第9節:白昼夢ってどんな感じなんだろ
階段を上る途中で、類異党首に課せられる恐ろしい事実を聞かされる。
「村人の負の感情を一身に背負うなんて、いくら予言者欲しさでも、常軌を逸してるだろ」
「そうする事で、魔力Aを確実に授かれる。だが確かに、私もこのやり方には反対だ。
だから香織、呪術を授かった身として、新たな方法を発見して欲しい」
「んー、難しそう。でもやってみる」
暗い螺旋階段を上り、父の仕事部屋に戻った時、鏡を見て自分の変貌に驚く。
「うわ、うわうわうわ。髪がハーフアンドハーフになってる」
「呪術を習得した際に、精神への負荷が原因らしい」
「ん~、なかなかカッコいい」
電波が戻ったからか、僕と父の携帯から大量の着信が鳴る。
家族間のグループチャットに、母と佐倉さんのツーショットがこれでもかと届いている。
「・・・父、もう戻るね。佐倉さんは笑顔だけど、作り笑いだったら助けないと」
「香織、改めて礼を言う。これで楓を救える」
「僕の弟でもあるし、頑張るのは当たり前。それより、倉庫の管理を厳重にした方が良いよ」
「ああ。気をつける」
「じゃあ、行く」
「ああ」
チャットでは母と佐倉さんは、二の温泉街にいる。
車で30分ほどかかるが、僕と奏と楓で作った秘密の通路を使えば5分で着く。
まあ、口寄せの巻物で繋げただけなんだけど。
久々の二温泉街は、相も変わらず賑やかで、美味しそうな臭いがそこら中から漂う。
時刻は12時。佐倉さんと別れてから僅か2時間少々で、呪術を習得する濃い時間を過ごしたため、空腹である事を忘れていた。
「お、麻婆饅。美味しそう」
「麻婆饅も道草も食わずに、早く旅館に行きなさい」
振り返ると、そこには母がいた。けれど一緒にいたはずの佐倉さんの姿はない。
「萌香ちゃんは先に旅館に行かせたから、ご飯も香織が来るまで待つって、何も食べてないのよ」
「マジか、早く行かないと」
「その前に香織」
頭に手を置き、母親としての言葉をかけられる。
「守ってあげられなくてごめんね。私はいつでも、貴方の味方だから」
母も当然、呪術の存在と僕の身に何があったのかを把握している。
頭の変化とか、以前の息子とは別人になった事に、何を想っているのかは分からない。
ただ、僕は愛されているのだというのは分かる。
「ありがとう。その言葉が聞ければ十分」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
二旅館では、安心院専用の寝室が設けられているため、いつもはそちらに泊まる。
しかし今回は佐倉さんがお客のため、初めて一般の客室に入る。
「お待ちしておりました」
再び扇律さんにもてなされ、部屋に案内されるが、人通りに無い廊下で扇律さんは足を
止める。そして何故か、強く抱きしめられる。
「えーっと。何か?」
「貴方の身に何があったのかは、分かりません。けれど、何も言わずに遠くに行かないで。
家柄は関係無く、私は香織様も楓様も、本当の弟の様に大切なのです」
先ほどとは違う髪色、恐らく扇律さんならば、気配の変化にも気づいているだろう。
僅かな間で、僕に大きな出来事があったのは明白。ただ、嬉しいな。
血が繋がってないのに、弟みたいに大切だなんて。
楓と赫夜には、悪い事をしたな。大切にされているのに、煙たがって。
「すいません。一族の秘匿事項なもんで。けど、扇律さんを蔑ろにしてる訳ではありません」
顔を僕の前にして、真っ直ぐ目を見ながら、凜とした表情で扇律さんは話す。
「・・・ええ。ですが、困った時は、いつでも頼ってください」
「はい」
再び歩き出し、最上階の部屋に案内される。
「せっかくなので、先に温泉を楽しんでいただくよう進言しました」
「待たせるのもあれなので、そっちの方がありがたいです」
「では、私は失礼します。お食事を用意するよう手配致します」
「あざーっす」
扉を開け中に進み、温泉街を一望できる部屋は、自然の山々を一望できる安心院専用の
部屋とは違う良さがある。
「キャ!あ、安心院いつ来てたの」
窓の外を眺めていると、背後から佐倉さんの声が響く。風呂上がりなのか、髪は滴り着物を
纏っている。
「今来ました、お待たせしてすいません。後、母の相手をさせたのも謝ります」
「全然良いわよ。黒榎さんの話は凄い参考になったし、それより・・・。
安心院だよね?」
「この頭ですよね。僕は安心院 香織です」
「ふ、深くは聞かないから、安心して。でも・・・」
「でも?」
「すっっっごい、カッコいい!!!」
足早に駆け寄り、肩を掴んで僕の顔をまじまじと見てくる。
ハーフアンドハーフが好きなのか、白髪がすきなのか、佐倉さんのツボを掴んだようだ。
「良いじゃん、良いじゃん!魔力の質も変わったみたいだし、男子三日会わざれば刮目して見よって言うけど嘘じゃん。三日も待つ必要ない!」
興奮冷めやらずでいる佐倉さんだが、食事が届いたため落ち着きを取り戻す。
二自慢の和食フルコースを堪能し、終えると佐倉さんは僕を写真に収め、沖田先輩に送る。
先刻から連絡先を交換して、かなり親しくなったらしい。
「返信来た、美津希もカッコいいって。今度3人で遊ぼうって来てる」
「良いですね。でも、近々家の用事があるので、その後でいいなら」
「オッケー。この後は何する?あ、安心院も温泉に浸かれば?」
「そうしたいですね。ちょっと浴場に行ってきます」
「ここの部屋にあるよ。5つも温泉があって全部気持ちよかった」
「・・・あー、風呂上がりのコーヒー牛乳が飲みたいので、この階には自販機ありませんし」
「ルームサービス使えば?安心院はいつも遠慮無しに使うから、私も自由に頼んでいいって」
「そう、ですね。じゃあ、行ってきます」
「ごゆっくりー」
特に気にしてないみたいだし、逆に僕が気遣うと意識させてしまう。
いや、僕がキモいぐらいに意識し過ぎているのか。
女性が入った後の温泉に浸かるのを意識するのは、きっと、恐らく、童貞の発想だ。
用意された男性用の浴衣を持って、ぎこちない足取りで浴場へと向かう。
温泉から上がり、チェスや将棋、ゲームで大いに盛り上がった。
遊びは深夜まで続き、そろそろ寝ようと佐倉さんは寝室に向かう。
建前上は将来を考えた会合とはいえ、同室で一夜を過ごすのはあれなので、隣室へと移動する。
「おやすみ・・・香織」
「おやすみなさーい」
「ねえ、ちょっと」
「はい?」
「んっんー。おやすみ、香織」
「おやすみなさい」
「ハァァ、じゃあね」
扉を閉める瞬間、お望みを叶える。
「楽しかったですよ、萌香さん(笑)」
「覚えてろよー!」
初対面よりだいぶ打ち解けた事に安堵し、予言の襲撃が起こる前に、佐倉さんは明日帰さないと。




