史上最強の退屈
「お?よく見るとかわいいじゃん?今日ここで泊まってかない?」
なんて口にした奴は木刀でぶっ叩かれた。彼女にとってナンパしてくるやつの鼻の骨を粉砕するなんてのは朝飯前なのだ。
女の名を『鬼桜』
自称かつ他称、史上最強のヤンキーガールである。
「てめえ!」
「この女ぁ」
「手ェだしたからには容赦しねえぞ!」
ナンパしたやつの仲間、10人あまりいる男たちの視線を一身に浴びた。
最近この街で幅をきかせてる不良連中のアジトに一人で乗り込んで、門番役だったナンパ男をぶちのめしたのが今の状況だ。
仲間の一人が倒されたのだ。当然鬼桜は敵とみなされ、野郎どもは襲いかかる……まあ、結果から言うと鬼桜が圧勝する。
「甘い!」
突き出す拳、蹴り上げる脚、急所を的確に狙う殺意、廃ビルのアジトの中は一言で阿鼻叫喚、挑んだ先からみんな返り討ちにされる。
「ぐあぁ!」
「ほげぇ!!」
一人、二人と、束にかかってかかろうが、お構い無しに薙ぎ倒す。
正味、女とは思えないほどの握力、脚力、腕力。まるで力こそパワーを擬人化したような破壊力。
「甘い甘い!甘ったるい!強い奴はいねーのか?」
「ななな、なんなんだこいつ!?」
「化け物か!?」
一人は逃げようとした。一人は勇敢にも立ち向かった。
しかし逃げる者を逃さず、来る者を迎え撃つ。それが鬼桜。皆まとめて圧倒的な暴力の前に沈んでいく。
「強い奴らだと聞いていたのに、拍子抜けだな」
もう殆どドミノ倒し。瞬く間に全員その場で一列になって倒れていた。
「お、お、落ち着け、話せばわかる」
最後に残る、この集団のリーダー。その表情に余裕はなく、汗をダーダーかきながら完全に腰を抜かしている。
しかし無慈悲にも木刀で指し、次はお前だと眼で語る鬼桜。まるで話す気がない。
「まったく、がっかりだ」
おしまいと言わんばかりに踏み込んだ右足、捻った腰から肩、腕、と繰り出される音速の剣撃。
「調子乗って、す、すみませんで────ぶえらっ!!」
謝罪の途中に黒く煌めく木刀を脳天めがけて叩き込む。そして男は動かなくなった。
倒れたそれを蹴り転がして、目の前の廃石に座り込んだ。
「弱っちかったな。こいつら」
そもそも、どうして鬼桜がここに乗り込んだかと言えば、湧き上がる闘争心を満たすためである。
数日前にしゃしゃりでた『Arrows』と名乗る新規鋭の不良集団
街中の至る所にスプレーで「Bring it」と描いて周り、そりゃあもうアングラな集会所じゃ注目株だったのだが。
哀れかな、彼らはこの街に鬼桜という名のバケモンがいることを知らなかったのである。
『強いと話題のArrows』、鬼桜に目をつけられた結果がこれである。
「戦いたりねーーー!!」
いーーーっと不機嫌な顔をしながら足をジタバタさせる。Arrowsが弱すぎたというより、本人が強すぎた。その闘争心は全く満たされていなかったのだ。
「あぁ、何か、刺激が欲しい」
廃ビルの天井を仰ぎそう呟く。
そんな鬼桜こと、唐木田 桜が刺激を求めた結果、ゲームに解き放たれるまであと数時間。
リアルで戦闘狂な奴がゲームの攻略最前線に躍り出るまであと数ヶ月。