」
「爪が甘い!【ジャストカウンター】」
「ふんげゃ!?」
こ、こいつめ。変な声出すから笑ってしまいそうになったじゃないか。いかんいかん。
こいつはあまり舐めない方がいいと、本能の警戒レベル50%ぐらいになった。依然私の方が優勢ではあるがこの毒針が勝負をわからなくさせる。
「仕込み針を見切れるようになんなきゃな、うち」
「えぇ、それ見切られたらおしまいって感じなんだけど」
「じゃあ見切られる前にうちを倒してみることだな」
二本目の針を抜いた。本当にいつ差し込まれたかわからないそれは、刺さった時点で役目を終えている。
毒は重複し私の身体を蝕んでいく。解毒剤ってどっかで買えたりしない?
「じゃあー、お言葉に甘えてアタシ本気出しちゃおっかなー」
「やってみろ、それをねじ伏せてやる」
のびーーっとちんまりした身体を目一杯伸ばす。
準備運動か何だか知らないがこうしてる間に毒回ってるから早くしてほしいな。
てゆーかまつ必要ないな。
「はやくしろ」
青銅の斧を取り出してそのままスパーキング。
「まあまあ、焦らなくても殺してあげるよ!」
それを避けた黒装束の暗殺者は二足から急加速を始めた。
見失った。反応速度には自信があるつもりだったが────体力が二割切っただと!?
「はぁ?」
「いひひっ、生き残っちゃったね。残念残念。でもぉ、あとちょーっとだけだから安心して!」
すでに背後にそいつはいて、私の身体に一筋の赤線が浮かび上がり。毒と共に体力が無くなっていた。そして。そいつはまた消えた。
「やるじゃねーか……少し本気を出すぞ」
タイミングがズレて一撃食らったんだと思う。さらに動きがはやくなったようだ。
少し、思考を凝らそう。右が左から上か後ろか前か、下か。それとも。来るタイミングの予測を気持ち早めにする。
「そこだ!」
【斬撃一閃】から反撃成功。
「嘘!?もう【音速化】見切ったの!?2回目で!?」
見切った?いや違うね、狂夏・ザ・リッパー、さっきの一撃で仕留められなかったのがお前の最後だ。私の次の一手は打ち込まれている。
流れるように逆袈裟斬りの追撃を。するとこいつは避けようとするだろう。そのまま剣を手から離し、新しく青銅の剣を構えて避けた先をしっかりと、刈り取る。
「そこ!!」
「ふぇぁ!?」
首斬りから溝落ち、骨盤、鎖骨の間と叩く。人間っていうのは弱点が多いな。
「顎がガラ空き!!」
とどめを────
「さっせんしたーー!」
大声の謝罪が私の耳に飛び込んでくる、その瞬間に剣を逸らし顎の横、エラを掠めて振り抜いた。
「解毒薬と回復ポーション!これで勘弁っ!!」
奴はそのまま青い瓶やら薬やらを私に投げ渡してきた。これは……罠か?
「なんのつもりだ?」
「はい降参ですっ!噛み付いてすみませんでしたっ!」
そのまま飛び上がったと思えば地面に頭を擦り付けた。土下座とか、三下かよ。お前の頭はそんなに安いのか?
「おい、頭上げろ」
「お許しください!どうかこの通り!」
すみません、すみませんと何度も頭を打ち付けて許しをこう。ああ、そんな風に謝られるとムカムカしてくるな。
……回復ポーションってやつをこのチビにぶん投げる。うん、異常なさそう。罠の気配なし、いかにも癒しを表すようなオーラが出ている。そうして自分に解毒剤を使ってから、こいつのつむじを…木刀でばーん!!
「へぐっ!?」
「頭上げろバーカ」
「ふぇぇ?」
涙目で頭のてっぺんをさすっていた。面白いやつだなこいつ。
「仮にもうちに本気出させたお前がみっともない真似すんな」
「それは……許してくれるってこと!?」
「許す、とはちょっと違うな、てか怒ってないし」
そういうと狂夏は安堵したと同時に、嘘でしょう?と言い返す。
「アタシ殺そうとしたんだよ!?怒ってないの!?」
「怒るか。んなもん返り討ちにするだけだわ」
「てゆーかポーション!アタシに使ったの!?」
「ん、あー、あのまま頭ぶっ叩いたら死んじゃうだろうし、本物かどうか確かめる為にな」
事実、解毒剤は本物で毒は完治した。体力は回復してないけどまあいいだろう。死んでないし。
それと。
「その針はしまっとけよ。この体力でもお前を返り討ちにできるぞ?うちは」
「ひぃ!?これはその!ちがっ」
姑息な野郎だ。負けそうだと思えば降参、ちょっと勝てそうだと思った瞬間殺しにかかるなんてな。
「気に入ったぞ、あんた」
「へぇ?」
「常に勝ちを狙う姿勢、嫌いじゃない……それだけ」
それだけだが、まずこいつは一体何者だ。
「おいジェイス、こいつは……んあ?」
振り向くとジェイスの横に知らない奴数名が並んでいた。鎧を着てる奴や格闘術やってそうな奴。他にも他にも。ギャラリーが出来上がっていた。
「いやあ、素晴らしい勝負でしたね」
ジェイスがそういうと、これが強者同士の戦いか、参考になります!と感心するような声が二つ三つと上がる。とりあえず全員NPCなのだけはわかる。
「いろいろ説明がたりねーぞ。まずこの狂夏って誰だ」
「はい!狂夏ちゃんでーす」
ごほんと一息ついてジェイスは説明を始めた。
「さっきも言った通りですよ狂夏殿はここの特殊戦闘員、つまり鬼桜殿と同じです」
「いひひぃ、強い人って聞いたから襲っちゃった、殺しごたえありそうだなって!」
「名前に狂ってついてるだけあるわ」
私は一向に構わないがその危険思想は良くないと思うぞ。まあ後悔するのもしないのもこいつ次第だから知らないけど。
「で、こいつらは」
「こちらの皆さんは通常戦闘員、聖霊様同士の戦いなんて滅多にみられませんので呼びました、いやはや素晴らしい戦いですね」
「凄すぎる読み合いだったぜ」
「鬼桜さん!俺を弟子にしてください!」
「手に汗握りました!」
うちは弟子なんてとってねーよ。いや、まあ当然つーか、悪い気はしないけどな?
と、そんなこんなで口々に話し合うNPCの言葉を横で聞いてると一つ気になる話が。
「もしかしたら唐獅子牡丹様にも勝てるんじゃないか?」
「どうだろう、ここ裏番みたいな存在だぜ?あの人は」
「でもさっきのみたろ?凄いだろ鬼桜さ────うお!?なんでしょうか?」
私がずいっと距離を縮めると会話している二人は萎縮した。そんなビビってたら世話ねーって話だがそんなことよりだ。
「その唐獅子牡丹って誰だ」
裏番なんて如何にもな言われ方してるんだから俄然気になる。
「唐獅子牡丹様はこの闘技場にモンスターを献納してくださっている特殊戦闘員の方ですよ」
口をパクパクしてなかなか喋らない二人の代わりにジェイスが言う。そのジェイスに狂夏が続く。
「百獣百華のビーストテイマー、唐獅子牡丹!アタシも知ってるよ!」
「その肩書みたいなやつはなんだ」
「アタシが考えた!唐獅子牡丹は凄く強いよ、なにせ現時点唯一の【魔獣使い】って感じ」
どうやらこの狂夏・ザ・リッパーという者、このゲームの知識が相当あるようで、【魔獣使い】の説明をし始めた。
「【魔獣使い】魔法使いがスキル【モンスターテイム】を沢山すれば解放できるって噂の上級職!モンスターを何体も所有できて召喚薬で自由に放出収納できちゃう!」
「ようは飼育員みたいなもんか」
「そーゆーとなんか弱そうだけどそう、強い飼育員って感じ」
それは飼ってる猛獣が強いだけで本人は弱いんじゃないか?って思うがまあいい、なんにせよ強い相手ってことだな。
「で、そいつはどこにいる?」
「え、まさか」
「ああ、今から決闘しに行くぞ」
「えええ!?」
当たり前だろ。そこに強い奴がいるんなら戦いに行く。それが私のポリシーだ。