最終節:読めるけど書けない漢字が多い
その夜は、目を閉じただけで眠りに落ちた。
以前来た、暗く暖かくも寒くもない空間・・・とは少し違う。
優しい灯火のような、以前には無かった光がある。
その隣で、暖を取るようにくつろぐ存在が、1人。
「こうして話すのは、初めてじゃな」
「・・・もう1つの魂」
「そう呼ぶのはよせ。儂には紫桜という、ちゃんとした名がある」
「知らなかった。それより、話せるならちょうど良い。紫桜、あんたは何者なんだ」
「答える気はない。儂の用は2つ。1つはお主に呪術を仕様する上で、助言をしてやろう思うてな」
安心院相伝の、四季忍術を使える。つまりこの人は、安心院の人間である事は明白。
しかし呪術について知っているという事は、元党首か呪術が存在していた頃の人。
正体について聞きたいのは山々だけど、呪術は生きた人間の魂を利用する。
つまり、何かしらの呪術を用いて、僕の身体に転生したのか。
「・・・やっぱ、リスクありきだよな。生きた人間の魂が、必要なんでしょ」
「それは四季忍術を使用する際に、自然の魔を使用するのと同様。
媒体となる物を用意できれば、問題無く使用できる」
「口で言うより、ずっと難しい話だよね。だって、それが出来ないから、生け贄を使ってた訳だし」
「本当にそう思うか?」
「・・・うー、ん」
「いつの時代も、人間は目の前の楽に逃げようとするじゃろ。
じゃが、僅かな苦労で、大きな利益を生み出せる事もある」
「生け贄を必要とせず、呪術を使用する術はある。ってのは理解した。
ただ呪術には無知だし、媒体ってどういうのがいいのか分からないよ」
「ならもう1つ、助言をしてやろう。お主に刻まれた術式を、しかと自覚せい」
紫桜に言われるまで、自分に刻まれた術式を意識してなかった。
「どのような能力か、分からないのは至極当然。本を手に取っただけでは内容が分からないように、開いて初めて認識する。じゃから、目を覚ましたら魔力を発動させてみろ」
「分かったけど、あのさ、まさか僕って魔力A+?」
「ああ。儂にはしかと感じる」
「・・・お、おー?つまり孤影みたいに、魔力を余所の流せれば、魔力A+を量産できるんじゃ」
「それは不可能じゃな。勘違いしておるが、お主が助かったのは、孤影が理由ではないぞ。
柊とやらと決闘したあの時、香織には灯火が宿っておる。楓は分からぬがな」
「まさか、あの忍具の事?」
「うむ。あの決闘以後、ここに突然光が現れた」
「もしかして、これか」
黄金色の灯火を指すと、紫桜は首を縦に振る。
「儂にもこれが何かは、皆目見当も付かん。しかしこれは最初、親指ほどの大きさじゃった。
それが今は、焚き火ほどまで強くなった」
「・・・肝心の本人には、全く自覚がないんだけど」
「それは呪術を習得した時、己の等級に気づかぬのと同様じゃ。
自分事すら、人は完全には把握できぬものよ」
「なるほどね。で、もう1つの用ってのは?」
僅かな沈黙の後、意を決した表情で口を開く。
「儂が何者かは、話せぬ。じゃが、呪術の存在を知った今、お主等が勘違いしている事実を、訂正しようと思うてな」
「あんた・・・紫桜は、楓が原因で僕に取り憑いた訳ではない、だろ」
「そうじゃ。呪術の存在は、党首にならなければ知る事が許されぬ。
お主が党首になった時、儂の存在を話そうと思うた。
しかし楓が、まさかの行動に出てしもうたから、いつ話そうかと悩んでおった。」
「てかさ、僕と好き勝手に変われるんだから、楓が薬を飲ませようとした時に防いでくれれば良かったのに」
「ぶち殺すぞ」
「え、地雷踏んだ?」
「お主も人の事言えぬじゃろ。敷地内と言えど、ダラダラ昼寝しよって」
「相手が楓だったし、殺すのが目的じゃないから、殺気で目覚めるのもできなかったんだよ」
「何にせよ、現代党首の跡取りの油断が原因。流石に腹を立てた儂は、お主と楓に罰を与えようと思った」
「だから楓をボコったのか、僕は特に罰を受けてないけど?」
「自ら心臓を貫いたじゃろ。身内に迷惑をかけるなら、自死する。儂に主導権を握られ状態で、よくぞ踏み切った。それに免じて許したまでよ。まあ、あの時は儂も焦った。
治癒術を知らぬから、楓の薬に効果が無ければそのまま死んでおった」
「あの回復能力、本当に凄いよね。穴塞ぐんだもん。流石は安心院、一条と比肩した大和」
「確かに大和の知力は末恐ろしいが、回復の能力は安心院の魔力量あってこそじゃ」
「僕の魔力がAだったから、あれだけの回復能力になったの?」
「ご名答。魔力を消費するのが条件、正確には魔力を自己回復能力に変換する。
壱級魔力でなければ、穴を塞ぐなどできる訳がない」
「へー、実際何回も助けられたし、良い能力だな」
「言いたい事は言い終えた。時がくれば、また肉体は借りる。ただ、儂は安心院の、一条の味方である事に違いはない」
「うん。入学式の時とか、交流会で分かったよ。紫桜は僕らのために、頑張ってくれてるって」
「だからと言って、何でもは頼るなよ。自分達の事は、なるべく自分達で何とかせい」
「うーっす」
遠くから光が差し、徐々に吸い込まれる。
「じゃーねー」
手を振っても、紫桜は特に反応せず、状態を横にして楽にする。
光に完全に吸い込まれると、目を覚ましていた。紫桜との会話は1時間にも満たないのに、
熟睡したように心地よい目覚めであった。携帯には佐倉さんからチャットがあり、起きたら
一緒に朝食を取ろうとの内容で、返信を済ませ隣室に向かう。




