有名所がなんのその
腐れ縁のヤンキーフレンズと駄弁った後、私は闘技場に入ることにした。が、どうにも入り口っぽい部分は全部封鎖されていた。
ーーーーー
【イーステッド円形闘技場】
概要:イベント施設
説明:現在このエリアは使えません。
ーーーーー
「入れねーじゃねーか」
と悪態をつく。何が「調べてもいい」だあの野郎。騙された感があって少しだけムカついた。
ぐるりと一周回ってみたがやはりどこからも入れない。
「あーーーーー。しゃらくせえ!もうどうでもいいわ!」
と、叫んでいると横から声をかけられた。「血気盛んですね」とその声の主は痩せた中年の男。
なんとも薄汚れた地味ローブを着込んでいるそいつは、どうやらノンプレイヤーみたいだ。
「どうも。わたくしこの闘技場の運営管理をしております、ジェイスと申します。以後、お見知り置きを」
深々とお辞儀をする。名乗りに対して名乗り返すのが礼儀だ。であれば私も名乗るとしよう。
「鬼桜だ。で、なんかよう?」
「この闘技場へ入りたいと御所望で?」
たしかに気になるっちゃなるが、ぶっちゃけ今すぐ入りたいわけでもなくなっている。
なんてったって決闘で誰とでも戦えるんだから。
「実はこの闘技場で近々催し物をすることになっていましてね、現在準備中につき闘技場は閉鎖しているのですが……」
長々と前置きを喋った後、ジェイスは本題に入る。
「単刀直入にいいますと、運営側になりませんか」
「あーーー、あぁ?どーゆーこと?」
「私は、闘技場の戦闘員として、貴方を迎え入れたいと思っている所存です」
それってつまりスカウトってことか。なるほど?それで闘技場の出入りも自由ってわけだ。運営側なんだからな。
だがその催し物の全貌がみえない上に話が唐突すぎる。大体闘技場の手前でなんか叫んでる奴にどうしてスカウトできる?
まず質問させてもらう。
「なんでうちを選んだ?」
「先の二回の戦闘、失礼ながらこっそり拝見させていただきました。素晴らしい立ち回りで私も興味を持ちましてね」
2回目は負けたけどな、と心の中で呟く。ジェイスの話はまだ続く。
「そして……これまた失礼ながらステータスの方を一部鑑定させていただきました所────」
一つ呼吸をし、眉をひそめて、小さな声で私に言った。
「貴方は人と戦うことを趣向としているように思えます」
「ほう、なんでそう思う?」
確かにそれは正しいが、なんでそう思ったか聞こうじゃないか。
「レベルに対する戦闘回数。聖霊種に対して2回、そしてかの調停者様と手合わせし勝利している……しかしながらまだ一度も悪魔の使徒との戦闘を行っていないと」
その鑑定とやらで筒抜けってわけか。そういえば、言われてみりゃモンスターと戦ってない。というか忘れていた。
「だからうちを誘ったと。てことはその催し物は『人と戦う』やつか?」
「左様でございます」
「おーけー、乗った」
「流石鬼桜様、話が早い」
とにかく強い奴と戦いまくって、強くなって、アッシュの野郎を倒したい。
人と戦う催し物、これはチャンスだと思い即決した。
『特殊クエスト:闘技場適性試験が開始されました』
「とまあ、これは私個人での誘いでありまして、運営の総意ではないのですよ。貴方が戦闘員として迎えられるには、私以外の運営者の方々に納得してもらう必要があるのです」
「小難しい話を考えるのは好きじゃねーな。端的にどうすりゃいい?」
「たくさん決闘で勝って認めてもらいましょう」
「っしゃあ!!やったるわ!!!」
それってつまり「いつも通り」だ、言われなくとも決闘してやるよ。
イラついたときは決闘!強くなるために決闘!認めてもらうためにも決闘!全ては決闘が解決する!
「いってらっしゃいませーー」
「ああ!いってくる!!」
◆◆
大通りに戻った。プレイヤー全員が最初に訪れている場所だけあって、やはり人が多い。ここでなら何人でも連戦できるかも知れない。
お、早速いきの良さそうなやつ発見。
「おいちょっとそこの兄さん、うちと決闘しようぜ」
「……」
鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。ああ、いきなり過ぎたか。では改めて丁寧に言おう。
「うちは強い奴と戦いたいんだ。兄さん強そうだからよ、お手合わせ願いたい」
「……すみません急いでるんで」
はい、断られた。
まあ当然ちゃ当然か。誰も彼もが私みたいに戦い!戦い!戦い!な訳はないからな。
まあいい、根気強くいこう。次!
「すみません、今ちょっと手が離せなくて」
はい次!
「ごめんなさい、クエストの途中で」
はい次!
「後でねー、あ、そこのかわいこちゃーん、俺とパーティ組まない?」
「忙しいやつ多過ぎだろ!!」
こいつらの目に人との戦いなんてものはなかった。なんたることだ。バチバチ度で言ったら全員シュータ以下じゃないか。
「折角期待したのに全然ガチンコする気のあるやついねーじゃねーか。後で店長に詰めようかな」
賑やかな商店の立ち並ぶ大通りの隅っこ、アッシュから貰った【煌黒の剣】をぶん、ぶんとふって肩を慣らす。よくみりゃ全員平和ボケしたようなフヌケばっかりじゃないか。
「ったく、つまんねーの」
このまま探すのもなんだか面倒になってきた。所詮はそんなものかWorld Intercept
いや、あの店長が30万も払って勧めてきたやつだし、アッシュにこれを返すその時まで止めるわけにはいかない……むっ!
ぴこん、本能の警戒レーダーに反応あり。
「視線……あぁ?あんたらなにみてんだ?」
うろちょろ立ち往生していたら、いつのまにやら通行人の目が私の方に集中しているではないか。
私そんな変なことしてたか?それてもやり合う気になったか。
なんて考えていたが、どうやらこいつらが見てるのは私じゃないらしい。
担いでるこの木刀。【煌黒の剣】だ。
「その剣、どこで手に入れたんですか?」
金髪のあんちゃんが前に出てそう言った。なんだ、舐めた面構えしてるな。喧嘩の匂いがしてきた。
「んあ?これ、教えて欲しいか」
「いえ、それってアッシュさんの剣ですよね」
「違うって言ったらどうする?」
違うわけないわ!と横から声がした。女だ。緑を基調とした清楚な服に杖を持ってる。
「だって【煌黒の剣】はあの大洞窟の素材を使わないと手に入れられないもの、それを持ってるのは白蓮騎士団以外あり得ない」
「ほらみろ、錬成術師がいうなら間違いない!」
「えへへ、見習いだけどね」
ご名答。けどそれがどうした。別に持ってて悪いことないだろう。貰い物だし。
なんて態度を取ってたらどうやらこれって悪いことみたいだ。
「お前、どうやって盗んだか知らないけど白蓮に喧嘩売るってことは俺たちにも喧嘩売ってるってことだぜ?」
金髪のあんちゃん、緑服の杖持ち女、そのどちらでもない第三の声が後ろから聞こえた。
がしゃりがしゃりと金属同士が擦れるような音を立てて、そいつが現れた。
「【レオンハーツ】MMOやってる日本人ならこの名前聞いたことあるだろ?」
ーーーーー
バディ=レオン
種族:聖霊種 職業:騎士
所属:レオンハーツ
役割:ー
ーーーーー
「いや、知らん」
「知らない、だと?」
誰だか知らんが喧嘩勃発って感じで興奮してきた。
超決闘連戦、記念すべき最初の相手は黒色の鉄甲冑を身に纏った銀髪の大男バディ=レオン。如何にも戦い慣れしてそうで強そう。
「【レオンハーツ】だぞ!?【白蓮騎士団】と一度は同盟を結んだこともある日本有数のクラン……」
「自分でそれをいうか。残念ながら知らないな。なんだ強いのか?強いならどれくらいか是非見てみたいもんだな」
これはバトルチャンスだ。あからさまに舐め腐ったような態度を敢えて取ってみる。こうしてりゃ否が応でも勝負に入るだろう。
私は【煌黒の剣】を掲げた。
「それともそんなにコレが欲しいか?まあ、欲しけりゃくれてやるよ」
「欲しけりゃくれてやる?そもそもお前のものじゃないだろう。どうやって盗んだ」
「捨ててあったのを拾っただけだ。うちのモノでいいだろ」
「わかりやすい嘘だな」
そう、大嘘。口が裂けても負けた上にプレゼントされたなんて言えない。はっきり言って格好がつかなさすぎる。
「うちと、決闘しろ。勝ったらくれてやるよ」
『鬼桜がバディ=レオンに決闘を申請しました』
「決闘を挑むか。まあいい。お前がそういう奴ってんなら俺としても話が早い」
『バディ=レオンが決闘を承諾しました』
『賭ける所持品を選択してください』
ここでさらに畳み掛ける。私はまず【煌黒の剣】を手元に出す。そして剣を掲げて高らかに宣言する。
「んじゃあ始めようか!うちはこの【煌黒の剣】を賭ける!有り金も装備も全部つけたそうか?」
「ぬ?なんのつもりだ」
剣も有名な上に、私は知らないけどこいつは有名人なんだろう?
じゃあそれを広告塔として遺憾無く使わせてもらおうじゃないか。人の注目をできるだけ掻き集める。この平和ボケしてるへっぽこ共に人と人の戦いってのをみてもらう。
プロレスって観る側も闘争心が湧くもんだからな。
「さああんたは何を賭ける?うちは全部かけてるぜ?」
見るからに高そうな鎧着てるバディからしたら、初心者の全財産の価値なんて、そうでもないのかもしれない。だがその初心者「全部を賭ける」といってるのだ、それも大勢の前で。
こういう自信のある奴を下から煽れば決まって高いのを賭ける。
これが店長とかだったら「じゃあ僕はその辺で拾った草賭けるよ」とか言うかもしれないが、バディはそうしない。
あっちもそれ相応のものを賭けた上で私を潰した方が気持ちのいい勧善懲悪になる。
そこを潰し返す。これが私のやり方だ。
「じゃあ、俺は今使ってる一番武器。【赤鉄の大剣】と50000エニーを賭ける」
「エニー、金か」
そういや店的な所にいってないし、相場すらわからない。そうだなこの5万で旨い飯でも食いたいな。ここって飯食えるのかわからないけど。
「いい振る舞いだ、気に入った」
「俺はお前なんか気に入らねえ、レオンハーツにたてつくやつは潰す」
『決闘が開始されました』
「っしゃあ!おるぁ!」
先手必勝!とこちらから仕掛ける。
おう、なんだなんだと人が集まってくる。そりゃ街中で剣振り回したらそうなるか。
「お前ら見てろ!レオンハーツに喧嘩売った奴がどうなるか!」
なんとあっちからも煽ってくれた。バディ=レオンがそう言うと人がどんどん集まってくる。
レオンハーツの知名度は本当に高いのだな。
ギャラリーは口々に「レオンハーツが!?」「あのバディさんが!?」と注目を寄せてる。
「ふん、タンクである俺がお前程度の攻撃で落ちるか旅人装備。いくら武器が強かろうが使いこなせなきゃ意味ねえのさ。悪いがこの勝負、勝たせてもらう」
これまで戦った調停者、シュータ、アッシュと機動力がある格上で代わり映えしなかったが、今回は違う。
バディの特筆すべき点は見た目からして防御力。並大抵の攻撃じゃ崩れないどっしりと構えた重騎士。
しかしまあ、どれだけ硬い鎧に身を包んでも、弱点を抑えりゃ簡単だ。どっかのバカよろしくタフな手合は慣れている。
「さあ、【煌黒の剣】初陣だ」
木刀を携えて、私は戦闘を開始した