傷は勝利への活路
「さあ、【煌黒の剣】初陣だ」
相対するは黒い鎧の大男。ぱっとみ威圧感はあるが、威圧してるだけで勝てるなら苦労はしない。
硬い装甲に身を包んでいる。そう、馬鹿正直に硬い部分を殴ったってダメージにはならない。
ならば弱いところを突く。それは関節部分だ。鎧ってのは他が硬くてもここだけはどうしても柔らかい。
首撃ち────と見せかけて脚を折る!
「なにっ!?」
「驚いた顔だな、ご自慢の硬さはどうした?」
「ノックバック!?それにダメージ量が……おかしいぞ!?」
「そのまま、落ちろ」
鈍い鈍い。機動力で勝るなら、ガツガツ攻撃するのみ。そのままストレートでいかせてもらう。
次は腕!
「ふん、勝った気になるなよ旅人装備。【守衛抵抗】」
「む?」
「そっちがクリティカル狙いなら、こっちだって策はあるんだぜ」
緑色に輝く、その体。私とした事がつい油断した。そうだ、この世界で現実のルールは通用しない。
弱点を突けば倒せる相手だが、裏を返せば弱点をつけないと倒せない。急所が急所じゃなくなれば、話は変わってくる。
なるほど、関節部分を攻撃しても手応えがねえ。
「仕返しだ!【威圧の眼光】
「なぁ!?」
「攻撃が止まねえなら、止めればいい!」
奴の目から放たれた「威圧」としか表現しようがないそれに巻き込まれ、身体が硬直する。動かない、全く持って。
全身に張り詰める緊張感────硬直、まだ解けない!?
やばい、来るッ!!
「【大撃斬】!!!!」
「うぐぁ!!」
周りの奴らがうおおおっと歓声をあげる。大振りが、私の胴にモロ直撃した、なるほど旅人装備、薄っぺらいから直接的にダメージが入ってるのを感じる。
気がつけば大きく後方に吹き飛ばされていた。人の集団に突っ込んでしまったが、どうやら決闘中の者とそれ以外は干渉不可みたいだ。
人の身体をすり抜けていた。
「はて、さて」
スピードで勝り、かつ弱点をつけるから楽な戦いだと思ったがこれは……。
「強え……」
いまの一撃のみで、私のHPが4割削られた。楽な戦い?冗談じゃない。
弱点は塞がれ、近づけば機動力を削がれる。どうしたら勝てる、頭を回せ、まず奴は武器使い、魔法がないなら遠距離は無い、距離をとって、突破法を考える!
「おいおい、逃げか?俺は悲しいぜ?」
勝つ為には……己の手札を知ること。そうだ、小難しいとなんとなくで見るのを流していたスキルの内容。今更見ることになるなら最初から把握すべきだった……失敗だ。
「おーーいにっげるっなよっ!!【追尾投法】!!」
「何っ!?」
投げられたるは手斧とブーメランの中間のようなもの。咄嗟に避けたつもりだったが、身体に吸い付くように当たってしまう。
遠距離も持ち合わせてるってか?無敵か。ははっ。
「ははっ」
「何がおかしい?もしかして頭いっちゃったか?いいぜ、今楽にしてやるよ」
「いいね、最高だ。お前」
アッシュとはまた違う苦戦。だが今回私の心はまだ負けてねえ。楽しくなってきたじゃねーか。
再びバディから離れる。チュートリアルでもあったようにスキルの再発動には間隔が必要だ。そこが今回の肝となる。
『ステータスをオープンしますか?』
思考を読んだか?いいぞ、開け!
「ステータス、オープン!」
指示に従うように私の装備しているスキルや武器が参列する。
流石に熟読する暇はない、投擲のダメージを極力防ぎながら必要な情報だけを頭に入れる。
【片手剣術:斬撃】並びに【斬撃一閃】【斬首撃ち】はリキャスト8秒。打ち分け可能な必殺技と思っていい。
【技能:カウンター】並びに【ジャストカウンター】リキャスト12秒、相手の攻撃にあわせて発動したら良いことあるっぽい。タイミングは……かなりシビア。
そして最後に【剣の一刺し】リキャスト8秒、貫通。ようは刺すタイプの必殺技。打撃属性武器以外の剣じゃないとダメってことは【最初の霊剣】でしか使えない。
「【格闘の心得】はずっと発動してるから考えなくていい……」
これが私の手札。相手は既に手の内を4つ出しているが一番厄介なのはやはり【威圧の眼光】動きを止められて大剣が直撃する展開はなんとしてでも避けたい。
「さて、またせな!」
「くるか?【守衛抵抗】」
わかりやすく緑色に光っている。先の発動から、逃げ惑って今に至るまで約50秒。つまり少なくともリキャストはそれより短い。
対したダメージを見込めないなら下手撃ちはしない。待って腐らせる。
全力疾走からの後方飛び。これはアッシュのやっていた動きだ。あいつほど綺麗には飛べないが、押すと見せかけた行動は成功。
あとは攻撃せずに待って、効果が切れたタイミングを叩く。
「おいおい、こいよ!【強制誘導】」
「はぁっ!?」
奴の最後の手札は、私を捉えていた。身体が勝手に動いて奴の方へ引っ張られる。制御ができない。まさかタイミングを図ることもさせてくれないと。
「【威圧の眼光】!そして……」
また大振りが来る────────
【ジャストカウンター】起動。「【大 撃 斬】ッ!」
勝ちを急いだな、バディ=レオン。
タイミングばっちし、吹き飛ぶことはなく、身体は硬直して直撃こそしているが、なんとほぼ効いてない。さあ、倍返しだ!【守衛抵抗】の効果切れと同じタイミングに【斬首撃ち】発動。
発動すると自然に動きが引っ張られる、まだ慣れないがその力に身を乗せて奥義を放つ。
首筋がガラ空きだ!
「ぐのぉ!?」
直撃し奴の首に横一線に赤く輝く傷ができる。
そして、それと同時に文字が表示された。
ーーーーー
状態異常:傷痕
説明:対象物に攻撃が直撃するとき付与する。継続時間は大小で異なるが2〜20秒。属性強化がされているとその継続時間はさらに伸びる。
また、例え小さくとも重ねれば重ねるほど継続時間が長くなる。
1秒毎に極小の固定ダメージを与える。また「傷痕」の上にさらに攻撃するとクリティカルと耐久値減少が加わる。
「傷痕」が重なり続けると最終的に「欠損」や「致死」をもたらす。
ーーーーー
勝利を手繰り寄せるように、戦略のヒントというのが舞い降りてくる。この傷痕、勝ちへの活路と見つけたり。
「『傷痕』『欠損』に『致死』……なるほどね。傷口をえぐったらそりゃ痛えもんな」
さあさあ、こっからは私の攻撃タイムだ。【追尾投法】以外の全スキルを叩きつけて、奴はいま息切れ状態だ。敢えて改めて言おう。
「勝ちを急いだな!バディ!」
「ぐぬぬぬ……ならば!」
攻撃に転じようと動いた私を阻んだのは、奴が持ち替えた装備。馬鹿でかい刀身の【赤鉄の大剣】と打って変わって現れたのは大きな盾。
なるほど防いで次のスキルまで時間を稼ぐつもりか。
はっきり言おう、厄介なスキルがねぇなら動きで捌いてみせる!
傷痕が消失する前に上書きする!
対人戦のクリティカルを狙う方法は基本的に二つ
生身の人間の実際の弱点を突く
運気の乱数による攻撃のクリティカル化
【技能:投法】
特定行動「物投げ」をした場合、その攻撃に効果ダメージ(筋力参照)を加算する。
【追尾投法 】
タイプ:ACTIVE
リキャスト:10秒
特定行動「物投げ」をした場合に発動可能。対象に「ホーミング」を付与する。
発動者に5秒間「ダメージカット(弱)」を付与する。
【強制誘導】
タイプ:ACTIVE 騎士専用スキル
リキャスト:40秒
周囲の敵対範囲限界(半径30m)にいる敵の攻撃対象が強制的に発動者になり、「吸い寄せ」が発生する。
この時敵対関係になった敵の数だけ「耐久値」が参照する防御ステータスを上昇させる。
【威圧の眼光】
タイプ: ACTIVE 騎士専用スキル
リキャスト:42秒
発動者と敵対関係あるものを対象に発動。4秒間「硬直状態」にし、その後「筋力低下(中)」と「敏捷低下(小)」を8秒間与える。
【片手剣術:斬撃】
【斬首撃ち】
タイプ:ACTIVE 斬撃属性
リキャスト:8秒
片手剣術:斬撃の基本的なスキルの一つ。威力は武器によって変動する。
人型の敵に有効、首を横から斬るモーションを必要とする代わりに、攻撃範囲がやや広く高威力。「傷痕(斬/大)」を確定で与える。
【片手剣術:一刺し】
対応カテゴリー:打撃属性を除く片手剣
【剣の一刺し】
タイプ: ACTIVE 貫通属性
リキャスト:8秒
片手剣術:一刺しの基本的なスキル。威力は武器によって変動する。
【両手剣術:斬撃】
対応カテゴリー:両手剣
【大撃斬】
タイプ: ACTIVE 斬撃属性
リキャスト:12秒
両手剣術:斬撃の基本的なスキル。威力は武器によって変動する。
【技能:カウンター】
【ジャストカウンター】
タイプ: ACTIVE
リキャスト:12秒 発動時間:1秒
任意で発動したタイミングと攻撃されるタイミングが合うと成功。その場合ダメージを8割軽減し、「確定倍化反撃」を行う。
失敗すると3秒間の硬直状態となる。