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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第8章:セミの音を聞く間もなく
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第8節:悩んだらとりあえず何か食べろ

「あ、ああああ!は、ああああああああああああああ!!!!!!!!」


巨大な触手が、僕の口から内蔵をかき乱すような激痛と呼吸困難に、意識を保つのがやっと。

細胞の1つ1つが爆発したかのように、もう自分の肉体がちゃんとあるのかすら

分からない。


・・・視界に妙なものが映る。


安心院の敷地で、好き勝手暴れている人間がいる。一族の人間を鏖殺し、加勢に来た一条の人達も無惨に殺される。父も琴刃さんも、成す術無く殺されている。

誰だ・・・あれは。左腕に異様なほど包帯を巻いた人間が、拳のみで人を粉砕している。

大切な人が次々に殺されている・・・その中には、母も、音鞘さんも、扇律さんもいる。

どうしてあの人達までも。一体僕は、何をやっているんだ、ただ見ているだけなのか?


安心院と一条は壊滅され、残された僕と奏と赫夜は、みんなの墓の前で、ただただ泣き崩れている。これは、未来なのか?

1分が経過し、痛みが収まったが、身体は動かせないでいた。

さっき見たのは夢なのか、近内に起こる現実なのか。

仮に未来の出来事ならば、対策を練らないと。だけど、頭の中には、死ぬ事しか浮かばない。


怨念、嫉妬、怒り、憎悪・・・。あらゆる負の感情が、自分の魂から産まれてくる。

何のために生きる。誰のために生きる。自分が産まれた理由なんて、親が勝手にした事だ。

僕には関係無い。生きた所で意味は無い。誰かのために行動するなんて馬鹿げてる。

こんな世の中を生きるなら、いっそ、自分で・・・。







香織に術式を刻んで1分。今あいつは、強制的に負の感情に蝕まれている筈だ。


「時間だ。これが楓を助ける方法を記した巻物」


「・・・香織に会わせて欲しい」


「ダメだ。今は魔力によって強制的に、負の感情を生産されている状態だ。

誰かに会ったり、言葉を投げかけられるのは逆効果」


自分にできる事は待つ事のみ。その現実に打ちのめされたのか、彩華は無力さ故の弱音を吐く。


「私が、魔力A+なら。息子達にこんな苦労をかける事はなかった」


「そうだな。でも一条の党首が特級武力なら、とも言えるぞ。

 世の中は、都合良くできていない。俺の親父が呪に耐えられず死ななければ、俺は

こんな役をする事もなかった訳だしな」


「・・・もう、辞めないか、村人の負の感情を一身に背負うのは。

その苦しみに耐えられず、天寿を全うした党首はいない。

予言者欲しさと言えど、非道が過ぎる」


「呪術の存続を望んだのは歴代党首達らしいし、俺も何故か、断絶したくない」


「せめて香織のもう1つの魂が、協力的だったら」


「ほほう。今を生きる人間が、死んだ人間に縋るのか?」


「すまない。忘れてくれ」


「そもそも、香織のもう1つの魂の目的は分からないしな。まあ、安心院を陥れる

 つもりではないと思う。けれど、当てにはできない。だから香織に強制的に能力を

 与える。多を救うため、少数を犠牲にする。よくある話だろ」


「何故、犠牲になるのが私じゃないんだ」


「さっきも言ったが、世の中は都合良くできていない。彩華じゃダメって事さ。

 まあ、俺は香織の方が、呪いに向いてると思うぞ」


「褒め言葉・・・か?」


「どっちとも言える。あいつは俺と、近しいものを感じる。興味ある事しか、興味を示さない。お前は幼少期、面倒くさくとも修行は言われた通りやってたろ。

けれど香織はいい加減。呪いに耐性があるってのは褒めてるが、俺に似てるのが褒め

言葉かは微妙」


「いい加減な性格は、呪いに耐性があるのか?」


「あくまで耐性があるってだけだ。真面目な人間程自分を追い込むが、適当な人間は

 ストレスを溜めない事に長けてる。香織が耐えられるか、答えが出るまでまだ

23時間以上ある。上に戻って、茶でも飲みながら待とう」


彩華は頑なに、その場に留まろうとする。親ならばそうするのだろうと、自分1人で上に行こうとすると、突然扉が開いた。現れたのは当然、香織だった。


「うー、これ結構キツいね」


・・・馬鹿な。まだ30分も経ってない。それに何だ、あの頭。呪術を習得した者は、精神への負荷から髪が白髪に変わる。だが香織は白と黒が半々。あれは、成功なのか?

24時間経ってないのに、魔力も禄に感じないぞ。制御できている?


「だ、大丈夫なのか?」


「あ、父。うん。なんかねー、平気だった」


「説明しろ。中で何があった!」


「怖い怖い。何って、普通に・・・」







いっそ、自分で命を絶った方が、楽なんじゃないか。

安楽死できる薬もあるし、苦しみから解放されたい。

別に死んでも悔いはない。よし、薬を飲もう。

でも位置が遠い。動くのも面倒くさいし、棒みたいなのは・・・。


「本当に助かるな、これ」


懐から孤影を取り出して、薬を引き寄せようとしたその瞬間。


「あれ?なんか、嫌な気持ちが消えていく」


どういう事だ。まるで吸い取られるように・・・あ、孤影か!

負の感情は、魔力によるもの。つまり、その魔力を余所に移す事ができれば。


「あースッキリした。もう出て良いよね」







「ってな訳」


「・・・ふ、ふはははは!!なるほどな、だから予言は、お前に呪術を与えろと言ったのか」


まったく、世の中ご都合通りにはいかないな。


「孤影には、まだ魔力が残ってるのか?」


「うん。とりあえず巻物にしまった。それより謝ってもらうよ」


「是非とも謝らせてもらう。すまない、香織。お前も、弟の楓も安心院に必要だ」


「・・・思ったより素直だね。じゃあ次は、類異の目的を教えてもらうよ」


「分かった。恐らく、お前も見たと思うが、近々安心院と一条を襲撃する者が訪れる。

 立ち向かえる者はおらず、強制的に強者を生み出すしかない」


「それが、呪術を学んだ僕。でも、父と琴刃さんがもう1度“他魂混合”を使えば」


「“他魂混合”は同じ階級の人間同士で、1度しか使えない。

2度使おうとすれば、魂が拒絶して使用者2人は死ぬ」


「そっか・・・確認だけど、他にはなかったんだね」


「さあな。あくまで予言通りに、俺達は呪術を安心院に与えたに過ぎない。

 それとも何だ、類異を恨むか?」


「恨まないよ。助けてもらってる立場だからね。でもこれからよろしく」


「できれば呪術に頼らず、自分達で何とかしろよ」


「違う違う。僕は今日から、類異になるんでしょ。だからよろしく、兄弟」


「彩華、お前本当に何を話したんだ」


「私は、農臣にも家族との時間を作りたかった。類異の人間も、安心院を名乗って欲しいが、

 断られてしまったし。香織が呪術師になれば、家族になれると思った」


「あ、そーいう事。父も中々にまどろっこしいな」


「すまない」


これが安心院か。人の事ばかり考えやがって。


「何だっていいさ。とりあえず、あんたらは帰れ。予言の敵はいつ来るか分からないからな」


「そいつぶっ飛ばしたら、また会いに来るよ」


「いいから、早く行け」


安心院親子を見届け、その後も俺の魂には村人の負の感情が集まってくる。

いつもの様に適当に流しながらも、香織といる間は、軽減されていたことに気づく。


魔力を込め使用する、孤影とやらで助かったと言っていたが、正確には違う。

呪いへの耐性なんかも、関係無い。香織には、これまでの安心院の人間とは異なる、太陽の様な魔力を宿しているから。これは予言の賜か、香織に訪れると決まっていた運命なのか。他者に興味を持たない俺が初めて、人に興味を持った。


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