参、隠れた眼光
視線は奇怪な発光する面に隠れて見えなかった。声は聞いたこともない抑揚だった。しかしこの人形はあの兵器に違いなかった。そうなのだが何故歩く?何故話す?何故こちらを覗く?様々な感情が俺の思考の支配権を握ろうと吹き出し、立ち尽くしていた。
「いったいナンですか?」「おマエ、ヒトのカオをミてミケンにシワをヨせるのは、シツレイだとはオモわない?」「コワいコワい、ちょっと…ナニがそんなにキにくわないの?」
俺が睨みつけたまま後退るので、そいつは戸惑っていた、しかし俺のほうが戸惑っている。なんだこいつは…
「あの…シツモンにはおコタえしますので、トりアえずオちツいてもらえませんか…?」
そう言うので、俺は口を開いた。さて、ここで考えてほしい。仮に君の大切な人が、友人が、ある兵器によって命を奪われたとしよう。そしてあまつさえその兵器が人語を話し、意思疎通を求めてきたとする。その脅威にむかってあなたは何と声を掛けるだろうか。俺の答えはこうだった。
「貴様のような残虐で卑怯な兵器を相手に話すことなどない。今すぐ消え去れこの下衆人形。」
無。人形が口を結ぶのが見えた。人間に例えるならそう、おそらく怒っているのだ。俺の憤怒には及ばないが、こちらの言葉に対して反感を感じたのだろう。つい、人間に対して感じるように、良心が痛みそうになった。それは人形ゆえ、生じる心の起伏ではあるのだがおれはこいつの兵器としての側面をよく知っている。思い出すだけで身の毛がよだち、憤怒が押し寄せてくる。
「お前のような兵器は生まれてはならない。俺はお前の作者を探し出し、絶対に処刑してやる」
「あーーー!もうダマってキいていればイいたいコトばっかりイいやがって!!!!!」
その言葉を皮切りに、罵詈雑言をお互いに浴びせあった。正体不明の人形との口撃は次第に激化していき、ついに兵器の攻撃性が鎌首を擡げたのであった。
「おシオきはロケットパンチです…」
そう言って兵器は片手を俺に向かって突き出し、構えた。バスッという音とともに兵器の腕が頬を裂きその後ろの岩に刺さった。「お前…!」次は当てるというようにもう一方の腕を構えて牽制してくる。目は見えないが、面の光がさっきよりも強く青色に発行しているように見えた。
一触即発の空気の中、周囲の異音が俺たちの注意を反らした。音の発生源は、先程の人形がやってきた入り口の方向であった。一定の律動で掘った空洞内が振動する。そして理解した。
崩落だ。




