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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第8章:セミの音を聞く間もなく
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最終節:読めるけど書けない漢字が多い

その夜は、目を閉じただけで眠りに落ちた。

以前来た、暗く暖かくも寒くもない空間・・・とは少し違う。

優しい灯火のような、以前には無かった光がある。

その隣で、暖を取るようにくつろぐ存在が、1人。


「こうして話すのは、初めてじゃな」


「・・・もう1つの魂」


「そう呼ぶのはよせ。儂には紫桜という、ちゃんとした名がある」


「知らなかった。それより、話せるならちょうど良い。紫桜、あんたは何者なんだ」


「答える気はない。儂の用は2つ。1つはお主に呪術を仕様する上で、助言をしてやろう思うてな」


安心院相伝の、四季忍術を使える。つまりこの人は、安心院の人間である事は明白。

しかし呪術について知っているという事は、元党首か呪術が存在していた頃の人。

正体について聞きたいのは山々だけど、呪術は生きた人間の魂を利用する。

つまり、何かしらの呪術を用いて、僕の身体に転生したのか。


「・・・やっぱ、リスクありきだよな。生きた人間の魂が、必要なんでしょ」


「それは四季忍術を使用する際に、自然の魔を使用するのと同様。

 媒体となる物を用意できれば、問題無く使用できる」


「口で言うより、ずっと難しい話だよね。だって、それが出来ないから、生け贄を使ってた訳だし」


「本当にそう思うか?」


「・・・うー、ん」


「いつの時代も、人間は目の前の楽に逃げようとするじゃろ。

 じゃが、僅かな苦労で、大きな利益を生み出せる事もある」


「生け贄を必要とせず、呪術を使用する術はある。ってのは理解した。

 ただ呪術には無知だし、媒体ってどういうのがいいのか分からないよ」


「ならもう1つ、助言をしてやろう。お主に刻まれた術式を、しかと自覚せい」


紫桜に言われるまで、自分に刻まれた術式を意識してなかった。


「どのような能力か、分からないのは至極当然。本を手に取っただけでは内容が分からないように、開いて初めて認識する。じゃから、目を覚ましたら魔力を発動させてみろ」


「分かったけど、あのさ、まさか僕って魔力A+?」


「ああ。儂にはしかと感じる」


「・・・お、おー?つまり孤影みたいに、魔力を余所の流せれば、魔力A+を量産できるんじゃ」


「それは不可能じゃな。勘違いしておるが、お主が助かったのは、孤影が理由ではないぞ。

 柊とやらと決闘したあの時、香織には灯火が宿っておる。楓は分からぬがな」


「まさか、あの忍具の事?」


「うむ。あの決闘以後、ここに突然光が現れた」


「もしかして、これか」


黄金色の灯火を指すと、紫桜は首を縦に振る。


「儂にもこれが何かは、皆目見当も付かん。しかしこれは最初、親指ほどの大きさじゃった。

 それが今は、焚き火ほどまで強くなった」


「・・・肝心の本人には、全く自覚がないんだけど」


「それは呪術を習得した時、己の等級に気づかぬのと同様じゃ。

 自分事すら、人は完全には把握できぬものよ」


「なるほどね。で、もう1つの用ってのは?」


僅かな沈黙の後、意を決した表情で口を開く。


「儂が何者かは、話せぬ。じゃが、呪術の存在を知った今、お主等が勘違いしている事実を、訂正しようと思うてな」


「あんた・・・紫桜は、楓が原因で僕に取り憑いた訳ではない、だろ」


「そうじゃ。呪術の存在は、党首にならなければ知る事が許されぬ。

 お主が党首になった時、儂の存在を話そうと思うた。

 しかし楓が、まさかの行動に出てしもうたから、いつ話そうかと悩んでおった。」


「てかさ、僕と好き勝手に変われるんだから、楓が薬を飲ませようとした時に防いでくれれば良かったのに」


「ぶち殺すぞ」


「え、地雷踏んだ?」


「お主も人の事言えぬじゃろ。敷地内と言えど、ダラダラ昼寝しよって」


「相手が楓だったし、殺すのが目的じゃないから、殺気で目覚めるのもできなかったんだよ」


「何にせよ、現代党首の跡取りの油断が原因。流石に腹を立てた儂は、お主と楓に罰を与えようと思った」


「だから楓をボコったのか、僕は特に罰を受けてないけど?」


「自ら心臓を貫いたじゃろ。身内に迷惑をかけるなら、自死する。儂に主導権を握られ状態で、よくぞ踏み切った。それに免じて許したまでよ。まあ、あの時は儂も焦った。

 治癒術を知らぬから、楓の薬に効果が無ければそのまま死んでおった」


「あの回復能力、本当に凄いよね。穴塞ぐんだもん。流石は安心院、一条と比肩した大和」


「確かに大和の知力は末恐ろしいが、回復の能力は安心院の魔力量あってこそじゃ」


「僕の魔力がAだったから、あれだけの回復能力になったの?」


「ご名答。魔力を消費するのが条件、正確には魔力を自己回復能力に変換する。

 壱級魔力でなければ、穴を塞ぐなどできる訳がない」


「へー、実際何回も助けられたし、良い能力だな」


「言いたい事は言い終えた。時がくれば、また肉体は借りる。ただ、儂は安心院の、一条の味方である事に違いはない」


「うん。入学式の時とか、交流会で分かったよ。紫桜は僕らのために、頑張ってくれてるって」


「だからと言って、何でもは頼るなよ。自分達の事は、なるべく自分達で何とかせい」


「うーっす」


遠くから光が差し、徐々に吸い込まれる。


「じゃーねー」


手を振っても、紫桜は特に反応せず、状態を横にして楽にする。

光に完全に吸い込まれると、目を覚ましていた。紫桜との会話は1時間にも満たないのに、

熟睡したように心地よい目覚めであった。携帯には佐倉さんからチャットがあり、起きたら

一緒に朝食を取ろうとの内容で、返信を済ませ隣室に向かう。


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