腐れ縁チンピラガールズ
「はああああ!?」
そこにいたのは女の姿になった腐れ縁共。
「うっふふ、かわいいでしょ?ボクのこの姿」
「桜ァ!テメエのよりでけー乳だぜ!ボインボインだぜェ!!」
声も身体も完全に女のそれ、だが滲み出る雰囲気はやっぱりあの二人だ。
「で?なんであんたら女になってんだよ」
「そりゃいつでも乳揉むために決まってんだろ?」
「知るか、乳離しろ赤ん坊かお前は」
「ばぶー」
「はっ倒すぞ?」
その見た目で指をしゃぶるな。理想の女性像なのか知らんがもっと上品に振る舞え。
あと私にその毛がないのも悪いが仮にも女の前で堂々と「乳揉むため」ってデリカシーがないのかこいつは。
「で、店長はなんで?」
「野郎よりこうして可愛く振る舞った方が得することが多いのさ」
ニカッと笑いながら親指と人差し指をひっつけて「銭」のハンドサインをしてきた。修理屋ぶっちゃけ赤字の癖に金持ちなのはそういことか?
「裏で詐欺ってんならうちも黙っちゃいないぞ」
いやだなぁー詐欺だなんて人聞き悪いぞ!と「一人称ボクっていう娘」を完璧に演じきってる。もうそりゃ日頃の行いだ。詐欺だと思われてあたりまえだ。
「逆に桜ちゃんが女のままなのが不思議だよ、君なら男の姿になると思ってたのに」
と、店長は話題を少し逸らすためか知らんが質問を返してきた。
「桜ちゃん前々から男に生まれてればなぁーーって言ってたのに」
「いうわりに割に髪切らねェし、パットだけどな」
「え!?パットなの?」
「っせーな自前だわ馬鹿タレ」
あーあ、乳やらパットやら言うから周りがざわつき始めたじゃねーか。しかもこいつら今見た目女だし。
「しゃらくせえ、男になる方法教えやがれ」
「え?なる方法?いや普通に、最初のキャラメイクで……あっ」
「あっ、じゃねーよ。畜生、知ってたら男にしたっつーの」
ついつい素の体格を理想的にするよういじってしまったが為に見落としていた。
そうだ、最初から男の体格ならもっと完璧だったのだ。あーーー、畜生、畜生。
「イラついてきた、周りもうるさくなってきたしさっさと勝負すんぞ、どっちからだ?」
嘉靖君だねと店長が一歩下がり、ズカズカと前に出てきやがった。
「俺から先だ!!さァ楽しみだ」
「お前なんぞ秒殺だバーロー」
【鬼桜は所持品を全てベットした】
【キング・カセイは1エールをベットした】
賭け金しょっっっぼ!あんだけ啖呵切ってそれかよ。恥も外聞もねぇなこいつ。
「フハハハハハ!すり潰してやるぜ!!!」
「上等、今一度力関係をはっきりさせてやるよ」
【鬼桜とキング・カセイの決闘が開始した】
◆◆
「おい店長!話が違うぜオラァ!」
「いやー、カセイちゃん瞬殺だったね」
おいどういうことだゲームなら勝てるんじゃなかったのか!!と小さい娘の肩をゆっさゆっさ揺らすデカブツ女。妙にやる気があると思ったら、店長の奴に何か吹き込まれたのか。
所詮どこまでいってもその程度。シュータの方がまだ手応えあった。
「ちょっと動きが初心者じゃなさすぎてツッコミたいとこだけど、後でだね」
いつのまにか私の前には行列が並んでいた。もうやら、カセイと戦ってる間に店長の奴が何か吹き込んだらしい。
さっきまで怖気付いていた群衆は、俺も私も戦うぜ!!!と手をいっぱいにあげていた。
「はいはーーい順番に並んでね!慌てなくても鬼桜は全員相手しますよーー」
「何勝手にやってんだか」
「えー?でも戦うでしょう?」
「まあそうだけどな、あんたはうちと戦わねーのかよ。ぶっ倒すとか抜かしてなかったか?」
「利益のない争いはしない主義なので」
「漢気がねーな」
「賢いと言ってくれよ」
ボク今女の子だし、と舌を伸ばしてウィンクする店長を尻目に一歩出て、列の一番前の、あーーんま強そうじゃない好青年風な奴と相対する。
「あっ、よろしくおねがいします僕の名は」
「ささっとやんぞおら」
並んでるのは大体三十人くらい?まあいい誰が来ようが全員ぶちのめすだけだ。
◆◆
と、まあ連戦続きだったがようやく終わりを迎えた。
「はい、今ので最後かな」
「おーけー」
合計七十人くらい相手してた気がする。次から次へと人が並び始めて一向に消化が進まなかった。ただ総合してバディ=レオン以上に苦戦する相手は出てこなかった。
「いやあ、見事な捌きっぷりだったねぇ」
「あぁ。てか今何時?」
「現実世界と時間一緒だから多分10時過ぎぐらいじゃない?」
普段はこの時間にもう床についてる頃だ。よく寝るの早いって言われるが寝る子は育つって言うからな。
「ふぁぁぁ。眠い、がもう少し起きる……おいバカ靖、抜け駆けして寝てんじゃねーよ」
「んあ?むにゃぁ?おるぁーーさくらぁーーたたかえぇぇくがーーー」
普段なら、ぶん殴って目を覚まさせてるところだが非戦闘エリアだしな。決闘以外では殴れない────いや、正直に白状しよう。
「不覚にも、可愛いと思ってしまった」
「まあ、形と声が美女になってるからね」
さて、それはともかく、君には質問がある!と少し怒ったような顔をして、ベンチに腰をかける私の前に立ちはだかる。
だがちんまりしていて普段のように煙草を吸ってるわけでもないので威厳のかけらも無い。
「なんだよ」
と、私は答える。
「まず君、本当にゲーム初心者?」
「みりゃわかんだろ「いや、わかんないよ」そうか?あーーー初心者だぞ」
「あの挙動で?」
「コツ掴めばすぐだろ」
それができない人もいるんです、と不機嫌になる店長。仕方ない、できない方が悪い。
店長は頭の中で「桜は本当に初心者なのか」論争を繰り広げてるんだろう。あれも違うこれも違うという顔をしている。
最終的には、用語の要所要所があやふやだし本当にそうなのか……ってな感じで答えが出たらしい。
あやふやで悪かったな、英語教科一番苦手なんだよ。全部苦手だけど。
「んじゃ次、そのだいじそーにインベントリにも入れずずっと担いでる剣は誰の?」
「あぁ?あぁ、これか?うちの木刀十三号」
「それ13本目なの?ネーミングセンス無いって言われたことない?」
「っせーな、わかりやすい方がいいだろーが」
「わかりやすいって……いや、そうじゃなくて誰から……まあいいや、聞くのやーめた」
途中でめんどくさくなったか、両手をふわっとあげて目を瞑っていた。
別に言ってもいいんだけどな……いや、こいつ毎回返事が一言多いから私も言うのやーめた。
「他に質問は」
「えーーっと、あれ、意外とそんな質問なかったな、もう特になーし……いや嘘一個だけ質問というか相談」
なんだよと体勢を前にしてじっくり聞く姿勢を取る。店長から改まって相談とは珍しい。
「これからどうする?僕も嘉靖君も単独行動してくつもりだけど」
「聞くまでもねーだろ、うちもうちでやることがあるからな」
やること、そう闘技場のアレ。
「ほう、了解」
「てことでうちも眠いから終わっていいか?」
「んじゃ……お開きとしようか、ほら嘉靖君お開きだぞーー」
「おひらき?んあーー────」
「寝ながらログアウトした……」
「あのバカは。ふぁぁぁ」
私も眠い。寝るわと言って嘉靖に続くようにログアウトしようとした。すると店長は最後にもう一個だけ!と付け加えてきた。なんだまだあんのか、すぐ寝ようと思っていたのに調子狂うな。
「なに?眠いんだけど」
「十戒」
突然謎の単語が飛び出す。なんだ十戒って。私が聞き返すまでもなく、店長は言った。
「『十戒』あるいわ『インターセプター』っていう単語。重要だから覚えといて」
「はぁ?」
「んじゃおやすみ」
「おい、ちょっ」
何やら意味深な言葉を残して、店長はいなくなった。これは直接うどん屋に殴り込みにいくか?いや面倒だ。とにかく今は眠い。怠い。
「ふぁぁぁぁ」
難しいことは考えない考えない!ぐっすり寝て明日は闘技場のジェイスにカチコミ!おやすみ!!
おやすみといいつつこっそり裏で進めてるゲーマーな店長ニキ
10時間ぐらい寝てパシリたちに幼稚園児って言われてる嘉靖くん
「早起きは三文の徳」も信じる早寝早起きの桜お婆ちゃん